頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第八十九話 決着

「まあ、よくやったんじゃねえか?封印が解かれて間もないってのにここまでやったんだ。はっきり言って、ヤツは天才だ。」

 

「私も驚かされてばかりだったよ。トレノ君の潜在能力を考えればまだ伸びしろがある。これからがもっともっと楽しみになるねぇ。」

 

周りからもこれでレースは終わりというような声が上がる。ここまで本数を重ねれば疲労していることは誰でも分かる。ましてやここから逆転するには相応の実力が必要だという事も。

 

「…あのさぁ、何このまま終わろうとしてるんだ?」

 

「渋川君、トレノ君の疲労は考慮してるのかい?4本目、第2コーナーで彼女はミスをしてかなり離されてしまった。その差を取り戻すためにかなりスタミナを消費しただろう。

 

そこから間髪入れずに5本目に入ったんだ。すでに疲労困憊の状態で、まだ逆転が出来ると思うのかい?」

 

「可能性を追い求めてる割には、随分と視野を狭く持つんだな。無論、厳しいのは分かってる。でもゼロじゃない。トレノちゃんは、まだ諦めてねえよ。」

 

 

抜かれた…もう抜き返すしかない!ともなれば、どうする?第3コーナーまでに考えをまとめないといけない。柵走りは使うとして、それだけじゃ足りない。

 

こうなったら限界を超えるしかない。ただ、このコンディションで限界を超えていけるのか?

 

…いや、やるんだ。やらなきゃ負ける。自分が思い込んでる限界を、打ち破るんだ!やるんだ、今まで以上のスピードのコーナリング、そして柵走り。

 

これでも抜き返せるかは分からない。でもやらなきゃ負けるだけだ。

 

「いってやる!」

 

強引に脚に力を入れて加速していく。今まで2速で曲がってたものを3速で曲がる。助走をつけて突っ込んでいく。このスピード…流石に怖い。

 

押しのけろ、一番強いのは、負けたくないって気持ちなんだ!

 

 

「あいつ、そのまま突っ込む気か?いくら何でも正気じゃねえぞ。あいつ自身の限界すら超えたコーナリングに、この極限状態で挑むってのか?」

 

「でもこれをクリアしたら、格段に成長できる。絶対に通らないといけない道だからな。さあ、クリアできるか?」

 

とはいえ、あの突っ込みをただ見ているだけなのは俺も怖い。膨らむだけならいいけど、バランスを崩して転倒…なんてことになったら最悪以外の何物でもない。

 

折角また走れるようになったのに、また走れなくなるのはいくら何でも可哀そうだし、”私“が立ち直れるか分からない。

 

ハヤヒデちゃんが3バ身差でコーナーに入る。後に続いてトレノちゃんも入っていく。あのスピードで突っ込んでいくなら確実に限界は超える。

 

さぁ、突っ込んでいけ!

 

トレノちゃんがコーナーに入る。限界を超えているせいでじりじりとアウトに膨らんでいく。流石に…ダメか。

 

そう思って歯を食いしばった瞬間、目を見開いた。トレノちゃんは、対応していた。

 

その体は出口に向かって捻られている。その脚は片方ずつ違う役割を担っている。イン側の脚はコーナーに沿って動くその逆の脚はその膨らんだ分を修正するように踏み込んでいた。

 

その姿は…まるで…

 

「超高速…四輪ドリフト…!!」

 

そのスピードはさることながら、ラインも完璧だ。この極限状態で理想的なラインをトレースしている。瞬間、トレノちゃんの姿に藤原さんのトレノがダブって見える。

 

そうか、そうだったのか。あのシビアさ、あのスピード。俺は知っている。昔、お父さんに見せて貰ったビデオに映ってた、あの白黒の車…そうか…あれがトレノだったのか。

 

アレが、あの子が、俺が追いかけ続けたハチロクだったのか…!

 

「見事にクリアしたようだね。おかげか、かなり詰まっていっている。驚いたよ、これなら追い抜ける可能性が見えてきたねぇ。…どうして泣いているんだい?」

 

「え…?あれ、ホントだ。何で…だろうな。」

 

 

何が起こった?コーナーに入るまでは確かに3バ身差はついていたはずだ。それが今はどうだ。およそ1バ身程後ろまで迫っている。まだ第3コーナーも途中だ。

 

何をやったんだ、どう曲がった?いやそれより、なぜそんなことが出来る?限界も近いはずだ。その状態で…限界を超えたというのか?

 

レース中に限界を超える例はいくつもあるが、ここまでの消耗を考えると常軌を逸している。…まさか、まだスタミナが残っているというのか?

 

だがスタミナが残ってるのはこちらも同じ。勝つにはこのまま抜かれなければいい。第4コーナー立ち上がって、残りのスタミナを使ってちぎらせてもらう!

 

第4コーナー、後ろからじりじりと迫ってくる。焦る気持ちを抑えて脚を溜める。早すぎる仕掛けはこちらの身を滅ぼす。ギリギリを狙っていかなければ。

 

がりっ

 

この音、柵走りか。すでに後ろには付かれているだろう。音から察するにイン側に陣取っているとなるとライン取りはこのままでいい。このまま立ち上がれば最初こそ並ばれるかもしれないが、直線で離せる。

 

音が外側に移動した。一気にアウトに反れたのか!横目で見ると私の横、1メートル外にいた。アウトからの陽動なのか、そのまま抜きに行くのか。

 

陽動であるならば、オグリさんのような移動攻撃をしてくる可能性がある。そのまま抜きに行くとしても、私があれを防ぐのは逆にリスキーだ。

 

強引にラインを変えると脚に負担が掛かる。今の状態で過度に負担を掛けるのはまずい。直線の末脚勝負で不利になってしまう。そうなると、今のラインを維持するしかない。

 

トレノ君が並ぶ、少しずつ前に出ていく。歯がゆいものだな…追い抜いていくトレノ君を、ただ見ているしかできないなんてな…!

