「あっ」
「お」
機材点検のため「STARRY」に向けて下北沢の街を闊歩していた五月の前によく見知った2人が現れた。制服姿の伊地知虹夏と山田リョウである。
「もう学校は終わりか?」
「そうだよー、今から『STARRY』に行ってボッチちゃんを含めたバンドミーティングするんだ!つっきーはどうしたの?」
「あー俺もこれからそこに行って機材点検するんだよね」
「偶然だね」
「じゃあつっきーも一緒に行こうよ!」
「おうす」
そう言って偶然出会った虹夏、リョウ、五月は共に目的の場所へと歩を進めた。
「STARRY」へ向かう途中三人は学校であった出来事や、リョウが虹夏の弁当をしょっちゅうつまみ食いする事、昨日のライブ後に誰も反省会兼歓迎会をしなかったため虹夏がイジケた事など取止めのない会話をしながら進んでいた。
「それでこの前虹夏が拗ねちゃったからご機嫌取るために大変だったんだよね。結果的に巻き込まれて俺と虹夏の反省会兼ご機嫌取る会になってさ、このバンドには結束力がないーって不安というより寂しそうにしてたんだよ」
「虹夏って意外と寂しがりだよね」
「その話はしなくていいじゃん!!後リョウ!私そこまで寂しがりじゃないし!」
「え?またまたご冗談を(笑)」
「ムキー!」
リョウのいじりに虹夏は赤面しドラムスティックを持ってリョウを追いかけ回した。両者はまるで漫画のように足がぐるぐる回って追いかけっこをしており、五月はその様子を見ながら「転ばないように気をつけろよ」と声を掛ける。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「はぁー……はぁー……」
「いやそんなに疲れるようなことかな!?」
「ツッキー……本来、私たちは運動をしない人間だから体力なくてちょっと走っただけで息が上がるんだよ……」
「それで大丈夫なのか十代……」
これからライブしていくならそれ相応の体力が必要なんだけどなあと五月は思いながら膝に手をついて息を整える二人を見る。
「ほらもう着いたから一休みしな……ん?」
「STARRY」に到着した一行は階段を下った入口の所でウロウロしているピンクジャージの上に制服を着たギターを背負っている少女を見つけた。
この挙動不審な行動を取っている少女こそ昨日のライブに完熟マンゴーのダンボールを身に纏いヘルプでギターを行った通称ボッチちゃんである。正式に結束バンドのメンバーとなりこれからバンドミーティングをするために来てくれたのだが入口の前でウロウロしており一向に中に入る気配がない。
「何してるんだろう……?」
「彼女の考える事はさっぱりわからんな……声かけてみるか?」
「待って」
虹夏と五月が声をかけようとしたところリョウがそれを止める。
「もうちょっと見てたい」
「……何かわかる、もうちょっと泳がせておくか」
「鑑賞するのやめたげて……」
リョウの提案はボッチちゃんの挙動不審の行動が面白いからもう少し鑑賞することであり五月もそれに賛同した。
鑑賞していると件の少女がこちらに気づき助かったというような表情を浮かべ、リョウは少し残念そうな表情をしていた。
「はいオレンジジュース、ボッチちゃんもどうぞ」
「あっあっ……ありがとう、ございます」
「はいどういたしまして」
「STARRY」に入った結束バンド一同は机を囲むように席に付き、五月は三人にオレンジジュースを配った。
「じゃあ俺は機材点検してるから三人は気にしなくていいよ」
「うん、つっきーありがとう!じゃあこれから第一回結束バンドメンバーミーティングを開催しまーす!拍手!」
パチパチパチーと虹夏が拍手するのに合わせてリョウが控えめに、五月も遠目で見ながら軽く拍手をする。
「それじゃあえっと……思えば全然仲良くないから何話せばいいか分かんないや」
((身も蓋もない!))
ボッチちゃんと五月は心のなかでツッコんだ。
「そんなときのために……こんなものを」
「いいね~!」
(何か昼にあってたトークバラエティ番組に出てきそうなサイコロでてきた!というか普段持ち歩いているのか!?)
