ゲート前、皆から送られるプレッシャーがさらに強くなってくる。柵走り、出来るだけ使いたくないけどいざとなったら使わないと。
『トレノスプリンター、ゲートに入りませんね。』
『周りからのプレッシャーもありますからね。自分のペースを守れるでしょうか。』
「…よし。」
『トレノスプリンター、ゲートに収まりました。』
後はスタートを待つだけ。さっき渋川さんに【瞬発力がカギになるかも】と言われた。作戦なのかも知れないけど、具体的な事は言ってくれなかった。
「よく分からないけど、やるしかないでしょ…!」
ガコン!
『スタート!少しばらついたスタートになりました。』
『少し固まっているように見えます。どう展開していくんでしょうか。』
これは…ちょっと考えないと。コースの特性上スタート直後、ゴール直前に上りがある。今はまだいいけど戻って来た時には出来るだけ差をつけておきたい。
『おっとトレノスプリンター、上り坂で失速しているぞ。』
『かなり痛いと思います。立て直せるんでしょうか。』
そんなに大々的に言わないでよ。苦手っていうか、パワーが無いんだから。ともあれ手痛いのは確か。…少し早いけどスパート掛けていくか。
スパートを掛ける為に足に少し力を入れる。
「!」
塞がれた…?私がスパートを掛けたのを読まれた?少しインに寄ってみて様子を見よう。
「そっちか…!」「行かせない!」
困ったな。私が動けば集団で動く。裏で手を組んでいるのか疑いたくなる。このままだとスペースは空けてもらえない、どうする?
「思った通りの展開になって来たかも。」
「そうなのか?俺には何が何だか…。」
「トレノちゃんはマークされてますから。何かすれば何かしらのアクションが返ってくるはずです。ラインを変えたり、ペースを上げたり。」
「まあ、そうだな。」
「となると、有利になるインは確実に潰される。不利になるけど確実に空くところがある。」
池谷さんが少し考えこむ。昔走り屋だったからか、すぐに答えを出した。
「アウトか。」
「はい、トレノちゃんならすぐに突破口を掴めるはずです。インを潰される経験はもうしてるので。」
「そんな経験をか?32とやった時のか…?」
「32ってGT-Rですか?そんな訳ないじゃないですか。学園の模擬レースでそんなことがあったんですよ。」
「そっそうか、そうだよな…何言ってんだろうな。」
そう言ってレースに目線を移す。それにしても、トレノちゃんと32がやったなんてどうやればそんな思考になるんだろう。やったとしてもまず間違いなく勝てない。
「そろそろ最初のコーナーですよ。さあトレノちゃんは…。」
『各ウマ娘、次々とコーナーに入っていきます。少し遅れてトレノスプリンターも続きます』
そこだ!
『さあ曲がっていきました!このコーナリングを待っていました!一度見たら忘れられません!』
『強烈に印象に残りますからね。…少し大外すぎる気がしますが。』
『それでも前の子との差は詰まっていくぞ。しかし厳しいか!』
流石に上りで失速したのが大きいか。最後尾に張り付くことはできたけど…この先は下りだったはず。だったらそこで仕掛けていく。
よし、もう少し外に…絶対に邪魔されないところに。
『トレノスプリンター大きく膨らんでいくぞ!?大丈夫なんでしょうか?』
『作戦だとしても膨らみすぎに感じますが…掛かってしまっているのかも知れません。』
『釣られるようにバ群が外に行っているように見えます。勢いそのままにコーナーを抜けて直線に入っていきます。』
『スパートを掛けるタイミングが重要になりそうですね。』
さあ勝負所…この下りで置いてかれるようならもうどうにもならない。スパート、掛けていく!
『トレノスプリンター、ペースを上げてきましたね。』
『大外に行ったのはスパートを邪魔されないためだったんですね。』
『果たして追いつけるのでしょうか。』
「終わりだ。」「決まったかな。」
ロータリーさんと渋川さんが同時に口を開いた。まるでもうレースの勝敗が決まったみたいな。
「決まったって…終わりって何がですか?」
「決まってるだろ。このレース…」
『下りに来て怒涛の追い上げだ!勢い任せとも取れます、下りが怖くないんでしょうか?』
『見てるこっちが怖くなってきますよ。足がもつれなければいいんですが。』
無茶だ…!いくらマークしていてもこんな勢いについていく訳には行かない。あんなペースで走ってコーナーをクリア出来る訳ない。
『最終コーナー手前、トレノスプリンターは6番手。追い上げはここまでなのか!』
「このレースのポイントは、全員がトレノをマークしていたことだ。」
「マークしていた相手が動けばそれに対応する。…でもその相手が大外に行く、坂で予想以上に加速する。そんなことになったら普通は付いていかない。」
「確かにそうですけど、あの勢いのまま行くのはいくらトレノさんでも。」
「イケるよ。トレノちゃんなら。」
自信を持って、はっきりと言う。
「お前らも見てろ。今目の前で起こることが答え、そして俺たちが挑む相手の真骨頂だ。」
外からだからラインも自由に描ける。最初は外から、次第にインに入るようなラインを取る。
…あの隙間、入れる。だったら最初からインで行ける。
「いっけぇ!」
前には行かせない、行かせてしまったら巻き返せないかもしれない。少し早いけどスパート掛けていかないと!
