頭文字D プリティーステージ   作:サラダ味

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第九十六話 天皇賞春

「驚いたでしょ。これがトレーニングの成果だよ。私としてはもう少しかかると思ったんだけどね。」

 

「そんな…あり得ませんわ。あれだけラインがばらばらで…ペースだって一定ではなかったんですのよ?」

 

「傍から見ればバラバラでも、リザルトで揃える。これが難しいんだよね。これをキタちゃんやダイヤちゃんが見たらどうなるかな?」

 

「普通混乱しますわ。あんなに変なものを見せられたら…まさか、それが狙いですの?」

 

「さあ、どうだろうねぇ?」

 

少し誤魔化しはしたけど私が考えた作戦の大半に気が付いている。流石と言う他ないね。

 

まぁ、それでも本質には気が付いていないっぽいから問題はないかな。気付いてたらどうしようかと思ったけど。

 

「どうだ?いいタイムだったのか?」

 

「いえ、普通ですよ。この調子なら、ダイヤちゃんにもキタちゃんにも勝てるぞってくらいです。見せられませんけどね。マックイーンちゃん、言っちゃダメだからね。」

 

「え、ええ。それは構いませんけど…。」

 

「ま、話しちゃくれないだろうな。だが、キタサンも仕上がりは負けてないからな。春天はキタサンが貰う。」

 

「あら、サトノさんを忘れていませんか?キタさんも応援していますが、サトノさんも個人的に応援していますの。この前見た時にはかなりの仕上がりでしたわ。」

 

「お前どっちの味方だよ…。」

 

 

 

 

 

「トレノちゃん、久しぶりのレースだけど緊張してない?そんな時は心の中でこう唱えるといいんだって。…右ストレートでぶっ飛ばす。」

 

「何させようとしてるんですか。」

 

天皇賞春当日、控室でシャーペンをカチカチやりながら謎な事を口走る渋川さん。多分この場で1番緊張してるのは渋川さんですよ。

 

「そう言う心構えで行こうって事だよ。…いざとなったら…いやいや、そんなことは置いといて、作戦を伝えるね。まず1週目、この前の菊花賞で掴めなかったポイントを掴む感じで今までみたいな走りをする。

 

ホームストレート抜けた1コーナーからレコードラインを攻めていく…これが1つ目。」

 

「1つ目って事は、もう1つあるんですか?」

 

「うん、正直こっちの方がキツイかもしれない。今回トレノちゃんには…。」

 

「…………分かりました、かなりきつそうですけどやってみます。」

 

 

 

『今年もやってきました、天皇賞春。桜の開花で春の訪れを感じますが、私にとっての春の訪れはやはりこのレースをおいて他に無いでしょう。

 

さて、出走メンバーを振り返りますと有馬記念でデッドヒートを繰り広げたサトノダイヤモンド、キタサンブラック。復帰戦の菊花賞では僅かの差で4着に敗れたトレノスプリンターと名を連ねています。』

 

『イエローロータリーは今回の出走を見送りましたが大阪杯で見事に1着を取りました。次走については東条トレーナーが宝塚記念とおっしゃってましたから、今から楽しみです。』

 

『ゲートイン完了しました。出走を待つのみです。』

 

心は落ち着いている。思いの外穏やかな感じがする。あのおまじないって結構効果あるんだな。言葉自体はあれだけど。

 

ファンファーレが鳴って出走が近いことを知らされる。キタちゃん、菊花賞のリベンジさせてもらうよ!

 

ガコン!

 

『スタートしました!各ウマ娘、好スタートを切りました。先頭に立ったのはキタサンブラッ…クではないトレノスプリンターだ!先頭はトレノスプリンターです!

 

その後ろにキタサンブラック、少し離れて中団外にサトノダイヤモンドです!意外な展開になってきました、トレノスプリンターが先頭です!その差が4バ身程に広がっていきます、大逃げです大逃げです!』

 

 

「逃げとはなぁ。どんな作戦なんだ?」

 

隣で見ているロータリーちゃんが聞いてくる。私はてっきり出走するもんだと思ってたけど。

 

「そうだなぁ。簡単に言うとまず1つはラインのかく乱、もう1つが…。」

 

(大逃げをしてもらいたいんだ。)

 

(逃げだったらまだしも、大逃げですか?という事は、キタちゃんより前に出るって事ですか?)

