邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第96話 武人の練武場 乱戦突破 その後

 

 

 

広場に到着。まだ、ブリッジスさん達は来ていない。

「……遅いわよね。何かあったのかしら?」

小休憩中。さすがに、魔道コンロは使わない。干し果物と、生活魔法での水のみ。

「シェーミィ、ちょっと様子を見て来て」

「はいはーい」

シェーミィは、素早く反対側の通路に駈けていった──ふうん、と何かしら考えこむレンディア。

「ブリッジスさんは、頼れるベテランだけど、若手連中がねえ……」

「今は、シェーミィを待とう」

グランさんは、レンディアの言葉に頷き、干し果物を口に運ぶ。

 

ピューイィィ~、ピューイッ!

 

甲高い口笛。いや、シェーミィの指笛か……。

「緊急の合図だな。合流しよう」

水を飲み干し、立ち上がるグランさん。ケープコートを纏い、結び直すレンディア。

黒鷲の兜を被り直し、フェイスガードを引き下ろす。

良し……急いだ方がいいだろうな。

 

 

「退け、自分の身を守る事だけ考えろ!」

黒金(くろがね)の全身鎧。ラウンドシールドにロングソード。“うろつく鎧(リビングアーマー)”だ──来たれ 礫 かの者らを穿て──“散弾の石塊(ロックブラスト)

立て続けの打撃音が、廊下に鳴り響く。

拳大の石塊が、散弾となってうろつく鎧達を穿つ。

 

「ち……硬いな。負傷者を、さっきの部屋に運べ!」

先ほど確認した空き部屋に、避難するよう指示を出す。十人の若手。早くも負傷者が出た。

大した怪我じゃない。たかが、骨折だ──お嬢達と合流したなら、手当てを頼もう……馬鹿が怒らせてしまったが──「急げ! 他の連中は、俺の左右に着け!」

散弾の石塊は、魔法生物にはあまり通用している様には見えんな……やはり、直接打撃か。

うろつく鎧の数は、六体。今さらだが、やはり、一人前を連れてくりゃよかった──ガアァン! 向かい合っているうろつく鎧の後方から、打撃音が聞こえた──お嬢達か?!

 

 

ブリッジスさん率いる、若手部隊は明らかに混乱しかけていた──「急げ! 他の連中は、俺の左右に着け!」ブリッジスさんの声に、慌ただしい動きを見せる、若手部隊……。

「クレイドル、グラン! 仕掛けて!!」

レンディアの指示。バトルアクスを肩担ぎにして、後方の、うろつく鎧に飛び掛かる──その頭部に思いきり、バトルアクスを薙ぎ払う。

ガアァン! 背後からの、確かな一撃。うろつく鎧の頭部が吹き飛び。そのまま崩れ落ちた。

「鎧の隙間を狙って!」

レンディアの声。グランさんが、今だ振り返らぬうろつく鎧の首筋に、素早くブロードソードを突き立て、引き抜く。そして、カイトシールドを横殴りに叩き付けた──ガシャン! とその身を崩すうろつく鎧。

 

あと、二体──こちらに気が向いたうろつく鎧の頭部を、ブリッジスさんが斬り飛ばし、ブリッジスさんの左右にいた若手が、慌てた感じで残る一体に切り込むも、盾で払われ、ロングソードの柄頭で殴り倒された──(ちっ)──よくない……実戦、ダンジョン経験無し。よくないな──二人の若手を振り払った、うろつく鎧の、頭上からバトルアクスを、斬り下げる──

 

「お嬢、済まないが……若手連中の治癒を頼む」

「ん……良いわよ。クレイドル、軽傷はお願いよ。グランもね」

多少の打ち身、切り傷、ヒビくらいは治癒出来る自信は有るんだよな。レンケインさんが言っていたな──“治癒のコツはね、ここまでやれる、という気概だよ”と……ちと、若手連中に含むとこは有るが、まあいい。

 

