頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第九十四話 クリスマス

「トレノちゃんにはこれから3本走ってもらうよ。まずは普通に、でも少し余裕を持って走って。2,3本目の事は後で話すね。」

 

「…? 分かりました。」」

 

「いくよ、用意…スタート!」

 

まず普通に…少し余裕を持って。それなら90パーセントくらいで行こう。ゴーストに付いて行って最短のラインを走っていく。

 

そのまま2000メートルを走り切って渋川さんの所に戻る。

 

「戻って来たね。5分休憩したら2本目はトレノちゃんのゴーストを先行させて、そのラインからコーナー侵入で外に20センチ、手前1メートルから曲がり始め立ち上がりの位置を…3メートル手前にして走ってみてくれる?」

 

「そんなにずらすんですか?」

 

「まあやってみてよ。成果は3本目が終わった時に出るから。それじゃ用意…スタート!」

 

目の前にゴーストを出して走り出す。コーナーまでは1.5バ身後ろをピッタリと張り付く。さっきの走りはベストラインではないけどそれに近いラインをなぞっている。

 

今までもそうやってタイムを揃えようとしたのに、出来なかった。渋川さんがどうやってタイムを揃えているのか分からない。ラインもばらばらなのに…。

 

コーナーが来た。外に20センチずれてゴーストより早いタイミングで曲がり始める。もちろんゴーストとは違うところを走っているからあれに付いて行こうとすると逆にラインが乱れてしまう。

 

そもそも早くに減速しているからゴーストは離れてしまっている。多分、これを詰めるにはペースを上げないとかな。

 

「ペースは上げないで!そのまま行って!」

 

分かりましたよ…。なんでペース上げようとしたのが分かったんだろ。走り屋の勘?

 

離れたままコーナーの出口に差し掛かる。立ち上がりが3メートル手前って事は…この辺りかな。

 

立ち上がって加速していくと、さっきまで離れていたゴーストとの差が少しずつ縮まっていく。そのまま立ち上がっていくとその差はコーナーに入る前とほとんど変わらないくらいになっていた。

 

立ち上がりのポイントをずらしただけでこんなに変わるのか…いや、それよりもラインがあんなにずれていてコーナーを抜けてみるとそこまで差が無い事に驚きを隠せない。

 

「お疲れ、5分休憩で3本目に行くよ。今度は侵入を奥に2メートルくらい、立ち上がりを2メートルくらい手前にしてみて。」

 

「はい。…なんか変になりそうです。全く違うルートでゴーストとの差が変わらないんですから。はっきり見えるって言いましたけど、ゴーストの精度あまり良くないかもしれません。」

 

「…そっか。まだ時間はあるから気長に行こうよ。」

 

 

トレノちゃんはああ言ったけど、多分ゴーストの精度は私が思っている以上に正確なものなのかもしれない。

 

私の中ではタイムを揃える方が先に出来ると思ってたから、ゴーストを出す方を先に出来るとは思わなかった。でもようやく分かった。

 

トレノちゃんがゴーストに付いて行こうとしてラインを完全にコピーする。多分、自分では気付いてない、周りも気付かないくらいの無理をしてる。そのせいでGの配分がずれてそれがタイムの差になって出てきてるのかもしれない。

 

2本目はラインを少し変えるように言ったからか、前のラインに乗せる意識を無くすことが出来たのかもしれない。それが2本目のタイムに繋がった。

 

トレノちゃんは順調に走っている。ゴーストとの差は…変わらない、1.5バ身くらいか。ラインに対する意識が少しでも変わればいいと思って提案したけどここまで成果が出るとは思わなかった。

 

そんなことを考えているとトレノちゃんがゴールに差し掛かる。ゴールラインでタイマーを押してタイムを記録する。…いい感じだ。他人の物を見るとやっぱり気持ち悪いな。

 

この短期間でこれだけ出来るようになったのは驚きだけど、自然と腑に落ちてしまう。私が追いかけてたハチロクなんだから。

 

「お疲れ。これが3本走ったそれぞれのタイムだよ。驚かないでよ~。」

 

「…タイマー押すタイミング間違えたとか無いですか?なんでここまで揃ってるんですか?」

 

「間違えてないよ。全部トレノちゃんの実力。私自身、ここまでの結果が出るとは思わなかったし。ラインに対する意識が少しは変わったんじゃないかな。」

 