 

(そうだね。今回の作戦、まず1週目のラインを覚えてもらう事の方が重要になると思うんだ。1周目と2週目で全く違うラインを走ってたらスパートのラインだったとしても少しは混乱するはず。

 

それにトレノちゃんは大逃げで走ってるからそこも混乱させる要素になるはず。逆を言えば、一気に頭を取れないと負ける。それくらいの意気込みで言った方が良いかもね。)

 

 

「まぁ確かにな。目の前で全く違うラインを見せられたら混乱の1つもするだろうな。東条トレーナーがタイムが不可解だって言ってたが、このための準備って事か。」

 

「そう言う事。ただこの作戦、決まればかなりの効果があるんだけど、問題点が2つあるんだよ。まず1つが感覚派相手…特に上級者じゃないと効果があまりない事。

 

これに関してはあまり気にしてないけど、もう一つの方がね…。それはキタちゃんに見せることが出来ても距離が離れすぎてるダイヤちゃんには効果が薄いかも知れないこと。」

 

「トレノとダイヤの差は軽く見積もっても7バ身程度。そんなところの奴のラインなんか普通見ないわな。」

 

「だからこそ、キタちゃんかダイヤちゃんか。どっちをマークしようか考えたんだけど、先頭に立って、少しでもラインを乱した方が良いって考えたから大逃げを打ってもらった訳。先行はまだしも、逃げだったら経験あるしさ。」

 

そう言ってロータリーちゃんの方を見る。あ、そっぽ向いちゃった。あの時はどうなるかと思ったけど逃げの経験を積ませてくれてありがとね。

 

「でもよ、トレノのスタミナを考慮したとしても大逃げなんか持つのか?G1最長の3200メートルを。」

 

「不安要素その3だね。あの位置まで行ったら何かしらのイレギュラーが起こらない限り、やることは追込と変わらないと大丈夫だと思いたいけど…どうだろうね。」

 

「思った以上に欠陥してるじゃねえか。」

 

 

トレノさんがこんなに逃げるとは思わなかった。でもこの位置ならどんな走りをしてるのか手に取るように分かる。前に出られたからにはあのペースに付いて行ってチャンスを待つんだ。

 

『淀の坂を上り切って第3コーナー、隊列が安定してきました。』

 

やっぱりトレノさんは下りが速い。ただ後ろから見ることが出来た。あたしの考えていたラインとは違うけど、あのラインで行けるなら2週目に入った時に同じペースで入れるかもしれない。

 

4コーナーのラインも覚えて確実に追い抜けるタイミングを掴むんだ。ただ…何だろう、この違和感。

 

 

ラインが…違う?菊花賞の時の3コーナーと走ってる所が違う。あんなところを走ってたっけ?アレが経済コースなのかな…いや、それにしても以前のラインと違い過ぎる。

 

トレノさん、何かとんでもないことを仕掛けているのかもしれない。警戒しておかないと。

 

第3コーナーを抜けてタイトな4コーナーに入っていく。キタちゃんのあの動き、トレノさんのラインをコピーして走ろうとしている。ただそこに、見落としてる何かがあるとしたら?

 

…まただ、ラインが、全く違う。菊花賞の時とインに付くタイミングが早過ぎる。あの走り方が間違いだとは言わないけど、あれで速く走れるなら苦労しない。

 

間違いない。トレノさんのペースに乗せられると、取り返しがつかないことになりそうだ。ここはトレノさんを見ないようにする。

 

『第4コーナーを抜けてホームストレートに入ります。先頭は依然トレノスプリンター。軽快に飛ばしていきます。4バ身程後方キタサンブラックが集団を引っ張っています。その集団の外、少し中に入ったように見えますサトノダイヤモンド。平均的なペースでレースは進んでいます。』

 

 

「キタサンの様子がほんの少しだがおかしい。何かあったのか?」

 

「まさかケガ?どこか引っ掛けたとかさ。」

 

「いや、そういう感じじゃない。ペースは平均、それなのに乗せられている感覚がするんだ。キタサン自身も薄々感じてるとは思うが…。」

 

「見事に私たちの策に掛かってくれたんです。後はダイヤちゃんがどうでるか。」

 

「でもトレノの作戦はラインのかく乱なんだろ?それだけでおかしくなることなんてあるのか?ペースは平均、レースともなればそれぞれのラインで攻めていく。

 

