インプのいた部屋で、回収したラミナ草は、丁度二十の二束となった。これで、依頼は完了。消息不明のパーティーの結末も見届けた……。
「依頼は完了して、“猛き剣”の末路を確認したわよ。ここで退いてもいいけど……」
黒壁回廊を、踏破するつもりは無い以上は、滞在する理由は無い……だが。
「まだ少し、進まないか? 対悪魔戦を、もう少し経験したい」
俺は、レンディアにいう。さっきの、インプ戦の手応えだけでは、対悪魔戦を経験したと言えないのでは……という気持ちがあるんだよなあ。
「ラミナ草、もう一束くらい採取してもいいと思うよー。あと、私達も対悪魔の経験少ないからねー」
シェーミィが、明るく言った。ふうむ、とグランが頷く。
「ふん。そうね、ラミナ草をもう一束。対悪魔戦の経験をもう少し……という事ね。それでいいわね?」
皆が、頷く。対悪魔戦の経験は、いくら積んでもいい……クレイドルは、思った。
七階。相変わらず、黒壁回廊は代わり映えしない。部屋をいくつか覗く。そこに出現するのは、基本インプ。そして──
「炎のブレスに気を付けて。シェーミィ、妨害頼むわよ。グラン、障壁お願いよ」
チィッイィン──とレンディアの剣が鳴る。
ウルルル、と二匹のヘルハウンドが唸りを上げる。
ヘルハウンドが炎を吐くタイミングで、シェーミィが矢を放ち、阻止した。ほぼ同時に、グランさんが対ブレスの障壁を張る……さて、万全の体勢だ。クレイドル、参る──
「耳と尻尾を回収よ。あと、魔石ね」
解体ツールを手早く操り、ヘルハウンドの耳と尻尾と、魔石を回収するレンディア。いつの間にか、出現していた宝箱を弄るシェーミィ。
俺とグランさんは、手持ち無沙汰でレンディア達を眺めている──仕事が済んだ前衛はこんなものだ。
「解除完了。大した事無かったよー」
ふう、と息を吐くシェーミィ。さて、宝箱の中身は──巻物二つに、小袋一つ。シェーミィが回収する。地上で鑑定しないとな……。
「さあて、まだ降りれる余裕はあるわよ。どう……?」
現在、八階。下層まで来ている。あと二階──レンディアは、それを問うている……。ここまで来て、消費はそれほど無い。体力、気力、共に充分。物資にも余裕はある……さて?
「ここの、最下層の
グランさんが、単純な疑問を口にした。五階以降は、下級の悪魔種が出現していた。
「そうね……確か、兄上が言うには、中級悪魔の
上級か……確か、
九階。最初の部屋で、鬼火二体とインプ四体のグループだった。レンディアが、即座にグランさんに鬼火の始末を指示。俺達は、インプを始末──インプ二体を、風を纏わせた刀で素早く仕止めるレンディア。残り二体の胸に、突き立つ矢──シェーミィの速射だ……踏み込み、剣を振る──戦闘後、宝箱は出現しなかった。
まあ、こんな事もあるか、と皆の気は楽だった。
そして、最下層の十階。黒壁回廊の雰囲気事態は変わらないが、最下層という事で、パーティー内の緊張感は高まっている……さて、
「小部屋は、無視するわよ。少しでも戦力を温存した方がいいわ」
レンディアがいう。それには、賛成だ。踏破を前に、万一の事が有るかもしれないからな……。
グランさんとシェーミィも、同意見だ。
「主部屋の手前に、噴水広場があると聞いているわよ。そこで休憩ね」
レンディアの言った通り、開けた場所に出た。
周囲十メートル以上の広さ。五階の広場よりは、大分狭いが、中央には噴水。
噴水の中央に柱。柱の左右に、悪魔の頭部を型どった彫像が二つ。口から、水が吐き出されている。
全体的に中世の彫刻っぽいな……。
「さ、休憩ね。噴水の水、飲めるそうよ。魔力回復の効果があるって、聞いたわ。その水でお茶にしましょうか」
「シェーミィ、お茶の準備頼む。水を汲んでくるよ」
シェーミィに魔道コンロを渡し、携帯鍋を手に、噴水へと向かう……間近で見ると、なかなかに芸術的だ。
グランさんは、主部屋に通ずる扉を見詰めている──大きい。五階の扉よりも大きく、芸術品を思わせる、彫刻が施されている──草花が、モチーフなのか? 不自然なほど、真新しい扉だ。
「気配を、感じない……妙な感じだ。気合いを入れないといけないな」
グランさんが、扉を睨み付けながら、唸るように呟いた──
お茶の時間だ。ビスケットと干し果物。軽く腹に収める程度。温めのお茶をゆっくりと、飲む。
扉の向こうは……地獄か、魔界か……?
