『ほとんど横一線!前代未聞の4人が写真判定になりました!』
がむしゃらに走ってたせいで、自分でも勝ったかどうかの感覚が無い。本当にどうなったんだ?今は結果を待つしかない。
ロータリーさんもダイヤちゃんも、キタちゃんも掲示板を見て押し黙っている。長い、こうやって待っている時間が途方もない位長く感じる。
それにしても…疲れた。模擬レースで6本走ってスタミナ切れなんか起こらないでしょ、なんて言うのはやっぱり甘い考えだった。
「トレノちゃん…。」
「渋川さん?今出てきてもいいんですか?」
「まぁ、大丈夫でしょ。復帰明け初のレース、それもG1でここまでの走りが出来た。トレノちゃんの完全復活を疑う人は誰もいないはずだよ。」
何か様子がおかしい。放つ言葉に元気が無い。何かをこらえているような…そんな感じがする。それに私と視線を合わせようとしない。不思議に思っていると、スタンドから歓声が沸く。
『出ました、1着は!』
「それでも届かなかった。コースの特性が…トレノちゃんに…噛み合ってれば…!」
『キタサンブラック!1着はキタサンブラックだ。ハナ差でイエローロータリー、サトノダイヤモンド、トレノスプリンターと続きました!復帰のトレノは4着に沈みました!』
「や…やったぁ!!!」「…チッ。」「破れなかった…!」
「4…着…。」
負け…。初めて…負けた。あれだけ本気で走って、それでも負けた。
『4人にはほとんど差がありませんでした。まさにギリギリ、紙一重の勝負でした。その中でトレノスプリンター4着、数字だけを見てしまうと残念な結果に見えてしまいますが、復帰後初戦でこの結果、完全復活と見ても間違いないはずです!』
『私も、彼女がここまで走ってくれるとは思いませんでした。負けてしまいましたが、この結果も、今後の糧にしてほしいです。』
いや、2回目か。ダービーでもあれだけ差がついてたんだから、あれも負け…か。
「…さ、さあ渋川さん、帰って反省会しましょうよ。負けちゃったから、時間をかけてゆっくりと」
「悔しいでしょ。我慢しなくてもいいよ。その気持ちは、痛いほどよく分かるから。私だって、何度も負けてきた。」
溢れそうなものをこらえる為に少し上に向けていた顔を下に向ける。すると、重力に従って涙が零れていく。止め方を忘れてしまったように、どうしても流れていってしまう。
落ちた雫がターフを濡らし始める時、悔しさで握っていた手を開いて目元を拭う。
「…くっそ……。」
勝負服の袖に染みた涙を見て、抑えていた悔しさ込み上げてきて涙が溢れる。
「くっそおぉぉぉぉぉぉ!!」
「馬力の差があればあるほど、パワー不足を痛感しやすくなる。あと1馬力、そんなふうに考えたことは、何度もあった。それと同じ回数、テクを磨いてきた。
相手のクルマに出来て、自分のクルマに出来ないことは無い。最新戦闘機なんかに負けてやるもんかって反骨精神で私はここまで来た。
トレーニングの方針はこれまで通り、テクニック重視。でも、かなり特殊な事をやることになるよ。この負けを、最後の負けにするために。」
「…はい!!」
「やっほ、昨日は眠れた?」
「ふて寝でしたね。帰ってそのままベッドですよ。でも今朝ナナが電話くれて、元気貰いました。」
「そっか、元気なのは良い事だよ。さて、トレーニングの前に、次のレースの話をするね。次のレースは春の天皇賞に出ようと思うんだけど、どうかな。」
「天皇賞春…4月の後半まで期間が空くんですね。」
「そうだね、これからやってくトレーニングは結構時間がいるんだ。覚えることが多すぎちゃってね。でも、確実に速くなる。引き出しが格段に広くなるはず。」
そう言って立ち上がる。渋川さんがここまで断定するとは。どんなトレーニングなんだろう。少なくともまともなトレーニングじゃないんだろうなぁ。
「本当はクルマみたいに2台あるといいんだけど、体は1つ、乗り換えるなんていう訳にはいかないからね。これを見て。2つ一気に流れるから。」
それで見せられたのは、前見せて貰ったようなどこかの山を走ってる動画。…この音、聞いたことがあるような……。
パパパン
渋川さんのクルマなのかこれ。こう分かりやすいと逆に困惑してくる。そのまま見ていると、動画が終わって次の動画が流れ始める。
スタートの位置は同じ、でもコーナーを抜けていくラインが、1つ目と全然違う。疑問に思いながら動画を見てると、ゴールしてして動画が終わる。
こんな動画を、前にも見たことがある。確かあの時の動画時間は両方とも同じ。疑問しか残らなかったけど、改めてみても意味分からない。
「混乱してる所で本題に入るよ。トレーニングの1つは、これと同じことを出来るようになってもらう事。」
