頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第五十話 突発バトル

2,3速をうまく使ってタイトなヘアピンをクリアしていく。後ろの車も私のペースについてくる。

 

成程、7割程度だと普通についてくるか。今すぐ全開にして逃げたいけどこの後に下りのアタックが2本控えているからタイヤに負担を掛けたくない。

 

「少しペース上げるか。これで付いてくるようなら…考えようか。」

 

1割ほどペースを上げて様子を見る。右コーナー、緩い左から続くS字を抜けてミラーを覗く。

 

少し離れている。このペースなら振り切れるかな。それなら待つ必要なんてない。ペースを変えず、タイヤを労わりながらちぎるとしよう。

 

3連続のRの大きいヘアピンを余裕をもってクリアしていく。後ろの車は徐々に離れていく。ここを抜けて少しの全開区間。短いけどインプの戦闘力なら十分に加速できる。

 

パシュウウゥン

 

うえっなんてパワー。ほんの少しの全開区間なのにインプ並みの加速を見せてきた。私についてこれるし、車の戦闘力も十分にある。

 

左コーナー曲がりながら横目に相手の車を確認する。

 

「黒いボディ…やっぱりか。」

 

仕方ない、全力でちぎろう。ライン取りもアタック用に切り替えて攻める。後ろの車…R32も付いてこようとするけど流石にこのペースには付いてこれないだろう。

 

 

 

神社前の駐車場に車を止めると3秒後位に32が入ってきた。降りてきた人は想像通りの人だった。

 

「トレセンに行ってたからどうかと思ったが、腕は落ちてないようだな、榛名。」

 

「コースのブランクはありますけどね。久しぶりです、中里さん。」

 

「久しぶりって思うならさっき少し遊んでくれても良かったんじゃねえか?」

 

「やっても良かったんですけど、やったらやったで『もっと真面目にやれ』とか『腕が落ちた』とか言いますよね?」

 

「まあな、その様子だともう走り込んだんだろ。」

 

わお、中里さんったら目ざとい。もうバレた。

 

「妙義を3往復してさっきの上りが4本目だったんですけど、走り出す瞬間に中里さんが来たんです。」

 

「おっと、それじゃあ邪魔しちまったか?」

 

「いやぁ、バトルなんか久しぶりだったから嬉しかったですよ。下りもやりませんか?」

 

上りをやったらやったで下りもやりたくなる、中里さんなら受けてくれるはず。

 

「いや、遠慮しとくよ。」

 

「あれ、珍しいですね。いつもなら受けてくれるのに。」

 

「今日は走りに来たわけじゃ無いしな。ただ通りかかったらお前が止まってただけだ。…出るんだろ、MFG。」

 

中里さんにも話は伝わってたのか。伝わるの早いなぁ走り屋のネットワークは。

 

「前回も今回も瀬名出なかったじゃないですか。だったら引っ張り出してやりたくなったんですよ。」

 

「瀬名を引っ張り出す…か。そうなるとお前でもかなり厳しいと思うぜ。噂だと出場条件があるみたいだからな。」

 

「条件か…池谷さんも言ってたな。その条件って分かりますか?」

 

「噂だがな…MFGにはデモのレコードがあるだろ?あれが更新されることが条件らしい。」

 

成程、デモレコードの更新か。それなら何とか…

 

「デモレコードって神フィフティーンでも届かなかったタイムですよね。」

 

「ああ、あれほどのドライバーが全力で走っても越えられないタイムだ。それこそお前が瀬名のタイムを越えられないなら厳しいだろう。」

 

「良いじゃないですか。俄然燃えてくるもんです。」

 

程よく高すぎる壁が設定された。だったらそれに向かって走り込むだけでしょ。向こうでいい感じの峠探さないと。

 

「ま、お前の事だからいくら忙しくても夜な夜な攻めるだろうからな。」

 

「当たり前ですよ!MFG第2戦まで半年!トレノちゃんとのトレーニングの合間を縫って走り込むだけですよ!」

 

「…!お前、今トレノって言ったのか?」

 

「…?はい、言いましたけど。」

 

中里さんが急に目の色を変える。何か地雷でも踏んじゃった?

 

「ピンと来ないのか?”トレノ“って聞いて何か思い出さないのか?」

 

「ぃいえ?特には。トレノちゃんはトレノちゃんですから。」

 

「そうか…。分かった、悪かったな。」

 

「いえ、大丈夫ですけど…。じゃあ私、4本目走ってきますね!」

 

 

 

榛名が走っていくのを見送りながら物思いにふける。

 

(なにいいっ!?外からだとォー!?なめてんじゃねーぞっ!!外から行かすかよォ!!)

