双子の妹にTS転生した邪悪概念   作:アライ

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もうちょっとで幼少期が終わって本編に入ります


元は水兵さんの服

 それから、小学校卒業までのあいだ。

 色々な出来事が時の流れに沿って過ぎて行った。

 

 運動会が有ったり、遠足が有ったり。

 避難訓練といった欠かせないものから、授業参観という恒例の行事まで。

 

 クラス替えは年度毎に有り、しかし必ず双子が同じクラスになるわけでも無い。

 ゆー姉と別クラスになってしまった時の授業参観は、それはもう大変そうだった。

 流石に姉妹一組だけを特別扱いする事は出来ず、授業参観はそのままクラス別で同時開催。廊下を忙しなく行ったり来たりするお母さんの姿は今でも記憶に新しい。

 

 

 そして、夏には例年通りプール開きが有ったが……。

 

 まさか着衣水泳をさせられるとは思わなかった。

 当然の事ながら、水に濡れるとめちゃくちゃ服が透けるので対策は必須。インナーは自由だったので、水着を中に着させて貰う事にした。これで透けても大丈夫。

 その効果や中々のもので、当日は水面に上がると同時に、どこからかがっかりとした様な声が聞こえてくる程だった。

 

 フッ……君たちの考えている事なんて手に取る様に分かるのだよ。

 新スクで我慢したまえ。

 

 

 まあ、そんなこんなで夏が過ぎ、秋にはミニ文化祭で演劇をして。

 冬休みが終わった後には、新春書き初め大会が開催され──

 

 

 そしてまた春がやってくる。

 

 これを五年と六年で計二回。

 実に小学校、というスケジュールだった。

 一度は体験した事がある雛形のソレは、数十年経っても変わらないのだろう。

 

 だけど、とても楽しい時間だった。

 童心に帰り、昔は誰しもが持っていた普遍的な感覚を思い出し、そしてそのまま浸り続ける──そんな事が出来る日常が有るなんて思いもしなかった。

 もし巡り合わせというモノが存在するならば、私は感謝しなければならないだろう。

 

 

 それで後は……う~ん。

 

 つかの間の長身を手に入れた後、同級生男子への分からせが入ったりしたぐらいだろうか。

 いや、別に変な事はしていないが、何となく向けられる視線が変わった様な気はした。

 

 やっぱり何度も思うが、体格の差は結構大きい。

 女子の方が比較的早く成長するので、大人びて見られるというか何というか。身長が伸びても女の子の友達はいつも通り付き合ってくれたが、男子のほうはそこそこ避けられてしまうようになってしまった。

 まあ気持ちは分かる。屈折した感情の理由付けに悩むのは、誰もが通る道なのだから。

 私は陰ながら応援しているぞ。

 

 ちなみに、小学六年時点で私とゆー姉の身長は全く同じであった。

 お互い背丈こそ伸びれど、なんか六年間ずっと一緒だった気がするのだが……。

 一卵性姉妹もここまで極まるとは思わなかった。

 

 しかし身長は同じでも、体重は……私のほうが少し重い。

 姉妹揃って外での運動はあまりしないので、となると妹の食事における摂取カロリーが多い事となる。

 

 だって、しょうがないだろう……。

 揚げ物がキツくない若い身体って最高なんだから……。

 お母さんが作ってくれる唐揚げ、いつもたくさん食べさせて貰っています。

 

 まあ、あんまり食べ過ぎるとウエストがきつくなってしまうので制限はしているのだが。

 おしゃれに目覚めた身としては、やはりこれからだという憶えはある。中学生になれば、ちょっと背伸びをしたコーデも難無く着られる様になるだろう。最終的に目指すは、おしゃれなスタイリストJKだ。

 

 道行く人の誰もが振り返る様な……そんなファッションを目指して邁進していこうと私は決めた。

 勿論、いい意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬の寒さもだいぶ薄れてきた二月の半ば。

 もうちょっとすれば、六年通ってきた小学校も卒業だ。

 そんななか、当然受験の日がやってくるわけで。

 

「合格発表は今日の九時からね~。お母さん、ちょっとドキドキしてきた」

 

 昨日の金曜日、中学受験をしてきた。

 で、今日合格発表らしい。

 

 一日で結果が出るとはだいぶ早いな。

 あまり調べた事は無かったが、私立だと皆こんなものなのだろうか。

 

「現地に行かなくて良かったのか? 受験番号の張り出しが行われているみたいだが」

「ええと、それはですね……」

 

