双子の妹にTS転生した邪悪概念   作:アライ

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変装術のはじまり

 それから時が経ち、私は小学校にあがる事になった。今更だが精神的にクるものが有る。

 何が悲しくて、小学生活を二度も繰り返さなければならないのか──なんて言うのは、あまりにも贅沢過ぎるだろうか。

 一緒に姉が入学してくれるという救いが有るのでやっていく気概は一応持っているのだが、それはそれとして無邪気な子供の真似をずっとし続けるのは辛い。

 同年代くらいの女の子って何で遊ぶのだろう。ゆー姉は絵本を読むのが好きなので私はいつもそれに付き添っているのだが、やはり多数派はお飯事(ままごと)とかだろうか。土日にソファーで横になってぐーたらしているお父さんのフリなら自信あります。

 ……まあ、そんな事したらドン引きされるからやらないけど。

 

 

 今日はそんな悲しい入学式の前日にあたる。

 

 小学校の場所は家からすぐ近くにある中学、その隣に位置している。距離的には子供の足でも十分も掛からない。つまり、行き帰りに時間がほとんど取られないのだ。

 朝起きる時間は遅くて良いのは最高だ。前世は少し遠くの所に通っていたため、始業時間に間に合わせるのに早起きをしなければならなかった。

 

 朝は、朝は……苦手なんだ……。

 寝る時間は勿論早くするとして、出来るだけ遅く起きたい。世間一般の小学生はだいたい六時半頃に起きるらしいのだが、最低でも私は七時までは寝るつもりだ。それ程までに朝はキツい。

 この性分は前世からの物で、生まれ変わっても無くならなかった。小学校の始業時間は八時過ぎ、出来ればもっとぐっすり寝ていたい。

 

 えっ?! 距離的に八時まで寝ていてもいいのか!!

 家が近いって素晴らしいね。最高や。

 よし、明日から八時まで寝ます!

 

「ダメよ、愛梨。朝ごはんはいつも通りいっしょに食べよう?」

 

 そんな事をお母さんに進言すれば、横で聞いていたゆー姉に止められた。

 お、お姉ちゃん──!

 

「そうよ。せっかく家族四人で過ごせる時間なんだから、一緒に食べた方が良いでしょ?」

「パパ、八時少し前には家を出ちゃうからなあ。愛梨と朝ごはん食べられないのは寂しいぞ」

 

 その後に、お母さんとお父さんが続く。

 

 そ、そうか。朝食は家族で一緒に食べるのが世間一般的には普通なのを忘れていた。

 長い間身寄りの無いまま社畜生活を繰り返していたせいで、そういった感覚が抜け落ちていたのだろう。

 現世の、このお父さんとお母さんはとても子煩悩らしく、私達姉妹はそれはもう沢山の愛情を注がれながら育てられてきた。休日は何よりも家族との時間を大切にしたいらしく、その意気や空いた時間を見つければいつも一緒に居てくれるほどだ。どこどこに行きたいと願えばすぐに家族旅行として連れて行ってくれるし、欲しい物が有れば快くプレゼントとして譲ってもくれた。

 勿論、子供が増長しない様に適度な躾も忘れない。まあ年若い女児がねだる物なんて大した物では無いのだが、それでも教育には必要不可欠なのだろう。私達を寝かしつけた後、こっそり起きて隙間からリビングを覗いてみれば、育児雑誌を熱心に読んでいる二人が居るのだから、子育てをした事が無い身でも分かる。

 

 未だ娘の名前をごくごく稀に間違える事以外は、まさに理想の両親だと言えるだろう。

 

 なんだこの家族……!

 ま、眩しい……まぶしすぎるッ!

