通り雨があったのだろうか、しっとりと濡れたアスファルトに寿命を迎えたネオンサインが切れ切れの光を投げかけていた。
米連西海岸有数の港を有する国際都市サンフランシスコ。膨大な貨物取扱量を誇る、その港湾部にしてはまるで人払いでもしたかのようにやけに静かな夜だった。常ならば常夜の荷捌きに賑わうはずなのだが。
何本か西に行けば片側2車線の人通りも多いストリートがあるが、人目を避けるように伸びた裏通りには人影が無い。あるのはネオンから漏れる電気ノイズ、ドブネズミのか細い鳴き声、それくらいのものだ。そのはずだった。
右足のヒールが折れたせいでバランスを崩しつつ、女が建物の間からまろび出る。赤いチューブトップの上着は両肩を出し、同色のスカートはかろうじて下着が隠せる短さ。歓楽街の街角で客の気を引く娼婦じみた、実に扇情的な格好をした女だが、雨に濡れたその紫の髪を振り乱し、肩で息をしていた姿には艶やかさはなく必死さだけがあった。
もたれかかったフェンスも雨に濡れ、彼女のむき出しの肩に冷たさを伝える。温暖な地中海性の気候とはいえ、11月の深夜、さらには海沿いという立地だ。風は冷たく、彼女の吐く息はすでに白い。
女は浅くなった呼吸を激しく繰り返すが、息が荒いのは何も疲労からだけではなかった。理由は分かっている。
いらだちをこめ、半端に残った左足のヒールも折り取って放り捨てた。これで少しは走りやすくなった、と思い面を上げると、そこは両脇を高い工場施設に挟まれた長い一本道だった。
「……っ、誘い込まれたっ!?」
思わず呻きが漏れるのを防ぐことはできなかった。
女とて、この街に住んで3年は経っており、人の出入りの激しいこの地では古参といって差し支えない。仕事柄、このあたりの地図は当然のように把握していた。
また、持って生まれた恵体により、たかだか数キロの距離を人並外れたその脚力で走ったとてこんなにも息が上がることはない。
彼女の心中から軽い疲労を除けば、残るのは極度の緊張しかなかった。息が上がっている原因はそれに尽きた。
命の危機だ。その脅威が今、まさに金属音とともに建物の角から現れようとしている。
ゴリゴリ、とアスファルトをたたく金属音。ネオンのノイズ以上に音と光を発する放電音。運の無いことに、燃え盛るバーナー音まで聞こえてくる。その足音は非常に重い。人間と同じペースだが、大地に与えるその重さは軽い地響きさえ伴っているように感ぜられた。
いやらしいことにその音はゆっくりと、しかし着実に近づいていると分かるよう演出していた。それがわかっていても彼女自身、焦りを堪えることはできないのだが。
「ああ、もう!なんで私なんかにここまで!?」
嗚咽じみた悲鳴に対し、脅威が応えた。当然、その応えが彼女の足を止めることまで計算に入れて、である。
「あー?そりゃオメェ、『未来視』なんつー便利なモンを持ってるからだろうがよ」
ガラの悪い女の声だ。ゴリゴリ、と何かを引き摺る音もついてくる。
一瞬、逃げるのを忘れてまで声の方向を振り返った女。
女の視線の先、さきほど通り過ぎた缶詰工場のレンガ壁の角から分厚いブーツが見えた。ブーツが地面をたたく度、ごとりと古びたアスファルトが震える。
続いて姿を見せたのは海兵と野球選手を足して二で割ったような女だった。白いマント、いかめしい戦闘スーツ、青く光る両腕のバングル、白人種にしても白すぎる死人のような白い肌、対照的に黒いタンクトップ。極めつけは暴力性を理性でもって制御していることをありありと伝える紫色の三白眼。
「"メイジャー"…!」
最悪だ、と女は呟く。だらりと下げていた巨大な金属バットを軽々と右肩に担いだメイジャーは右眉を器用に上げた。
「お?アタシのコードネーム知ってんのか?アタシも有名になったってことかぁ?」
女は我知らず"メイジャー"から距離を取ろうと右足を下げた。否、下げようとしたが果たせなかった。
「どーせそのケッタイな能力でのぞき見したんやろ?別に不思議やないわ」
