うぃー・うぃる・ろっく!   作:たっくう

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転がる視界

『大変だよ!!ギターボーカルの子が逃げちゃった!』

 

「えぇ…」

そんなメッセージをうけた俺は両手のビニール袋にいっぱいのドリンクを持ちながら下北沢の商店街をえっちらおっちら歩いていた。歩くたびにビニール袋の中のドリンク同士がぶつかり合いカンカンと小煩い音を奏でており頭に響く。

 

『そりゃあ大変じゃないの。代わりの子はいないの?』

『いなくて困ってるんだよー!!つっきー代わりに出演することできない…?』

『それは難しいよ、だって今二日酔いでライブでたら確実に吐いちゃうもん。あと酒ヤケで声が出ない』

『こ…こいつ…』

 

許せ虹夏。今の俺は吐き気と戦いながら下北沢の街をクソ重い荷物持ちながら練り歩いているのだ。正直いうとキツすぎて今もう吐いちゃいそうなの頭もガンガンなってて自分の体悲鳴あげちゃってるの、この状態でライブなんか出たら地獄絵図ができること間違いなしなの。

なーんで俺は昨日あの酒カスベーシストと飲んじゃったんでしょうかね?一緒に飲みに行った時点でこうなることはわかっていたのに。

 

《もう飲まないのー?え?明日大事なバンドの初ライブがある?いやー昔のつっきーだったら明日自分のライブがあろうがここからもう5、6時間は飲めたんだけどなあ。やっぱり年をとって弱くなりましたなあ、あーあ逃げちゃうんだぁ?私と酒から逃げちゃうんだぁ?》

《は?別に弱くなってないが?逃げてないが???逃げてない証拠にここにある酒全部飲み干せって?できらぁ!!!》

《よーし!かっこいいぞー全部飲み干すまで帰さないからなー?》

 

昨日の最後に覚えている出来事が自分の脳裏に蘇る。これ以降の記憶は曖昧で、気づいたら駅のホームに続く階段で寒さを耐えしのぐ子犬のように体を丸めながら寝ていたのだ。駅員さんびっくりである。頭によぎるはあのキャミワンピースにスカジャンを羽織った赤色のサイドテールの女性。

おのれ酒カスベーシストめ先輩といえど許さん…絶対に許さんぞ…

幸いにも何も盗られておらずそのまま自分の体を奮い立たせながら家に帰り身支度を整えた後、仕事場である「STARRY」に足を運んだ。到着するやいなや店長に「酒くせえ」だの言われ、震える子鹿のようにぷるぷると立ちながらフロアの掃除をしていたら「これ買ってきてくれ」とお使いを頼まれ、店長は俺にもうちょっと優しくすべきだと思うのと訴えの眼差しを向けると「ウゼぇ」とバッサリと切られ、半泣きの状態で買い物を済ませ帰り着いているのが今の俺の状況だ。

追い打ちをかけるように下北沢エンジェル伊地知虹夏からギターボーカルのお誘いロインがきたが、今の俺は何もできないただのアラサー男なんだよなぁ。

 

「あっゲロを吐くことならできるか…へへっ…」

 

誰に対して放ったわけでもないロックな自虐が下北沢の空に消えていく。

それにしてもギターボーカル失踪ならライブしないのかな、虹夏のバンド楽しみだったんだけどなぁー

 

『そしたら新しくギターできる人を見つけてくる!ギターを背負ってる高校生を見つけてくればできるはず!』

 

いやそれは無理やろ、そんな希少種いませんて

無茶なことを成し遂げようとする虹夏に苦笑いしながら「STARRY」の階段に差し掛かったその時、「STARRY」のドアが勢いよく開かれ金髪のサイドテールの女子高生、虹夏が現れる。

 

「あっ、つっきー!」

「え」

「ごめん私いかなきゃ!」

「え」

「後でまた!」

「え、え」

 

そう言いながら虹夏は階段を駆け上がっていった。

えまじで言ってんのこの人。

 

「なんちゅう行動力や…あ、ただいまですー」

「おそい」

「ひどい」

 

帰ってきて早々に「STARRY」店長である伊地知星歌からダメだしをくらう。

やだ泣きそう。

 

「でもですね星歌さん」

「店長な」

「星k「店長な」…はい店長」

 

