「皆さーん!一度休憩にしませんかー!」
マックイーンさんの掛け声でスピカの皆が休憩に入る。私はゴルシさんにおんぶされたままだ。
「分かったー!…マックイーン、その松葉杖どうしたの?」
「これですか?驚かないで下さいまし。遂に、帰って来てくれましたの!」
「オメーら目薬飲み干してよーく見とけ!笑いのニューウェーブ、トレノスプリンターの復活でーい!」
「お笑い芸人ちゃうねん。…お待たせしました、戻ってきました!」
マックイーンさんから松葉杖を受け取って、みんなの元に歩いていく。
「と、トレノさ~ん!」
「スぺさんそんなに泣かないで下さい。…こっちも泣きたくなるじゃないですか。」
「トレノ、ここから大変だよ。走れるようになっても、元のように走れるって保証はない。乗り越えないといけないことはたくさんあるよ。」
「そうですわ。半年は簡単に過ぎてしまうかも知れませんわ。その覚悟はよろしいですか?」
2人の視線にはえも言われぬ説得力があった。でも答えは決まっている。
「もちろんです。そのつもりで戻って来たんです。それに…。」
「“俺”もいる。トレノちゃんを現役に復帰してからも、その先だって、どこまでだって二人三脚で…あ、やべ。」
「「「……俺?」」」
そこにいた全員が反応する。喋っていたのは明らかに渋川さんだった。でも口調は男の人そのものだった。
「い、いや?別にカッコつけって訳じゃないんだよ?ただその…沖野さん!沖野さんのが移っちゃっただけで!」
「この1年俺の口調が移った感じは一切としてなかったが?」
「うげっ。」
「それに接点で言えば私の方が多かったと思うわよ。移るとしたら私じゃないかしら?」
「むがっ。」
「榛名ちゃん、元の口調を直すのにかなり苦労してたわよね。懐かしいな~。」
「……私このまま帰っても良いですか?」
半泣きになりながらその場に座り込む。沖野さんに東条さん、横から来たマルゼンスキーさんからも追撃されていた。面白そうだからあのまま放置しておこう。
「退院おめでとう、トレノちゃん。私たちも心待ちにしてたのよ。」
その後ろにはリギルのメンバーも集まっていた。よく見るとロータリーさんだけいない。そう思った瞬間、後ろから話しかけられる。
「遅かったじゃねえか。どうだ、久しぶりに歩いた気分は。」
「良いものですね、自分の脚で歩けるっていうのは。鳥籠から解放された気分です。」
「ふーん。それじゃ、もっと飛んでみっっろ!」
そう言った瞬間に松葉杖をひったくられる。立つだけなら問題ないから今は何ともないけどロータリーさんはそのまま2歩ほど下がってしまう。
「それじゃ、まず最初のリハビリはここまでくる…だ。目標は1歩ずつとは言うが、俺はそこまで待てないからな。段飛ばしで行かないとな。」
「勘弁してくださいよ。動くようになったって言ってもそれが無いと歩くこともままならないんですよ。」
「大丈夫だ。急に動くようになったんだ。急に歩けるようになったって不思議じゃねえぞ?それに前提問題でよ、お前の脚自体は何ともねぇじゃねえか。」
確かにそうだけどさ、筋力の低下とか色々あるじゃん。…言ってくれますね。
「ロータリー、1カ月も入院していたんだ。もう少し思慮深い行動を取るんだ。」
「大丈夫です。むしろ…。」
ザッ
「これ位がちょうどいいんですよ。」
その重い足を1歩前に進める。それだけで重心がブレる感じがする。体の揺れを抑える。よし、1歩踏み出せた。あと1歩!
「フゥゥゥゥッーーーー。」
ザッ
もう一歩踏み出す。その場で手を伸ばしても松葉杖に届かない。距離的にはあと半歩か。絶妙な距離間で離れましたね、ロータリーさん。
「頑張れ、あと少しだ。お前ならできる。」
ロータリーさんから声が掛かる。他の皆はただ黙って見守ってくれている。後半歩、どうってことない!
「……っ、えい!」
「ちょっ、うおっ!?」
ロータリーさんごと捕まえようとしたら予想外だったのか避けてしまった。行く先を失った私はそのまま芝に倒れ込んでしまう。
「大丈夫ですかトレノさん!?」
「スぺさん、手ぇ出さないでくれ!さぁ、立って見せろ!」
全く無茶言ってくれる。病院で立つ時だって看護婦さんに手伝ってもらったのに。手をついて脚に力を入れる。さっき歩いて慣れたからなのか自然に力が入る。
「頑張れー!」「その調子やー!」「トレノー!気合いだー!」
左手、次に右手と段々と手を放していく。…今思う事じゃないけど、赤ちゃんが初めて立った時のリアクションをこの年になって受けることになるとは…。
はっきり言って凄い恥ずかしい。そんな気持ちを押しのけて、あとは脚を伸ばすだけ。もうここまでくれば…!