ほんの少しの微睡みから、覚める。四人全員、同時の目覚め。
んん~、と猫の様に伸びをするシェーミィ。ケープを整え、刀を抜くレンディア──チィッン、と何時もの刃鳴り。
剣を抜き、盾を構えるグランさん。
俺は黒鷲の兜を被り、フェイスガードを引き下ろす。ガンガン、と何時もの景気付けに、兜を叩く──「準備、万端ね」
レンディアの声に、俺達は頷く。
「シェーミィ、いつでも射てる様に。グランは先頭。私は右側。クレイドルは左……生命探知、魔力探知に掛からないという事は、“
「ここまで来てー?」
矢筒から、三本引き抜き、器用につがえるシェーミィ。
「大いなる父君の加護を受けながら、尻込みするのは、親不幸というものだ」
きっぱりという、グランさん。
レンディアが、俺を見る──「この面子だ。大概の事は出来る気がする……どうだ?」
ふん。とレンディアが鼻を鳴らす。満更でもない笑みが、その端整な顔に浮かんだ。
「よし……行きましょうか。地獄だか、魔界だかへ」
「俺が、扉を開けるよ」
芸術品といってもいい扉に、手を掛ける──何の抵抗も、音も無く開いた。
空っぽの部屋。周囲、十メートル以上。先ほどの広場と変わらない広さ──数メートル先から、何かが沸き上がって来る。長方形の壁の様な物が……いや、壁じゃない。これは……門、だ。
極彩色の輝きに彩られた門。直感的に、これが“
縦橫、二、三メートルほどの門から出てきたのは、
金属で補強された膝丈のブーツ。同じく、籠手。手には、三ツ又に別れた鞭──その鞭は、蛇だ。シャアッ、とこちらを威嚇している。
「ぬしら、が。門を開いたとてか?」
頭部に、巻角を生やした、緑ががった髪をした女性。爬虫類を思わせる、縦長の瞳。透き通る様な青白い肌の美貌……
「いいえ。知らないわ」
レンディアが、煽る様に肩を竦める。ピシリ、とロングドレスの女性のこめかみに、青筋が立った。おお……煽るなあ。
「意外と短気ねえ。腹芸の一つや二つ、出来ないのかしら、悪魔は」
空気が、凍った直後──パシィッン! 空が切り裂かれた。ヘルマスターが鞭を振るったのだ。戦闘の合図。
「野良犬は、私とシェーミィ。 グランとクレイドルは、ヘルマスターお願いよ」
「「応!!」」
グランさんが盾を構え、ヘルマスターに向き合う。俺は剣を抜きつつ、グランさんの背後に回る。
「……ほう、なかなかの美丈夫よの。さぞかしその魂、味わい深かろうな……ん?」
だが──「生憎だが、私は面食いでな」
チラリと俺を見るグランさん……何ぞ!?
「……よかろ。ぬしらは私が相手しようぞ。猟犬には、長耳と猫を食わせよう……やれ!!」
パァンッ! と蛇の鞭が鳴る──ヘルハウンドが、吠えると同時に、炎を吐くが……グランさんの張った、対ブレス障壁に阻まれ、散っていく。
「小細工を!!」
さらにキレるヘルマスターを尻目に、レンディア、シェーミィとヘルハウンドの戦闘が始まった。
ヘルハウンド三匹が、突進する──と同時に、三本の矢がほぼ同時に、三匹に突き立つ。
シェーミィの速射。致命打には足りないが、動きを止めるには充分な一撃──ピュシィィンッ。風斬り音──レンディアが風を纏わせた刀を振るった。
ヘルハウンド達が体を切り刻まれ、血を撒き散らし、さらに風圧で押し返された──一匹が踏ん張り、ブレスを吐く予備動作を見せた瞬間、口内と右目それぞれに、矢が突き立った。
ギャウッと、喚くヘルハウンドの首を、レンディアが斬り落とした。
「ふん。タフね」
「速射はねー、どうしても威力落ちるから」
ググルゥゥ、と警戒する、ヘルハウンド二匹。その身からは、血が滴っている──「さて、決着着けるわよ」
レンディアのケープコートが、ふわりと、風を纏わせた。
「おー」
緊張感も無い声を上げながら、シェーミィが矢をギリリと、強く引き絞った──
言霊は暗黒を形にし 暗き槍鋼となる──“
螺旋状の、漆黒の槍が三本顕現し、ヘルマスターに向かって、投げ槍の如く飛んで行くが……一つは消滅、二つめは蛇の鞭に弾かれ、三つめ、胴に命中するも、効いた様には見えない。
上級悪魔の魔力耐性、及び無効化能力だ──「無駄よ、無駄。その程度の魔力ではの」
豊満な胸を反らし、ゴミを払う仕草を見せるヘルマスター。
妖艶な笑みには、はっきりと侮蔑が浮かんでいる。
「ふむ。だろうな……ところで、二対一という事を忘れたか?」
ヘルマスターの表情が、訝しいものに変わる。
「もう一人は、どこ──」
ヘルマスターが、身を捩る。本能か直感か──
蛇の鞭が斬り落とされ、地面に落ちた。
ヘルマスターが、後方宙返りで跳躍し、グラン達から距離を取る──
「ち、腕を狙ったんだが」
地面で蠢く蛇の鞭を、気味悪そうに見る、クレイドル。
「……何処にいた? 貴様?」
まじまじと、クレイドルを見詰めるヘルマスター。
「「傍にいたぞ」」
グランとクレイドルが、同時に言った。
ビキリ、ヘルマスターのこめかみに、太い青筋が浮かんだ。
通算100話記念で、少しくたびれてしまい、間が空いてしまいました……。
Ψ(`∀´)Ψウイィィヒヒヒッ(情緒不定)