邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第91話 グレイオウル領への帰還 呪物鑑定

 

 

 

 衛兵達に見送られ、黒壁回廊監視拠点を後にする。滞在したのは二、三日ほどだったが、濃い日々だった気がする──消息を断った冒険者の冒険者証の回収。ヘルマスター戦。浴場騒動に……スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)の成長。そして、呪物鑑定……専門家に聞く事にするか。

 

 

「たっだいまー!」

シェーミィが、勢いよくギルド内に飛び込む。丁度、正面カウンターで、副ギルドマスターのバルドルさんが仕事をしていた。

「おかえりなさい。相変わらず元気ですね」

微笑むバルドルさん。ナイスミドルの渋い笑みだ。

「ただいま、バルドルさん。早速だけど、採取依頼の“ラミナ草”二束に、追加にもう一束よ」

依頼書と回収袋を、バルドルさんに差し出すレンディア。ふむ、と受け取るバルドルさん。

 

 ラミナ草採取依頼は終了。品質も良く、追加の一束合わせて、報酬は予定額プラス金貨一枚に銀貨三枚の、計金貨三枚に銀貨九枚という事となった。

同時に、黒壁回廊監視拠点からの移動登録をする。

報酬配分は、先の黒壁回廊の収入があるので、パーティー口座に金貨三枚、銀貨一枚を入金する事となった──取り分は、一人銀貨二枚。

 

 バルドルさんに別れを次げ、ギルドから出ると時刻は、まだ昼前。取り合えず宿を取る事になった。俺とグランさんは、灰月亭。レンディア達は──「私達も、灰月亭にするわよ」との事。

「定宿も、いいとこだけどねー。同じ宿の方が便利なのよー」

にひひ、と笑うシェーミィ。 ま、それもそうだな……早速、灰月亭で宿を取る。男女別に二部屋。新しい生活が始まるな……。

 

 一旦、定宿に預けている荷物を回収して、灰月亭に移るという、レンディア達。

早速、灰月亭で滞在手続きをする。一週間単位の手続きだ。

「ありがたいね。碧水の翼の定宿になるとは。名誉だよ」

亭主のラルフさんが、嬉しそうに笑う。

側にいたルーリエちゃんが、むふう、と息を荒くする。

「クレイドルさん、またオウルレイクの果樹園に行きましょうね!?」

ラルフさんが、苦笑する。微笑ましい感じだ。

「うん。あそこのケーキ、美味しかったからね。近い内に行こうか」

これは、本気だ。砂糖とクリームの案配が、前世並みだったんだよな──あの味わい、転生者が関わっていた可能性が有り、と思ったのだ……。

 うひひひ、と顔を赤らめ、ぐねぐねと身を捩るルーリエちゃん……うん、近い内にね。

 

 レンディア達は、灰月亭に移る準備を手早く済ませている。グランさんは、暗黒神の支殿に出向いて行った──よし。ラザロさんに、呪物鑑定の事を聞こう……その前に、黒壁回廊で入手した品を鑑定してからだな。

 

ラザロ中古品店の扉をくぐる。ガラン、と鐘の音──「ラザロさん。黒壁回廊で、色々入手したのを鑑定して欲しいのよ」

レンディアが、黒壁回廊で入手した物をカウンターに出した。

巻物二つ。小袋三つ。瓶二つ。髪飾りにネックレスと短刀──「ふむ。少し、時間を貰うぞ」

 

 小規模の“火炎球(ファイアボール)”の巻物二つ。小袋三つには、小粒の金銀。瓶二つは、魔力回復ポーション。ここまでは、大した物では無かった……「ふむ。この三つは何処で手に入れた?」

髪飾り、ネックレス、短刀を見た時、ラザロさんが興味深そうに言った。

「うん? 黒壁回廊の主部屋(ボス部屋)の宝箱からよ。ちなみに、相手はヘルマスターだったわよ」

レンディアの言葉に、ふむ、通りでの、と答えるラザロさん。

「先ずは、“翠月の髪飾り”。効果は、軽度の状態異常を無効化。状態異常の回復が早くなる、と出た」

翡翠色の石が嵌め込まれた、髪飾り。パーティー名に合ってるな。

「そして、首飾り。“風乗りの護符”。身のこなしが良くなり、風属性が少し、強化されるとの事じゃな」

薄い蒼色の、革のネックレス。風属性強化、か。レンディアにうってつけだな。こういう品は、主部屋に出現する魔物次第なのか? それとも、ダンジョン次第なのだろうか……。

「さてと、短刀じゃが……なかなかの逸品じゃな。“影身の刃(シャドウエッジ)”。効果は抜いたら短時間、影の様な存在になるそうじゃ。まあ、気配を消すといった所じゃろ。猫娘には、うってつけの品じゃな」

なるほどな。いざとなれば、近接戦をすると言っていたシェーミィには、お似合いの品だな。

 

「ラザロさん、ありがとう。ええと、全部で十品の鑑定ね。これ、どうぞ」

レンディアが、金貨一枚を差し出す。鑑定料、一つに付き銀貨一枚。大分、破格だという。

「毎度あり、じゃな」

ラザロさんが、金貨を受け取る。

「道具の配分をしましょうよ。まあ、ほぼ決まっているけどね。ラザロさん、じゃあまたね」

レンディア達が、店から出ていった……俺の話は、ここからだ──「うん? どうした、何ぞ用か?」

「はい……少し、鑑定の事で聞きたい事があるんですよ」

 