「変わったような…変わらないような。結構なショックなんですよね。タイムを出す走りを今までしてきたのに、ラインがばらばらでもある程度タイムが出るなんて今でも信じられないですよ。」

 

「染み着いた感覚は簡単に変えられるものじゃないから、段々と慣れていくしかないかな。でもこれなら嫌って言うくらいやってもらうから…まあ大丈夫でしょ。」

 

 

 

早朝トレーニングでもあのトレーニングをやってみている。ラインの意識が変わってからというもの、逆に乗せないように、脚を使い来るような気持ちで走る。

 

それでも今までの感覚が邪魔をして少し気を抜くとラインに乗せようとしてしまう。気長にやっていこうなんて言ってると春天に間に合うかも分からない。

 

もっと成長していかないと…。

 

「ただいまでーす…って寝てるか。二度寝しよ。」

 

「…お前、何か変なことやってるだろ。」

 

「変な事…は特にはやってないですけど。」

 

「東条トレーナーが昨日お前のタイム計ったら5本中3本は揃ってたと。リギルの中でもちょっとした騒ぎだったぜ。」

 

「まぁ、少しはやってますけどね。渋川さんも特殊とは言ってましたし。内容は…内緒です。」

 

「だろうな。お前が伸びる時は大概妙なことやってるだろうから分かる。」

 

何か心外だなぁ。その妙な事を思いつくのは渋川さんであって私じゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマース!」

 

あれから1カ月、トレーニング漬けの毎日だから今日と明日はお休みにして羽を伸ばすためにクリスマスパーティを開いてみた。

 

「随分とテンション高いな。もう飲んでんのか?」

 

「そんなことは無いけどさぁ、ダイヤちゃんもキタちゃんは兎も角、まさかロータリーちゃんも来てくれるなんて思わなかったからさ。」

 

「なーんか癇に障る言い方だなぁ。誘ってもらって予定空いてたら来るっての。」

 

「お待たせしましたー!ただいま到着でーす!」

 

「ナナちゃん久しぶりー!元気してた?あ、身長伸びた?」

 

「そうなんです、5センチも伸びたんですよ!これで私も立派な大人!トレノちゃんは何センチ伸びた?」

 

あ、ナナちゃん。それは聞いちゃいけないよ。

 

「……1センチ。」

 

「あー道理で。あんまり変わらないなって思ったけどやっぱり。」

 

「……縮んだ。」

 

「…………はい?」

 

「俺も聞いたとき何言ってんだと思ったが本当だった。まあなんだ。1センチなんてほぼ誤差みたいなもんだし気にすんなよ。」

 

「いやぁちょっと看過できませんね。でさぁナナ…。」

 

そこまで言ってトレノちゃんがナナちゃんの胸に視線を送る。男子3日合わざれば刮目してみよとは言うけど半年ともなれば結構成長するんだなぁ。色々と。

 

「なんか入れてる?」

 

「入れてないよ!?」

 

「そのぉ、渋川さん、ちょっと質問いいですか?」

 

「はいキタちゃん、どうぞ!」

 

「誘ってくれたことも、料理も用意してくれてることも凄いありがたいんですけど…なんで料理が全部中華なんですか?」

 

「クリスマスに中華はあまり聞かないよね…。」

 

「え? クリスマスって中華じゃないの?」

 

その瞬間、場が凍り付いたのを察した。え、何?私なんか間違えた?クリスマスって言ったら中華だよね?

 

「…よしお前ら、買い出しいくぞ。他はともかく、せめてチキンとケーキくらいは買ってこないとな。」

 

「待って! ケーキは、ケーキはあるから!!」

 

 

 

「だからさぁ!俺の事トレーナーって呼んでぐれる子がいないって話なんだよ!ロータリーちゃんに至ってはお前呼ばわりだし!」

 

「かなり酔っちまったぞコイツ。」

 

「結構弱いんですね…。なんでこんなに用意したんですかねお酒。」

 

渋川さんが用意してたお酒はビール12本、ワイン5本。お酒強いのかと思ったらビール3本で既にこの調子だ。なんでこんなに用意したんだろ。

 

「でも、渋川さんって料理上手なんですね。中華なのに結構癖のない味付けで飽きないですよ。」

 

「良い所に目を付けたねぇダイヤちゃん。この中華はクリスマス特別仕様だよ~。特別な行事の時はわざと薄味にしてくどくないようにしてるんだよ~。気付いたご褒美にこれをあげよう。」

