異種族(強)とニンゲン(弱)と学園もの。 作:naoki810
さて、人生五十年と詠んだのは古来の歌舞を生業とする人物であったか。儚い人の命の時間を慈しみ惜しむ。諦めの境地とも満足往生の歌とも読める。されとて、現代はヒトの命は様々な技術の発展により長いと百年は過ごせる様な世の中となっている。古の祖先たちは是を喜ぶのか羨むのか。いや、喜んでいるであろう。
7つまで神の子、いつ召されるか分からない脆弱な存在であった赤子も出生後の死亡率は格段に下がっており。何らかの疾患やハンディがあっても健康に過ごすことができるのだから。
人生五十年、ここまで健康に育ちいくらかの地位も得た。研究に没頭し研究に必要な最低限の人間関係しか築かなかった。最低限の中で酒を嗜み、風俗街での歓談もした。飲み仲間や友人はいくらかできたがそれも少人数。しかし、今は年の代わりに年賀状や時節の便りが来る程度と疎遠になってしまった。身を締める寂しさを紛らわすようにまた研究に没頭するが、年波による体の衰えは正直なもの。
積み重ねが重要な研究であったが刺激はなく、反復行動。研究の先達方はいったいどの様に体や思考を維持し動かしているのか甚だ疑問である。退屈な繰り返しの日々、学生の若者と話そうとするが話題はなし。話題を収集しようとネットを徘徊するも情報の濁流に目がやられ捗らず、レポートの添削と可不可の判を押す作業。なんと無為な日々であろうか。
しかし、特大の刺激が突然訪ねてきた先達から投げつけられた。
「さて、鬼は知っているね?」
ここは大学の私室。部屋とテーブルを飾り気も素っ気もないと評価した先達。テーブルを挟み座している、私より二廻りも年の離れた老爺(大失礼)は質問してきた。
「穏鬼ノ島にある保護特区にいる人種でしたね、力が強く頑丈。個体数は少ないとか」
「そうだね、人種とはしているが人に類するものかも怪しい連中だ。化外の者ともいうね」
「先輩、その言い方は危ないですよ」
政界に根を張り、国を守る立場にあるとしても危険なポジショントークに額より汗が流れる。愛国心の発露だと思いたいがあまりにも言い方に険がありすぎる。
古来より特区保護下で共存してきた種、今更に排斥へ動くのか……?
「ははは、昨今ポリコネがどうだかとうるさいからな。忠告に感謝しよう」
老いを感じさせない張りのある笑い声が感謝でなく嘲笑と取れるのは無視しよう。しかしなぜ鬼種の話を?
こちらの疑問を目で感じ取ったのか老人は話を進める。
「君は今、お上から少子化問題に関連する研究を行っていると聞いたのでな」
「はい、省からの要請で行っています」
文字と数字を集め、結果を算出し、予測を立て国への奉仕とする学問は人生五十年邁進してきた道であった。然しそれが何故、鬼種と関わってくるのか。分からない。
特区は特区で別の官が収集を行っている。
「では、狐神の話は知っているかな?」
「各地で祭られている稲鳴神の信仰対象で?稀に現界し祝福を蒔くようですね」
「おおっ、良く知っているね関心、関心」
フィールドワークという名の旅行は今も欠かしてはいない。古刹巡りや名物・風土・信仰等より生活の方向を見知ることは
身が満たされる感覚を覚える。今後も独り身でありフットワークは鈍らないだろう。
しかし話が飛ぶ、もしや認知力の低下が……?