だが、その背後から、いつの間に回り込んだのか、機械音声<マシンボイス>でも分かる、こってこてのテキサス訛りが現れた。女の足が止まる。
「いつの間に!?…ヒェッ、"ヘスティア"!?」
どうやっていたのか、声を掛けられる瞬間までその両手から噴き出す火炎の音も熱量も女には知覚できていなかった。つまり殺そうと思えばいつでも殺せた。
キーの高い機械音声<マシンボイス>だったが、ヘスティアも女がそう理解したことを把握したようだ。機械の体を覆う装甲を兼ねた疑似皮膚であってもわかるその豊かな胸を三又のフォークのような腕で持ち上げ…いや、腕を組んだ。その状態でも指先のような部分からは火炎が出ており自身にも火が巻いているが、本人は耐火性が高いのかまったく気にするそぶりはない。
「表に出る機会の多いメイジャーだけやのうて、ウチの名前まで知ってるんね。少将もこの案件は怪しい情報源だとは言うとったけど、意外に信ぴょう性が出てきたのかもしれへん。」
「だなー。どこぞのNINJA組織みたくアタシらは二つ名とか名乗ってねーし、テメェのその知識、やっぱ魔族特有の能力由来か?」
女は思わずその角の生えた頭を抱えそうになった。メイジャーだけなら、厳しいが目が無いわけでもなかった。勝てる目ではなく、逃げる目であったが。
しかしその目論見もヘスティアが現れたことで潰されてしまった。メイジャーは見ての通り鈍足重撃型のアタッカーであり、隠している翼を出せばなんとかなっただろう。だが、聞くところによるとヘスティアは"飛べる"。この赤いサイボーグ装甲をまとった女は、最前線の兵士を直接指揮する指揮官モデルだ。両腕の火炎放射の反作用による若干の航空性能と、冷静な指揮能力には定評がある。
「な、なんで私なんかに特務機関Gのサイボーグソルジャーが二人も出てくるのよぉ…」
前後をバリバリの戦闘型サイボーグに挟まれ、女はもはや涙目である。
「いやいや、ジブンは見た目からして夢魔っぽいけど、そんな卑下したものやないわ。予知能力なんてレアリティウルトラやねんから。むしろジブンほどの能力者がどうして場末の娼館なんかで客相手に占いなんてしみったれたことやっとるんよ。そのほうがよっぽどおかしいわ!」
「アタシなら競馬でバカスカ当てまくるけどな。」
「いや、メイジャー、そんなしょーもないことに予知能力使わんとってや!未来がわかるんなら、せめて成長確実な株とかに投資せぇ。これからは高齢社会になってくるんやから、介護医療業は先行投資の価値ありやでぇ。そうすりゃこっちは儲かる、爺さん婆さんたちも新薬やら介護用品のニューモデル発売で安泰や!Win-Winの関係っちゅーやつやな!」
二人のサイボーグ兵士の話の内容はバカバカしいものである。が、あいにくと女にはプロの兵士の隙をつけるような経験も実力もない。自分は夢魔族としての標準的な能力と、取った客にエッチな夢を見させる程度の幻惑能力しかないのだから。
逃げるしかない!と女は意を決し、隠していた翼を出そうとする。ヘスティアには追われるかもしれないが、地上で二人を相手にするよりはマシなはず。
そう思ったが、
「おおっとぉ!?逃げんじゃねーよ、このクソ魔族がよォ!」
「逃がすと思うたか?そうは問屋が卸さへんよ!」
翼を顕現させるため、一瞬だけ意識を集中したのが裏目に出たのか、瞬きの間に二人は女の両脇を固めていた。女の想像を上回る圧倒的な高速移動。鈍足というのは、同じ土俵に立っている者だけが相対的に評すもの。非戦闘員の女はその土俵にはいなかったという、ただそれだけのことである。
「このボケが!この電撃バット、下の口に突っ込んで中から焼かれたく無けりゃ、下手なことしないほうが身のためだぜ!?」
「ならこっちはアナルやな。アナルからナノマシン突っ込んで腹ん中ホルモン焼きにしたるぞっ!?」
「ひぇぇ…しませんしません!何もしません!後生ですから命だけは!命だけは助けてくださいぃぃいい!!」
