頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第九十二話 冠は誰の手に

『第4コーナー抜けてスタンド正面に向かいます。隊列はさほど変わらず、平均的なペースで進んでいます。』

 

平均的か…それが恐ろしく感じるのはなんでかな。特にトレノが何も動かないのが何故だ?いや、これで逆に普通になったって事か?

 

今までその身任せの暴れ方をしてくれたおかげで色々と狂わされてきたが、これでようやく、やりやすくなったか。いや、変わってねえか。

 

上りであれだけ付いてくるんだ。平地での加速も馬鹿にはならねぇ。何よりあいつはド天然だ。作戦立てておいて勢い任せに来たって不思議じゃねえ。

 

何よりキタサンがここまで粘るとはな。タフさが取り柄とは言ってたが、ダービーの時に比べてどんだけ成長してんだよ。

 

『イエローロータリー、キタサンブラックの後ろに付きます。これをどう見ますか?』

 

『後半の為に足を少しでも溜めるためだと思います。スリップストリームで空気抵抗が無くなるので疲れにくくなりますからね。』

 

トレノは下りで全開にしてくるだろ。だったら俺は淀の坂で差を広げる。スタミナは今でも十分にある。熱くなるな、クールになるんだ。気合だけの走りじゃレースは通用しない。

 

 

ここまでは予想通り、キタちゃん先頭で、ロータリーさんがその後ろ。私の後ろにはトレノさんがいる。

 

向こう正面まで平坦な道のりになる。ペースは変わらないでこのままいく可能性は十分にある。なら今できることは仕掛ける時に邪魔されない位置。

 

この位置だと前のウマ娘に阻まれちゃうかもしれない。それなら、横に動いてすぐに抜け出せるようにする。

 

『サトノダイヤモンドが中団を横に抜け出します。位置取りをうかがっているのでしょう。』

 

『第1コーナーに間もなく入ります。先頭変わらずキタサンブラック。ペースを作っています。』

 

 

ダービーは目を覆いたくなるような結果だったけど、菊花賞、クラシック最後の冠は渡したくない。

 

あたしにはテイオーさんみたいな才能は無い。でも、夢が終わったわけじゃない。だったら泥臭くてもいい。どれだけカッコ悪くてもいい。

 

あたしはあたしの夢に突き進むだけだから!

 

『第1コーナーに入ってキタサンブラック少しペースを上げたか?イエローロータリーが少しだけ離れたように見えます。』

 

『平坦な道のりですからね。坂を駆けあがるための助走かと思われます。』

 

トレーニングだってダイヤちゃんにも、ロータリーさん、トレノさんにも負けないくらいやって来た。だったらあたしが負ける道理はない!

 

『隊列が少しまとまってきました。第2コーナーに入ったところで順位を振り返っていきます。先頭を走るキタサンブラック、その後ろイエローロータリー。

 

少し離れて団子状態の外にサトノダイヤモンド、そこから3バ身離れてトレノスプリンターとなっています。』

 

『いつもと比べると大人しめですね。復帰明けで、さらにG1ですから、精神的ストレスで実力を出し切れない…なんてことが無ければいいのですけど。』

 

まだレースは動かない。でも心理戦は最初から始まってる。ロータリーさんは私の後ろで脚を溜めてる。スリップストリームだっけ。

 

あたしが仕掛けるのは第4コーナーに入ってから。それまで後ろに付かれるとスタミナにかなり差が出来るかもしれない。それなら!

 

「フッ…!」

 

「チッ…!」

 

左右に少し振ってあたしの後ろから外す。ほんの少し、半身出すだけだからそこまで支障はない。

 

『各バ第2コーナーを抜けて向正面に入ります。再び淀の坂がウマ娘達に襲い掛かります。』

 

「ハァッ!!」

 

 

「…来たか!」

 

思った通り、坂に備えて加速はしてきやがった。トレノの脚なら坂までに俺たちに並ぶことはできるだろうな。あとは坂でどれだけ差が出来るか。

 

苦手だった坂を克服してるとは言っても身体能力はこっちが上だ。坂に入った時に並ばれてもある程度は後ろに下がると見た。

 

問題はこの先の下りだ。あの急勾配であいつは確実に仕掛けてくる。上った分を一気に駆け降りることになるからあそこを本気で下るやつは言い方は悪いがただのバカだ。

 

ただアイツだけは…あの下りをものともしない気がしてならない。…いや、イケちまうのかもな。

 

『後方からトレノが上がってきました。間もなく淀の坂に入ります!思い切って突っ込んて行きましたキタサンブラック!その後ろを並んでロータリー、トレノと続きます!』

 

淀の坂に脚を掛け、上り始める。中山の坂よりやっぱ厳しいぜ。トレノは…やっぱ下がってくか。キタサンも勢いよく上ってく。それならダイヤは?

 

『サトノダイヤモンド坂で加速していく!中団からの抜け出しもスムーズでした!そのまま下がっていくトレノスプリンターを躱します!』

 

お前は上がってくるのか。仕掛けてくるのは下りに入ってからだと思ってたが。追い付くことは無いだろうが、かなり差は詰めてくるだろうな。

 

だがここで警戒しないといけないのはトレノだ。この先の下りが恐ろしい。

 

だから、俺が仕掛けるポイントは、この坂じゃない!