「おおっ、ボケてはおらんよ。まだまだ若いもんには負けんさ」
「ははぁ、見習いたいものです。しかし、話が見えてきません」
その老身から溢れる気力は見習いたいものである。
「直実で急ぎすぎるのは治ってはいないようだね。老人は労わるものだぞ?」
「労わる必要性が取れないほどのご活躍は聞いておりますよ」
「ふむ、何を聞いているかはしらんが。まぁいいだろう。では本題だ」
さっさと聞き流してお帰りいただこう。金とそれ群がる権でもって堰を作り国政を操っていると黒い噂が絶えない老人なのだ。
何を頼まれるか、小さな学び舎の巣で何かがあってはたまらない。
「鬼や狐、神と言われるものが人と同じように生き増えると聞いたら。
君は何を思う?」
「……国成り話の講義をせよとのことですか?」
古い話絵巻きでは秋津州における人種は天神の子、天孫の係累であるとされていた。そして、天の神の手によって秋津州から排すのを見逃され留まること許されたのが特区にいる種、各地の地方神であると。
しかしおとぎ話であるとされている。特区の人種は州外より流れてきた他国の人種であり、地方神は人の前に姿を現さずして久しく信仰の存在。
「ははっ、お伽話の講義だったらもっと適任はいるさ」
「そうでしょうね、ではなぜ私にこの話を?」
「天上よりお話が来てねぇ、適任を探していたのさ」
顔の笑みを深めた老獪は懐から純白の紙を出し、机に置いた。
「これは……?」
「勅旨だよ」
「は?」
余りの想定外に思考が固まる。天上?勅旨?お話?なぜ、一般人の目前に現れることのないものがここに?
「中身はこう書いてある。神が少子化に悩んでいるので国を挙げて協力し共存共栄を目指しましょうってね」
老人が音を立て書紙を開いていく、惑いはなく敬いもない。開いた中に達筆が、紙の末には大社と捧将の印が朱く存在していた。
「神は種族であるようだ、其れも沢山いるそうだよ。いやー驚きだ、人のように少子化に悩んでることも含めてね」
からからと笑いながら老人は続けた。
「研究者や研究機関の人員を募っているようなんだ、その人員の収集にこの老骨が乗り出したってわけだ」
「なぜ私に?生物学や生類学は収めてはいませんが?」
そう、なぜ私なのだ。
「なに、簡単だよ。今後設立開放される研究機関に属する人員に対して神から要望があったんだ」
「要望とは?」
この身に、合う条件とはいったい……?
「独身であること、だそうだ」
「は?!」
「神の言い方からすると番のないヒト種というのが条件だそうだよ」
独り身である者が集められる、研究機関の設立、研究員では無く施設に属する人員、神の差配、……。なるほど。
「なるほど……、人体実験ですか」
「ハハハハハ!おおっと、神に対して不敬ではないかね!?
もっと奥ゆかしく、そう!贄だよ贄!お上は化外の者と技術を交換したらしい」
少子化解決への差配で独り身が集められるか。
「出向期間は三年、専門分野に進むならもっと長くなるとのことだ。化外の技術も馬鹿にしたものではない、汚染を出さない熱源。距離を歪ませる術と他様々な技術があるらしい。国の発展にとても役に立ちそうではないかね?」
「………」
歌うように酔ったふうに老爺は続ける。勅書から目が離せない。至上の方より下った決定事項であり。この身に跳ね返す術はない。
「いや丁度良く君がいて助かった。直実で真面目!研究に挺身したその身を役立てることが、今の研究よりよほど国の糧、いや礎になる」
無為に生きていた自模りはなく、夢中で邁進した身に起きた事態に憤りを感じる。糧、礎と聞こえはいい。俯き自問自答にまとまらない頭が肩を掴まれ強引に起こされる。
「ほんと良かった。研究員枠は、うちの派閥からもう出せなくてねぇ。ここの学長も丁度、昵懇であったのだよ」
胡桃のように皴が寄った笑顔がより笑みを深くする。
「君の出向中は安心したまえ、出向中は学生等こちらで手厚く保護しよう。安心して向うで励みたまえよ」
笑みを湛えたまま、老人は席を立つ。
「追って勅令が届くだろう、めったな手段に出ないことだ。ではな」
老人の言葉が横を通り、応接室の扉が閉まる音にかき消された。
自死も封じられ最終の拒否手段がなくなった。未来ある若人の道までこの身と共に閉じさせるわけにはいかない。違う環境が欲しい、刺激が欲しいと我儘を天に強請ったのは自分ではないか。
意識を切り替えよう、出向先で贄とされ身を辱められようが耐えている間は生徒の行き先は安全なのだ。早速に研究のローテやゼミ・授業の引継ぎを行おう。
引き裂かれ、この身を辱められようとも、決して屈指はしない!