痛みを想像させる脅迫に女はあっさり屈した。涙と涎をこぼし、股間から黄色い小便まで漏らしている。淫魔族と並び賞される夢魔の美貌も台無しであるが、両脇のサイボーグ女たちはそんな女の醜態を気にするそぶりもなかった。ないどころか、物騒な算段まで立てている始末である。
「ふん、雑魚のくせに逃げようとすっからだ。念のため膝砕いとくか?」メイジャーが言うと、右腕のバングルが青く発光し、伝導ケーブルを伝ってバットが放電を始める。耳元で始まる激しい放電音に女はもう真っ青である。
「せやな、そうしたほうが運びやすいかもしれん。うちは右足と翼焼いとくさかい、メイジャーあんたは左足潰しとき」ヘスティアはヘスティアでその両腕の火炎をさらに激しくさせ、女をこんがり焼こうとしている。女の顔色は真っ青を通り越して漂白された。
「そ、そんなぁ…!?足壊されたらアタシお客も取れなくなっちゃいますぅぅぅ!翼も先祖代々の自慢の一品なのにぃ!うちの一族は翼の美しさで評判なんです!おとなしくついていきますから、痛いことしないでぇ!」
「ジブンさっき『命だけは』って言うとったやんけ。注文多すぎちゃう?」
女はもう必死である。必死で命乞いをしつつ、メイジャーになりふり構わずすがりつく。呆れた物言いのヘスティアに縋りつかないのは単に熱いからである。自分から焼身自殺したくはなかった。飛びついた拍子に足元の水たまりから泥水が跳ね、女とメイジャーにかかるが女はそれどころではない。
「あ、おいテメェ!小便まみれでアタシにくっつくんじゃねぇよ!汚ねェだろうが!!」思わず、だったのだろう。メイジャーが夢魔の女の腹を蹴り飛ばした。
「ぎゃん!?」ゴッ、と鈍い音とともに女が真横に吹き飛ぶ。
戦闘用サイボーグの蹴りはその一撃で自動車を一台叩き潰せる威力を持つ。並の人間が胴に蹴りを受けようものなら、原型をとどめず上半身と下半身が真っ二つになるほどだ。魔族の反応速度を上回る速度の蹴撃を受けた女は通りの反対側にある煉瓦造りの壁にたたきつけられ、その勢いのまま壁を突き破って粉塵の向こうへと消えていった。
魔族の強靭な肉体は千切れこそしないものの、たいした戦闘経験もない女を意識不明に陥らせた。砕けた煉瓦の山に埋もれたまま女が這い出てくることはなかった。
「やべ、ヤッちまったか?」メイジャーはとっさに出てしまった蹴りの構えを解きつつ、様子をうかが這い
「いや、熱源探知に反応あり。生きとるよ。夢魔とはいえ、さすがは魔族やねぇ。人間とはダンチの耐久力や。」ヘスティアがそのスリット状の視覚センサを切り替え、夢魔の女が瓦礫に埋もれてはいるものの生きていることを確認する。
「オーケーオーケー。んしょっと、あ、ここに右腕が飛び出てらぁ。よいせ!」
瓦礫の山から飛び出した女の腕をつかんで思い切り上に持ち上げるメイジャー。サイボーグの強大な膂力をいかんなく発揮し、あっさりと女は引っ張り出された。
「う、うぅ……」ぶらぶらと揺れる女は気を失っている。蹴りを受けた腹部は赤くなっているが、致命的な損傷は無かった。さすがのメイジャーもこれには呆れた。
「魔族ってのはマジで頑丈だぜ。ま、レアスキルホルダーを確保ってのもこれで任務完了だなァ。夢魔族チョロいぜ!」
任務達成を喜ぶメイジャーはそのまま揺れる女を担いだ。いわゆる俵担ぎである。だらりと伸びている女の尖った耳から何かが落ちた。
カツンと硬質な音を立て転がったそれをヘスティアは何気なく見やった。きらりと金属光沢のあるそれ。
「ん、ピアスかいな?…いや、それにしてはなんやこれ、ノイズが…?」
ターゲットの女が身に着けていたそのピアスと思しき金属物だが、なぜか電磁波を発していた。
ヘスティアはそのサイボーグ化した知覚により、周囲の電磁波を検知することができる。それは主に自分の雇用主や部隊員との無線通信に用いているもので、携帯電話を脳内に内蔵しているようなものだ。
その知覚がピアスに反応した。
