昼食を取ったのは、俺とグランさんだけだった。シェーミィは宣言通り眠りこけ、冒険者ギルドから戻ったレンディアは、昼食を取らずに部屋に戻って行った。
「よほど、疲れているみたいだな」
苦笑を浮かべ、グランさんはパンをシチューに浸す。所作が、丁寧何だよな。グランさん……育ちがいいんだろう。
昼食のメニューは、鶏肉、白菜に玉葱のシチューに丸パン。そして酢漬け野菜。
うん。シンプルだが、なかなかに量は多く、そして、美味い。
美味い食事は、士気を上げる。兵も冒険者もそれは同じだ。
昼食後の、お茶休憩。グランさんと、とりとめもない会話。その際、ルーリエちゃんがそわそわと、テーブルの周囲をうろついている……ああ、そうだ。果樹園デートの約束だな。
「ルーリエちゃん、お父さんは何て?」
「大丈夫だよ! 夕方前に帰れば、いいんだって! 蜂蜜漬けの林檎パイを、食べに行こうよ!」
おお……ぐいぐい来るな。林檎パイか……美味しそうだな。グランさんは、他人事なので、笑っている。
蜂蜜漬けの林檎パイ──いや、美味かった。蜂蜜の甘さと、林檎の酸味がバランスよく、生地の歯触りも良かった。
これ……先の転生者のレシピじゃないか?
ルーリエちゃんは終始、楽しそうで何よりだった。オウルレイク近くを散歩して、宿に戻った。果樹園に来た理由の一つは、オウルレイクの風景を、しっかりと見る事だった。魔力制御の、勉強になると感じたからだ。
オウルレイク廻りを充分に堪能して、帰宿。丁度、夕方前に戻る事が出来た。例によって、ルーリエちゃんがごねたが。
宿に戻ると、グランさんが、テーブルでお茶を飲んでいた。
「ああ、お帰り。さっき、レンディアとシェーミィが起きてきて、浴場に行ったよ」
テーブルに付くと、グランさんにお茶を勧められる。
「夕食だけど、どこにしようか」
「そうねえ……まだ、行っていない所だと……」
レンディアに尋ねる。“淡水の庭”に“湖畔の庵亭”か。“鶏源亭”の支店もあったな……。
「色々あるけど……まあ、昨日も行ったけど、朝陽食堂にしましょうよ」
レンディアの鶴の一声。まあ、いいか。何を注文するか、楽しみ何だよな……酢漬け野菜以外に、糠漬け出すしな。東国出身と言っていたが、日本か……?
「あれ? メニュー増えた?」
レンディアが、壁に貼られたメニュー表を見て言った。
うん? 鶏定食に豚定食、茸と野菜定食の三種に、豚汁定食。限定十食とある……。
「限定十食とは、人気何ですか?」
思わず、大将に聞いていた。具沢山の豚汁だけで、おかずになるからなあ……。
「試しにやってみたら、なかなかの人気でね。特に米との組み合わせが、とてもいいんだよ」
ああ、確かにな。米と豚汁に漬け物。これで完成しているからな。うむ。
「ふ~ん。じゃ、豚汁定食、米でね」
レンディアが言う。グランさん、シェーミィも同じくだ。俺は、前世の経験があるからな……。
「鶏肉で、丼物出来ますか?」
焼き鳥丼というやつだ──「出来るよ」大将が、不敵に笑う。
ふむ……大将、恐らく──転生者だ。
「果実酒炭酸割りもお願いします。鶏肉丼に、焦がし葱もお願い出来ますか?」
「あいよ。焦がし葱ね」
にやりと笑う大将。決まりだな。俺と同じく、
「え~、何それ!」
豚汁定食を食している最中の、シェーミィが言う。何と言われてもなあ……甘辛のタレがかかった、焦がし葱が乗った焼き鳥丼ですが? うん、美味い。付け合わせは、大根の糠漬け。
炭火焼きであれば、完璧だっただろうが、そこまではさすがに、求められない……美味いな。
箸が進む──「大将。美味しいです」
「おう。ありがとな……丼物のメニュー、増やすかなあ」
何か、嬉しそうに言う大将。次ぎは、豚丼かな……。
シェーミィは、ガツガツと焼き鳥丼を貪っている。よく食うよなあ……。
俺達は酒に移っている。レンディアは、オウルリバーの炭酸割り。グランさんは黒ワイン。
早く来たので、客は今だ俺達だけ……喧騒も悪くないが、いい空間だな。
「あと一つのダンジョン、“武人の練武場”だったな。そこに行く予定は?」
グランさんが、黒ワインを傾けながらレンディアに尋ねる。
「う~ん。どうかしらね。あそこは実入りはそこそこなんだけどね」
「どういう品が出るんだ?」
武人というくらいだから、武具関連かな?