やっぱ怖えやこの人。

 

「さっき虹夏がギタリストを探して来るっていって出て行ったんですが、時間は大丈夫なんです?」

「時間はまだ少し余裕があるが…いきなり何も言わずに突然ライブハウス出ていったもんだから少しな…いややっぱ怒ってるわ私」

「ヒェ」

 

グッバイ虹夏、フォーエバー虹夏。心の中で念仏唱えとこ…。

 

(ナンマンダブ…ナンマンダブ…)

 

「ところで五月、帰ってきて早々に悪いんだがな」

 

ゾクリと悪寒が走る。嫌な予感がする。

 

「さっき渡したリストの中に頼み忘れたものがあってな…買ってきてくれないか?」

「えまじで言ってんのこの人。」(えまじで言ってんのこの人。)

「心の声聞こえてるぞ」

「やべっ」

 

油断していましたなあ。

でも帰ってきたばかりだしちょっとくらい休憩をしたい。

 

「ちょっとぐらい休憩させてくださいよー」

「却下だ、時間はあまりないからな」

「さっき余裕あるって言ったじゃん!余裕あるって言ったじゃん!!」

「それはそれこれはこれだ」

「クソぁ!」

 

畜生行ってきてやるよ!!

行ってくるが…出口を求めてぐるぐるしている俺の腹の中のものをどうにかしないとな。限界なんですよこちとら。

 

「せめて一回体をリフレッシュしてきていいですか?」

「はぁ~…あっちだぞ」

 

呆れながら男子トイレを指差す。さすが星歌さんよくわかってらっしゃる。

 

 

 

 

少しスッキリしたがやはり気持ち悪いものは治らず、頭痛も続いている。

 

「胃袋を体の外に出して丸洗いしちゃいたい…頭痛がする脳みそ頭の中から出しちゃいたい…」

「なんか危ないこと言ってる人がいる」

 

声のする方を見るとそこには青い髪の女性が立っていた。

山田リョウそれがこいつの名前である。一見すると無口でミステリアスな雰囲気を纏わせた美少女ベーシストだが、その中身は全く違う。

 

「リョウお前は虹夏とギタリスト探しにいかなくていいのか?」

「別に大丈夫。いざとなれば私が分身してすべての楽器を引いてみせる」

「忍者かな?」

 

分身の術会得してるとかこの子怖い。どこで修行積んできたの?木ノ葉○れの里?

 

「それよりツッキーこれからまた買い出しに行くんでしょ?」

「不本意ながらそうだが、まさか手伝ってくれるのか?」

「いや、空腹だからなにか食べるもの買ってきて」

「そうだと思ったよチクショウ」

「最近草しか食べてなくて…」

「また散財したんですかねこのお嬢さんは、一体いつになったら自分のお財布と相談できるようになるんですかねまったく」

「へへへ」

「今褒めてる要素どこにあった?」

 

リョウの実際中身は天然、アホの子、万年金欠野郎、あれミステリアス要素どこ行った?

 

「たのむよぉぉぉぉひもじくてしかたないんだぁぁぁ」

「ダァーー!!離れろこんちくしょう!腰にまとわりついてくるんじゃない!」

「このままだとライブもできないぃぃぃ」

「わかった!わかった!買ってきてやるから!」

「じゃあこの『地中海マシマシスパイスマシゴッゴッカレー』を買ってきてほしい。セボンイレブンに売ってる。」

「おまえ…ほんま…」

 

急に冷静になるなよ、びっくりしちゃうじゃん。

そう言って俺に商品が写ったスマホの画面を見せてくる。

こいつ最初から俺に奢ってもらう気満々じゃねえか。

 

「待ってるよ」

 

そう言ってリョウは踵を返して楽屋の方へと向かっていった。

 

「やっぱベーシストって変人しかいないのかな(偏見)」

 

俺の天敵はベーシストかもしれない。

一人ごちりながらもう一度下北沢の街へと旅立った。

 

 

 

 

『速報!ギタリスト見つかる!』

「まじかよ」

 

店を出て数分後ロインで虹夏から信じられないようなメッセージを受け取った

 

『ちょっと待って人選ミスったかもしれない』

「どゆこと」

 

そのまた数分後に送られてきたメッセージで俺は困惑した。

 




ベーシストに変態はいませぇん!
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