邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第99話 武人の練武場 四階 命懸けの演習

 

 

 

結局、若手は発見ならず。宝箱は出現したが、手を付けない事になった。価値のある物は出ないし、何よりもかさ張るのが面倒だという。回収品は、魔石のみとなった──「お嬢、宝箱の回収は、いいんだな?」「ん、構わないわ。救助優先よ」

ふう、とため息を吐くブリッジスさん。

 

四階に降りる、階段前広場に到着。小休止をする事になった。魔道コンロは使わず、水と干し果物。そして、ブリッジスさんが持ってきていた兵士用の携帯食。

「意外といけるんだよ。栄養も充分あるしな」

長いブロック状の携帯食──これ前世で見た事あるな。「栄養の友」みたいな名前のやつだ。

うん、不味くは無い。微かに果物と塩の味がする。まあ、食べる時に水分は必要だな……。

 

「久し振りに、携帯食食べたわね……さて、いよいよ四階に降りるけど、槍兵に加えて、弓兵も出現するでしょうね。グラン、盾でのカバー頼むわよ。私も、風の防御障壁を展開するわよ」

「分かった。盾役は任せてくれ」

「ん。シェーミィ、矢には矢よね……任せたわよ」

「はいはーい。最初に減らすからねー」

にひひ、と笑うシェーミィ。頼りになるんだよなあ、シェーミィは……。

「グランさんは盾役。レンディアは、矢避け。俺とブリッジスさん、シェーミィが攻撃役。そういう事でいいのか?」

俺はレンディアに確認する……。

「ん。そういう事ね。皆、どう?」

……満場一致。まあ、そうなるか。

 

 

四階。相も変わらずの、武骨な雰囲気。さて、ここからどうするか……? 降りた早々、先頭を行くグランさんが盾を構えた──ガンッ、何かを弾く音。ふんっ、とグランさんが鼻で笑う。

「レンディア、先制された。数……八体だ」

「ふん。構わないわよ。方針そのまま、クレイドル、ブリッジスさん、シェーミィ、いいわね?」

いいも何もない。やる事をやるだけだ──ブリッジスさんとシェーミィが、笑う。俺が斬り込み役だな……。

 

ガガッ──矢が当たる。鎧越しとはいえ響くな……前衛、盾兵四体に中衛、槍兵二体、後衛、弓兵二体──“徘徊する魔物(ワンダリングモンスター)”のうろつく鎧か……上等だ。

近付いて来る、盾兵を迎え撃つ構えを、グランさんが見せる。腰を落とし、どっしりと構える──四体同時の攻撃を、受け止め、弾くグランさん。さすが、盾役。

グランさんが、真正面からうろつく鎧の攻撃を凌いでいる間に、俺とブリッジスさんが、左右に回り込む。こちらが数に劣る対集団戦は、囲まれないよう立ち回り、端から倒していく──ヒウッ、背後から、耳音に響く風切り音。俺の正面に立つ、盾兵の眼窩、兜に矢が突き立った。

グラリ、とよろめく盾兵に、バトルアクスを叩き付ける。崩れ落ちる盾兵。

その隣の盾兵に、グランさんが盾撃(シールドバッシュ)を強く叩き付け、弾き飛ばした。

ほぼ同時に、ブリッジスさんの剣が、右側の盾兵の喉元を貫いた。

前衛残り二体。槍兵が、盾兵と場所を入れ替えながら、突き進んで来た──ギギィィッン!、火花が散る勢いの、槍兵の突きをグランさんが受け流す。

そこに、後衛の弓兵の矢が飛んでくる──パアッンと弾かれる矢。レンディアの、矢避けの風か──お返しとばかりに、シェーミィの連射が後衛の弓兵に、立て続けに突き立つのが見えた。

俺は、槍兵の懐に飛び込みつつ、その胴を思いきり、薙ぎ払う。確かな手応え──先ずは、一体。

そのまま突き進み、後衛の弓兵を始末してやる……シェーミィの矢を受けた弓兵は、すでに崩れ落ちていた。残る一体が、矢をつがえ、俺を狙って来たが……近い。この距離では近すぎる。