 天国は、此処に在ったんやなって……。

 

「もう、愛梨はねぼすけなんだから……がっこうに入ったらちゃんと早寝早起きするんだよ?」

 

 家族の尊さをしみじみと思い入れれば、しょうがないなあといった風にゆー姉がよしよしと頭を撫でてきた。笑顔のままで。

 なんだこれ、初めての気分だ。とっても気持ちがいい。

 

「わ、分かったよゆー姉。早起きするからゆるして……!」

「分かればよろしい! 土日はいいけど、小学校始まったらちゃんと起きるんだよ?」

 

 妹の説得に成功し、ふふんと胸を張るお姉ちゃん。可愛い……じゃなかった。

 

 最近やっと気が付いたのだが、平日はともかく我が家の土日の朝は遅くなる事が多い。原因は主に私が九割、お父さんが一割といった所だ。休みの日はいつもガッツリ寝ているのでそれに他のみんなが合わせる、といった感じで朝食が遅れてしまうらしい。

 

 心よりお詫びし、明日から早起きに努める事にした。

 

 

 そして次の日。

 

「ええと……どちらが篠崎(しのざき)愛梨さんと優愛さん、でしたっけ?」

 

 小学校の先生に名前を間違えられて、私は心の中で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 古来より、双子ちゃんはお互いの区別を付ける為に別のクラスにされる事が多いとされてきたが、どうも今の時代は違うらしい。一家庭の理由だけで本来ランダムな要素に手を加えるのは望ましくはないだとか何とか。まさに無作為といった選出方法である。

 こういうのは運動や勉強も得意不得意が偏らないように不都合なく決められるのだと思っていたが、それはある程度学年が進んだ時にやるらしい。

 そりゃそうだ、入ってきたばかりの一年生はデータが無いんだから比べる物も比べられない。

 

 ああだこうだ言ったが、詰まるところ私達姉妹は同じクラスになった。

 ……あ~やばい!

 

 私は南極に住むクソザコ妹ペンギンの様に頭を抱えた。

 ただでさえ間違えられやすい姉妹なのに、第一印象がそっくりさんだと固定されてしまったら……もはや誰にも見分けが付かなくなってしまうのでは無いだろうか。

 まずい。これはまずい……! 

 

「そっか、優愛と愛梨は同じクラスになっちゃったのね~」

「うん、愛梨と一緒。嬉しいな~♪」

 

 お母さんと一緒になってゆー姉が喜び合っている。

 アァ……お姉ちゃん! やっぱりゆー姉は、最高だ──

 ……じゃなくって、このままだとマズイのだ。

 

「そろそろ着くわよ~。チャイルドシートはまだ外さないでね」

「はーい」

 

 初日の顔合わせ、私達姉妹はそれはもう注目の的となった。そっくりの双子という珍しさもさながら、子供ながらも存分に醸し出される至上の容姿は、やはりとても目立つらしい。沢山の人に囲まれてチヤホヤされる姉はすこぶる嬉しそうだった。

 

 姉の素晴らしさをもっと布教していきたい。願わくば、学校中をお姉ちゃんの信者にしたい。

 そんな風に脳内お花畑でいたのだろう。

 

『でもどっちがどっちかわかんねーな』

 

 名も知らぬ男児の言葉がクリティカルヒットしたのである。

 そしてその後、クラスをまとめる先生にも間違えられた。ひどい。

 

 全てが清らかな大天使であるのがゆー姉。外見こそ似れど、中身が邪悪なる存在であるのが私。まさに天と地ほども差があるのだ。今の私はゆー姉と同じ振る舞いをしているが、こんな性格である以上いずれ必ずボロが出てしまうだろう。

 そんな時に姉妹の区別が付かなかったら、私のせいでゆー姉に良からぬ風評が行ってしまう事間違いない。

 それは絶対に防がなければならない未来なのだ。

 

 なのに、こうやって混同されてしまうなんて。

 こんな事は、あってはならぬ……。

 

 

「おーい、愛梨~? もどってこ~い」

「はっ、ゆー姉の声がする……」

「ほら着いたわよ」

 