「トレノが立ったーーーー!」
「クララですかね…。今からおばあちゃんになるのが怖くなっちゃいますね。」
「それじゃ、コイツはもう必要ないな。」
「はい、明日病院に返しに行きます。」
周りを見渡してみると、いつの間にか人が集まっていた。耳を澄ますと、みんな私の退院を喜んでくれているみたいだった。今日だけで、何回励まされたか分からない。
「渋川さん、明日から忙しくなりそうですね。」
「うん、気が済むまでいくらでも付き合うよ。」
「あ、そうだ。」
唐突にロータリーさんが話し出す。何か言いたい事でもあるのかな。
「マルゼンさんって渋川の元の口調知ってるんですよね。どんなだったか教えてくれます?」
「ロータリーちゃん、それは聞いちゃいけないお約束だよ!」
「あ、それ私も聞きたいです。」
「ちょ、トレノちゃん!?」
「フフ、いいわよ。そーだなー。最初にあった時なんかは『峠でランボとかふざけてんのかお前。』みたいな感じで突っかかって来てね♪」
「うわーー!その話は封印してって言ったじゃん!」
そんな話し方だったのか。後ろから邪魔してくる人がいるけど気にしないでマルゼンさんの話を聞く。
「それで私は言ったの。『ふざけてるように見えるなら、バトルしてみる?』って。そしたらなんて言ったと思う?『上等だぜ。俺のインプがおふざけランボなんかに負けるかよ。』って啖呵を切ったの。これが2年前、榛名ちゃんに初めて会った時の話ね。」
へーと言おうとした瞬間に体を掴まれる。そのまま凄い力で引っ張られていく。こんな力あったんだ。これが火事場のバ鹿力って奴か。
「それじゃ私たちはこれでー!後全部事実無根だからー!私そんなに野蛮じゃないからーー!」
いや、十分野蛮だろとその場の全員が思う。
「あー行っちゃった。あの頃の榛名ちゃんも可愛かったんだけどなぁ。それでね。」
「「「ふむふむ。」」」
「いやーよく寝た。」
トレノちゃんを寮に担ぎ込んで自分の部屋に帰ってきて仮眠を取ったんだけど、結構寝た気がする。今何時かな?
9時か…いやホントに結構寝たな。さて、遅いけど晩御飯作ろ。ベッドから立ち上がってキッチンに向かう。ふとカーテンを見ると光が漏れていた。
「……!? あぁっ!」
時計を見ると9時、そう9時だ。……“午前”の。
「遅刻だぁぁァァァァっ!!」
大急ぎで身支度をする。スーツは切るのに時間が掛かる。服装はほぼ自由なんだ、着やすいジャージでいいや。あとは…トーストにしようとしてたパンを咥えて部屋を飛び出す。
一応今日も休日扱いだけど今日から仕事に戻ろうかと思ってたからかなり焦る。故に走る。
正門がくっきり見えてくると人だかりがあることに気付く。なんだろ、あれ。
「あれ、たづなさん。どうしたんですか?この人だかり。」
「渋川さん!連絡が取れなくて心配してたんです!貴方に会いたいという記者の方たちもいらして…。ある人から許可は受けたと言っていて…。」
私に…?取材の連絡なんか来てないけどなぁ。ある人って誰だ?それに連絡が取れなかったって?スマホならここにあ…
「ん~~?」
「おい、あの人だぞ、相葉瞬に勝ったって幻のドライバーは。」
本腰入れて探してないけど多分ない。スーツの中にいれっぱだったっけ。いや、でもどうしたっけ?
「渋川榛名さん!是非とも取材させてくれませんか!?」「あのコースレコードはどのようにして打ち立てたのでしょうか!?」
「すいません、急に来られても困ります。というか、取材を許可した人って誰ですか?」
「えーッと確か、“せな”って言ってたなぁ…。」
……はーいわかりましたー。
「じゃあトレーナー室で受けさせていただきます。車の方は最後にでも。たづなさん、ご迷惑おかけしました。後は私が。」
えー皆さん。僕がどんな状況かお分かりかと思います。そうです!ハヤヒデさんにロープで簀巻きにされてまーす!
「随分冷静なのだな。2回目となると慣れたものかな?」
これは全面的に僕が悪いですね。ようつべ見てたらいつの間にか更新時間過ぎててそれでも完成してなくて焦り散らかしてましたからねアッハッハ。
「さて、今回はどうするんだ?また3日で投稿するのか?」
あぁ多分無理ですね。ちょこっとばかりリアルが忙しいので。
「では死刑。」
判断が早い!?ちょっブライアンさん!?お助けー!
「読者の皆、次がいつになるかは分からないがまた次回。」