「いや、これはピアスやない…。通信機?」
「ん、ヘスティアどうした?」女を肩に乗せたまま建物から出ようとしたメイジャーがヘスティアの様子に気づき、声をかける。
ヘスティアはそんなメイジャーにマルチタスクで返事しつつ、すでに電子戦の気構えを取っていた。瞬時にそのピアス型の通信機を解析しつつ周囲の電波発信源を探査。脳内に3D化されたマップが形成され、各種電波の発信源が起点となって示されるが数は多くなかった。せいぜいが5~8か所程度。深夜の工場地帯であることもあり、付近の電子通信は非常に少なく、アクティブな発信端末はほとんどない。せいぜいが工場内の短距離無線通信ネットワーク、つまりWi-Fiルータ程度だ。このピアスの通信相手ではない。
ピアスサイズであるが故、搭載しているバッテリー容量やアンテナの出力など高が知れているとヘスティアは推測する。
「メイジャー、ちとまずいかもしれへん。」「何だと?」
ピアスの発する通信周波数は400MHz帯。古式ゆかしい無線通信規格である。もはや骨董品だが、それゆえ電波の飛距離も長くない。せいぜいが半径400m圏内。ヘスティアは瞬時に作戦概要と周辺地理を視界内に呼び出す。
同時にアナログだが火炎放射器の中指にあたる部分を分離させ、人間の五指を模したマニピュレータで手信号を送る。メイジャーに視界共有するよう示し、メイジャーはすぐに実行した。互いの視界が通り音声を介さない手信号は、使いようによっては高い防諜性と速度を有する。
メイジャーはヘスティアの視界とリンクし、ヘスティアが何を調べているかを確認した。
「こいつのピアスが通信を?400MHz…ふつーに通信じゃねぇか!?」
「せや、こっちの作戦開始前に実行した妨害はさすがにこの程度の低強度無線を考慮に入れてへん。」
「ッたりめーだ!こっちは軍なんだぜ!?そんな骨董品考慮に入れっかよ!」
作戦開始前に一帯の無線通信を当然のように妨害はしているが、ここまで古い規格はさすがに対応していなかった。乱数を混ぜて暗号化しても、そもそもの情報密度が低く、ゆえに暗号強度も稼げず機密性に劣るためである。現在主流の通信デバイスにしてもこのような低速のものは使っておらずゆえに漏れていた。
「ちっ、こんな民生品のガラクタじみた通信を行うとは盲点やったわ…!」
ヘスティアは自身の通信周波数を400MHz帯に合わせた。ピアスが若干の暗号化を行ってはいるようだが、規格としては台湾事変前後に中華連合が用いていたものであり、種は割れている。ヘスティアは即座に復号を行い、傍受した。
耳障りなノイズがあるが、即座にフィルタリング。女の耳たぶの振動を計算し人間の耳に近い聞こえを表現する。この程度は半ば本能的にチューニングしており、ヘスティアもいちいち意識しながらやっているわけではないが。
『おい、聞こえているか…?おい、エマ?』
若い男の声だ。少しハスキー気味だが、耳障りの良い声質。エマ、というのはこの夢魔のことだろうか。
『エマ、相手は…むっ…』
少なくとも"G"のオペレーターのむさい男のものとは天地である。そんな感想を抱きつつも、ヘスティアはサンプリングした声を即座に声紋分析にかける。局のデータベースに該当する人物がいないか走査するためだ。
同時に主観的にも分析を行う。張りの具合から、推定20台前半。だが、線の細い男性の場合、20代後半かもしれないな、などとヘスティアは考える。英語の質はネイティブに近い。だが、「R」の発音にやや東ヨーロッパ系の訛りがあり。後天的に学習したとすれば実に流暢な米連英語であった。
分析結果に現在のところ該当者はなし。特務機関"G"は米連中央情報局<CIA>の一部でもあり、そのデータベースはまさに米連の誇る量だが、そこに該当しないということは少なくとも前科などで法執行機関の対象となった過去は無い。
東欧系のイントネーションが残っているところと、中華連合の暗号符丁から中華連合人民軍もしくは旧露系マフィアか?と推測を立てていく。
