邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

106 / 245
第92話 グレイオウル領での休暇

 

 

 

夜明け前に、目が覚めた。昨日は結構飲んだのだが、しんどくはない。少しばかり、喉が渇いているくらいだ……水差しとコップに、生活魔法で水を満たす──うん。美味く出来た。

グランさんは、まだ寝ている。起こさないように、タオルだけ持ち、部屋から出る。

 

裏庭に出る裏口から、厨房が見えた。

亭主のラルフさんと、女将のナジェナさん。住み込みの従業員数名が、快活に、忙しなく働いている。

ルーリエちゃんは見当たらない。この時間は、まだ早いんだろうな……静かに、裏庭に出る。

ベンチに座り、魔力制御を始める。深呼吸、三つ。空気が冷たい。もう直に冬だな……ジワジワと、みぞおちから魔力が全身に広がって行くのを、感じる……。

 

 

軽い倦怠感。充分に魔力制御が出来たという事だ……タオルを、生活魔法で濡らして絞る。

水気をある程度取ったら、それで体を拭う。冷たいな……もう冬も近いか。そして「浄化」。湯なり水なりで、体を拭うのは大事だ。その上で、浄化だ……さて、戻るか。もう、陽が上がり始めている。

 

 

部屋に戻ると、グランさんは起きていた。

「おお、早いな。魔力制御か?」

身支度を整えているグランさん。さすが騎士だな。朝が早い。

「お早うございます。さっき、終わったばかりですよ」

そういえば、暗黒騎士は魔力制御はするのだろうか?

「グランさん、魔力制御は?」

「うん? ああ、私達暗黒騎士は、大いなる父君への祈りが、魔力制御にもなっているんだ。魔術師の様に魔力制御をしたなら、信仰に迷いでもあるのかと心配されるよ」

なるほどな。そういうものか……夜、寝る前とか、休憩中にグランさんが祈っている姿、何度か見かけたな。

 

しばし、グランさんと談話中。ココココン、と独特の高速ノック音──「どう」どうぞと言いかけた瞬間には、ルーリエちゃんが超スピードで飛び込んで来た。驚いたグランさんが、ビクッとなった。

「何か、ご用有ります!?」

朝から元気だな。というか、俺だけを見ているのはどうかと、思う。

「そ、そうだな、浴室は使えるかな?」

グランさんが聞く。ルーリエちゃんが、ビクッとなる……グランさんに気付いて無かったのか。

「は、はい。もう沸いていると、思います」

「ルーリエちゃん、お茶を頼むよ」

バッ、とこちらを見て、うん、分かった! と超スピードで飛び出していく、ルーリエちゃん。

「私に気付いて無かったな、あの子……」

開けっ放しになっているドアを見つめながら、グランさんが呟いた……。

 

お茶が運ばれてきた。グランさんとの、一時のティータイムだ。ルーリエちゃんによると、朝食はあと一時間後くらいらしい。

「今日は、鶏肉の雑炊と鶏皮キャベツ炒めに、酢漬け野菜だよ」

「うん、分かった。これ、いつも少ないけど」

いつもの心付け。銅貨五枚。恥ずかしがりながらも受け取るルーリエちゃん。

「では、私からも」

グランさんも、ルーリエちゃんに心付けを渡す。

「ありがとうございます」

しっかりと、看板娘らしい挨拶をするルーリエちゃん。ちゃんとドアを閉め、出て行った……。

「私に対して、態度違わくないか?」

まあ、確かに……うん。

 

朝食まで、まだ時間はあるので一風呂浴びないか? とグランさんに誘われたが、宿舎騒動の事を思いだし、丁重に断った。少し残念そうだったのは、何ぞ?