「…1つって言いました?こんな難しいことに加えて他に何かやるんですか?」
これだけでも春天に間に合うか不安なのに他にもやらないといけないのか。気が重くなってきた。
「大丈夫、3つとは言わないから。もう1つは自分のゴーストをはっきりとイメージ出来るようになる。この2つだよ。」
「……出来るんですか、それ。」
「出来るはずだよ。お世辞でもなんでもない、トレノちゃんだからこそ出来るって確信してる。」
「そこまで言い切るのも簡単な事じゃないですよ?でも、そこまで言われてやりたくないですなんて言えませんよね。やります、あの負けを最後にするためにも。」
「それでこそトレノちゃんだよ。じゃあ早速トラックに行こうか。」
「まず大まかな事から教えるね。1つ目のタイムを揃えるのはそのコース特有の、押さえるべきポイントっていうのがあるんだ。そのポイントっていうのはそれぞれだから見つけてもらうしかないんだけど、それさえ分かればタイムは揃っていく。
もしくはタイヤ…じゃない脚を使い切るか。ラインがぐっちゃぐちゃでも何故かタイムは揃っていく。自分がやりやすい方法でやってくれていいよ。」
「…? ……?」
「混乱してるみたいだけど続けるね。2つ目のゴーストは、自分の走ったライン、速度を覚えてそのまま先行か後追いをさせる。
でも最初からイメージするのは難しいから1本走って動画を見るを繰り返して自分の走りを細部まで把握する。距離は2000で、この2つを並行してやっていくよ。」
6カ月、同じことの繰り返しになるけど出来るようになったなら、別人のように速くなる。ラインの意識もガラッと変わるはず。
「よく分からないですけど、とりあえず走ってみます。合図お願いします。」
「まあ口で言うよりやってもらった方が分かりやすいよね。それじゃ用意…スタート!」
トレーニングを始め2週間、タイムを揃えるのは今までやったことのないことだから今でも試行錯誤の連続だ。渋川さんにコツを聞いても…。
(その1本で脚を使い切る事かなぁ。でも全開で走らないで、抑え気味。)
正直少し矛盾していると思えるような回答が帰ってきた。そのせいで余計に意味分からなくなっている。
「さっきはこんな感じだったんだ…。」
ただ、進展はあった。もっと無理だと思ってたゴーストをはっきりとイメージできるようになっていた。1週間で先行で走らせたり、後を追わせたりで来るようになっていた。
「お疲れ、ゴーストとの併走はどんな感じ?」
「色々と考える事が出来ますね。この時はこう仕掛けるとか、どう揺さぶるとか。」
「毎日誰かと併走って訳にもいかないからね。毎日続けてれば引き出しは増えていくからレースを有利に運べるはずだよ。」
「ただタイムを揃えるのはどうにも難しいですね。トレセンで出来る人がいればその人と走ってみたいんですけど、誰か知りませんか?」
「うーん…ちょっと探してみる。正直心当たりが少ない通り越して無いからさ。誇張抜きで私ぐらいしか…。」
流石に渋川さんと併走するわけにもいかない。10秒も全力疾走したらばたんと倒れてしまいそうだから。
「そんなに気負わなくてもいいんじゃないかな。ゴーストと走れるようになるまで1カ月以上掛かるもんだと思ってたから。続けてればいつかは出来…いや待てよ?」
渋川さんが突然黙り込んで考え事をする。少しして話しかけてくる。
「トレノちゃん、ゴーストはちゃんとはっきりと見えてるんだよね。」
「はい。前走った所だったらはっきりと。」
「よし、じゃあこの方法なんかどうかな。今から説明するね。」
「なぜ、もう再生しているんだ…。本能の僕!」
「いや、これでも結構掛かったほうだと思うけどね。ギャグマンガなら次の回には生き返ってるんだからさ。二話もかかっちまった。
さて、妹たちを追いかけるか。」
「待ってください!またハヤヒデさん達に迷惑をかけるおつもりですか!?」
「迷惑?妹追いかけて何が悪いんだ?数学の問題でも兄が弟を追いかけるものだろ?」
「一緒に出掛けろって話ですけど…今はそんなことはどうでもいいんです!アンタをここから出すわけにはいきません!
ここに閉じ込めさせていただきます!」
「俺よ、激昂するんじゃあない。まあ落ち着けよ。俺は妹に会うだけなんだからな。」
「いい加減にしてください!それが迷惑だっつてんですよ!僕のことながらイカれてますね…
仕方ない、実力行使です。くらえ、メタリ…!」
「ホワイトスネイク!」
「懐に…ガフッ…入らせ過ぎた……。」
「分離したんだからスタンドも同じだと思ったんだがな。まさか違うとは。これも作者権限ってやつか?
まあいい、このDISCは貰ってくぜ。気が向いたら返してやるよ。
さて、妹たちに会いに行くか。待ってろよ、ハヤヒデ、ブライアン。」