 

あのバトルももう20年以上も前なのか。おっさんになった今でも鮮明に思い出せるぜ。

 

それにしても榛名の奴、秋名のハチロクを知らないのか?…それも無理ないか。何せハチロクが有名になったころアイツはまだ生まれてなかったからな。

 

…トレノか、偶然じゃないだろうな。

 

 

 

 

 

「秋名到着~。やっぱりホームコースの空気は違うな~!」

 

あれから妙義ではさらに0.4秒縮め、自分を納得させながら家に帰った。秋名こそは瀬名の記録を更新してやる。

 

私と瀬名のタイム差は2秒。となるとボーダーラインは3分11秒くらいか。

 

「さ~て、上るかぁ!」

 

何はともあれ上らないと始まらない。秋名の高速ステージにはインプはぴったりはまる。

 

左ヘアピン、二つのRが重なる複合コーナーを抜ける。トレセンに行っても秋名だけは夢でも攻めていた甲斐があった。

 

昨日から調子いいからこの勢いでレコード更新しちゃおう!

 

 

 

「はしゃぎすぎちゃったなぁ。もうタイヤ限界だよ。」

 

下りの4本目を走る前にタイヤを確認したらあと一本走れるかどうかになっていた。熱くなるとタイヤの事を考えないで走る癖はどうしても直らない。

 

まあいいや。3分12秒419と自己ベストを1秒縮めた。この1本で完璧に持っていく。

 

第1コーナーをインデッドに攻めてタイムを稼ぐ。壁との間隔は広くて10センチ。ベストライン的にそれ以上は認められない。

 

100キロを超えるスピードで全開の四輪ドリフトなんて何か一つでもミスすれば良くてスピン、悪ければご先祖様とこんにちはだ。

 

まあクラッシュする前にスピンで逃げるのも腕のうちって事で。何回スピンしたことか。

 

最初のヘアピンを抜けて左コーナーを抜けると、後ろから光がチラチラと見え始めた。…え?

 

「嘘でしょ!?」

 

思わず大声で驚いてしまった。今私は本気で攻めている。それも自己ベストを超えるほどのペースで走っている。

 

「気のせい…だよね。そうであってくれないかな。」

 

緩い右の後のきつい左を慣性ドリフトでクリアしていく。後ろの車も当たり前のようについてくる。それどころかさっきより差が縮んでるようにも見える。

 

緩い右を抜ける。その先の二連ヘアピンをぎりぎりで抜けていく。それでも離れないそれどころか食いつかれている時間がどんどん長くなっている。

 

初めてだ、ここまで追い回されるのは。まさか瀬名?バックミラーから覗いただけじゃ車種は分からない。

 

この先のスケートリンク前のストレート、アクセルを開けていくとわずかだけど差が開いた。つまり車のパワーは私の方が上って事か。

 

それはそれでショックだなぁ。コーナーには自信あるんだけどそのコーナーで追い回されるなんて。

 

燃えてきたじゃん。追いかけまわされたら振り切りたくなるでしょ。ここはテクニカルセクションだから振り切れなくていい。

 

仕掛けていくのはこの先の高速セクションから5連ヘアピンに至るまで。ペースを上げて逃げ切れなければもうどうにもならない。

 

ガリッ

 

高速セクションに入る手前のヘアピン。このツッコミ重視の溝落としは私が決めに行くという意思表示

 

ガリッ

 

!!? 噓…でしょ…?

 

溝を抜けて私はアンダーを出して外に膨らむ。対して相手はインベタに立ち上がって加速していく。

 

アンダーを出した影響で少しアクセルを開けられない時間が出来てしまう。その間に相手は楽に前に出る。

 

「…インプレッサ?それもGC8?」

 

私のインプより1代前のインプ。いざこうやって目にすると今でも通用するくらいの戦闘力だということを思い知らされる。

 

でもまだ、この先のヘアピンまでまたストレートが続く。このストレートでもう一度前に出る!

 

パパパパン!

 

並んで緩い左、緩い右をクリア、その先のヘアピンに突っ込んでいく。私がイン、相手がアウトの形になった。

 

ブレーキング勝負………ここ!

 

その瞬間、私がこれまで積み重ねてきた物が崩れ去った気がした。私の限界を超えたブレーキング、私以上のスピードで理想的なラインをトレースしていく。

 

そのコーナーを立ちあがり、5連ヘアピンをクリアするころにはGC8はもうどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々、良い腕だ。」

 




どもども、ララク○ッシュを食べるとき若干手こずる男です。

バトル描写もレース描写も書くの大変ですねぇ。榛名さんはちょっと傷心してますし。

多分次回辺りでキタちゃんデビューですかね。と言う訳でアップお願いしますね。

「もちろんです!勝って見せますから!」

元気でいいですねぇ。短いけどまた次回!

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