頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第六十六話 破滅へのカウントダウン

そろそろ上りも終わって下りに入る。ロータリーさんは目と鼻の先、後ろにはダイヤちゃんがいる。私が仕掛けたのを見て付いてきている。ちょっと困るな。

 

末脚勝負じゃ手も足も出ないから出来る限りマージンを確保したかったんだけど、付いて来られたらそのマージンも十分に確保できなくなる。

 

ドクン ドクン

 

『トレノスプリンターゆっくりと順位を上げて行っています。サトノダイヤモンドそれに続く形で下りに入っていきます。』

 

『普段の追込を最近見ていなかっただけになんだか新鮮ですね。どう運んでいくのか楽しみです。』

 

下りに入った。もっとペースを上げてコーナー入り口までにキタちゃんに並べないと勝機は無くなってしまう。

 

 

「さて、ここからどう転んでいくかな。」

 

「渋川さん、トレちゃんはどうすれば勝てますか!?もう心臓バックバクで考えがまとまりませんよ!」

 

「そうだなぁ、まずコーナー入り口でトレノちゃんがキタちゃんに並ぶ。3コーナーで先頭に立って最終コーナーでその差を広げられるだけ広げる。そのまま差し切らせないでゴールっていうのが思い描いてる作戦なんだけど。」

 

「そうか、トレちゃんはコーナーが得意だから!それで、何バ身くらい広げればとかは分かりますか?」

 

「…8バ身。いくら少なく見積もっても7バ身は確保しないと差し切られるかも。」

 

「そ、そんなにですか!?」

 

驚くのも無理はない。いくら考えてもそれ位確保しなければいけないという考えになった。もちろん、あの3人が私の想定に収まってくれるわけがないからそれを考えても実際に確保できるのは5バ身…それよりも少ないかも。

 

「だが、実際にそれだけの差を確保できるのか?」

 

「トレちゃんならできますよ!」

 

「…ゴメン、出来ないと思ってる。」

 

「そ、そんな…!渋川さんまで…!」

 

「私だって諦めたくない。諦めないでここまで来たんだから。でも…トレノちゃんは、あ…。」

 

弱音を吐いていてその勢いで言ってしまうところだった。この事実だけは誰にも言えない。誤魔化すように手を合わせて祈る。

 

「頑張って…頑張って…無事で戻ってきて!」

 

 

トレノさんがロータリーさんを抜いて私のすぐ後ろまで来ている。このコーナーで仕掛ける気だ。どうしよう?このまま抜かせて直線で抜き返しても良いけど、ここで競り合おうか?

 

「ハアァア!」

 

『キタサンブラック先頭に3コーナーに入ります。後ろには追い上げてきたトレノスプリンターが続きます。他の子はまだ動かないか?』

 

時間が無い、早く決めないと!

 

「……ああもう、ぶちかませぇ!」

 

『キタサンブラックここでスパートを掛けてきた!トレノに触発されたのか!?』

 

『まだまだ先は長いですからね。スタミナ切れを起こさなければいいですが。』

 

 

「キタサンの奴、掛かっちまったか…。」

 

「キタちゃんはこれで相当厳しいかも知れませんね。逃げの子があそこで仕掛ければゴールまで持たないかもしれませんね。前回だってそれでトレノちゃんに負けてますから。」

 

「ロータリーとダイヤはまだ落ち着いてるな。直前で仕掛ければ十分にキタサンを捉えちまうだろうな。その選択をしたら、あとはタフさだけが頼りだ。頼んだぞ!」

 

 

 

嫌な予感がするんだよなぁ。何だろうな、ダービー始まってから感じるこの違和感は。

 

「……何かあってからじゃ遅いからな、手だけは打っておくか。」

 

 

 

ここでスパートを掛けるとは…このままじゃ作戦がパーになる。脚にはまだ余力がある。ここで使わなくてどこで使う。

 

ドクン ドクン ドクン

 

「もっとだぁ!」

 

『トレノスプリンターも動いたぁ!釣られるようにペースを上げる子もいます!…が、ロータリー、ダイヤモンド共に動かない!』

 

こっちは往復9キロを毎日走ってたんだ。今更400メートルがなんだ、こんな所で音を上げるようじゃこの先も勝てる訳ない!

 

さっき思い付いた作戦通り、4コーナーでアタマを取ってリードを出来るだけ広げる。あとはどうにでもなれだ!