ここサンフランシスコではロシア系組織は『人民義勇軍』、中華連合だと『金龍社會』だが、そのどちらもが現在は消極な小競り合いにとどめており、ちんけなシノギで食っていたはず。仮にも国家組織を敵に回す気概も能力も人員すらも有しておらず可能性は低いと判断。
アカン、絞り込めんなぁ、とヘスティアが内心ごちていると、ピアス越しの男に反応があった。
『エマが応答なし。この通信を聞いているのはGの部隊か?』
傍受がバレていること自体は別に驚くことではなかった。低強度暗号であるがゆえに傍受されることも織り込み済みということだろう。一定時間応答なし、などのトリガーで対応を変えるマニュアルを取っているに違いない。ヘスティアは情報収集に切り替えた。もう少し女の音声サンプルがあれば女の声で合成することもできたのだが…。
「せやで~。女の会話を盗み聞きなんてえらい趣味悪いやん。あんさんは何者やの?」「おい、ヘスティア!?」
応答したヘスティアにメイジャーが目をむくが、なるべく視界の通らないからの陰で周辺探索を行うよう手信号で指示した。メイジャーはやや直情径行で猪武者で障害物はぶっ飛ばして埒を開ける主義であるものの、戦闘員としての実力は確たるものがある。女を抱えたまま、即座に指示を実行し、自身の発する放電現象を利用した探査波を周辺に飛ばし始めた。ヘスティアほどの精度はなくとも、彼女の積んだ知覚系ならば敵人員の有無程度は判別できるはずである。
『G<そちら>の活動が気に入らない者と思ってくれればいいさ。』
「すまん、心当たりが多すぎてさっぱり絞り込めんわ…」男の返答には一瞬の間があった。続く男の言葉には隠しきれない笑いの気配があった。
『…あんた、おもしろい女だな。まさか敵の人員の自虐ネタ聞くとは思ってもみなかった。Gってのは存外愉快な組織なのか?』
「いややわ、そんな芸人集団みたいに言わんといてや。まっとうな公務員組織やで、うちらは。」
『ダースベイダーみたいな恰好<ナリ>してるから、当たらずとも遠からずと思うが…』
「失礼やな、あんさん。うちのはあれや、ペプとシマンのリスペクトやで。」 なるほど、ヘスティア<こっち>の姿は見えていると。両側は背の高い工場で視界は通らない。となると、南北方向の400m以内、もしくははるか上<衛星>か?
『色合いしか共通項ないだろうに。』
「十分やない? そないなこと言うたら、隣のメイジャーなんてDCヒーローとマーベルヒーローの合いの子みたいなもんやで?」
「テメェコラ、ヘスティアァ!いきなり同僚のこと馬鹿にしてんじゃねぇぞォ!?」
とまぁ掛け合いつつ、別回線でHQに連絡。北側350mの位置にあるガントリークレーン群に余剰部隊を向かわせる。
『おおっと。なるほど、あんたはそうやって情報を集めるタイプか。北側のガントリークレーンにいるかもね、確かに。南側と合わせて確率は二分の一。』
「へぇ、うちらの動きが見えてるってことなんやね?でもそんなに悠長に構えててええの?うちの部隊、強襲力は指折りやで?」
『構わない。もともとアンタらを釣り出すのが目的だった。そこで伸びてるエマは現地で雇用したバイトだし、そちらが入手したであろう予知能力なんて無い。アンタらが今この瞬間にそこにいる。この状況を作れただけで十分さ。』
「あー、やっぱりかぁ…。」
『驚かないんだな、エマが偽物の予知能力者だと知っても。』
「そらなぁ…。土台怪しすぎるやろ。魔界の9貴族ですら予知能力なんて持っとらんのやで?なのにこんな夢魔の小娘が持つってこと自体、眉唾やろ。」
『そうだよな。でもその見え透いた釣り針に食いついた。なんでだ?』
「それうちに言わせる?まぁ威力偵察みたいなもんやな。あんさんらの情報源やら正確性、あとは実行力を見るため、って言うとくわ。」
『こちらとしてもあわよくば、そこのエマ程度の安い餌であんたたちを処理できればラッキーくらいなんだけどね。』
