双子の妹にTS転生した邪悪概念   作:アライ

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幼少期数話やってから本編に入ります


双子

 世の中には一卵性双生児という言葉が有る。

 

 同じゲノムDNA配列を持つ赤ちゃん達の事であり、いわゆるお互いそっくりの双子ちゃんの事を表している。それはまさに生命の輪廻における遺伝というものを体現した様な存在であり、指紋みたいな後天的に生成される特徴以外はほぼ丸っ切り一緒のままに産まれてくる。

 

 もちろん双子という存在において一卵性では無い場合も有るが、まず世間一般で双子と聞けば、一番にそっくりさんを脳内に浮かべる人が多いだろう。恋愛ものからミステリーまで、お互い似た者同士の双子は大活躍すると相場が決まっているのだ。創作等では、やはりそういった題材がよく用いられる以上、印象も残りやすい。

 双子の入れ替わりというものは、それはもう使いふるされたネタに違いないだろう。

 

 

 さて、ここで一つの疑問が浮かんでくる。

 もし入れ替わった双子の存在を当事者以外見抜ける者が居なかったとしたら、果たしてどうなってしまうのだろうか。

 

「パパ、ママ。私はどっち?」

「えっとだな……」

「そうねぇ……」

 

 目の前で繰り広げられるは、クイズ番組でキャスト達が最終問題を前にした時かの様な緊張感。

 そんな雰囲気を主に発しているのは、幼女である。歳は五歳。一度笑えば、老若男女構わず誰もがつられて笑顔になってしまいそうな──そんなどうしようもない愛おしさを内包している可愛い幼女だ。

 

 しかし、その表情はムッとしていた。

 

愛梨(あいり)、かな」

「愛梨ちゃん、だよね?」

 

 その要因や、とてもシンプルなものである。

 

 

「うわああああん! 酷いよ、また間違えられた!」

「ああっ、嘘?! 優愛(ゆあ)ちゃんだったの?!」

「ご、ごめんな。パパ、ちょっと疲れが溜まってるみたいで……」

 

 親としての威厳を守る為に、運命の50:50(フィフティー・フィフティー)に臨んだ両親。

 しかし、結果は惨憺たるものだった。これで四連敗である。

 

 記録は最大で五連敗までいってるので、ここまで来れば最多を更新するのも夢では無い。

 

「つ、次はちゃんと当てるから、な?」

「もう一回だけ、チャンスを……ね?」

「そう言って、また間違えるんだあ! うわああん……!」

 

 こういった時はどうすればいいのか、今しがた名前を間違えられた双子の()()()()である私には、未だにパターンが構築化されていない。

 とはいえ子供的にはどれが正解なのか、全く見当が付かないわけではないが。

 

「ゆー姉、元気だして? パパとママが私達を見分けられないのはいつもの事だから」

「ぐぁっ」

「ウッ」

「愛梨はそれでいいの?! 自分のなまえを、ちゃんと呼んでくれないの……私はとってもかなしいのに……!?」

「それは……もちろん、わ、わたしだってぇ……」

 

 とりあえずここは一緒になって泣いておこう。

 そう決めた、五歳の夏である。

 

「うぅ、ぐすっ……」

「うわああああああああん!」

「ゆ、優愛……! お、落ち着いて……」

「愛梨ちゃん……」

 

 このところだいぶ手慣れてきた泣き真似をもって、双子の姉と一緒になってみた。

 

 すまない。お父さん、お母さん。

 私はそうやって少なくない罪悪感を持ちながら、()の自分の齢にも満たない年若い夫婦へと心の中で謝った。

 

 

 

 

 

 突然だが、私には前世の記憶というものがある。

 IT関連の中小企業で日々働いており、よくあるサラリーマンという存在だった。勤めていた会社は残業こそまあまあ有れどブラックというわけでは無く、しかしホワイトというわけでも無い。特筆すべき所が無い、本当に普通の所だった。

 歳は三十代前半で、未婚の男。これといった趣味も無く、タバコは吸わず、酒も飲み会といった付き合い以外ではほとんど飲まなかった。

 我ながらつまらない人間だったなとは思っている。

 

 そんな風に面白みの無い日常を、ただ惰性で繰り返していたある日の事。

 

 

 目を覚ませば、天井でゆるりと回るシーリングファンが見えた。普段慣れ親しんでいた自室には全く存在しないオブジェクトがお出迎えしてくれた事に、言いしれない気味の悪さを感じてしまう。

