まさかトレノさんがこのペースに付いてくるなんて。弥生賞でトレノさんが見せたペースより少しだけど速いペースだけどそれでも付いてこようとするなんて。
今はまだ遠いけどそれでもいつ追い付いてくるのか分からない。少なくともこの上りでは差は付かないだろうけどそれでもこの先のコーナーで仕掛けてくるかもしれない。
となればあたしはどうすれば?ペースを上げるか、それともこのままか。何故かどっちを選んでも不正解な気がしてしまう。
坂もそろそろ終わってこの先にはコーナーが待っている。…迷ってても仕方ない!
「ぶちかましていけぇ!」
速い…。この速さ、今まで体験したこと無い。これが逃げの速さ、私なんてもうスパートと同じくらいのペースで走っている。
もうすぐコーナーに入る。横にはロータリーさん、後ろ辺りにダイヤちゃんがいる。…今思うとあそこはゴーサインじゃなかった気がする。
でもここまで来たらこのまま追う。消耗だって激しいけどそんなことを考えてたら勝てない。
この前私がやられて嫌だったこと、今度はキタちゃんに体験させるつもりで付いていく!
『坂でもペースを上げ続けるトレノスプリンター。それに応えてなのかキタサンブラック、ペースが上がっているようにも見えます。』
『前走で逃げの自信がついたのか、はたまた掛かってしまったのか。注目です。』
「…キタちゃんがペースを上げてくれてるなら少しだけど勝ち筋あるかも。」
コーナーに差し掛かるトレノちゃん達を緊張しながら客席から見ているけど、かなり厳しいけどいけそうな雰囲気になってきた。
「どういうことだ?」
「キタちゃんのタフさにもよりますけど、ペースが上がっていくなら当然負担はダイレクトに脚に来ますよね。」
「そうね、それが分かってるからロータリーもダイヤもペースを変えないで走っている。」
「だがキタサンも2000メートル逃げ切れるくらいの仕上がりだ。多少なりともペースが変わっても問題ないはずだ。それに後ろからテイオーが追い回してたんだ。プレッシャーにも耐えられるさ。」
コーナーに入っていく。流石というかなんというか、何だか呆れてくるぜ、あのコーナリングは。キタサンとの差が少しずつ詰まっている。
それにしてもキタサンの奴、乱れないな。相当なトレーニングを積んできたって事か。やべえな、このままだとキタさんにも負けちまう。
だがここで仕掛けるのはまだ早い。まだ足を溜める。仕掛けるのはこの先の最終コーナーだ。
後ろからくるトレノさんのプレッシャーがどんどん強くなっていく。でもなぜだか自分の走りが出来ている。テイオーさんが後ろから追い回してくれたおかげかな。
コーナーも真ん中あたり。自分の走りでどんどん逃げていく。そうすれば勝て…
「ハァアア!」
「え、嘘ぉ!?」
近い、あまりにも近すぎる!左後ろの辺り、1バ身以内に必ずいる!迫っているのは分かってはいたし、それなりに近いとは思っていたけどここまで近いなんて。
やっぱり速い。こんなペースで良く毎日のトレーニングに耐えているなと思ってしまう。ここで追い抜くにしてもコーナーも終盤、仕掛けるには遅すぎる。
なので少しカマを掛けてみるイン側に寄って柵走りにふりをしてみる。
するとキタちゃんのラインが少しイン側にズレた。これは簡単には仕掛けさせてくれない。そう思いながらコーナーを立ち上がる。
するとキタちゃんはぐわっと加速していって見る見るうちに差が開いていく。立ち上がりの加速なら、今までレースしてきた相手の中で1番かも。
侵入スピードはこっちが上。となると、あの立ち上がりの加速に対抗するにはキタちゃんより速いスピードでコーナーを立ち上がるしかない。
そうなったら答えは一つ。立ち上がり重視の柵走りでコーナー出口で並ぶ。後はどっちの脚が残ってるかの勝負!
