『今、スタートしました!』
よし、出遅れないでスタートできた。このまま最後尾付近でロータリーさんの動きを見て…ロータリーさんが前にいない?どこに?
瞬間、後ろからプレッシャーを感じる。まさか、後ろにいるの!?
「くっ!」
まさか、後追いのポジションなんて。何が起きてもいいようにとは言ったけど流石にこれは想定していなかった。想定外も想定外だ。
「意外でしょ?でもこれが私の出した対トレノ専用の作戦よ。」
「意外過ぎますよ、東条さん。後追いなんて考えもしませんでした。勝算あったのにこれで圧倒的に不利ですよ。相変わらずえげつないですね。」
「さて、ここからどう転んでいくかしらね。」
スタートしてすぐの上りに入る。俺は何ともないが、トレノにとってはここも弱点になるが流石に簡単には行かないか。ピッチ走法でスピードを殺さないで走ってる。
焦る事じゃない。これ自体は東条トレーナーも予測してたことだ。だが、少し信じられないのは奴のペースが少し上がっている。
その証拠にスタートの時より順位が2つ上がっている。だからと言って俺のやることは変わらない。
後ろにべったりと張り付かれて落ち着かない。冷静さなんかどこかに行ってしまった気がする。まだ坂を上り切っただけなのに、消耗してしまっている気がする。
レースは終わってない。それなのに、認めたくないけど、私は敵わないのかもしれない。このレース、負けるかもしれない。
コーナーに差し掛かる。イン側に付けてそのままのスピードで曲がる。当たり前のようにロータリーさんは付いてくる。
この先の下りでスパートを掛けて最後の上りまでに差を付けないと…!
すげぇ…鳥肌もんだ。あんなスピードで曲がっていくなんて。それに柵走りも相まって入り口じゃぁ置いて行かれる。ペースを上げて強引に奴との距離を詰める。
コーナーでも少し余裕がある予定だったんだがもう既に余裕はない。1人で走ってこれを再現しろって言われてもそう簡単に出来る事じゃない。
付け入る隙になるはずだった内側に曲がりすぎる弱点も無くなっている。つい1週間前まではあったはずなんだがな。何をしたんだ?
「このペースは…明らかに追込のウマ娘の走りじゃない!」
「弱点が無くなっているのには驚いたけどまさかトレノがあんなペースで走れるなんて。誤算ね。」
『明らかに掛かってますね。あのペースで走って終盤まで持つのでしょうか。』
実況も解説もこの異常事態に驚いている。無理もない。担当の私が一番驚いてるんだから。
『既に4番手の位置に居ますね。追いかけているイエローロータリーからすればいい位置ですがトレノスプリンターがいるべき位置ではないですね。』
「でも、ロータリーさんの方も余裕が無さそう。」
「あのペースに付いて行ってるんだもん。レース全体で見てもかなりのハイペースだよ。」
キタちゃんとトレセンのテレビで弥生賞を見てるけど、予想も出来ないレース展開になってきた。
「でも普通に考えればトレノさんの方が追い詰められてるよね…。」
「うん、追込のウマ娘があそこまで飛ばしてスタミナが持つのかな。」
こう言ったけど、トレノさんからは私よりも簡単にジンクスを破り去ってしまう気がする。
チッ
痛ッ、手の甲掠った…!?
内側に寄せすぎた。でもこんなに攻めてもロータリーさんは付いてくる。まさか、ロータリーさんはコーナーも私より速いの?
最初のコーナーもそろそろ終わる。ここから下り、多分付いてくるけど、ここしか離せるチャンスが無いならもう賭けるしかない!
コーナーが終わった、キツすぎるぜ。ここからは下りだ。直線なら負ける訳がねぇ。
重力に従って勝手に加速していく。トレノの後ろに入っているおかげで空気抵抗も無い。少し精神的に楽になったぜ。
そう油断した途端、空気抵抗が大きくなった気がした。…まさかコイツ、ここでまだ加速してるのか?下りの恐怖の感覚がねえのか?
くそ、少し楽できると思ったのに全然余裕ねぇ。このペースははっきり言って逃げ、アイツの走りとは真逆の走りだ。
疑問なのは、最初からこのペースでなぜここまで走れているのか。追い詰めているはずなのに追い詰められている気がする。
「確認したいことがあるんだけれど、トレノの脚質は追込よね。」
「まあ、そうですね。タマモちゃん、オグリちゃんでも追込でしたし、タイムを計る時も追込で走りますね。」
「異常よ、あのスタミナ。追込であるトレノがレースの前半をスズカのような逃げで走ってまだペースが上がり続けている。」
「出来たにしても足にかかる負担は相当なものでしょうね。それに下りはトレノちゃんの得意分野ですから。まだペースは上がりますよ。」
こんなことになるなら作戦の一つや二つ思い付くんだった。作戦でなくても私が教えられるようなテクがあれば!