 

さあキタサン、少しの間、単独先頭は譲ってやるよ。後でキッチリ取りに行くからよ。

 

『坂も後半、ここから第3コーナーに入ります。先頭単独キタサンブラックから急勾配に入ります。』

 

 

トレノさんを躱して、ロータリーさんまで3バ身。キタちゃんが3コーナーに入ってその後をロータリーさんが続いていく。

 

私もコーナーに突っ込んでいく。あの上りから、急激な下りに変わるから、感覚をすぐに切り替えられないせいで凄い怖く感じる。

 

その恐怖心を押さえながら、スパートを掛けていく。

 

『サトノダイヤモンドペースを上げていく!前との差がみるみると縮まっていく!』

 

…ようやく慣れてきた。もう少しペースを上げられる!

 

「いっけぇ!」

 

「ッ!? 嘘っ!?」

 

『しかし大外からトレノスプリンター!この急な下り坂をものともしない!恐怖の感というものが無いのか!』

 

 

上りじゃやっぱり手も足も出なかった。こうなる事は初めから予想出来てた。だからこそ、上りでそこまで差が付かないようにギア比を合わせた甲斐があった。

 

その差は5バ身。この坂で追い抜くには…充分!

 

ダイヤちゃんを躱す。後見据えるのは2人まだ下りは続く、ここで仕掛け来る!

 

『その差があまりに衝撃的に詰まっていきます!大外のラインから変わることなく、イエローロータリーを易々と躱す!そのままキタサンブラックも躱していきます!』

 

『電光石火とはこのことでしょうね。あまりに早すぎる展開でした。』

 

後はもう逃げるだけ…とはいかないだろうな。後ろからビリビリと痛い位のプレッシャーを感じる。それもどんどんと強くなってくる。

 

この先は平坦な道が続く。それにゴールまで400メートルの直線がある。

 

このリード、守り切れるか?

 

 

トレノさんが下りが得意なのは重々承知してたけど、まさかここまでとは思わなかった。あたしにも出来るか!?

 

…いや、乗せられるな!ダービーじゃトレノさんのペースにつられたせいでスタミナ切れを起こしたんだ!

 

重要なのは自分のペースを守る事!それさえできれば、あたしだって勝てる!この菊花賞だけは絶対に…絶対に獲る!

 

『3コーナーを抜けて4コーナーに入ります。トレノスプリンターが2バ身のリード!各ウマ娘、ここがスパート所だ!』

 

まだ、我慢だ。仕掛けるのはコーナーを抜ける少し手前、多分トレノさんは柵走りで差を広げに来るはず。それに合わせてスパートを掛ける!

 

よく見るんだ、トレノさんの動きを。柵走りをする前兆は、インに極端に寄る事。そのタイミングでスパートを掛けるんだ!

 

『4コーナーもいよいよ大詰め!残すは最後の直線だ!トレノスプリンター、先頭も守り切れるか、それとも3人が差し切るのか!』

 

スッ

 

トレノさんがインに寄った!今だ!

 

「「「ダアァア!」」」

 

『各ウマ娘、一斉にスパートを掛けていきます!キタサンブラック上がっていく!その内イエローロータリーついて行きます!その後ろサトノダイヤモンド!やはりこの4人の先頭争いになってしまいました!』

 

 

3人の背中がどんどんと大きくなっていく!直線はまだある、差し切るんだ!

 

 

ダービーで出来なかった勝負の続きだ、絶対逃がさねえぞ!

 

 

負けられない、絶対に!この菊花賞だけは…この菊花賞だけは!

 

 

先頭を守り切るんだ、回れ、11000回転!

 

 

「「「「だあああああぁぁぁぁぁッ!」」」」

 

『さあ並んだ並んだ!最後の冠は誰が取るのか!残り200!ロータリーが僅かに前、しかしダイヤがその前に出る!キタサンも出てくる!トレノも追いすがる!

 

ほぼ横一線!ゴールはすぐそこだ!誰になるんだ誰になるんだ、先頭でゴールして、その冠を手にするのは誰なんだ!』

 

 

 

 

 

ワアアァァァァァァァァァァ!!!

 

「だめ…だったか…。」

 




「なぜ、生きているんだ…。確かに爆発四散したはずだ…!」

確かに僕は爆発しました。ビックリするほどマヌケで幻想的な理由で。そこで本能の僕と理性の僕とで分かれて命だけは繋いだって訳です。

ほら、おでこに『理』って書いてあるでしょ?同様に爆発した方の頭には『本』と書いてあります。

「ゴキブリか、アンタは。その気になればいくらでも増殖できるみたいな口ぶりじゃないか。」

「増殖だと!?いやな想像をさせるな!あの黒い物体が増えると考えただけで身の毛もよだつ…!」

まあやろうと思えば作者権限でたぶんできますけどめんどくさいのでやりません。

あーあ、本能の再生にどんだけ時間かかるんだろ。ともあれハヤヒデさん、僕がご迷惑をおかけしました。

「そうか、理性だからそこの辺りは弁えているという訳か。まあ、あまり気にしてはいないし、作者君はいつもこんな感じだったからな。」

「丸く収まりそうだな。私はそろそろ帰る。」

「私も帰るとしよう。遅くなって寮長に迷惑をかける訳にもいかんからな。」

お気を付けてー。では皆さん、「「また次回!」」

…え?
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