リョウが取り出したものは某トークバラエティ、ライ○ンのごきげんようで使用していたようなサイコロでありそれぞれ一面ずつトークテーマが書いてある物であった。
(なんかヤバそうなものも混ざってるけど……)
ボッチちゃんがトークテーマの面を見て戦慄していると虹夏がサイコロを降り出した。
「何っがでるかな?何っがでるかな?」
「でででんでででんでん」
リョウが懐かしのリズムを口で刻んでるとサイコロがある面で止まった。そのトークテーマは
「学校の話―!略してガコバナ~!」
「はいどうぞ」
「ガコバナ~」
「えぇ~……」
五月は場外から茶々をいれ、ボッチちゃんは唐突な無茶振りについていけなかった。
「えぇっと……あ、そういえば2人とも同じ学校……?」
「そう!下高~」
「二人とも家が近いから選んだ」
「あぁ下北沢にお住まいで……」
「あれ?ボッチちゃん秀華高でしょ?家ここらへんじゃないの?」
「あ、いえ県外で片道2時間です……」
(遠いなあ!)
「え!?なんで?」
「高校は誰も自分の過去を知らない所に行きたくて………」
(楽しい話をするはずなのに……何か急に暗い話になっちゃってる……)
そう言ってボッチちゃんは陰のオーラを撒き散らし始めた。
これはまずいと思ったのか虹夏がこの話にストップをかける。
「はいガコバナ終了!!」
「ちょっとここの空気重くない?」
「そういえばつっきーも秀華高だったんだよね?」
「えっそうなんですか?」
そう言ってボッチちゃんは五月を見た。
「ん、まあ7~8年前に卒業したんだけどね、10年前に下北沢に引っ越してきて入った高校なんだよ」
「な、なるほど」
ボッチちゃんは五月から目を逸らし自分の事を話し始めた。
「す、すいません……高校でも基本一人なもので、その……楽しい浮かれた話一つも提供できなくて……」
悲しいことを言いながらボッチちゃんはどんどんと目線が下がっていった。
「大丈夫大丈夫、リョウもその……友達居ないし!」
(そのアシストはどうかと思うけどな!)
「うん、私も友達は虹夏……と一応ツッキー」
「一応って何だよ」
「え……」
虹夏があたふたしながらナチュラルにリョウに友達がいないことをボッチちゃんに話すと、ボッチちゃんは少し明るくなった目でリョウを見つめた。
(多分あれ同胞を見つけたときの目だな)
「リョウはねー……休みの日に廃墟に探索したり、古着屋さん周ったり」
リョウの休日の過ごし方を聞いていると段々とボッチちゃんの目がまた暗くなっていった。
(気づいてしまったかボッチちゃん……リョウはボッチではなく一人が好きだという人種に!)
そう好んで一人でいる者と周りに馴染めずにボッチになった者には大きな差がある!
一人を好む者は基本的に服屋やカラオケ、焼肉屋、果ては遊園地まで一人で行くことができる強靭なメンタルを持っている人種!
対してボッチはコミュ障がゆえにそうなってしまったものであり上記のような鋼のメンタルを持ち合わせていないのである!