キタサンとラインが違うだけでそこまで乱れるとは思わないんだが。」

 

「そこが落とし穴なんですよ。ラインのかく乱っていうのがトゥインクルシリーズ全体で見てもあまり浸透してないみたいな感じだったので。私があれをやられたら嫌で嫌でたまりませんから。

 

自分の中のベストラインと相手のラインが全く違かったら少しは混乱します。特に上級者、前回菊花賞を勝ったキタちゃんなんかは作戦通りに乱れるとは踏んでました。」

 

「なるほどな。流石レーシングドライバー様は考えることが違うって訳か。」

 

「止めてくださいよぉその呼び方。私はあくまで峠の走り屋なんですから。」

 

 

 




「背中への一撃だけでこれほどのダメージ…。ブライアン、やはりお前は一度戦闘不能にしなければいけないようだな。」

「ブライアン、すぐにそこを離れるんだ!奴から離れろぉおおおお!!」

「分かって…チッ!」

ブライアンが地を蹴って後ろに下がろうとするが、先ほどの攻撃が効いていたのか体勢を崩してしまう。

急いでブライアンの元へ向かわなければ、今度こそやられてしまう!しかしこの距離、奴の攻撃を警戒しすぎた。間に合わない!

「すでに射程距離に入っている!ホワイトスネイク、ブライアンをDISCにするのだ!」

「く…防御…を…ガフッ。」

そこを見逃す奴ではなかった。ブライアンも腕でガードしていたが、それも意味が無いように奴の見えない攻撃が入ってしまった。

その直後、ブライアンの頭から奴が何度も使用しているものと同じDISCが飛び出ていた。奴はそのDISCを取り出すとブライアンは力なくその場に倒れてしまう

その瞬間、形容しがたい悔しさと怒りが込み上げてきた。何故私はブライアンを守れなかったんだ。私は姉だろう。やられるなら私からのはずなのに…私ならまだしも…ブライアンを…。

「貴様ァァァァッ!」

「安心しろ。お前を妹にしたらきちっと元に戻すさ。妹としてな。」

「貴様だけは許しはしない。確実にこの場で始末するッ。」

「出来るものか。スタンドも持たないお前に。お前はすでにチェックメイトにはまっているんだよ。さぁ、お兄ちゃんを困らせないでくれ。」

「出来るか出来ないかではない!ブライアンの為に、姉として、やらなければならんのだ!」

「くどい!このDISCを入れさえすれば俺の勝ちだ!お前を妹にする!動くなよ、ハヤヒデ!」

そう言って奴は私に近づいてくる。考えるんだ、見えない敵相手にどうするべきか。

敵は360度どこからでも攻撃できると考えてもいい。ともなれば…

「フンッ!!」

「何ッ!?地面を殴ってその衝撃で全方位攻撃を…。まさかお前も出来るとはな。」

「ブライアンに比べれば程遠いさ。だが貴様相手なら十分さ。」

「十分?まだ足りんなぁ。参考までに教えてやろう。このホワイトスネイクの射程距離は20メートル。つまり、この距離からでもDISCを差し込めるという事なのだ。」

「なっ!?…くッ離れなければ!」

「もう遅い!止めだッ!」

ガシッ

奴の攻撃に意味もなく身構えていたが、その攻撃が来ることは無かった。恐る恐る奴の方を見ると、奴の後ろに…。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

ブライアンが…立っていた。

「まだ………終わってないぞ…。」

ブライアンはそのまま奴の胸ぐらをつかみ、服の中に手を入れ、すぐさま抜く。その手には、2枚のDISCが掴まれていた。そのDISCを私の方に投げ飛ばす。

「私にはもう…戦う力はない…。後は頼んだぞ……姉…貴…。」

そのままバタンと倒れてしまう。

「そのDISCは…理性の俺のDISC…!ホワイトスネイク、そのDISCを取り上げるのだ!」

ホワイトスネイクとやらが投げられたDISCを取り返そうとして私に近づいてきているのだろう。だが…

「1手…遅れたな…。」

「何…消えた…。まさ…ぐあああぁぁぁ!腕から、カミソリが!」

「作者君が、ブライアンが繋いでくれたんだ。無駄にするわけには行かない。必ずお前を始末する!」

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