 

 

“碧水の翼”、揃っての朝食だ。鶏肉雑炊は、薄めの塩味でするすると喉を通る。鶏皮キャベツ炒めの甘辛味に、とても合う……うん。美味い。

「今日一日は、休暇にしましょうよ。気付かないうちに、疲労は溜まっているものなのよ」

レンディアの発言。確かにな……のんびり過ごすのも、いいだろう。皆も、同意見だった。

「さてと、昨日、ラザロさんとこで鑑定して貰った品なんだけどね──」

鑑定品の配分。火炎球の巻物は、いざという時のため、俺とシェーミィが持つ事となった。

魔力回復ポーションは、レンディアとグランさんが持つ。

“翠月の髪飾り”と“風乗りの護符”はレンディアが身に付ける事に決まった。

能力的に、レンディアに打ってつけの装飾品だからな。

影身の刃(シャドウエッジ)”は当然、シェーミィが、身に付ける。

適材適所というやつだ。俺もグランさんも、何も文句は無い──小粒の金銀が詰まった袋は、あとで、カリエラ商会に持ち込み、その売却金は後から分けるという事になった。急ぎでも無い事だ。

 

さて、俺の今日の予定は一つ。成長したスケルトンキラー(元鋼造りのショートソード)をラザロさんに見せる事だ……他には、何だっけか?

 

今日の予定を、各自話し合う。取り合えず、夕食は皆で取る事に決めて、それまでは各自、自由行動となった。

レンディアは、冒険者ギルドでお茶をしながら、ぼんやりと過ごし、そのあと昼寝をするという。シェーミィは、半日寝て過ごすそうだ。グランさんは、暗黒神の支殿で過ごす、との事。

さて、俺はラザロさんの所に行くまで、どうするか……。

カリエラ商会と、ブレイズハンドに顔を見せるのも悪くないけど……ふむ。

「皆さん。お茶のお代わりは、どうですか?」

ルーリエちゃんが、俺達のテーブルにやって来た。

「うん。お願いよ」

レンディアが、微笑む……ああ、そうだ、果樹園の約束があったな。早い内に済ませておこうか……いつになるか分からないしな。

「ルーリエちゃん、昼あとに果樹園に行かないか? 今日は、時間あるんだけど」

ふひっ! とルーリエちゃんが反応する。

「はい、大丈夫です! お昼過ぎは、暇ですから!」

力強く、ルーリエちゃんがいう……おおう、目力強いな。ラザロさんの所には、そのあとに行くとしようか……んっふふふ~、とルーリエちゃんがスキップしながら、去って行った。

「……少女趣味」──シェーミィが、ぼそり、と呟く。

「違うからな。誤解するな」

何て事言いやがる。前世だと、事案だぞ! 果樹園の甘味を知らないだろう?!

 

「まあ、何にせよ。今日はのんびりしましょうよ。夕食時に集まればいいわよ」

今後の事は、夕食の時に話し合おうと決め、解散となった。

昼あとまで、どうするかな……。

 

ラザロさんの所に行くのを優先する事にした。レンディアが言うには、店は朝食後に開くとの事なので、早速向かう。その時レンディアに──「あれ? あなたの剣、そんなだった?」といわれ、まあ、後から説明すると答えた。

明らかに、変わってしまっているからな。鞘が金属製になって、刀身伸びてるし──だが、重さは変わらない……魔剣、か。

 

 

「ふうむ……明らかに、変化、というか成長したと言うたほうがよいかな。鑑定させてもらうぞ」

ラザロさんが、鞘から剣を抜き、まじまじと見つめる──今、店は一時閉店となっている。曰く付きの物を鑑定する時は、こうするそうだ。

「“魂食み(ソウルスレイヤー)”のう……悪魔系に対しての効果、大。悪魔系を始末する事で、一時的な活力を得られる……か。副作用は、衰弱と出た……まあ、お主なら、この副作用は現れんかもな。何となくじゃが」

おお、やはりか……ただ、邪神の下りは鑑定できなかったらしい。まあ、その方がいいかな。

「俺の方も、そういう内容でした」

剣を鞘に戻し、返してくるラザロさん。

「まあ、上手く使いこなす事じゃな。呪物に振り回されんよう、気を付けるがよい」

 

それから、少し呪物について話をして、礼を言って、ラザロさんの店を後にした。

 

 

昼にはまだ早いが、取り合えず宿に戻る事にする。

心地良い喧騒の中を通り抜け、部屋に戻り、剣を棚に納める。グランさんは、まだ戻っていない。

レンディア、シェーミィ共に、昼食はどうするんだろうな?

まあ、ここで昼食を取って、約束通りルーリエちゃんと果樹園だな……煙草盆を取りだし、一服の準備をする──“深風”かな……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。