「ブリッジスさん。酷な事いうわよ……若手連中は皆、引き揚げさせた方がいいわよ」

言外に、若手は役に立たないと言ったのだ。グランさんが、ため息を吐いた。

「一階で、この有り様よ。ダメよこれでは……ブリッジスさんと、私達で救助に向かった方がいいわよ」

む……と考え込む、ブリッジスさん。

「教官、俺達はまだやれますよ! 仲間を救助するのに──」

こいつ、ダンジョン入り口前で食ってかかって来た若手だ……骨折治療受けて、喚いていたっけか。骨折治療、痛いからな。

威勢のいい事だな。喉元過ぎれば、てやつか……。

「……大小の怪我治癒して貰って、お礼一つ言って無いわよねー、あなた達。誰達に治癒されたのかなー」

にしし、と笑うシェーミィ。目は笑っていない。シェーミィの皮肉に、場の騒ぎが止む……。

 

「早く決めないと、救助対象の命脈は短くなっていくわよ……」

レンディアの冷徹な言葉に、まだ考え込むブリッジスさん……。

「レンディア、俺達で行こう。時間がもったいない。あと四階層だよな、うろつく鎧の強さはここからも変わらず、装備だけが替わるんだったよな?」

「ん、そうよグラン。ただ装備が替わるという事は、向こうの連携も替わるわよ。それと、人数もね」

盾兵。両手武器兵。弓兵が出現するか……。

 

「グランさんの言う通り、時間がもったいない。“うろつく鎧(リビングアーマー)”の事は、何となく分かった……あいつら、“鈍い”」

「そうよ、鈍いのよ。頑丈で連携は取れているけど、武装スケルトンほどの機敏さは、ないのよ」

「いいから、先を進みましょうよー。埒開かないわよー」

シェーミィの声に俺達は頷く。元々、衛兵救助の依頼だしな。それだけ考えていればいいんだよな……若手連中の事なぞ、どうでもいいんだ。

「ブリッジスさん、若手連中は外に帰して。足手まといになるから」

きっぱりと言う、レンディア。冷徹な判断だが、まあ妥当だろうな……だが、教官のブリッジスさんの心境がなあ……。

 

 

「……分かった。こいつらは地上に帰す。だが、俺も連れて行ってくれるんだよな?」

ブリッジスさんの声。はあ、とため息を吐きながら、レンディアが答える。

「若手連中は、ちゃんとあなたの指示に従えるの? 後を追って来て邪魔になったなら、排除するわよ……」

淡々というレンディア。空気が冷たくなっている──ああ、面倒だ。

「もう、いいだろう。さっさと下に降りよう。 下らない問答は充分だ。依頼には入っていない事はやる必要はない。とっとと降りるぞ」

バトルアクスを担ぎ、先の広場に向かう。冒険者と衛兵のゴタゴタなんて、事が済んだ後でやればいいんだ……。

 

バトルアクスを担いで、広場に戻っていくクレイドル。それを追って行くシェーミィ。

依頼には入っていない事はやる必要はない。つまり、見習い連中の援護──正論だ。

「ブリッジスさん、若手連中の説得に時間かけないでね」

「……任せろ。お嬢、場合によっては、若手を排除すると言ってたが殺しはしないでくれ」

もちろんよ。と肩を竦めるレンディア。

 

二人のやりとりには、グランは口出しするつもりはなかった。依頼人と、パーティーリーダーのやり取りだからだ──(何としても、説得してもらわないとな)──さっきの戦い振りを見る限り、見習い連中は足手まといになる。

さっきの様に、救援をしながら進むのは時間の無駄になる……教官のブリッジスさんに、見習いを見捨てる選択肢は、絶対ないだろう。

 

待つ事数分──「待たせたな。よし、行こう」

若手連中が待機していた部屋から、ブリッジスが出てきた。

「クレイドルとシェーミィが待っているわよ」

緑のケープコートを翻し、レンディアが進んで行く。

その後を追う、グランとブリッジス。

「ブリッジスさん、見習い達は納得しましたか?」

「一応な。さっきの戦いで、半人前に出来る事は無いと思い知っただろ。と言ったよ」

グランと肩を並べて歩く、ブリッジスが言った。

「私は騎士だから、見習い達の気持ちは分かります。見習いの時期は、私もあんな感じだったかも知れません」

「互いに励まし合い、苦楽を共にして、同じ釜の飯食った仲ってのは、馬鹿に出来ないからな……」

「……分かります」

グランは、暗黒騎士団本部のある、王都ダーンシルヴァスを思い出していた。

 

 

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