 

 

イン側はどうやっても付け入る隙間は無かったから、アウトから行ったけど思ったよりハヤヒデさんが詰めてこない。

 

何でか分からないけど、ブロックしてこないならそれはそれでラッキーだ。ハヤヒデさんを追い抜けたんだから。

 

この勢いのまま立ち上がって立ち上がりでそれなりのリードを確保して絶対に6本目に持っていく!

 

「ハアァァァァァァァ!」

 

立ち上がってスパートを掛ける。もっとも、周りから見ればスパートと言えるような加速はしてないんだろうけど。それでも限界まで加速していく。

 

「やらせるものか!」

 

ハヤヒデさんも加速してくる。リードは2バ身、守れるか!?

 

じりじりと迫ってくる直線はやっぱり不利か!それでもハヤヒデさんも鈍くなってきてる、まだいけるかも!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

「「ハァ…ハァ…。」」

 

「僅差だな…こんなに僅差になるとは思わなかったからな。カメラなんて持って来てないぞ。沖野さん、どう映りました?」

 

「あれだけ接近してるとな…これだけ観客がいるんだ、聞いてみるか?」

 

「そうしますか?いや、あまり時間は掛けたくないし…。」

 

「トレノだ。」

 

悩んでいるとシャカールが口を開く。その場からは動かずにPCの画面だけを見せてくる。そこにはトレノちゃんがほんの少し先にゴールしている画像だった。

 

「これは…。」

 

「6本目だ、間髪入れずに続けるんだろ?」

 

「サンキューシャカール!じゃあ2人とも、6本目始めるぞ!3…2…1…GO!!」

 

 

「6本目か、あそこで勝ちきれなかったのはハヤヒデにはかなりの誤算じゃないの?」

 

「トレノもハヤヒデも…どうしても勝ちたいんだね…かんどうだぁぁぁぁ!2人ともがんばっでぇぇぇぇ!!」

 

「うるさ…。でもこの6本目で、勝負は決まると思う。」

 

 

…仕掛けきれなかった。完全に想定外だ。まさかここまでスタミナが残っていたとは。私もトレノ君も、直線でかなりスタミナを使ってしまった。

 

先行逃げ切りを目指すか?いやしかし…トレノ君のスタミナを考慮しても…だが…7本目にもつれさせても…。

 

考えが…まとまらない。かなり疲れが来ている。ここまで疲れたことは今までなかった。なら、もつれさせるのは良くない。やるなら逃げ切るしかない。

 

既に3コーナーを抜けている。早仕掛けにはなるが、もう仕掛けるしかない。

 

「ハァッ!」

 

「…クッ!」

 

付いてくるか。君もかなり疲れているだろうに…。学園でも屈指のステイヤーであるライス君でもここまで持つか分からない。無尽蔵のスタミナと評す他ないな。

 

 

厳しすぎる。まだ3コーナー抜けたばっかりで、疲れた状態でこんな早仕掛けなんて、ついてくだけでやっとだ。このままいけば7本目だけどそこまでいくと私が持つか分からない。

 

だったらここで勝負を決めにいくしかない。でもどうやって仕掛ける?イン側に隙が無いし、アウト側だと距離のロスを考えると決定打に欠ける。

 

どうやれば追い抜ける?イン側に絶対は入れるような…そんな作戦があれば…。

 

 

トレノ君との差は…4バ身程か。コーナリングで詰まってしまう事を考えればもう少し離しておきたかったが仕方ないだろう。

 

「チッ…!」

 

インを占めようにも脚の踏ん張りが甘い。力を入れようにも言う事を聞かなくなってきている。ここで決められないと次は持たない。

 

今あるスタミナをすべて使ってここで終わらせる!

 

「ハアァァァァァァァ!」

「ダァアアアァァァ!」

 

トレノ君が詰めてくる。だがラインはアウト側。イン側は私が強引に占めている。このコーナーを立ち上がって2バ身以上離れていれば勝てる可能性はある!

 

それにこの先の第1コーナーは柵走りは使えない。トレノ君が一気に詰めてくることも無いだろう。これならいける!

 

「そっこっだぁぁぁぁぁ!」

 

トレノ君の足音が後ろから聞こえてくる。その音が柵側に移動していく。何をしている?そこには柵は無い。あるのは”ダート“だけだぞ!?その様子を横目で見る。

 

「なっ、何だと!?」

 

目を疑った。こんな土壇場で…そんなところを走るだと!?君の適性は…芝だけではなかったのか!?走る場所が急に変われば走り方もまるで違ってくる。だから私もさっきは脚幅の半分ギリギリで留めたんだ。

 

それなのに君は…なぜ平然とそこを走れる。今の私では…あれだけはどうやっても…

 

「防げ…ない!」

 

私の前に半バ身出たタイミングでダートから勢いをつけて戻ってくる。もう追い抜くしかない…が…もう脚が他人の物のようだ。5本目のラストスパート、それにあの早仕掛けは悪手だったか。

 

それにしても、あの土壇場でダートを走ろうと思うあの精神力。それに限界を超えてなお破綻しないあのテクニック。

 

これは…ケタが違い過ぎるな。




やらかしたー。

投稿10分遅れました。悲しいなぁ。

正直かなりギリギリの執筆してるのでこうなっちゃうのも仕方ないですかね。

まあ大半はようつべみながら執筆してるのが遅れる一番の原因ですかねw

それでは皆さんまた次回!ハヤヒデさんに怒られませんように。
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