 

 ラザロさんと、朝陽食堂で待ち合わせ。朝陽食堂の開店時間は夜。少し早いが、店の近くで看板が出るのを待っている。

 ラザロさんの店は、夕方まで。レンディア達には、特に言っていない。

 灰月亭から、何気なく抜け出した感じだ──ぼんやり待っていると、大将が出て来た。店先に暖簾を掛け、看板に灯りを灯す……よし、行くか。ラザロさんを待たせたくないからな。

 

「今晩は」

暖簾をくぐり、店に入る。大将が少し驚いた顔をする。

「いらっしゃい。今日は早いね」

優しい笑みを浮かべる大将。何か安心する。

「後から、ラザロさんが来ると思います。テーブル席に着いても、いいですか?」

「ああ、構わないよ。奥にどうぞ」

何かを察したのか、あまり声が響かない席に通された気がする。

「果実酒の炭酸割りと、酢漬け野菜下さい」

 あいよ、と大将の返事。

 さて、ラザロさんへの質問をまとめると、特定の物の鑑定は出来るのか、という事になるな……この場合は、呪物鑑定だ。

いつか、邪神から貰った銀色の腕輪。これにはまだ目を通していない。ラザロさんの前で呪物鑑定をして、その後、改めてラザロさんに鑑定して貰うつもりだ──「はい、お待ち」

大将が、炭酸割りと酢漬け野菜を持ってきた。

炭酸の弾ける音が、心地いい……。

 

「ふむ。一通りの鑑定技能を修めたばかりの頃は、鑑定が困難という事は充分あり得る」

ちびり、と黒ワインを口に含むラザロさん。

「それはまだまだ、技能が未熟という事であっての、特定の物しか鑑定出来んという事は無い」

なるほどな。鑑定技能を修めたなら、大概は鑑定をする事は出来るのか……。

「例外があるとするなら……そうじゃの、古代の魔道具や、神器などと伝えられている、強力な力を秘めた品々くらいかの」

ラザロさんは、黒ワインのお代わりを頼む。

「大将、炭酸割り、お願いします……それらの品を鑑定しようとしたなら、どうなるんです?」

「そういう、ある意味で曰く付きの品を鑑定する時はの、熟練の鑑定士数名で、慎重に時間をかけて鑑定するんじゃよ。品によっては一週間、もしくは一月がかりの品もあったの」

豚肉と白菜炒めを口にするラザロさん。黒ワインと果実酒炭酸割りが運ばれてきた。

 

 ふと気付くと、朝陽食堂は喧騒に包まれていた。これくらい賑やかな方が話しやすい……。

「ラザロさん、ここからが本題なんです」

炭酸割りで、唇を湿らせる。ラザロさんは、うん? と訝しげな顔をする。

「呪物鑑定が、出来るようになったみたいです」

ラザロさんが、ワイングラスに口を付けたまま固まった。まあ……こうなるか。

 

「はあ、全く……一体何者じゃお主は。あの魔剣といい……まあ、ええわい。呪物鑑定じゃと? 疑る訳では無いが、証し立てる事は出来るか?」

黒ワインを呷るラザロさん。お代わりと、塩豚の炙りを頼む。俺は、いつぞや邪神から貰った、銀色の腕輪を出す。

「む……」腕輪を見たラザロさんが、顔をしかめる。

「これを鑑定します。結果を言いますので、その後、ラザロさんの鑑定をお願いします」

「よし……よかろう」

 

 

 “闇銀の月輪”──敵意や害意の有る魔力に対しての耐性大。反面、物理攻撃に対しての耐性低下──ふむ。クレイドルの鑑定結果と同じじゃな……。

 確かに、呪物鑑定が出来とる。しかし、この男の場合、物理耐性低下の効果は、恐らく無効。もしくは反転して物理耐性強化になるかも知れんなあ……。

 

「確かに、呪物鑑定出来とる。他の武具なり装飾品は試したかの?」

「はい、一応は。でもダメでしたね。呪物だけです」

バトルアクスに、赤闇の鎧で試したけど、うんともすんとも、何も分からなかった──ああ、そういえば。

「先のある魔剣ですが……成長しましたよ」

果実酒ロックを、ちびりと飲む。

「……明日、それを持って店に来い。改めて、鑑定させてくれ。金は取らん」

「分かりました……強力とは思いますが、ちょっと妙な効果、持ってますよ」

 何故かひそひそ声になる、俺とラザロさん。

 

「あー! いたー!!」

 ガラリ、と朝陽食堂の扉が勢い良く開き、シェーミィが飛び込んで来た。

 後ろから、グランさんとレンディア。

「今晩は、大将」

「ああ、いらっしゃい」

「クレイドル、いつの間にか居なくなったと思ったら、ラザロさんと飲んでたのね」

「うむ。ひそひそと内緒話をしとった」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、グビリと黒ワインを干すラザロさん。

「皆、揃ったんだ。カウンターに移ったらどうだい」

 大将が、カウンターを勧めてきた。

「儂は、もう一杯飲んだら引き上げるかの」

黒ワインを頼み、よいしょ、とカウンターの定位置に陣取るラザロさん。

「ラザロさん、今日は俺にご馳走させて下さい」

「うむ。お言葉に甘えさせて貰うわい」

レンディア達が、それぞれ注文を始める。

「大将。オウルリバー、ロックでお願いします」

「はいよ」

 

 今日は、ためになったな……呪物鑑定、か。

 

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