 一瞬で冷水を浴びせられた様な感覚に陥り、ここは何処なんだと身体を動かして情報収集を試みようとするが、しかし思い通りにいかない。

 酒を飲みすぎて記憶を失い未だに二日酔いが続いている──自分はそういったタイプでもないため、それは有り得ないだろう。となればこれは、いったい。

 

 そんな風に思案に耽っていれば、突然抗いがたい存在が襲ってきた。

 それは原始的な欲求とでも言おうか、途端に眠くて眠くて堪らなくなってきたのである。原因は多分、今この身が寝かされているベッドのせいだろう。

 

 全てがどうでもなってしまう位に寝心地は最高で、ずっとこのままでいたい気分になってしまう。

 そこそこ良い所のビジネスホテルでも、これ程までにふかふかでは無かった。いったいどんな最高級のベッドを使っているのだろうか。

 

 このままでは寝てしまうと思い、なんとか芽生えていた理性を総動員しながら、自分の置かれている状況を把握しようとした時。

 気が付いたら隣に、赤ちゃんが居た。

 

 困惑しながらも己のいる場所を探ってみれば、何となく揺り篭の中にいるという事が分かった。

 ベッドでは無く、揺り篭。そう、揺り篭だ。大の大人一人(ひとり)では、当然入り切るほど大きくはない小さな籠。そして、度々目に入っていた明らかに小さい自分の手。

 その時やっと自身が何者なのか、理解する事ができた。

 

 

 気が付いたら、赤ん坊になっていた。

 全くもって意味が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前の自分の身に何かがあって──直前の記憶は無いものの、恐らく死んでしまったのだろう──そのまま赤ん坊に転生したのだと、その後の自分は結論付けた。荒唐無稽な話ではあったが、現にこうして身体が小さくなっている以上、そう信じざるをえなかった。

 

 まあ碌でもない死に方をしたんだろうが、それを知る術は分からない。知りたいとも思わなかった。

 どうでも良いと思ってしまっているこの性分のせいなのだろう。毎日を惰性に過ごしていたツケが、やっと巡り巡って訪れたのだ。

 

「双子の姉妹だったよな……どっちが優愛で、どっちが愛梨だっけ……」

「う~ん……どっちだったかしら……」

「……これまずくないか? このまま入れ替わっちゃったりしたら、俺達でも分からなくなるぞ……」

「だ、大丈夫よ。ほくろの位置は違うから、一応判別はできるわ。服の上からじゃ無理だけど……」

 

 二人で喋り込んでいる両親と思われる存在を横目に、一人で考え込む。

 何を言っているかは、まだ理解できなかった。

 

 少し気になるものの、いずれ理解できる様になるだろうから、言語の壁はどうとでもなる。

 しかし、とても険しい別の壁がそこには存在した。

 

 なんと、性別が変わっていた。

 

 最初は全く気が付かなかったが、よくこの身を見てみれば、いつも付いていた筈のモノがどこにも無かった。探してもどこにも無いのだ。間違いなく、女の身だった。

 いわゆるTS(性転換)という超自然的な現象を受けてしまったのだろう。

 

 

 なんて事だ、どうしよう。

 いや、どうしようも無くないか。

 考えるの面倒くさいし、このまま普通に、普通の女の子のフリをしながら過ごしていこう。

 死にたくは無いけど、やっぱり程々に生きていたい。

 

 そんなこんなで、転生を知った初日。

 性転換した事に対して、脳の整理はすぐに終わった。

 

 前世の歳を下回る者達を、お父さんお母さんと呼ぶのは結構な違和感が有ったが、呼び続けていればそういうものだと慣れてしまったのだ。なんたる邪悪。

 

 我ながら早すぎるとは思う。

 

 

 

 

 

 そんな在りし日から、数年の時が経ったある日のこと。

 時期はもうすぐ小学校へと入学する頃だ。

 

「愛梨ぃ……どうして私達、パパとママに分かってもらえないんだろうね……」

 

 血縁上、我が姉にあたる優愛──自分はゆー姉と呼んでいる──が話しかけてきた。

 きっかけは、両親に名前を間違えられた事が原因だろう。

 

 生まれてからすぐ自我が芽生えていた変な自分とは違い、ゆー姉の感覚は普通の女の子だ。

 そんな事もあって、他者を認識し妹であるこの自分を名前で呼んでくれるようになった時は、それはもう嬉しかった覚えがある。

 というか、めちゃくちゃ可愛い。最近になって分かってきたが、今世の両親は相当な美形らしく、その恩恵を存分に受けた我が姉は至上の存在かと思ってしまう程に可愛かった。

 控えめにいって、生きる意味を実感させてくれた。何というか、言いしれない程の安らぎをこの身に与えてくれるのだ。

 この笑顔をずっと守っていきたい。

 う~ん、やっぱりお姉ちゃんは最高だね。

 