「そうねえ……兄上と行った時は、武具ばっかりだったわよ。あと魔石は、単純な魔力属性だけだったわよ」
「レンディアはともかく、魔導卿からしたなら、武具は必要無いだろうな」
「いや、無骨な武具ばっかりで、全部ドルヴィスさんとこに持ち込んだわよ。魔石は、兄上の取り分になったわね」
ラーディスさんが言ってたな。魔力属性の魔石は、なかなか入手しにくいと。
「“武人の練武場”ねー……難易度としては、どんなものなのー?」
焼き鳥丼を完食し、口元に飯粒を付けたシェーミィがいう。ケフゥ、と小さなげっぷをした。
「そうねえ……中級って感じよ。全五階。二階までは盾兵。三階からは、両手武器に、槍兵も交じるわね。そこから下は、弓兵も加わるわよ。少しづつ人数も増えていくわね。五~十五くらいね」
「集団戦闘の経験が積めそうだな」
暗黒騎士のグランさんが、興味深そうにいう。
「うん。グレイオウルの衛兵達が、演習として、定期的に潜るわよ。たまに、帝都からも新兵が来るのよ」
レンディアが、シェーミィの口元を拭いながらいう。むー、とシェーミィが唸る。
ガラリ、と扉が開き、巨漢が入ってきた。ドルヴィスさんだ。
「今晩は大将。よう、お歴々」
「今晩は、ドルヴィスさん。今ちょっと、ドルヴィスさんの話をしてたわよ」
「あん? 悪口か? 大将、蜂蜜酒と鶏肉料理頼む」
「ううん。フラれてやけ酒して、泥酔した挙げ句、兄上に女性を紹介してくれと、泣きついた話を今からしようと、思っていたわよ」
大将が、ふふっ、と笑った。
「お嬢、その話は止めろ。離婚歴のある年増の女官長の事は、忘れたい」
苦々しく言う、ドルヴィスさん。蜂蜜酒を持ってきた大将が、笑いを噛み殺している。
「鶏とジャガイモの煮物お待ち」
「おお、煮物か。いいね……この太葱、美味そうだな」
ドルヴィスさんは、焦がし葱を見つめる。焼き鳥丼の葱だな。美味いですよそれ……。
「そういえば、“武人の練武場”で入手した武具を持ち込んだ事あったわね。あれの質ってどんなものだったっけ?」
レンディアの質問。煮物を、美味そうに口にするドルヴィスさん。太葱が、ざくりとなる。
「う~ん、確か、中級品てとこだったな。ラザロさんのとこに持ち込んでも、似たような値段になったろうな」
ぐい、と蜂蜜酒を干すドルヴィスさん。
店が、そろそろ騒がしくなってきた。うん、いい喧騒だ……あれ、いつかの水商売の女の人だ。男性と一緒だな。同伴出勤? 俺に気付いて、ウィンクをしてきた。
喧騒の中、しばらく酒食を楽しむ。ふと、ある事を思い付いた。
「大将、酢と味噌ありますよね?」
「うん? あるよ。どうした?」
「マリネの酢味噌和え、出来ますか?」
酢味噌和え。前世で、沖縄出張の時、居酒屋でマグロの酢味噌和えを何となく頼んだら。やたら、酒が進んだ経験があった──「酢味噌和えか……しばらく待ってくれないか。色々、試してみるよ」
大将が、面白そうに言った。おおう、楽しみだ。酢と味噌のバランスが、少し難しいかもしれないですよ、とアドバイスをした。
翌日、宿での朝食後。ゆっくりとした、お茶の時間。
「今日はどうする? まだ、休暇の続きか?」
上品な仕草で、ティーカップを摘まむグランさん。
「う~ん。そうねえ……取り合えず、冒険者ギルドに行ってからね。面白そうな依頼があれば受けて、でなければ“武人の練武場”にでも、出向こうかしらね」
武人の練武場に、興味あるんだよな。集団戦闘を、まだ学びたい……。
「取り合えず、冒険者ギルドに行ってからねー」
シェーミィが、明るく言った。
冒険者ギルド内には、大した依頼は無かったが──レンディアが、捨て置けない依頼が合った。
特殊依頼「衛兵救助。武人の練武場」 と。
「この依頼──」
「いいよー。受けようよ。ご領主に感謝されるかもねー」
にしし、と笑うシェーミィ。
「私は、構わない。“武人の練武場”を知りたいしな」
とグランさん。俺も両名に同意見だ……武器はバトルアクス、かな。
「準備が済み次第、出発だな。お嬢」
「ええ……行きましょうよ。シェーミィ、依頼を受けてきて。その後、準備用意」
レンディアが、不敵な笑みを浮かべた。
コンゴトモヨロシク。
Ψ(`∀´)Ψウィヒヒヒ