 そして今は、ちょっとの遅めの朝ごはん。

 お母さんが作ってくれた特製の卵焼きを頂きながら、私は家族団欒の時を過ごしていた。

 う~ん、やっぱり卵焼きにはケチャップが合うね。ふわとろさを引き立てるこのまろやかな甘みがたまらない。

 

「私知ってるよ? 朝早く起きたくなかったんでしょ~?」

「お、お姉ちゃん……! ち、ちが……」

 

 料理に舌鼓を打っていれば、横から我が姉による追及の手が迫ってきた。

 ちなみに、ゆー姉は卵焼きに醤油をかけるタイプである。

 同じ姉妹でも、好みの違いはこうやって明確に表れるものだ。

 

 ……いけないいけない。今はそんな話をしているのではなかった。

 

「ははは。愛梨らしいな!」

「ふふ、そうね。オンラインでも見れるらしいから、そこで確認しましょうか」

「あ、はい……」

 

 弁解しようとすれば、普通にスルーされた。くぅ、これは日頃の行いのせいですね……。

 まあ、事実なのだけれども。

 

 いつもの事ながら土日はガッツリ寝るというルーティンを組んでいるため、合格発表日である今日も早起きする気力が湧かなかった。

 

 うう……不甲斐ない妹ですみません……。

 

「もう少ししたら分かる事だが……どうだ、合格できそうか?」

「算数が難しかったけど、それ以外は大丈夫かな」

 

 容器と水量の問題。

 中学受験ではお馴染みのものだが、やたらと変な形の容器を使っているものだから計算に手間取ってしまった。

 牛乳を注ぐ女の様な手つきで奇怪な入れ物に水を入れるイラスト、それに若干気を取られたせいもあるが……まあ、言い訳はすまい。算数は普通に難しかった。

 

「塾の先生も、今年は難しい年だって言ってたわよー。でも、愛梨なら平気そうね」

「う、うん……」

 

 お母さん、それフラグです。

 ……なんて、私は少しだけ思ったが、すぐに気を取り直した。

 

 しっかり勉強したのだ、確かな手応えは自分の中で存在している。

 余程の事が無い限り、受かっているに違いないはずだ。心配なんて、する必要は一つも無い。

 

 私は優雅にサラダへと箸を伸ばした。

 そして、赤くまん丸に実ったトマトをひとつまみ。

 

 うん。甘みが有って、とても美味しい。

 夏野菜とよく言われるトマトだが、実態は違って気候の差から各県ごとに出荷時期が異なっている。このサラダに入っているトマトは……多分熊本産だろう。甘さのあるトマトが印象的である。

 

 

 あっ、これ塾でやったところだ。

 

 

 

 

 それから食事を終えて約一時間後。

 

「おっ、愛梨の受験番号載ってるぞ~!」

「やったわね!」

 

 オンラインの掲載サイトを通じて合否結果を覗いてみれば受かっていた。

 

 うむ。

 まあ大きなアドバンテージが有るのだ、流石にここで落ちてたら軽く死ねる。

 

 良かった。

 

「おめでとう~愛梨! 良かったね!」

「──! ゆ、ゆー姉……!」

 

 ただ静かに心の中で確かな喜びを噛み締めていれば、横からゆー姉がくっついてきた。

 

 ななな……なんという至福……!

 久しぶりに会った友達の女の子同士が、スキンシップで嬉しさを体現している時みたいな──そんな場面が脳裏に浮かんでくる。

 今の私は、肩に手を回されてゆー姉に抱き着かれている。

 

 なんだこれ。

 

 めっちゃ良い香りがする。

 どこか懐かしい様な雰囲気を纏っていて、それでいていつも慣れ親しんでいる様な……何とも形容し難い良いスメル。

 う~ん、これは──

 

 

 

 我が家のヘアフレグランスの香りだこれ。

 私も付けてた。

 

「うふふ、二人とも仲良いわね~」

「四月からは別の中学になるんだ……お父さん、ここまでべったりだとちょっと心配だぞ」

 

 我がお姉ちゃんにわちゃわちゃされる妹のず。

 両親からはとても仲睦まじく見えるらしい。いやあ、そんな……。

 

 でも、そうか。

 受かったからには勿論進学するわけで、春からはもう姉妹共々別の中学校になるのか。

 

 分かっていた事だけど、やっぱり……。

 

「お姉ちゃん……」

「ほら、愛梨。そんなしゅんとしないで」

 

 悪い。

 やっぱ辛ぇわ……。

 

「愛梨はたくさん勉強して受かったんだから、そんな悲しんでないで、もっと胸をはって?」

「……!」

 

 そんな嘆きが顔に出ていたのか、見かねたゆー姉が私の頭を撫でてきた。

 よしよしという効果音付きで。とても、心地が良い。

 