(危うくトラップに引っかかるところだった……)
「ボッチちゃん会話を楽しもうよ」
「とりあえず次のサイコロを振ったらどうよ」
あまり干渉をするつもりはなかったが五月はこの空気感に耐えられずにサイコロを振った。次に決まったトークテーマは
「音楽の話―!略してオトバナ~」
「オトバナ~」
「オ、オトバナ~」
ボッチちゃんも先程とは違いこのノリに付いてこれるようになった。
「私はね~メロコアとかジャパニーズパンクが好きかな!」
最初に虹夏が話を切り出す。
「私はテクノ歌謡やサウジアラビアのヒットチャートを少々……」
「嘘つくんじゃありません」
リョウが後に続くが明らかに聞いたことないようなジャンルを挙げた。
「ほんとだもん」
「いやこの前はR&Bとかブルースがキテるって言ってたじゃん」
「時代は移り変わるんだよツッキー」
「移り変わり早いなおい」
そう言うとリョウはドヤ顔で五月を見る。
話に入りづらくなったボッチちゃんに虹夏が助け舟をだした。
「ボッチちゃんは?何聞くの?」
「あっ、えっと青春コンプレックスを刺激しない曲ならなんでも……」
「青春コンプレックス……?」
「あー……夏とか海、淡い恋を描いた大衆が好むようなキラキラモノだな」
「そ、そうですそうです!」
賛同を示すかのようにボッチちゃんはブンブンと首を上下に振った。首を振りすぎてメタルバンドのようになっているが
「まあ気持ちはわからんでもないな、ああいうの聞くと背中がムズムズする。」
「──え……!」
ボッチちゃんの意見に同意を示すと再度ボッチちゃんはキラキラとした目で五月を見た。
「嫌いではないけど」
「んなっ!?」
そして再度同類を失ったボッチちゃんは瞳から急速に輝きを失い机に突っ伏した。
「……夏の思い出、手を繋いで……」
「ギィィィぃィィィィィィィィィィィィィッィィ!?!?!?」
五月が面白がってボッチちゃんに思いついた青春コンプレックスを刺激するフレーズを歌うと、悪霊が成仏するときのような叫びを上げながら痙攣し始めた。
「こら!つっきー!ボッチちゃんで遊ばない!なんか成仏しそうになってるよ!!」
「あいてっ」
ボッチちゃんをからかっていると虹夏が五月の頭を小突いた。
「ごめんなボッチちゃん」(この子からかうの面白いな)
「いいんですよ……私には……青春ソングを聞いて鬱々した気分を吹き飛ばす青春の鬱憤を叩きつける歌詞が大好物で……でもそんな歌詞を歌ってた好きなバンドが成功して……遠い存在に思っちゃったりして……そして有名になるにつれて好きだった歌詞から遠ざかるように青春ソングになっちゃって……そうなるともう目も当てられない……私は辛い耐えられない……」
「ボッチちゃんが一人の世界に入っちゃった!」
「ロックとは 負け犬が歌うから ロックなんだよなあ」
「詩人みたい」
(ちょっとわかる)
「ボッチちゃん早く帰ってきて!皆結束してよ~!」
「結束バンドだけに」
虹夏の思いは虚空へと消え、残ったのはリョウの上手い返しだけであった。
あれからボッチちゃんは復活し、新しい話をするためにサイコロを振り「ライブの話」をすることになった。
「初ライブはインストだったけど次はボーカル入れたいんだぁ」
「あ、そうなんですか」
「ホントは逃げたギターの子が歌うはずだったんだけど……あの子どこ行ったんだろう?」
五月は片耳に入れながら「STARRY」に1,2回ほど来ていた赤い髪の子を思い浮かべる。
(逃げるような子じゃなさそうだったんだけどなぁ)
ボーカルまた探さなきゃ、と虹夏はため息交じりに言う。
「私は歌下手だし……ボッチちゃんは……!」
虹夏はどう?と言わんばかりにボッチちゃんを見るが、当の本人は深い溜息をついて目線を下げる。
「あっはは~……だよね~」
「あ、あのリョウさんは?」
「フロントマンまでしたら私のワンマンになってバンドを潰してしまう……」
「その湧き出る自信はなに?」
嘘泣きをしながら自信満々に言うリョウに虹夏は冷たい視線を浴びせる。
「あーあ、どこかにいいボーカルいないかなぁ!」
と言いながら虹夏はちらちらと五月を見る。
「あっこんなところにいるではないですか~?」
「ありがとうツッキー」
「いやいやいや……やらんぞ俺は」
「なんでぇ~?」
「あのねえ、歳が十も離れた女子高生バンドに一人おじさんが紛れるのはおかしなことじゃないですか」
「そうだねウケる」
「だまらっしゃい!」
リョウはその光景を思い浮かべたのか口元に手をやりバカにした笑いをする。
「あ、あのつっきー……さんはもともとバンドをやっていたのですか?」
「うん!つっきーはもともとバンドマンでギターボーカルをやってたらしいんだ」
「正直かなり、いやめちゃくちゃ上手かった……らしい」
「まあ2人の前でやった事はないからねぇ」
三人の視線が五月へと集まる。
「俺のバンドが日常的にライブしてたのは昔のことだしね」
「解散しちゃったの?」
「いや解散はしてないけど……うーんなんだろうな超不定期にやるようになったというか……まあいろいろ事情があるんだよ」
「お姉ちゃんが言うには間違いなくプロに行ける。ここら一帯のバンドより頭一つ、二つ抜けていたっていう話なんだけどなあ」
「星歌さんがそう言ってたの……なんか照れるな」
「へ、へぇ~……」
「……いや俺の話じゃなく結束バンドの話しなよ」
「そうだった!」
そう言って虹夏は話を結束バンドのこれからへと戻した。
「ボーカル見つけたら曲も作ろうよ!リョウは作曲ができるし歌詞に禁句が多いならボッチちゃんが書けばいいよ~」
「わ、私!?」
(小、中9年間休み時間を図書室で過ごし続けていたのはこのための布石……!?)