--閑話--
おじさんのくっころとか誰徳よ
--休題--
「くっ、殺せっ!」
意を決し出向(入学)したら早速、この仕打ち恥辱に耐えられない!
こんな姿形を晒すことになるなら、さっさと殺してくれ!
「いや大げさすぎない?鬚ダンディ?」
「いやー、流石にこれはきついっす」
辱めに被せる様にこちらを見ていた青年?少年?の年頃のヒトの子、二人から言葉を浴びせられる。
「いやこれは是でいいものですよ?あっスマホで撮っていいですか?ほら皆で」
隣の列に並んでいるヒトの女性よりも声がかかる。
絶対こんな姿を写真に収められたくはない。
「おっ、いいですねぇ!」
「やめて!」
「ご無体、ご無体でございまするぞ!」
うきうきとした顔でこっちへ寄ってくる少年を筋肉質の少年が制止。あわや入学式で尊厳破壊されるとは。
「でもこの用意してあった体操着、めっっっちゃ動きやすいぞ。ほら見ろよ見ろよ」
確かI字バランスと言ったか、少年は見せつける様に足を持ち上げている。
デスクワークで凝りに凝った私では絶対にできないポーズだろう。
「無駄に多芸ですよね」
「体柔らかくないとできない所作とかあるからね、しょうがないね」
「エッッッ!!1枚良い?」
「撮りたきゃ撮らせてやるよぉ!ホラホラ」
いつからここは男性被写体の写真教室になったのだろうか。いつの間にかヒト種の女性だけでなく。周りには他種族で壁ができていた。
うーむ、種が違うとは言えやはり大きいな。ヒト種とは比べ物にならない。
「わ、私もいいですか?」
「僕もいい?」
「表情こっちお願いしまーす!」
洋風の給仕服を着た種族が取り出した写真機のような機械はいったい……?学生の頃みたSF機器のようだ。三脚も取り出し本格的に設営を開始している。単眼種であろう種族も目を見開いている。なんか血走ってないか?
被写体の少年は様々にポーズを変えている。
「あーもう、めちゃくちゃだよ」
この身を救ってくれた少年が、私の横で諦念の声を上げ状況を傍観している。いかん、周りの異種族が襲い掛からんばかりである。
この身を挺してでも守らなくては。
「全員!気を付けぇ!」
渾身の大声をあげる。被写体の少年の周りで少年の股下からえぐり込む様に写真機を構えていた蛇種のカメラウーマンが、三脚でフラッシュを絶え間なく焚いていた狐種のカメ娘が、被写体の少年が、スマホを涎を垂らしそうな勢いで覗いていた女性が、周囲の異種族が、直立の姿勢をとった。あっ、粘液種の方がモノリスの様になってしまっている。
視線が集まり一瞬上がったざわめきが収まる。さらに注目を集める様、右の指を立て口元へ運ぶ。
「はい、皆さんが静かになるまで30秒かかりました。これから身体測定ですので規律よく並びましょう」
そう、今は身体測定。やることがありここにきているのだ。断じて写真撮影会ではない。
其処此処にいた異種族全員が散り散りになり、元の列へ戻っていく。
「申し訳ありません、教員の方は誘導をお願いします」
「あっはーい!こちらでーす!」
地を這うようにカメラを構えていた蛇種の女性が誘導を開始する。って、教員ですか?あなた?ちょっと?
ま、まぁいいです。時間は有効に使わなくては、どんなことが起ころうとも。私は屈しはしない!
測定器であろう方向に案内され歩みを開始する。
「か、かっこいいタル~。どっかの三男とはえらい違いだぁ」
「はぁ~少年もいいけど、厳しめダンディもヨシ!」
私は教員であった、自身は若人のため礎でも糧でもなんにでもなってやろう。
箱が目の前に迫る、圧迫感はないミラー製だろうか?不思議が光沢がある。
「はい、こちらに入ってくださーい」
「よろしくお願いします。」
銀の箱の中に言われるがまま足を入れる、南無三!
「流石だぜ、半そで短パン白ハイソックススニーカー白髪オールバック鬚ダンディ(初老)」
「クッ、殺せ!」
共学製のニンゲン専用装備が”一律”に用意されていました。流石にリーゼントまでは作れませんでした。
タグも練習しなきゃなぁ