脚が重い…!最終コーナー入り口までは完全に俺のペースだった。後ろから見ていても追い詰めていたのは俺だった。
だが今追い詰められているのは俺の方だ。現にこの坂をスタートの時より速いペースで走っている。…今更だが奴の脚は問題ないのか?
だとしたらこの差は何だ?…今は考えるのは止めだ、ゴールは近いんだこのまま走り切る!
じりじりと差が詰まってる。5…4バ身くらい。
『残り100メートル!トレノスプリンターここまで追い上げてきましたがここまでなのでしょうか!?』
坂もこれで終わり、ゴールまで少し下り坂、もうここしかない!ラストチャンス!
「「ハアアアアァァッ!!」」
スタミナの殆ど無い体に鞭打って加速する。ロータリーさんも気迫で加速していく。…でもジワジワと近づいてきてる!
『残り50!トレノか!ロータリーか!ロータリーかトレノか!最後の末脚はぁ!』
「行けええぇ!トレノちゃぁん!」
その瞬間、ゴール板をほぼ同時に通過する。速すぎて肉眼では差をはっきり見ることはできなかった。
3着までは掲示板に出てるけど1,2着は写真判定になっている。
「凄いレースになりましたね。まさかここまで接戦になるなんて。」
「こっちもやりすぎってくらい作戦練ったのだけれどね。ほとんど狂わされてばかりだったわ。」
「ハァ…ハァ…やば…疲れた。」
ゴールしてその場に膝をつく。スタート直後からスパートを掛けさせられたせいで自分のペースなんか作れなかった。並べたのかも分からない。
「お前、ハァ…脚質なんだっけ…?」
「追込ですけど…ロータリーさんのせいでペース乱されまくりでしたよ。スタミナも完全に無くなっちゃいましたし。」
「無くなってんのはこっちもだ…。てかなんであのペースで走れちまうんだよ。」
「煽られたからっていうのもあるんですけど、もっと言えば勝ちたかったから…ですかね。」
「結局は…そこに行きつく訳か。その点は俺も同じなんだけどな。」
話しているとスタンドから歓声が沸く。何事かと思って周りを見てみると着順が確定したみたいだ。
「……!勝った!」
「ハナ差…差し切られちまったか。皐月賞は負けねぇからな。」
ロータリーさんが控室に戻っていく。私も戻ろうとしたけど疲れすぎてしまって動こうとしても体が重い。もう少し休んでよう。
「…負けちまったのかぁ。……くそったれがぁ!」
トレノの前では平然を装っていたが、いざ控えに戻ってきたら悔しさと自分に対する怒りが込み上げてきた。
「机にあたっても何も変わらないわよ。帰ってミーティングよ。」
「この反省を生かして、次の皐月賞こそは勝ってやります!同じ相手に二度は負けません!」
「お疲れー!ホンッッットにどうなっちゃうのかと思ったよぉ~!」
「生きた心地しなかったですよ。あんなペースで走ったことなんか一回も無いですから。」
「あんなに追い回されたら焦るよね。私もあそこまでピッタリ付かれたら落ち着かないもん。」
「そうですよ~。…そんな経験あるんですか?」
流しそうになったけどピッタリと付かれたことがあるの?
「そりゃあね。この前の突発バトルなんて、ペースを乱すことは無かったけどそれでも内心焦りまくりだったもん。」
「バトル?そういえばあの時赤城を上ったり下ったりしてたって言ってましたよね。てっきりサーキットって所で走ってると思ってましたけど、通報しないとですか?」
「…あっ!もちろんサーキットだよ!大丈夫!峠で攻めるなんて危ないなぁ!私の運転は安心安全に決まってるじゃん!」
「ソウデスカ」
ぼろは出まくってるけどこれ以上聞いても埒が明かなさそうだ。
「それよりもさ!立ち上がり重視に溝落と…柵走りなんていつ覚えたの?教えた覚えなんてなかったけど。」
「思い出したのは抜かれてからなんですけど、昔お父さんが教えてくれたのを思い出したんですよ。」
「豊田さん絶対にトレーナーだったじゃん…。あーあ、もっと早く思い出していればなぁ。良い顔できたんだけどなぁ。」
「教えてくれてたとしてもあの状態だとそんなこと思い出す余裕も無いですよ。」
「だよね。さあ残り1か月、柵走りもコーナリングも磨いて行こ~!」
来月は皐月賞。短い期間ではあるけどそれまでに絶対に成長してみせる。
「…そういえば、皐月賞って4月でしたね。」
「そうだね。1か月しかトレーニングできないから厳しいと思う。さあ、気合入れて頑張ろー!」
「いえ、頑張るのはいいんですけど。ただ素朴な疑問が浮かんじゃって。」