ビィンッ──矢の風切り音を聞きながら、一歩踏み込み、バトルアクスを振るう……決着も間近だ。

 

 

「ブリッジスさん、先走った若手の事だけど、うろつく鎧の目を掻い潜って、進むだけの実力はある?」

「……いや、無いな。逃げるしか選択肢は無いだろうな」

レンディアの質問にはっきりと答える、ブリッジスさん。

「何か変なのよ。“徘徊する魔物(ワンダリングモンスター)”との戦闘が多いのよ」

うん? と首を捻るブリッジスさん。

「一階から、ここ四階までワンダリングモンスターに連続して出会うというのは、大袈裟にいうと変なのよ」

確かにな、いくつかダンジョンの経験はあるが、こんな風に階層事にワンダリングモンスターと鉢合わせした事は、そうは無かった……何か理由でもあるのか……ああ、もしかして……?

「逃げ回っている、若手連中を探しているんじゃないのか?」

 

……沈黙。レンディアは、顎に手をあて考え込んでいる。グランさん、ブリッジスさんもふむ、と考えている。

シェーミィはマイペースに、干し果物を口にし、クピクピと水筒を口に含んでいる。

「あり得ない、とは言えないのがダンジョンの分からない所だな」

「……なるほどな、探し回っている、か。ダンジョン、迷宮の事は良く分からんが、そういう事も有り得るのか?」

グランさんとブリッジスさん。レンディアが、頷く。

「うろつく鎧が出ているという事は、まだ若手三人は生きていると考えてもいいと思うわよ……まあ、憶測でしかないけどね」

なるほどな。その若手三人を探すために、うろつく鎧連中が、“徘徊する魔物(ワンダリングモンスター)”として徘徊しているという事か……?

「まあ、ともかく四階の捜索を続けましょうよ。先と同じ様に、皆で一緒に移動しましょう」

よし、と先に進む事になった。

 

 

四階を一周した結果、各部屋に若手は発見ならず。うろつく鎧も居なかった。と、なれば……五階層、か。

「さ、とっとと広場に向かいましょうよ。何にしろあと三名を見つけないとね……グラン、ブリッジスさん、クレイドル、先行して」

グランさんを先頭に、俺達は先に進む……さて、残る三名の状況はどんなものか……?

「あっと。五階に降りる前に言っておくわよ。五階は、今までの円状ではなく、主部屋(ボス部屋)まで、一直線に通路が伸びているのよ。通路左右に、部屋が三つずつ。これは変わらないわよ」

なるほどな。二手に別れずに進む事が出来るのか……そろそろ、うろつく鎧の数もさらに増えて来るかもな。多くて十五体と言ってたか……三倍差か。広場なら囲まれる危険があるが、通路なら立ち回り次第で、充分、太刀打ち出来るだろう……。

「やれやれだ……見習いどもには、命懸けの演習だな」

ブリッジスさんが、剣帯を締め直す。

「最下層に行く前に、休憩しましょうか。十体以上の集団が出てきても、おかしくないわよ」

 

五階に降りる、階段前広場でしばしの休憩。

「レンディア、踏破は考えているのか?」

少し気になったので、訊ねてみる。レンディアが、ちらりと俺を見て言った。

「……考えているわよ。兄上と来た時も踏破したけど、このパーティーで踏破したいのよ」

レンディアは、階段を見つめながら、独り言の様に呟いた……。

主部屋(ボス部屋)にいるのは、どんなのだ?」

「二メートル越えの黒金のうろつく鎧。兄上は鋼の騎士と呼んでいたわね。そして、三体の白いうろつく鎧だったわよ……並みのうろつく鎧よりも、手強いはずよ」

鋼の騎士、か。白いうろつく鎧は、精鋭てとこか……何か楽しみだな。

 

クレイドルの瞳が、赤く瞬いたのを誰も気付かなかった。

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