ヘスティアに表情筋はないが、あれば確実に額に青筋が浮かんでいただろう。もとより、そんなに気の長い方ではないのだ。
「安い餌とかよー言うてくれるやんけ阿保が。あんさん、名前は?」
『『M』とでも名乗っておくよ』
「ふん、スパイ映画の見過ぎや。うちはヘスティア。覚えときや。今度会うときは骨髄までしっかり火を通したるさかいになァ!」
『はは、楽しみだと言っておくよ。あんたとの会話は楽しいけど、そろそろ時間だ。良い一日を。』「ヘスティア!避けろォ!」
男の気やすい言葉と、メイジャーの絶叫じみた警告は同時だった。
音は無かった。その弾は音の壁など、とっくに置き去りにしていたからだ。
「ちぃぃぃっっっっ!!!???」
ヘスティアは瞬間的に左手の火炎放射器を全力噴射させ横っ飛びに飛んだ。すんでのところで対物ライフルのものと思われる弾丸を回避する。だが、南側から飛来する弾丸は一発ではない。連射されることを予測していたヘスティアは、一発目を回避すると同時に周囲にナノマシンを散布し、熱量を制御。分厚い高熱のシールドを形成し、次弾以降を防ぐ盾とする。その瞬間になってようやく一発目の発砲音が届いた。
地面に穿たれた弾丸の入射角と発砲音の到達時間から見て、南側の鋳物工場の煙突。その先端部に狙撃手が潜んでいると確定した。高温の断層盾を円柱状に形成し、一方向から飛来する弾丸をすべて蒸発させる。
メイジャーも用のなくなったエマを適当にほっぽりだして自慢のバットで弾丸を打ち返している。え?弾丸を打ち返している?え?
「メイジャー、ジブンそれ対物ライフルの弾丸打ち返してんの?」
「ああン!?」金属音「たりめーだろが!」金属音「飛ばしてくるんだったら、のしつけて返してやらぁ!」金属音。テスラコイルのように空中放電をまき散らす金属の棒による制空というよくわからない光景であった。
さすがは近距離白兵戦特化型だ。同じサイボーグでも特殊型な自分にはあんな脳筋な対処はできない。全身のモーターがすぐに焼けてしまうだろう。
「あ、煙突が」
殺到する対物ライフルの弾丸を、メイジャーがその金属バットで逆ベクトルに打ち返していたため、見る間に狙撃手の潜んでいたであろう煙突はぼろぼろになり、ついには崩壊した。せいぜいがコンクリートと鉄筋で出来た構造物だ。対物ライフル弾の雨には無力である。
「ふん、チョロいぜ!」
あれだけの運動を行ったにも関わらず、メイジャーにとっては軽い運動程度のようだ。涼しい顔でその額に手のひらをかざし、崩れていく煙突を見て笑っている。脳筋強しである。
「あー、まぁええ。とりあえず何人か死体確認に向かわすわ。たぶん死体は出んと思うが。そこの指示はやっとくさかい、メイジャーあんたは先にHQ戻っとき。」
現場監督じみた無線連絡を飛ばしつつ、なんだかどっと疲れたヘスティアは早く帰ろうと思った。帰って、グレープフルーツ味の補充液とタンクベッドでゆっくり休もうと心に決めた。
「オーケーだ。あとは今回の話持ってきた山師、吊っとくわ。」
メイジャーはメイジャーで楽しそうに笑っている。事実、楽しいのだろう。ちょっとそういうところが彼女にはあった。メイジャーがやらずとも機関の対処部門がやるだろうが、やる気に水を差すこともあるまい。好きにやればいい、と思う。
「せやね、しっかり落とし前つけたり。頼んだわ。」
「おーよぉ。じゃあ、お先ィ!」
ヘスティアは、メイジャーが放り投げたエマの姿を探したが、脱げ落ちた右足のヒールが片方転がっているだけだった。
フン、と鼻を鳴らす。
「ホンマ好かんやっちゃで!」
ヒロインどころかオリ主すら出てこない小説があるってマ?
ヘスティア:対魔忍RPG/ストーリーモード/Chapter.10 にて登場。
メイジャー:対魔忍PRG/イベント/対魔忍のバレンタインは厳しい にて登場。メイジャーのボイスが聞きたい対魔忍諸氏はアクション対魔忍でサポーターとして入手すれば聞ける。
布教です。
楽しんでいただけたら嬉しみ。