「疑問?何々?」
「弥生賞は3月で開催されてますよね。でも皐月賞ってなんで4月なんですか?皐月って5月ですよね?」
「……私にも分からん。」
「はい、という訳でドラテク教室の始まり始まり~!」
「いやどういう事です?」
今日はレースについての座学という事でトレーナー室に来たけど突如としてドラテク教室?が始まった。
「という訳でこちらのビデオをご覧下さーい。」
「いやいやまず説明してくださいよ。私何もかも分からない状態で何を学べばいいんですか?」
「トレノちゃんなら私のドラテクを応用できるんじゃないかなぁって。という訳でまずインホイールリフトから…」
「普通にレースで使える知識を教えてください。」
「どうすればいいんだ?どうすれば皐月賞で勝てる?」
キタサンがどうすれば皐月賞で勝てるか考えてはいるが…浮かんでは消えてくばかりだ。
『何という事だ!トレノスプリンターが、まだまだペースを上げて行っているぅ!?』
弥生賞でのトレノの走り、掛かってスタミナが無くなって足も残っていないはずなのにそれでもロータリーに追いすがって差し切ってしまった。
「どうすりゃいいんだよ。ただ逃げても追いすがってくるだろうし、かと言って後ろからプレッシャーを掛けてもこの経験のせいで効き目が薄い…。」
あんなものを見せられたらその時まで考えていた作戦はすべて吹っ飛んでいった。
「今のキタサンなら逃げを打っても問題は無い。…それなら追い付けないくらいの大逃げか?2000メートルだ。キタサンなら逃げ切れるかもしれない。」
「良いかキタサン。皐月賞だが…逃げで行くぞ。」
「逃げですか!?でもこの間の弥生賞はトレノさん、ほとんど逃げのペースで走って勝ってるんですよ?」
「もちろんただの逃げじゃない。大逃げだ、それこそスズカのような大逃げだ。」
「スズカさんみたいな…ですか?」
スズカさんの逃げは前にも見せて貰ったけどあの逃げ方は簡単にマネ出来るものじゃなかった。
「そうだ、そのためにも今日からのトレーニングはスズカとの併走がメインになる。」
「分かりました!それで、具体的にはどうしたらいいんですか?」
「それはな…」
トレーナーさんが少しためるとあたしの後ろから声が聞こえる。
「私に追いつくこと。それだけよ。」
「スズカさん、いつの間に…ちょっと待ってくださいよぉ~!」
走り出していくスズカさんを追いかけていく。どうやったらそんなペースで走れるんですか~!
スズカの走りを間近で見るんだ。最初のうちは厳しいかも知れないが乗り越えられれば皐月賞で勝てる作戦が見えてくる。
得られるものは大きいぜ。貪欲に吸収するんだ。
弥生賞で見せられた衝撃は大きかった。トレノさんが逃げのペースのままロータリーさんに勝ってしまった。
なら、私が取るべき作戦は?アレを見た後だと何もかもが通用し無さそうに感じてしまう。
「でも、末脚の切れ味なら…負けてないはず。」
皐月賞まで1か月、必死になってトレーニングしないと。キタちゃんにも負けられないから。
デビュー、ホープフル、そしてこの前の弥生賞で身体能力、コーナリングスピードすべてを把握できた。
だが、一つだけ、釈然としないことがある。トゥインクルシリーズに挑むウマ娘ってのは基本的に本格化を迎えてから挑むモンだ。
個人差はあるがそれでも1日で著しい成長を遂げることもある。だがトレノからはそれを感じることはできない。
俺の主観だけでなく、Parcaeも同じような答えを示している。
「成長の推移から見ても…明らかに本格化を迎えてない。」
だからこそ釈然としない。本格化前でデビューしたウマ娘と張り合う奴だって確かに存在する。だが本格化前でそれも最強と言われたタマモクロスに勝つとは。
去年根本的に何かが間違ってると思っていた原因がこれだとは…盲点だったぜ。
「知りたくなかったぜ…こんな事実。知っちまったからこそ凄さが際立ってくるぜ。」
コイツが本格化を迎えたらどうなっちまうんだ?…想像しただけで恐ろしいぜ。
アンケートご協力ありがとうございます。と言ってももうすこ~しだけ集計しますけど。
はい、ここに書くことが無くなりました。
デジタルさんの話を思い出せ…は!近況報告とかか!
という訳で近況としては…無い!恐ろしい位ない!車は走らせる趣味はあるけど日常すぎて特筆すべきところが無い!
という訳で次回の後書きにご期待ください。
また次回!