頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第五十九話 皐月賞その3

「「”消えるライン”?」」

 

沖野さんと東条さんが揃って疑問を口にする。その疑問にレースから目を離さずに説明する。

 

「前走車の視界から見えなくなるラインです。パッと見は普通にインをついて抜いて行っただけに見えますけど、サーキットのレースでもよく使われる高等技術の追い抜きです。」

 

「そんなラインがあるのね。でもそれってサーキットの話よね。応用しようなんてよく思ったわね。」

 

「教えてないですよ。ただ、ラインは何本でもあるってことくらいです。でもそれがこんな副産物を生むなんて、嬉しい誤算だよ。」

 

「キタサン、頑張ってくれよ~!」

 

でも、今回消えるラインが成功したのはほとんど偶然。キタちゃんが左側に振り向くのと、トレノちゃんが仕掛けたタイミングがうまく噛み合ったこと。

 

キタちゃんがバテて踏ん張りが効かなくなって外に膨らんでいってしまう状況が消えるラインを生み出したんだと思う。

 

残すは上り坂。残ったスタミナすべて使ってでも先頭を守り切って!

 

 

何が起こったのか分からなかった。トレノさんが外に行ったと思って左を見た瞬間に見失ってしまった。次にトレノさんを見た時には既に並ばれていた。

 

前に出られて、改めて驚かされる。もうすぐでコーナーも終わるのに2バ身程差を付けられてしまった。

 

後ろからはロータリーさんとダイヤちゃんが迫ってくる。この先は上り、トレノさんは失速するはず。

 

 

キタちゃんならこの先の上りでもう一度勝負に出てくるはず。そうなると失速は最小限に抑えたい。

 

この勢いそのままに坂に突入すれば、失速は抑えられるはず!

 

「いけぇ!」

 

 

ロータリーさんまでは2バ身、キタちゃんまでは5バ身くらい。十分射程距離に入ってる!

 

 

ここまで来たならもう足を残す必要もない。さあ勝負だ!

 

「「「「ハアアァァァ!」」」」

 

『最終コーナーを抜けて最後の直線!中山の直線は短いぞ、トレノスプリンター首位を保てるか!それとも抜け出してくる子がいるのか!』

 

徐々にキタサンの背中が近づく。だが後ろからダイヤがぐんぐんと追い上げてくる。だが今気にするのは前だけでいい。俺はこのままゴールまで突っ走る!

 

『キタサンブラックどうしたんだ、坂に来て勢いが無くなっている!』

 

 

なんで…、脚が動かない!鎖が巻き付いてるみたいに前に進まない…!トレノさんとの距離は縮まない、それに後ろからロータリーさんとダイヤちゃんが迫って来る!

 

どんなに力を入れても前に行かない…、ペースを間違えたって事?だとしたら取り返しのつかないミスだった!トレノさんが間近に迫ってきてペースを上げたのが間違いだったって事!?

 

坂の中腹辺りに入ったところでロータリーさんが横にいた。そのまま追い抜こうとする。譲らないようにと競り合おうとするけど、あっさりと前に行かれてしまう。

 

ダイヤちゃんもそれに続いていく。…食らい付けない!

 

「くっそぉ!」

 

 

キタちゃんを追い抜いてあとはロータリーさんとトレノさん。あと少し、あと少しなのにロータリーさんとの距離が縮まらない!

 

トレノさんには近づいているけど、ロータリーさんを抜かないと勝てない。ゴールは近いんだ、絶対にあきらめない!

 

『坂も中腹!追いすがっている追いすがっている!あと3バ身くらいだ!トレノ逃げ切るかロータリー、ダイヤが差し切るか!』

 

「あと…少し!届かない!?」

 

少しずつ縮んでいた差が縮まなくなっていく。あと少しなのに!

 

 

あと1バ身…だがもう坂も終わる。この坂で仕掛けきれなかった!この先は少しの下り。この差を縮める要素が無くなっちまう。

 

「まだだぁぁ!」

 

『弥生賞と同じ構図になった!残り100メートル!今回も逃げ切れるのか!それとも追い抜けるのか!縮まっている!追い抜けるか追い抜けるか!

 

残り50!ここまで来たらこの差は埋められない!』

 

俺はまた…俺は…“4度”もアイツに負けるのか…!?

 

『ゴーーール!1着はトレノスプリンター!クビ差で逃げ切りました!2着はイエローロータリー!1バ身ずつの差でサトノダイヤモンド、キタサンブラックと続く!

 

1番人気に応えて、トレノスプリンター見事に皐月賞を制しました!!』

 

ワアアアァァァァァァッ!

