目が覚めた。昨日のドンチャン騒ぎで杯を重ねなかった事が良かったのか、意外と早く目が覚めた。頭も重くない。
窓の外はまだ暗く、夜明けまでまだ時間はありそうだ。窓は木枠のガラス張りで、明け閉めが自由に出来るようになっている。透明度はそれほどでも無いが使用には何も問題無しなんだろうな。
昨日の飲み会で気付いた事は、ギルド内には酒場が併設されてない事だった。併設されているのは、喫茶店。提供されているのは、お茶と菓子。そして軽食。ダルガンさんがいうには、帝国領内の冒険者ギルドは全て、こうだとの事だ。飲み会は、ギルドに隣接する酒場で行った。
ベッドから降り、身を伸ばす。ミシミシ鳴る背中が気持ちいい。周囲を見回すと、入り口近くに洗面所があった。おお、前世とあまり変わらない石造り。というか、蛇口がある事に軽く感動してしまった。
下水設備も整っているのか。流石、都というところか……さて、顔でも洗うとしよう……。
「顔を! 顔を奪いやがった!!」
鏡を見た時、すぐには気付かなかった。何かおかしくないか? 何が写ってんの……? 鏡に写ったモノをぼんやりと見つめた……。
これ……邪神か!? 邪神の顔立ちだ! 邪神寄りの目鼻立ち。全くの違いは黒い瞳──
そういえば……『子は親に、自動人形は人に似るというからね~』とか言ってたな。あと、顔立ちを自分よりにするとかも言ってたような……。
馴染み深い強面が失われ、この世界の父親である、邪神の顔立ちにされてしまった……慣れるまで時間が必要だな……邪神め! 邪神が!!
「なんだおめえ、なんて仏頂面してやがる」
宿舎側に設けられた、こじんまりとした食堂。
長テーブルを挟んで、ダルガンさんと朝食をとっている。丸いパン、厚切りベーコンと半熟の目玉焼き。ジャガイモと玉葱のスープと、付け合わせの酢漬け野菜。
朝からなかなかのメニュー。美味い。パンは柔らかく、ベーコンもほどよく焼かれていて、端っこがいい具合に焦げている。スープも酢漬け野菜も、いい味をしている。無料だというのが悪い気がするほどだ。
やはり、美味しい食事は気持ちを和ませてくれる……邪神にされた仕打ちに対する憤りが、少しばかり落ち着いた……。
「いや、まあ、ちょっと嫌な夢見たもので」
夢でござる! って叫びたい……。
「ふ~ん。今日の予定だがな、おめえに冒険者としての心構えと、基本の知識を教える事の出来る奴に声を掛ける。心当たりは何人もいるからそれまでは、これに目を通しておけ」
ダルガンさんが、一冊の本を出してきた。冒険者ガイドブックとのタイトルが目を引く。パラパラとめくると絵図が目に入った。印刷技術も発展しているなあと思うのは、はっきりいって傲慢だ。思い上がってはいけない。
「それは教科書だ。基本中の基本が記されていてな、ベテランの中には、それに書き込みをみっちりとしている奴も珍しくねえんだ。そういうのは、後進の育成に大きく役立つ。いうなりゃあ、生存の知識になるんだよ。それと、冒険者クラスとランクの説明をざっとしておこうか……」
冒険者クラスは、下級、中級、上級に別れており、下級はABCDEF。中級はABCDE。上級にいたると、ランクは無いのだという事だ。
上級はもはやランク付けが出来ないほどの存在だという。そして、中級のCともなれば、ベテランと認められるとの事。
「初級訓練を終えるとだな、下級のEから始まるんだよ。特典はそれだけじゃねえ。中々のものだぜ……まあ、それは後からだな」
城塞都市の事を色々と話し、世間話をした。
「昼くらいには、訓練係を掴まえておくぜ。それまで、好きに過ごしな。教科書を読んでおくもよし、城塞都市を見物するもよし、だ……まあ何にせよ、昼までには訓練場に戻って来てりゃあいい」
朝食の後は自由行動か……う~ん、知り合いもいないし……と思ったが、商人のメルデオさんの事が思い浮かんだ。
何時でも訪ねて来てくれてもいい。とは言われたが、特に用もないのに店に行くというのもなあ……いや、冒険者用の雑貨を取り扱っているといってたな。
今、俺が所持している道具は最低限の物しかなかったはずだ。冷やかし、というのは悪いがメルデオさんの店を覗いてみようかな。
「少しばかり、そこら辺を見物する事にします。都会は初めてなので」
おお~風情あるなあ……昔の雰囲気を充分に残した観光地って感じだ。
全面、石畳。舗装が良く行き届いてるし、清潔感もある。
行き交う人達の表情も明るい。何より、子供が楽しそうに走り回っている……おお、異世界知識発動──覇王公ミルゼリッツ曰く『子供が笑って暮らせる』国にこそ未来があるとの事。奴隷から将軍に成り上がり、王座を簒奪。そして、王から帝王にまで成った男が望んだ国造り──それが今日まで続いている……凄いな覇王公。
さてと、メルデオさんの店はどこだろうか……衛兵さんにでも聞いてみるか。メルデオ商会だっけか。