『ここまでハイペースで進んでいますね。コーナーを抜けたところで順位を振り返っていきます。先頭キタサンブラック、その後ろトレノスプリンター。3バ身程後ろ、集団の中ほどにイエローロータリー、その集団を見つめるようにサトノダイヤモンドです。』
『トレノスプリンターもそうですが、キタサンブラックがこうやって走れているのは奇跡とも言えますね。屈腱炎であったことを忘れさせるような走りです。』
『その間にもキタサンブラックとトレノスプリンターの距離が詰まっていく!下りを味方につけている!』
キタちゃんもトレノさんがどんどんと離れていく。焦る気持ちを抑えて下りを対処していく。スパートは最終コーナーの真ん中辺り。そこまでに溜めていた脚を全部使いきる。
中山の坂がきついことは知っている。だからこそ、ここで無理する必要はない。十分に脚を溜めないと。
そんなことを思っているうちにキタちゃんとトレノさんが下り終えていた。私もそろそろ下り終えるはず。次のコーナーに備えないと。
「このペース、いくら何でも速すぎる…。」
「ですね、心なしか、弥生賞より速いかもしれません。」
「前回も計ってはいたんだが、コンマ1秒だが速くなっている。このペースとなると流石に心配になってくるぞ…。」
沖野さんが見せてくれたタイマーは59.3となっていた。成程確かに速い。
「その後ろにはロータリー、ダイヤもいるわよ。キタサンが持つかしらね。」
「ここまで来たら信じるしかない。頼んだぞキタサン、お前のタフさが頼りだ。」
キタちゃんも怖いけど、今現状1番怖いのはロータリーちゃんだ。レース序盤からペースを崩すことなく足を溜めている。そうなると弥生賞より強烈な末脚で攻めてくることになる。
ダイヤちゃんも鋭すぎる切れ味で仕掛けてくると思う。そうなったら最後の直線で持つか分からない。キタちゃんがバテて落ちていく確証も無い。勝ち筋は確かにあるけどチラチラと見え隠れする針の穴のような突破口だ。
せめて、コーナー出口でアタマ張っていればその勝ち筋が広がっていくんだけど…。その勝ち筋もトレノちゃんに頼り切りだし…。
上りでピッチ走法の最高到達点を維持する事、これが今私に出せる勝ち筋。こんな展開になるなんて思っても見なかったから一言たりとも話してないよぉ。
まずい、心なしか脚の踏ん張りが効かない気がする…!坂を下り切ってあと半分なのに!トレーニングでも半分でバテることは無かったのに、何で?
ここまで来たらペースを変えないで逃げ切る!あたしの持ち味、タフさを活かしてゴールまで走り切る!
もうすぐコーナー。トレノさんは柵走りで勝負を掛けてくるかもしれない。内側に寄せて、抜かせないようにしないと。でも油断できない。
オグリキャップさんにやった時のように、外側から仕掛けてくるかもしれない。
今後ろにいるのはトレノさんだけ。トレノさんの動きに集中して、小さい動きにも対応していかないと。
『先頭キタサンブラック、続いてトレノスプリンター。後続を5バ身程離して第三コーナーに入っていきます。』
内側に寄った!ならあたしも!…ッ!体が勝手に外側に!?だからってペースを落としたくない!このまま走る!
キタちゃん、かなり挙動が怪しい。コーナー入り口で外側に行ってたし。それでも柵走りで差が詰まっても追い抜くには至らない。
でも、これなら第4コーナーで追い抜ける。そうなると仕掛け方は…少し工夫しないといけないな。外から一気はダメ。インを狙いすぎるのもダメ。…だったらこれで行ってみよう。
賭けになるけど、一か八か!
『さあ第4コーナーに入っていく!この先は短い直線が待っている!』
「「ハアァァァァ!」」
『サトノダイヤモンド、イエローロータリーともに上がってきた!中団から一気に抜け出した!先頭ででッとヒートが繰り広げられている!』
「キタサンの奴、バテてるな。まさかここまで消耗するとはな。」
「第3コーナー入り口、明らかに膨らんでましたから。それでも抜ききれなかったみたいですけど、多分、もう一回仕掛けると思いますよ。」
もうすぐ第4コーナー、まだ諦めるには早い。あの状態になれば仕掛けるチャンスはある。
「柵走りはこっちだって対策済みだ。ラインを空けないことが重要だからな。」
「そもそもアレに正面から挑むことが間違いかも知れないけどね…それほどあのテクニックが異常って事ね。」
「あ、見てください!トレノちゃんが仕掛けていきますよ!」
「とは言っても、トレノはキタサンの左後ろにいるんだぞ?柵走りでもない限り仕掛けきれないだろ。」
そう言った沖野さんは次の瞬間、咥えていたキャンディを落とした。東条さんもいつもの凛とした顔が驚いたものに変わっていた。レース場も驚きの声で埋め尽くされた。
起こった事はただ単純、トレノちゃんがインに入ってそのまま抜いていった。ただそれだけの事。ただ、アレがどれだけ難しいか知っているだけに私も驚いている。
「何が起こったんだ?あんなにあっさり抜かれるなんて。いくら何でもあっさり過ぎる。譲ったようにも見えちまった。」
「…“消えるライン”です。」
どうも、最近麻雀にはまりだしてしまってダメ人間まっしぐらでは?っと一抹の疑問が拭えない。どうも、僕です。
サブタイトル手抜きしたなって思った方もいらっしゃるかと思います。
その通りです。良い感じのサブタイトルが思いつかなくてまだ皐月賞の途中だしその2で良くね?ってだけでこうなりました。
あまりこういう手段を覚えたくはないですけど、仕方なし。
また次回!