(ボッチちゃんが歌詞を書いたら青春に鬱憤をもった逆張りな歌詞にならないか?)
五月はボッチちゃんという人間を少しずつ理解し始めていた。
「虹夏は何するの?」
「……えいっ、次はノルマの話~」
「堂々と流された」
(逃げたな)
虹夏は何も考えてないのか、はたまた自分に仕事を振られたくないの定かではないが次の話へと流すためにサイコロを振った。
「あ、あの……ノルマというのは?」
「昨日出たのはブッキングライブって言うんだけど……」
ブッキングライブとはライブをするために借りたライブハウスから集客保証としてチケットを規定の枚数分売ることを課せられる。これをノルマと呼び、規定数を超えた場合には超過分の料金をライブハウス側と分け合う事ができる。しかし、規定数売れなかった場合には残ったノルマ分を自腹で払わけなければいけない。
長い説明だが簡単に行ってしまうと──
「つまり売れるまでめちゃくちゃお金かかる」
(ざっくりまとめた!)
リョウが言うようにバンドが売れるまでノルマとは戦わなければいけないということだ
「昨日のライブは私の友達が結構来てくれたからチケット捌けたんだけど……」
(道理で昨日女子高生が多いと思ったわけだ)
「あの出来じゃ2回目は来ない」
「だよね~……」
これから結束バンドはノルマを達成しなければいけないことに頭を抱える。
「リョウは友達居ないから当てにできないし……ボッチちゃんは……うん!ごめん!死んだ魚の目止めて?」
(イマジナリーフレンドならたくさんいるのにな)
(おかしい、ボッチちゃんの周りにギターやマイクの妖精が見える……え?幻覚か?)
「というわけで当分ライブのために数万円必要だから、ノルマ代、機材代諸々稼ぐためにバイトしよう!」
「はい……──バイトぉ!!?」
「うわびっくりした!」
いきなり今日一の大声がでたボッチちゃんに対し三人は体をのけぞらせ驚かせた。
(絶対に嫌だ……!働きたくない、怖い……!!社会が怖い……!!!)
何を思ったのかボッチちゃんはいきなりカバンの中からブタの貯金箱を机の上に置き深々と頭を下げた。
「……お母さんが私の結婚式のため費用に貯めてくれてて……これでどうかバイトだけは……!!」
「いや重すぎるって!!!受け取れないって!!」
「あたし達を鬼にする気!?」
「ありがとう大事に使わせてもらう」
「「ダメダメダメ!いただくな!」」
ボッチちゃんの行動に驚愕する虹夏と五月を尻目にリョウは躊躇なく貯金箱に手を伸ばそうとしたため二人は全力で阻止する。
「あー、バイトならここで働いてみたらどう?人手はいくらあってもいいし、虹夏とリョウも働いてるし、知っている人がいるほうが多少気が楽でしょって……ボッチちゃん聞いてる?」
「ボッチちゃーん?」
「あ、あ、ごめんなさい何の話なんでしょう……?」
「うん聞いてなかったね」
五月の提案は一人の世界に入っていたボッチちゃんには届いていなかった。
「ボッチもここでバイトする」
「ここで……えっ!?」
「あたしもリョウもつっきーもいるから怖くないよ」
「アットホームで和気藹々とした職場です」
「常に笑顔が耐えないホワイトな職場です」
「なんだろう、一気に怪しい職場に聞こえちゃう」
「あ、あ、のえっと……」
「ドリンクスタッフとか掃除とかもちゃんと教えるし……ねっどうかな?」
(どうしよう……働きたくない、働きたくない……!)