(あのテクニック、溝落としに似てると思わないか?)
突然池谷さんが何気なく言った一言を思い出した。溝落とし………
「ああぁぁぁ!!」
そうだった!まだ”アレ“があった!もっと早く気付いていれば!
「ちょっと!いきなり大声出さないで!」
「すいません、今思い出したことをトレノちゃんに教えていれば良かったなって。もう手遅れだよぉ~!」
「何よ、そんなものがあるの?」
「たった今思い出したんですけどね。おっ教えませんからね!」
「聞かないわよ。そんな事よりもレースに集中しましょう。」
レースに目を向けると下りも終わって最終コーナー。焦っている時にやりがちなミスと言えばコーナーで突っ込みすぎ。
どうにかしようとして突っ込みすぎてそのままクラッシュなんてよく聞く話だから。トレノちゃんなら大丈夫だと思うけどあの掛かり方だと安心も出来ない。
こんなレース展開、想像も出来なかったな。もう既に先頭に立ってる。
このコーナーを付いていければあとは上り。仕掛けるとしたらそこだ。先行よりも十分に脚が残ってる予定だったがそれでもまだ余力がある。
「…!そりゃ…!」
『トレノスプリンター!無謀ともいえるスピードです!果たして曲がれるのでしょうか!』
明らかにオーバースピードだ!ミスったな!
外側にどんどんと膨らんでいくトレノを抜いて先頭に立つ。何というかあっけなかったな。少し残念ではあるがこのまま逃げ切る!
「曲がれ!!」
コーナーをミスってロータリーさんが前に出る。ここからどんどん離されていくと考えると走るのを止めたくなってしまう。
でもその心に反して脚はどんどんと加速していこうとする。
…離れない?てっきり離されると思ったのに。…まだチャンスがあるのかもしれない。と言ってもどうすれば?
何か…何か…!
(ただいまー。私さ、雪のカーブで滑らないいい方法思いついたんだ。)
(へー、どんな?)
(ガードレールに手を引っ掛けるんだ。これが意外と安定するんだ。)
(言うなれば柵走りってとこか。似たような技を俺の豆腐の師匠が使うって言ってたな。)
(ちぇ、もっと驚いたような顔が見られると思ったのに。)
(師匠の受け売りになるが、お前が見つけたやり方はコーナー入り口で外に膨らまないようにするための突っ込み重視の柵走りだろう。)
(へー。じゃあ私寝るね。)
(待て、柵走りにはもう1つ、立ち上がり重視の柵走りってのがあるんだ。こいつは難しいらしい。まあ研究してみな。)
4年も前の記憶が思い出された。立ち上がり重視の柵走り…あの時は眠くて半分聞き流してたし、あれから試したことも無いけど、やってみるしかない!
『イエローロータリーが三バ身のリード!トレノスプリンターここで落ちてしまうのか!』
コーナーも半ば、立ち上がり重視っていうならもう少し………………
『ここまでこのペースで走ってきましたからね。逆を言えばよくここまで持ったという気持ちにもなります。』
しゃあ、いっけぇ!
なんだ?急に足に力が入らなくなってきた。…スタミナ切れか?想像以上に負担を掛けていたって事か!
『何という事だ!トレノスプリンターが、まだまだペースを上げて行っているぅ!?』
「っ!?あいつ、一体何を!?」
何を、何をやったんだ?
コーナーが終わるまでにまだ距離がある、だったら、もう一度!
ガリッ
『並びかけている!?まだ脚が残っているという事か!?』
伊達に配達で毎日9キロ走ってた訳じゃ無い。スタミナなら負けない!
「ハアアアアァァ!」
『先頭2人が並んで最終コーナーを抜けて最後の直線に入っていく!この先には坂がある、果たしてどちらが制するのか!?』
『追い上げてきたことを考えればトレノスプリンターにも可能性はあるかもしれません。』
並んで坂に入っていく。中山の坂は高低差が激しいからここをどう克服するかで勝敗を分ける。文字通り最後の難関だ。
身体能力で考えるなら圧倒的に不利だけど、ここまでトレノちゃんが粘ってくれたおかげで突破口が見えた。
「トレノちゃん、焦らないで。勝負のポイントはラスト100メートル。坂を上り終えた直前だよ。」
どうしましょうかね~皐月賞が先か感謝祭が先か。
あ、どうも。ちょっと悩みどころなんですよね~。ギャグ回として感謝祭やりたいし、この勢いのまま皐月賞に進んだ方はいいのか。
よっしゃあアンケートです。内容は簡単、どっちが先がいいですかです。
この回が出てる頃には既に始まってると思います。はて、そのアンケートは何処や?と思われた方、既に終了している可能性があります。ごめんね☆
範囲とかってどうするべきですかね?…まあ三十話くらいからでいいか。
また次回!