_φ(゚Д゚ )
「お嬢、治癒を頼む」
ため息混じりに、ブリッジスさんがレンディアに頭を下げる。
「頭を上げてブリッジスさん、頼まれるまでもないわよ……グラン、手伝って」
「了解……なかなかに酷いな」
広場に横たわる、三名の若手連中。頭部に血がこびりつき、荒い呼吸をしている者。
捻れた腕を押さえ、身動き一つしない者……ボロボロだな。見えないだけで、他の箇所にもダメージはあるだろう。
俺の軽治癒では、間に合わないだろうな……。
何が腹立つって、リーダー格の……ええと、何だっけか? エルランだっけか……ほぼ無傷らしく見えるのが、腹立つ。
歳は、十六、七って感じか。整った顔立ちの若手……腹立つな、うん。
「エルラン、後は地上に戻ってから──」
ブリッジスさんが、いうより早く、手が出ていた──ガツン。確かな手応えが拳に伝わる。
エルランの体が揺らぐ。倒れない様に襟首を掴み──殴る。殴る。叩き、殴る……。
「まあ……それくらいでいいだろ」
ブリッジスさんが、腕を押さえてきた……ふう、と息を吐く。
よくもまあ、のうのうとしていられるものだな……と思った時には──手が出ていた。
仲間を置き去りにし、挙げ句に最下層まで怪我人を引きずって来た。
これが、リーダーとしての行為か。小遣い稼ぎの果てがこれだ……何様のつもりだ、こいつは……その感情が、形となって出てしまった。
何の抵抗もせずに、俺に殴られるままになっていたのは、呆気に取られての事だっただろうな──端整な顔立ちが、腫れる。
「死人は出ていないが……くそったれめ。それでリーダーか。よくもまあ、仲間を置き去りに出来たものだな」
「クレイドル、せめて籠手を外して殴りなさいよ……」
ああ、そうか。籠手のままだった……まあ、いい。
さて……ここからが本番になる、のか?
「ここまで来た以上は、踏破するわよ。鋼の騎士に、取り巻きの白き精鋭を始末する……それで、いいわよね」
レンディアの声に、俺達は頷く。ブリッジスさんもだ。
「おい、ここで大人しくしてろよ。治癒して貰ったからといって、くだらない事を考えるな……いいな?」
ブリッジスさんが、若手連中に言う。青い顔で頷く、若手連中……俺が殴った若手、エルランは俯いている。
城の鉄城門にも似た、大きな扉を前にする俺達。グランさんが口を開く。
「レンディア、私達は水の精霊の加護を受けているが、大いなる父君の加護を受けたなら、どうなる?」
「う~ん……被る加護があれば、後から受けた方が優先されると思うわよ。じゃなければ、強い方が優先されると聞いているわよ」
ふむ、とグランさんが頷く。
「……では、大いなる父君に加護を頼もう。少しばかり、待っていてくれ」
グランさんは、剣を胸元に掲げて俺達に向き合う──大いなる父君 我と我が友に 寛大なる慈悲と加護をお与え下さい──低い声で祈祷の言葉を囁くグランさん。
シェーミィも、神妙な面持ちで顔を伏せている。気持ちは分かる……おお、力が体の隅々にじわりと染み渡る気がする……。
「さて、門を開くわよ……鋼の騎士と白の精鋭は、手強いわよ。騎士は私とクレイドル。精鋭は、グランにシェーミィ、ブリッジスさんお願いよ……いいわね?」
おう、とグランさん達が頷く。レンディアが、門にそっと触れる……音も無く、鉄城門がゆっくりと開いてゆく。
何ともいえない緊張感に、思わず笑みが浮かぶ──ふっふふっ……いかんな、何か楽しくなってきた──〈あっははは! 鋼の騎士はねえ、悪魔系に近いんだよお。始末したら、“
緊張感、無くすなあ……まあ、肩の力が抜けたと思えばいいか。やる事をやるだけだ。
俺とレンディアで、鋼の騎士を討つ──それだけ。たったそれだけの事だ……。
さらに目に付いたのは、その目……モノアイ、いわば単眼。兜の隙間から覗く単眼が、じっと俺達を見つめている──ヴンッ、という感じでその単眼が青く光った──敵として認識したか……。
鋼の騎士の前には、白い
ガッシャ、と三体の白の精鋭が前に出る。
背後の鋼の騎士が、ゆっくりとハルバードを頭上に掲げ、振り下ろす──風鳴りと同時に、強い圧力が闘志となって、伝わって来た──ん?
鋼の騎士と、目が合った……この感じ、どこかで……ああ、思い出した。蠱虫の洞窟で相対した、あいつだ。赤闇の兇殻は、俺を睨み付けた直後、真っ先に向かって来た。
邪神、曰く──(悪魔は、僕たち神々を目の敵にしてるからね~。僕の息子たる君は、狙われやすくなるよ~)──との事だったな。
白の精鋭達が、速度を早め向かって来た。鋼の騎士は、不動。
「さて、戦闘開始よ。グラン、ブリッジスさん迎撃お願いよ。シェーミィ、牽制と隙あれば仕止めて。クレイドル、グランとブリッジスさんが迎え撃ったなら、鋼の騎士に向かうわよ」
承知、と俺達は応える。グランさんはいつもの様に、どっしりと構え、ブリッジスさんの雰囲気が変わった。身体強化を済ませたのだろう──よし、やるぞ……〈んっふふふ! 楽しくなりそうだよね~、こうも立て続けに、対悪魔戦が出来るなんてね~あっははは! “
パパ上!? うるさいんですが!?
ガシィン!! 早くも、前衛がぶつかった。
「むっ……レンディア、クレイドル! 行け!!」
グランさんの声。グランさんとブリッジスさんの横をすり抜け、俺達は鋼の騎士の元へと、駆け出す──待ってろよ、騎士殿。
鋼の騎士の、俺に対する圧がさらに強まるのを感じた。
フェイスガード内の、クレイドルの表情は獣めいていた……その瞳は、赤く輝いている。