 

 あっ

 このままだと堕ちる──

 

「愛梨? もう……しっかりして?」

「──はっ?! ここは……」

 

 すんでの所で気付いた私は、現実へと引き戻された。

 ……いけないいけない、身に余る幸福で気絶しそうになった。

 

 いや、一瞬だけ気絶していたのかもしれない。

 分からないが、どうしてか頭の中がクリアになっている。

 

 

 私は何とか、頭の中を整理した。

 

「ふふ。とにかく、愛梨が合格できて良かった」

「……! お姉ちゃん、ありがとう……」

「いやあ良かった良かった。これで一安心だよ。……ところで、もう入学案内なるものがウェブで送られて来てるのだが」

「そうそう忘れていたわ」

 

 お父さんが、受信通知に有った一通のメールを開く。

 そこには色々な入学手続き要項が記載されていた。

 見ているだけで頭が痛くなりそうである。

 

 

「ううむ……」

 

 そんなメールを眺めてしばらくたった後、少しだけいかつい顔をしたお父さんが口を開いた。

 これは何か(子供が)やらかした時にする顔だ。

 

 え、また私なにかやっちゃいました……?

 

「まあ、色々書いてはあったんだが……入学前に制服の採寸が必要だという事だな」

「……制服?」

「そう。セーラー服よ、愛梨」

 

 セーラー服。

 

 

 

 

 セーラー服?

 

 あの、古くから続く伝統的で由緒正しいとってもおしゃれな服の事か──

 

 そう、だった。学校指定の制服を着なければならない女学生は、大抵中学からセーラー服になる事を忘れていた。

 

「私はもう採寸済んでるけど、愛梨はまだだったね」

「愛梨のぶんは受験に合格してからするつもりだったからな~」

「そ、そうなの?」

「愛梨はその時、受験勉強の追い込みしてたからね~。優愛とは先週の土日に行ってきたわよ」

 

 なんということでしょう。

 

 先週の土日、受験も間近という事で、私はずっと家に籠もったまま参考書とにらめっこしていた。

 お母さんがゆー姉を連れてどこかに行っていたのは知っていたが、まさか制服の採寸をやっていたなんて。

 

 くぅ……お姉ちゃんのセーラー服すがた。

 

 私が、私がッ……!

 

 

 一番最初に……!

 

「顔に出てるわよ~」

「わ、私も連れて行って、欲しかった……!」

「流石に受験控えてる妹を連れ出すわけにはいかないよ……」

 

 一番最初に見たかった──

 そう心の中で咽び無いていれば、ゆー姉に呆れた顔をされた。

 

 でしょうね。

 

「制服の採寸は……今月末までか」

「ん~。もう今から行っちゃおうかしら。こういうのは早いほうがいいわね」

「学校の近くに直接服を取り扱っている所が有るらしいな。そこで見て貰う事にしよう」

 

 嘆く私を放って両親の間で話が進んでいく。

 あっ、今すぐに行くんですか。

 

 行く所が私立の学校故に、結構カツカツなスケジュールだ。

 

「午後からだと混みそうね~。もう出る準備しましょうか」

「そうだな、昼はその近くで外食する事にしよう」

「愛梨と優愛はそれでいい?」

「うん」

「はーい」

「よし。車を出す準備をしてくるよ」

 

 そう言って、家のガレージに向かうお父さん。

 

 なるほど、少し遠い場所なので昼ごはんも兼ねて家族総出で行くんですね。

 ふむふむ。ゆー姉も一緒と。

 

 という事は……!

 

 

 

 

 ゆー姉に私のセーラー服すがたお披露目できますねえ!

 

「制服着てる愛梨の姿、私も見たいなあ」

「──! お姉ちゃん……」

 

 そんな事を思っていれば、我が姉直々のご所望が下された。

 何という有難き幸せ……!

 

 もう、こうしては居られない。

 今からどうやって最高の自分を見せるか、脳内でシミュレーションを行わなければ……!

 

「見ててね、お姉ちゃん。この妹、やってみせます。絶対に成し遂げてみせます!」

「……あ、愛梨は気合入ってるんだね」

 

 傍からみれば、それはとても軽やかな足取りであっただろう。

 

 私はウキウキ気分のまま、外出用のダウンコートを取りに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにセーラー服をゆー姉の前で存分にお披露目した私は、陶然たる思いに身を包まれながら昇天した。

 天にも昇る心地とはこの事かと、私は決して忘れられないメモリーとして脳内に刻み込んだのだった。

 

 やっぱり、服は見てもらってこそナンボなんだなって……。

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