 己の辿る道に苦悩していれば、いつの間にか目的地へと辿り着いていた。

 

 家を出て、お母さんが運転する車に揺られながら数十分。

 そこに在るは、大型ショッピングモールである。

 

 いけないいけない。そういえば。今日はここに来る為に車を出してもらったのだった。

 

「ちゃんと手を繋いで」

「は~い」

 

 姉妹でお母さんを挟みながら、ショッピングモールを通り抜ける。

 しばらく歩けば、お目当ての物がずらりと並んでいた。

 

 服、服。そして大量の服。

 未だ春先なのだが、すでに夏用のカジュアルな物まで店頭には揃えられていた。随分とお早いことで。

 

「今日はここでお洋服買うからね~」

 

 今日の目的はただ一つ、小学校に着ていく服を買うだけだ。

 発起人はお母さんである。

 

 姉妹二人の見分けが付かないのならば、特徴的な服を買えばいいとの事。

 恐らく、私のいつも使用しているヘアピンを見て思いついたのだろう。入学した小学校に制服は無いので、私服を選びたい放題というわけだ。

 すご~いと褒め称えるゆー姉に、満面の笑みを浮かべながらドヤ顔をするお母さんであった。

 

「どれがいい?」

「う~ん、どうしようかな」

 

 前世では入る事すら叶わなかったジュニアブランドが跋扈する魔境。そこへと足を踏み入れるのは私であった。なんかとても緊張する。

 

「色んな種類があるね」

「ふふ。思いつかなかったら、ママが決めちゃうわよ?」

 

 楽しそうに辺りを見回す愛しい姉を横目に、私はとても逡巡していた。

 どうすればいいのか、まったく分からん。

 

 リーマン時代は社会人であるにも関わらずスーツ以外まともな服を持っていなかったので、服に対する一抹の知識すらも無いのだ。

 選べと言われても困る。

 

 所詮、小学生の着る服だから適当に選べば大丈夫──なんて事も考えていたのだが……。

 

 シンプルな色が映えるデニムパンツに、フリルの付いた可愛らしいスカッツ。ラグラン袖のワンピースや、フォーマルなゆるふわドレスと裏シャギー入りトレーナー。そして、その他諸々。

 それらは視界を埋め尽くす程に広がっていた。品揃えの良さや、圧巻とでも言おうか。

 

 名称や特徴が分からなかったので、値札に付いている物を読んだだけなのだが、なんとまあ凄く種類が多い。まるで呪文を唱えているかの様だ。初めて聞いたものばかりである。

 

 裏シャギー……? ヤギかジャギか知らないが、当たり前の様に業界用語が飛び交っていて私はもうヤバイと思う。

 

「愛梨はとても迷ってるみたいね。ゆっくり選んでいいわよ」

「私はこれにしようかな~」

 

 難解な言葉に頭を悩ませていれば、ゆー姉の声がした。

 彼女が指を差す先には、無地のスウェットワンピースなる物が存在している。

 

 ああ……これは、とっても──

 

 

 

 

 とってもいいですねぇ……!

 

 小学一年生は特別な季節の始まり。とはいえまだまだ成長途中の子供に過ぎず、身の丈に合わない服を選ぼうものなら、着ているというより服に着られているといった印象の方が強くなってしまうだろう。

 

「優愛はこれを選んだの? いいわねぇ~」

 

 だから我がお姉ちゃんはこれを選んだ。

 素材の味を最大限に活かしながら、それでいて子供っぽさと可愛らしさを両立させた──そんな最高の服であるこのワンピースを……!

 

 なんたる慧眼、御見逸れしました……!