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…もう逃げなんてやら…ない。私には合わない、ありえない。」

 

またも膝をついて動けなくなる。もう何があっても逃げなんかやらない。何かしらデカいミスしたとしてもやらない。

 

「是非そうして欲しいな…計算が狂うにもほどがある。」

 

「本当ですよ…最初からスパートなんてスズカさんとの併走でもこんなペースで走ったこと無いですよ。」

 

「あの走りで無意識にペースを上げてて、最後の坂で差し切れなかったです。それと…」

 

ダイヤちゃんがロータリーさんとキタちゃんに目配せして揃える。

 

「「「おめでとう(ございます)!」」」

 

「…ハハ、ありがとう!」

 

「ダービーは絶対に負けませんから。それじゃあ、ウイニングライブでまた会いましょう。」

 

「あーそれあたしも言いたい!4着だから出られないじゃん!トレノさん、アタシもダービー負けません!」

 

キタちゃんのちょっとした悲鳴を聞きながら立ち上がって控室に戻ろうとすると難しい顔をしているロータリーさんが目に留まった。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっとな。ラスト100メートルくらいでお前にまた負けるのかって思った時になんでか知らないけど4度負けたって思ったんだ。2回しかレースしてないのにな。どう思う?」

 

「どうって言われましても、思い違いとしか…。でもそんなに深くは考えなくてもいいんじゃないですか?」

 

「まあ、そうだよな。ダービーは絶対に勝つ。首を洗って待ってろよ。」

 

そう言ってロータリーさんも控室に戻っていく。さて、私も戻ろう。ライブの準備もあるし。

 

 

 

「やぁったやったぁーー!トレちゃんが勝ったー!この調子でダービー、菊花賞も勝っちゃえー!」

 

あれだけの強豪を抑えて勝っちゃうなんて我が親友ながら凄すぎる。一気に有名人街道まっしぐら、感謝祭でもみくちゃにされるだろうなぁ。

 

 

 

「凄いレースだったな。序盤から2位くらいの位置で走って勝つなんてな。」

 

「底なしに加速していく様子なんか拓海そっくりだぜ。」

 

「当然じゃないっすか所長!あのハチロクの生まれ変わりなんですから!」

 

「まだ決まったわけじゃ無いだろ。それでも、群馬の走り屋でハチロクを知ってる奴は皆そう言うだろうけどな。」

 

「次のレースはダービーか、俺でも名前は知ってるぜ。楽しみだぜ。」

 

 

 

 

 

「さて、まずは皐月賞勝利おめでと~!」

 

「えっと、祝ってくれるのは嬉しいんですけど、どうなってるんですかこの部屋。」

 

この前も入ったことあるけどその時よりも物が増えている。書類仕事、ミーティングをするためのスペース以外。何かしらものが置いてある。

 

「謎のパイプに…風車?それにタイヤもあるじゃないですか。」

 

「エキマニ、マフラー、タービンだね。トレーナー寮もウィングとかサスとかいろいろ置いてていっぱいだからね。他における所もないし。まあ気にしないで。」

 

「はーい。じゃあ早速、いただきます。」

 

「いただきまーす!そういえば、トレノちゃん感謝祭何かしたりするの?」

 

感謝祭かぁ。そういえば去年はかなり散々な目にあったなぁ。

 

「特には何もないですね。多分クラスの出し物はやるかもですけどそれ以外は何も。」

 

「じゃあちょっとお願いしても良いかな。うどんの屋台の手伝い。」

 

「うどんの屋台ですか?どうしたんですかそんな突拍子もないことを。」

 

「感謝祭の時に出し物で水沢うどん出そうかなって。」

 

「確か渋川市の辺りで有名なうどんでしたっけ。でもなんで急に?」

 

去年ナナと来た時も屋台はたくさん並んでたけど。全部学生がやっていたような…。

 

「毎年ゴルシは焼きそばとかお好み焼きとか売ってるんだけど、今年になって急に挑戦状を叩きつけられてね…。」

 

そう言いながら渋川さんがゴルシさんから送りつけられたと思われる挑戦状を出してくる。

 

「『アタシの焼きそばとアンタの所のうどん、どっちが売れるか勝負でぃ!どうしても嫌ならやらなくてもいいけど、そん時はアタシの勝ちな!』…何というからしいと言えばらしいですけ…!?」

 

言葉を続けようとしたら見せていた紙が急にぐしゃっと握りつぶされた。渋川さんが伏せていた顔を上げてこう言い放った。

 

「上等だあぁ!!挑まれたからには勝ってやるよぉ!水沢うどんのおいしさを以てすればお前の焼きそばなんぞアウトオブ眼中なんだよぉ!」

 

「落ち着いてください!口調とか変わってますよ!ゴルシさんと何があったんですか?」

 

「きっかけは些細な事だったよ。」

 

 

(渋川とゴルシって…なんか似てるよな。変わり者って感じで。)

 

((いやいやコイツよりはまとも(だぞ)ですよ。))

 

((真似すんなよ!))

 

(こうなったらアタシとアンタどっちがまともか勝負しようじゃねえか!)

 

(上等だよ、表でなよ!今すぐ街角アンケートだ!)

 

 

「で、それは私が勝ったんだけどそれ以来ちょっかいかけられたりするんだよね。こっちだって耳元でクラッカーぐらいしかやってないのになぁ。」

 

「へ、へぇ…。」

 

渋川さん、可哀そうですけどそれ多分同族嫌悪って奴です。

 




うどん回、進捗がありました。そういえば土産用ですけど買ってお家で食べたんでした。

味とかかなり違っちゃうかもしれませんけど同じくらいだと割り切って話にしちゃいましょう。

あと、皆さんの勘違いの無いように書いておくと、決してステマではありません。仮にここでやったとしても効果が薄すぎます。というかありません。飽くまで僕個人の感想でございます。

ついでにもう一点。中山の坂を上り終えたら下りとなっていますがコース図をググって見たら緩い上りが続いていることに弥生賞を書き終わってこれを書いている途中に気付きました。

こっちの世界線ではそんな感じのコースって事で割り切ってください。何でもするとは言いませんが許してください。

ゴメンね☆

また次回!
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