 

 

キタサン、その判断はミスだぜ。トレノをちぎろうとするから逆に追い込まれちまう。お前のタフさは認めるが、流石に分が悪いぜ。

 

……ほぉら、柵走りで一気に離れていく。あれ1つであり得ないくらい離れるから焦りたくもなるが、ここは待つ。

 

ダイヤも分かってるみたいで、仕掛けてくる様子はない。俺が仕掛けるのは早くても4コーナーの途中からだ。そこまでは、見物させてもらうぜ。

 

 

明らかに判断ミスした。あそこはトレノさんを気に留めず、ペースを維持するのが正解だった。取り返しのつかないミスだった。

 

後ろをちらりと見ると段々と近づいてくるトレノさんが見える。

 

やってしまったものは仕方ない、このまま突っ切る!タフさには自信がある。このままゴールまで突っ走ってやる。

 

「うああああ!根性ぉぉ!」

 

 

キタちゃんが更にペースを上げた。スピードが上がってラインが少し膨らんだ。3コーナーもそろそろ終わる。ここで仕掛けないともう仕掛けるポイントは無い。

 

9秒先から仕掛けた甲斐があった。あの隙間に入り込む!少し強引にラインを変えてキタちゃんのイン側に潜り込む。

 

「させ……ない…!」

 

まだペースが上がるのか!突っ込み重視の柵走りで…置いて行かれるとは。間違いなく私の限界を超えている。これが本格化…。

 

私だってまだ加速していきたいけど、上りと言う事もあるし、何よりこれ以上は体が限界だ。自分のパワーの無さを今更ながら恨めしく思う。

 

『キタサンブラック、トレノスプリンターもつれたまま各バ最終コーナーに入っていきます。トレノはこのまま仕掛けきることが出来るのか?』

 

最終コーナーに入る前に仕掛けきりたかった。だけどここまで来たもつれたからには立ち上がり重視の柵走りでその差を埋めるしかない。

 

今までの限界を…今ここで超えないとダメなんだ。

 

ドクン ドクン ドクン

 

 

トレノのペースは既にラストスパート並、上りだが、コーナーって事もあってほんの少しずつだが離れていく。今の差で4バ身程度か?

 

アイツに対抗してペースを上げていってるキタサンも良い根性してるぜ。タフさが取り柄なだけある。だが、コーナー抜けるまでにはそれなりに消耗するはずだ。

 

これなら俺が付け入る隙が出来る。コーナーでは仕掛けない。もう少し我慢だ。

 

 

トレノさんの後ろを走ってたおかげで少し脚に余裕が出来た。これなら少し早いタイミングでスパートを掛けられる。

 

『トレノとキタサンもつれている!最終コーナーもそろそろ終わる!ここからは長い直線だ!先頭2人はスタミナが残っているか!?それとも他の子が差してくるのか!』

 

トレノさんまで約6バ身!十分に射程距離内!

 

「やああぁぁあ!」

 

『サトノダイヤモンド仕掛けてきた!他の子もどんどんと仕掛けてきている!』

 

「おらあぁあ!」

 

『イエローロータリーも仕掛けてきた!驚異的な末脚だ、サトノダイヤモンドと共にぐんぐんと伸びてきている!』

 

 

コーナーで仕掛けきれなかった。ここからはあまりにも不利すぎる直線に入る。しかも少しの間上りが続く。

 

しかもロータリーちゃんとダイヤちゃんの末脚は想定をはるかに超えている。その差がみるみる縮んでいって既に2バ身程まで迫ってきている。

 

「トレちゃぁーーーん!!頑張ってーー!」

 

そんな応援もむなしく、上りの影響でペースはほんの少しずつ落ちて行っているように見える。対して追い上げてくる2人はさらにペースが上がっている。

 

「キタサンも粘っているが、流石に持たないか…?」

 

沖野さんの言葉通り、キタちゃんもペースは上がって入るけどその差はじりじりと詰まってきている。

 

 

「トレノちゃん、頑張れー!抜かれるなー!」

 

「ヤバいよ、絶望的だ。ゴールはまだ先だ。このままいくと抜かれちまう!」

 

『ロータリーとダイヤ追い上げてくる!2番手争いに食い込んできている。トレノは懸命に走っているが…いま追い抜いた!そのままキタサンブラックを追い抜きにかかっています!』

 

「「「ぬ、抜かれたー!」」」

 

「神奈川最終戦並の衝撃だぜ…こうも何もできないまま抜かれるなんて。」

 

「しかも直線だから純粋なパワー勝負になる。もう、厳しいんじゃないかな…。」

 

「そ、そんなぁ。俺、こんな所でトレノちゃんが負けるの、見たくなかったよ。」

 

 

「ハァ…だあぁあああ!」

 

2人の背中がどんどんと離れていく。その背にすがろうと手を伸ばしても、それははるか遠くにあるように思えてしまう。

 

ドクンドクンドクン

 

追い付けないの…?どうしても…。これが私の限界って事?

 

ドクンドクンドクン

 

 

ドクンドクンドクンドクン

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………えっ?

 

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