 う~ん、さすがお姉ちゃん。

 

「色は……これじゃなくてすこし抑えめな感じで」

「抑えた方がいい? 赤とかピンクとかじゃなくてもいいの?」

「うん。あまり目立つ色じゃないほうがいいかな。たぶん」

「優愛はこれが好き!って色は無いの?」

「どうなんだろ。よく分かんないけど、えらぶならこれかな」

 

 そう言って、ゆー姉が選んだのは灰色のワンピースだった。地味……というまでではないが、あまり目立たない色である。

 

 あれ、とても意外だ。

 お母さんが言う通り、もっと華やかな色にすると思っていた。

 ゆー姉はこういう色が好きなのか、私知りませんでした。

 

 ううむ。お姉ちゃんマイスターへの道は、まだまだ遠いな。

 

「じゃ、愛梨はどうする?」

 

 着ていく服は複数必要なのでこれで終わりというわけではないが、とりあえずゆー姉の一着は決まったから次はこっちの番という事なのだろう。

 

 ……どうしたものか。

 正直着れれば何でも良いといった思いだが、流石にそれは却下されてしまうだろう。となると、ある程度方向性を持っていたほうが望ましい。

 

 ……そうだ、ここに服を買いに来た理由を思い出すんだ。

 第一の目的は、姉妹それぞれの名前を第三者に間違えられない事。

 自分という個を、周りに知らしめる事。

 

 ならば、ゆー姉が選んだ服と別の類の物を選べばいい。

 

「これがいい!」

 

 私は確かな意思を以って、全く違う方向性の服を指差した。

 とってもフリフリで、いわゆるフリルと言われる物が付いたチュールのフレアドレス。

 

 ……途中で何を言っているのか分からなくなってきたが、一言で言えば派手な服だ。

 色も薄ピンク色で中々に目立つ事間違いないだろう。

 

「ふふ、愛梨はそういうのが好きなのね。じゃ、試着して見る?」

 

 用件も済んだので、母に連れられながら試着室へと向かった。

 

 果たしてその服は自分に似合う物なのか。

 ……いや、自分が好きかどうか、それすらも今の私には見当が付かない。

 

 が、どこか──

 ……どこか私の中で、逸るものが存在していたのは確かだった。

 

 

 それはこれまで体験してきたどんな具象にも当て嵌まらない、理解し難い感覚。

 その感覚が一体何なのかは未だ分からないけれども。

 

 

 

 何か、とても楽しい事が起こりそうな気がしてならなかった。

 

 

 今日という日を、私は忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構いっぱい買っちゃったわね」

「もう夕方だあ」

「そうね~。優愛、愛梨。ねえ疲れてない?」

「疲れてないよ!」

「元気いっぱいです」

「そう。それはよかったわ」

 

 ショッピングモールからの帰り道を、車に揺られながら思う。鳥の鳴き声がする信号の音響装置が、何とも耳に心地よい。

 

 今日は土曜日で、かつ入学式シーズン。親子連れの人も多く、お母さんは色々と大変そうだった。

 それに加えて、家に帰れば家事が始まる。これは中々にハードスケジュールだ。ここまで子の為に尽くしてくれるなんて、いやはや頭が上がりませんな。

 

 お母さん、今日の夜はぐっすり眠って休んでくだせえ……。

 ふぁぁ……。私もぐっすり寝るんで……。

 

 色々気の済むまで試着したから、何だか疲れてしまった。

 

「あ! 愛梨、あしたは早起きしないつもりだよ!」

「ゆ、ゆー姉……!」

「あらあら、本当は疲れてるじゃない。今日は早く寝るのよ」

「はい。いもうと、早くねます……」

「あ、車の中でねるつもりだ」

「うふふ、ちょっとだけしか眠れないわよ? それでもいいなら」

「寝ます……」

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけ。

 そう思いながらも、気が付けば寝過ごしてしまっていた。

 

 そんな事を前世で度々経験してきた私は、染み付いた感覚に戸惑いながら──しかし必ず起こしてくれるだろう、確かな安心感を胸に懐きながらしばしの間眠りに耽るのであった。

 

 

 

 

 今日はとても楽しかった。

 まさか自分を着飾る事が、こんなにも楽しいだなんて──

 

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