 ああ^~腐った心が浄化されていくんじゃ^~

 

 まあ容姿が瓜二つなので、こう言えばナルシスト的な感じになってしまうのだが……。

 そこは気にしない事にした。

 

「多分、私達がとてもそっくりだからだとおもう……」

「やっぱり、そうなのかな……」

 

 恍惚にも近い感情は一旦おいといて。ここは愛しの姉の言葉へと耳を傾けよう。

 それ以外の選択肢は無い。

 

 

 前述した通り、姉がゆー姉こと優愛で、妹が私こと愛梨。そんな双子の姉妹である自分達は、とても容姿が似ていた。

 体格はもちろん、声も当然の事ながら一緒で、どんな子かと会いに来た親族達をとことん困らせたものである。

 

 そしてそれは、実の両親も例外では無かった。

 

 

「えっと……愛梨?」

 

 この身に名付けられた娘の名前を、どことなく自信なさげに呼ぶ声。

 その声の主を見て、何だかとても残念な気持ちになった。

 

「あ、うん。愛梨であってるよ……いもうとのほうです」

「ウッ」

 

 悲しい目をしながら、この生における母親に対して返事をすれば、彼女はいつもの様にダメージを受けていた。どうやら今回も姉妹の見分けが付いていなかったようだ。

 猫を被るのは心苦しい話ではあるが、これに関しては判別できない方が悪いと思っているので、慰めはしない。

 

「それで、お母さんどうしたの?」

「もうそろそろ三時でしょ? それでお茶しようかな~って」

 

 どうやら用件はおやつの事だった。

 食べる事はこの身になってから何故か好きになったので、断る理由も無い。

 

 是非美味しく頂戴する事にしよう。お菓子大好き。

 

「優愛はもう食べ始めちゃってるわよ~」

「は~い。……って、え?」

 

 いつもの様に返事をしようとして。少しだけ引っかかった事があった。

 ゆー姉が先にいる事が分かってるなら、一時的にだが姉妹の判別なんて造作もないはず。

 なのに、どうしてそこまで自信が無かったのか。

 

 そこまで考えて、気が付いてしまった。

 

 

 

 ……あっ、これはもしかして。

 先に呼んだほう()の名前が分からなかったのでは無いだろうか、と。

 

 普通なら「優愛、おやつよ~」の所を「おやつの時間よ~」みたいな感じで、無難に省略して呼んだとか。言いがかりにも近い憶測だが、このお母さんには前科がある。というか、今朝も同じような事をしていた。すぐにバレて、姉妹一緒に二人して泣いてみたのは記憶に新しい。

 姉(か妹)の機嫌を損ねるのを恐れてそう言った、というのは中々にしっくりとくる理由付けだろう。

 

 

 ……アカン。

 まさかここまで重症化していたなんて。

 

 これは早急にどうにかしなければならない。

 この問題を放っておけば、きっと後々尾を引く事になるだろう。例えば、嫌われるのを恐れて姉妹の名前を呼んでくれなくなるとか。

 それはいけない。姉の笑顔を奪ってはならないのだ。

 

「お母さん、その前にちょっとおねがいがあるんだけど」

「なあに? ……愛梨」

 

 今、ちょっと言い淀んだな。

 しかしここで追及するのは止めておこう。

 

 後に続くは、とても大切な提案なのだから。

 

「お母さんがもってるヘアピン、ひとつ私にかして?」

「え? ……うん、分かったわ」

 

 娘の何が望みなのか、いまいち解せない。そんな顔をしながらお母さんが自室へと小物を取りに行き、少しした後戻ってきた。

 

 手に持っているのは、赤色のヘアピン。

 それを一つ、こちらに渡してきた。

 

「はい。それをどうするつもりなの?」

「こうするの」

「えっ」

 

 私はそれを空き地を統べるガキ大将の如く強引に拝借するや否や、流れる様に身につけた。

 自分から見て、ちょうど左眉の上の髪あたりに。

 

「きょうからおふろの時以外はこのヘアピンを身につけているから。これでお母さんも、お父さんも間違えないよね?」

 

 その日から私は、双子を判別できる様にヘアピンを常時身につけ始めた。

 特徴が無くて見分けが付かないのなら、特徴を作るのみ。

 実年齢にそぐわない子供らしい浅知恵だったが、しかしとても効果はあったようで。

 

 両親が、私達の名前を間違える事はかなり少なくなった。

 

 

 恐らく、これが私という個の原点なのだろう。

 

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