ダンボールだ…いくら目をこすってもあれはダンボールだ…あ、いやちょっと動いた本当に中に人がいるのか。
ライブハウスの壇上にダンボールが鎮座している場面を凝視していると,ドラムの虹夏が場を仕切りだした。
「はじめましてー!結束バンドでーす!今日はみんなも知っている曲を何曲かやるので聞いてください!」
あ、もうこのまま始めちゃうんだ。壇上を見ていると恨めしそうなリョウと目があった。すまんな始まったからには仕方ねえ、終わったあとでカレー届けてやるからなとアイコンタクトを送る。伝わったかどうかはわからない。
ドリンクカウンターに向かい店長である星歌さんにお使いのものを渡す。
「お疲れ様です。こちら注文の品になります。」
「おそい」
「ひどい」
少しはねぎらってくれてもいいんやで?
「ところであれなんですか?人?」
「いやわからん…」
「でも店長ずっとライブハウスに居たならギタリストの顔とか見てないんですか?」
「いやちょうど私が席を外したタイミングで虹夏が帰ってきてな、楽屋に行って文句の一つでもたれてやろうと思ったんだが虹夏達がギタリストの子をライブに出させようと説得しててな。」
「結果声がかけづらかったと、肝心のギタリストの顔は?」
「いやゴミ箱に入っててわからなかった」
「イジメか?」
うそやん…まだ結成して日が浅いのにもうそんなことがおきてるんか。
しかも連れてきたばっかりの子にそんな仕打ちするとかこのバンド狂ってるよ。
「いや、イジメとかではなくそのギタリストの子極度の人見知りらしいんだよな」
「ゴミ箱の中に入るほどですか」
「みたいだな」
狂ってるよ(恐怖)
だからダンボールの中に入ってライブに出ているのか…そこまで人見知り極めると逆にこっちが心配するんだが。
「っと」
それから結束バンドの曲が始まった。セトリは最近流行りのものや、昔ヒットした曲等の曲をカバーしたものだ。
うーむそれにしても
「まだまだ荒削りだねー」
自分の世界に入っており周りと合わないベーシスト。緊張しているからか力んでおり音の強弱がチグハグでミスが目立つドラマー。そして何より問題なのが
「やっぱりギターの子かなあ」
メロディーの要なのに周りを引っ張っていけずむしろ先行しすぎているギター。
飛び入りで参加したにも関わらず提示された曲を弾く事ができるってことは初心者ではない。でも周りとの調和ができないってことはおそらくソロのギタリストなんだろう。
だがそれでもバンドを組めばある程度は周りに多少なりとも合わせることができることもある。それはなぜか?演奏中メンバーと目線を合わせ対話…協調することができるからだ。しかしギタリストは箱に閉じこもっており目で対話することができない…いうなれば完全に一人の世界に入っている。だから他のメンバーより先行してしまう事態になっている。
「ひどいもんだな」
「店長そんな事言わないでくださいよ」
「観客を見てみろよ、演奏がおかしいことに気づいてる」
確かに観客は演奏がチグハグなことに気づいている。会場の熱気がいまいち温まらない。
「まぁ初めてのステージなんてこんなものじゃないですか?俺にもそういう思い出ありますし」
「ふん…どーだかな」
「いやホントにありますって」
俺だって昔はこんなもんだったんだぞ!一応苦労はしたんだ!
「五月のバンドがそういう事になったとかにわかには信じられねーな」
「最初からトップの座をつかめる演奏ができるわけないじゃないですか。そんなんできるのはごく一部の化け物だけですよ。」
「今私を化け物だって言ったか??」
「言ってねーし!話きけや!」
この人のこういう勘違いで何度恐ろしい目にあったことか…悪い部分だけしか聞こえないのかこの人は。
「虹夏達にはこの経験をバネに伸びてほしいけどね」
「…またこのレベルだったら出せねーよ」
「今回は…店長の贔屓でださせてもらったと?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取りますよー?」
「…今回は虹夏の思い出作りのためだ」
そう言うと星歌さんはふいっと目をそらした。
この人は昔からこうだ、なにかやましいことがあったりすると目を見て話さなくなってしまう。
「でも次出場するならそれ相応のレベルがあればいいんですよねー?」
「さーな、考えてやるよ」
「フフっ…」
「何笑ってんだよ」
「いや、星歌さんはほんとに不器用な人だなあって」
「…ここでは店長と呼べ…」
そう言うと星歌さんは顔を完全にそっぽ向けた。でもわかってしまう…耳が赤くなっているんだもの。頭隠して尻隠さずとはこのことか。こういうとこも昔から変わらないんだよなあこの人は。ある意味で子供っぽいというかなんというか…
「今私がガキっぽいとか言ったか?」
「言ってねーし!!!思考盗聴やめろや!!」
「思ったんだな?」
「あっ」
どうやらマヌケは見つかったようだな。
「痛てて」
何もあんなに顔真っ赤にして肩パンしなくてもいいじゃん。しかもいいとこに入るし、今後機材の搬入とかできなくなっても知りませんよホントに。
など頭の中で愚痴りながら楽屋を目指す。目的は結束バンドに今日のねぎらいの言葉とリョウにカレーを渡すためだ。ドアの前まで来たためノックする。相手がいくら知った人といえど相手は少女、いきなり入ったら嫌なもんだろう。少しして「ハーイどーぞー」と返答が来たため入る。
「みんなお疲れ様―!今日はどうだった?たのし…め…?」
今の俺の眼前には上半身ダンボール下半身からピンクのジャージがはみでており時々「ァ…」とか言葉を発しながらもそもそ動く物体Aが存在した。
「ば..ばば…化け物!?」
「つっきー違うよ!?」
塩…塩もってこなきゃ…!!