しかしボッチちゃんは虹夏やリョウ、五月の視線を受けて──
「がんばりましゅ……」
──ボッチちゃんは負けた、陰キャでコミュ症には断る勇気を持ち合わせていなかったのである。
「ほんと!ありがとう!」
「これでバイト場も賑やかになるな」
(私は……弱いっ!)
それから虹夏は自分がバンドの経費を管理することを伝えた。リョウは金遣いが荒く、バンドの経費に手を着けそうな危うさがあるからだ。残念でもなく当然である。
「──じゃあ近いうちにまたライブできるように頑張ろう!そして高校生でメジャーデビュー!」
(青春だなあ)
五月は虹夏が掲げた目標にかつての自分を重ねて懐かしい気分に落ちいった。
自分にもああいう時代があったなあと思いながらうんうんと頷いていると──ふとある事が気になった。
「そういえばボッチちゃんって本名なんていうの?」
「あれ?つっきーは知らなかったけ?」
「だって最初に聞いた呼び名がボッチちゃんだったし」
五月はここまでボッチちゃんとしか呼んでこなかった、本名を聞いていなかったのである。
これから共にバイトする仲間である以上あだ名ではなくちゃんとした名前を聞いておきたいと思ったのだ。
「あ、あの私の名前は……後藤ひとり……といいます」
「なるほど~後藤ひとり……後藤ひとりね……──後藤ひとり!!???」
「ヒィ!?すすす、すいません!」
つい大声をだしてしまった五月にひとりは驚いてしまい体をのけぞり、反射的に机の下に隠れた。
そんなひとりをみながら五月は「あ~道理で……」「えーいや……マジで……?」などブツブツ呟いている。
「つっきー!ボッチちゃん驚かせちゃ駄目でしょ!」
「ボッチ机の下に隠れちゃった」
「──あ、あぁごめんねボッチちゃん……いや、ひとりちゃん」
五月は膝を曲げて机の下に隠れたひとりに話しかける。
「俺は──音鳴五月、これからよろしくねひとりちゃん」
「ああ、あ、はい……」
五月は自分の自己紹介をしながら手をひとりに差し出し、ひとりはその手を恐る恐ると掴んだ。
「じゃあボッチちゃんバイト来週からね~学校終わったらウチに直行で!」
「ボッチばいばい」
あの後ひとりを机ぼ下から引きずり出し、片道2時間ということもあり早めに帰るように五月は促した。
「──で、何でつっきーはボッチちゃんの名前聞いて驚いてたの?」
「なにやらただならぬ過去がありそう」
「いや……まぁ今度話すよ」
バンドミーティングに途中から参加しちゃったから機材点検全然終わってないし、と言いながら五月は話そうとせずにドリンクコーナーへと向かった。
「えー?なになに?なんかあるのー?」
「やはり因縁の過去が……」
「そんなもんないから、ほらお前らも暗くなってるし早く帰った帰った」
「あたしここの上のマンションに住んでるんだけど……」
「……帰った帰った」
「ちょっと押さないでよ!」
「これは楽」
「少しは自分の力で歩いてくれない?」
五月は虹夏とリョウを無理やりライブハウスの外へと追い出し、残っている仕事を前に深くため息を付いた。
青春を刺激する曲もそれに相反する曲も好き(雑食)