 

そう言ってビールを1本渡してくる。未成年になんてもん渡してるんだこの人。

 

「ワースゴイウレシイデス。」

 

ほらおしとやかで何かしらいい対応するダイヤちゃんですら棒読みの反応になっちゃったよ。こりゃかなり酔っぱらってるなこの人。悪いけど早々に退場させた方が良いかも知れない。

 

「渋川さん、結構酔ってるみたいですし、外に出ませんか?折角晴れて星も出てますし。」

 

「やだーもっとみんなで飲んでたいよー。ほらもっとあるんだからトレノちゃんも飲んで!ほら!」

 

「…未成年ですよ?」

 

「大丈夫だよ1本くらい。…大人の階段、上って見ない?」

 

「お前ら手ぇ貸せ。こいつどっかに捨てるぞ。」

 

「「「「了解。」」」」

 

満場一致ですぐに決まった。可哀そうだけどこの人はここには置けない。とは言ってもこの寒空に放置するのは心が痛む。

 

「キタちゃん、沖野さんって呼べたりしないかな?いや、この時間に呼ぶのはちょっとな…。」

 

「よう渋川、どうしてもって言うから来てやったぞ。こんな時間に呼びつけるか普通…何この状況。」

 

「トレーナーさん、ちょうどいい所に!渋川さんがかなり酔っちゃったみたいで…」

 

「酔ってないよーほろ酔いだよーちょっとふわふわしてるけど素面だよー。」

 

それ言う人大概素面じゃないんですよ。

 

「事情は大体わかった。後は任せてくれ…おい渋川いくぞぉ。」

 

「沖野さんちょうどよかった!トレノちゃん達に大人の階段を上ってもらおうと思ってるんですけど嫌だって言うんです!なんか言ってやってください!」

 

「んーそうだなー。たづなさんが話聞いてくれると思うぞ。」

 

「…………ピィ。」

 

その言葉で素面に戻ったのか、恐ろしい勢いで顔が青くなっていく。それを尻目に沖野さんが連行していく。

 

「よし、昭和のおっさんもどうにかなった事だし、仕切り直しと行こうぜ。それじゃ、乾杯!」

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 




「どもどもハヤヒデさんブライアンさん、さっきぶりですね。」

「またアンタか…今度は何の用だ。」

「いえいえ特には無いんですけどね?顔が見たいなーと思いまして。」

「さっきさんざん見てただろうが。それじゃあな、失礼するぞ。」

「待てブライアン、その男に近づくな。…何者だ、君は。」

「何者とはご挨拶ですね。知らない中じゃないじゃあないですか。先程の事をまだ根に持ってたり?」

「良いから質問に答えたまえ。返答次第では無事で返すことは出来なくなる。」

「何を言ってるんだ、姉貴。こいつは作者なのだろう?普段通りの気色悪い奴だ。」

「キッショ。なんでわかるんだよ。」

「『本』の文字、確か君は爆散したはずだが?」

「ギャグ補正のお陰でね。それでも時間が掛かったほうなんだぜ?それにしても何で分かったんだ?

流石隠れトレラブ勢って所か?…さて妹たちよ。悲しいことに俺が兄であることを何者かに忘れさせられたんだろう?

その呪い、俺が断ち切ってやるからな。」

「そこを動くんじゃあない!質問に答えてもらうぞ。理性の作者君はどうなった?」

「アイツか?元が俺だからな。俺の考えも分かってくれると思ったんだが、止めやがるもんだから、おとなしくなってもらってるよ。DISCにはなってもらってるがな。」

そう言って懐からCDのようなものを2枚出して見せる。あれが奴が言うDISCか。

「成程、どうやらアンタは倒さねばいけないようだな。姉貴、構わんな?」

「もちろんだ。だが不用意に近づくな。15メートル、この距離感を保つんだ。」

ドヒュ

何かが飛んできた。恐らく、作者君の分身が何かを投げたのだろう。しかし奇妙だった。何もない空間から飛ばしていたように見えた。

「作者君は彼の何らかの方法でDISCにされたらしい。それが分かるまではこの距離感を…ブライアン?」

ブライアンの返事が返ってこない。まさか、さっき投げられた何かが当たったのか!?急ぎブライアンの方を見る。

「ブ、ブライアァァーーーン!!」

そこに広がっていたのは、謎のDISCを頭に差し込まれ、後ろに倒れそうになっていたブライアンだった。
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