「ちょっ嘘でしょ!?」
ここで入ってくるの!?私だけじゃない。皆が動揺する。こんな狭い隙間に入ってくるなんて考えもしなかった。
「やば、インががら空きに…!?」
『何が起こったんでしょう、気付いたらトレノスプリンターが内側に居ます!』
『でもここに入ったのはまずいかも知れません。周りに囲まれて前に出られない可能性もありま…え?』
実況が、解説が黙る。観客は目の前に起こった出来事に歓声を上げているけど分かる人は押し黙る。
「すげぇ!内側から一気に抜いて行っちまった!」「瞬間移動みたいだったぜ!」
『凄い追い上げですね。いつの間にか先頭に立っています。…何が起こったんでしょう。』
『分かりません。解説として面目ないんですが、何が起こったのか私からは何とも…。』
上手くいった。後は上りにそなえてこの差を広げないと。
「ハアァーー!」
「正直どうなるかと思ったけどまあ一安心かな。可哀そうだけどあのメンツでトレノちゃんのコーナリングに勝てるとは思えない。」
「まあ坂でそれなりに差が詰まるだろうが、もうどうにもならんだろ。」
「…あたし達、あんなにすごい人とクラシック戦うんですね。…負けてられないや、トレーニング頑張らないと!」
「私も頑張らないとですね。対策も練らないとですし。」
気が早いけどトレノちゃんがG1を制した。嬉しい反面、ロータリーちゃん達に情報を与えすぎてしまった。特にロータリーちゃんは弥生賞でぶつかる。
何か特別なことをしてテクに幅を広げないと。
「なあ榛名ちゃん。あのテクニックって榛名ちゃんが教えたのか?」
「柵走りですか?あれはトレノちゃんのオリジナルです。驚きましたよ、まさか柵に手を掛けるなんて。」
「あのテクニック、溝落としに似てると思わないか?」
溝落とし…確かラリーとかで使われてるテクニックだったはず。秋名でも使える所で使ってるけど。
「言われてみれば、コーナーで限界を超えて曲がるところとか確かに似てますね。分かりにくかったと思うんですけどあれだけでよく分かりましたね。」
榛名ちゃんは分かりにくいって言ったけど、俺には分かった。健二でも樹でも分かったと思う。
榛名ちゃんも溝落としは使うけど、その原点は拓海の親父さんだ。拓海はその技を100%受け継いでいる。
この技こそが拓海を象徴する技でもあったからな。だからなのか、無意識にトレノちゃんと拓海を重ね合わせてしまった。
確証があるわけじゃないけど、名前が名前だけにトレノちゃんは…ハチロクの生まれ変わりじゃないかって。不思議とそう思えた。
『最終コーナー立ち上がっての直線!マージンをたっぷり稼いだトレノスプリンター!後続の子たちは間に合うのか!』
『中山の直線は短いですし、上り坂ですから。捉えられる可能性はありますよ。』
くっそ、上りがキツイ。パワーが無いせいもあるけどどうにも好きになれない。でもここまで来たら意地でも一着になる。
『二番手との差がじりじりと詰まっていく!5………4バ身!だがそろそろ坂が終わる、終わってしまう!』
上り切った!ゴールはあと少し……!
『ゴール!トレノスプリンター、異次元のコーナリングを見せつけ、4バ身程の差で今ゴールしました!』
短編書きたいなぁ。
今の所、色々短編ネタはあるんですけど三番煎じになりそうで怖いんですよね。
「ちょいちょい作者、なんやねんコレ!」
あ、最近出番のないタマモクロスさんじゃないですか。どうしました?
「一言余計やねん!それより今朝よう分からん郵便届いた思うたら漫才の台本は入っとったで?コレなんやねん。」
それですか?何故か出てきたので適当に書き起こしたんですよ。まだ途中ですけど結構いい出来でしょう?
「本気で言っとるんか?いろいろ酷い所満載やで?ツッコミも長ったらしい。ボケも分かりにくい、ホンマに考えたんか?」
バルス!
「目がぁ、目がぁぁぁぁぁぁ!」
成程、僕の端末にタマちゃんが来ない理由が分かりました。また次回!