部屋の奥に、白く柔らかい光を放つ、魔方陣が出現していた──帰還陣か。
「お嬢、あれが帰還陣というやつか?」
「ん。そうよ。ちなみに、使用するまで消えないわよ」
「……なるほどな。そういう事なら──」
「そういう事よ。上の階に待機させている若手を、連れて来るといいわよ」
相変わらずの先読み会話で、ブリッジスさんと話すレンディア。
「よし……ちょっと行って来る。外で待たせている見習いを、中に入れるぞ」
ん。と頷くレンディア。ブリッジスさんは、早速、部屋から出ていった。
「クレイドル、調子はどうだ?」
心配そうに、グランさんが尋ねてくる。
「ええ、怪我も無いですし、少し眠れましたから」
ふむ、と頷きながら、グランさんが革袋を差し出してきた。中身は水ではなく、黒ワインだそうだ──「頂きます」
二口、貰う。気付けに良いそうだ。ダンジョンの中での酒……悪くないな。グランさんに礼をいい、革袋を返す。
「一日事に入れ換えないと、酸味が強くなるのが、欠点だがな。革袋の防腐処置も、酒にはあまり効果が無いんだ。手入れも、少し面倒だしな」
そう言って、革袋を口に含む、グランさん。暗黒騎士といえば黒ワインか……様になっているな。
少しして、ブリッジスさんが外で待機していた若手三人を、連れて来た──リーダー格のエルランだっけか?
俺を見て、びくり、と肩を竦める。ちょっと前に、お前をボコボコにした罪悪感なんて、無いからな……。
「お前ら、ここで待機していろ。お嬢、こいつらを見といてくれ。じゃ、行って来る」
再び、部屋から出ていくブリッジスさん。
さて、残された三人組は針のむしろだろうな。まあ……俺達が気を使う必要ないな。
鋼の騎士と白の精鋭が落とした魔石を、レンディアが回収している。シェーミィが、必要以上に持ち込んだ干し果物をエルラン達に配っている。
ぎこちなく、礼を言って受け取っている若手連中。干し果物は、多少の腹の足しになるし、渇きも抑えられるからな。でもなあ──親切心だけではなく、在庫処分のつもりで配っているんだよな、あれ……もう少し、横になっておくか……。
思った通り、ブリッジスさんに連れて来られた三名は、部屋の片隅で縮こまっている。表情を見るに、自分達のやらかした事を、改めて思い返している様に見える……そうでなければ、ただの馬鹿どもだ。
クレイドルは横になっている。まだ万全ではないのだろうな……まあ、いい。ブリッジスさんが戻るまで、私達も休憩だな。
「シェーミィ、干し果物と干し肉を出して。ああ……クレイドルは眠らせて置きなさい。休憩よ、休憩」
黒ワインを一口含み、レンディアとシェーミィの元に行く。クレイドルは、今だ眠ったままだ。
「待たせたな」
ブリッジスさんが、二名の見習いを連れて戻って来た。大人しく待機していたようで、何よりだ……さて、そろそろ撤収だな。
「いえ、気にしないで。じゃ、撤収ね。グラン、クレイドル起こして」
「ああ」
地面に横たわるクレイドル──疲労しているとはいえ、よくここまでぐっすりと眠れるものだな。
「撤収だ。クレイドル、起きろ──」
う~ん、と寝返りをうつクレイドル。
寝顔を、直視してしまった……ぞくりと、鳥肌が立つ──輝く様な金髪に、白磁の肌。美しく整った目鼻立ち……何より、薄紅色の唇──美貌という例えでは足りない。妖艶? いや違う。言葉では、表現出来ない……その顔、唇に触れたくなるのを、何とか自制する──「クレイドル、撤収だ。起きろ」
少し強めに揺する。この顔を、いつまでも見る事は出来ない……「クレイドル、起きろ」
「ん……ああ、グランさん。どうしました」
う~ん。少しばかり、寝入っていた様だな……ふう……活力吸収の昂りも収まり、悪い気分ではない。というか、グランさんが顔を背けているのは、何ぞ?
「……撤収だ。五名全員の無事を確認出来たのでな」
「分かりました」
グランさん、何か顔が赤いな……何ぞ?
「さ、依頼完了よ。地上に戻りましょうか。ブリッジスさん、若手連中集めて」
レンディアが、ブリッジスさんに声を掛ける。
「さて……戻るか。お前ら、戻ったら覚悟しておけよ……」
ブリッジスさんが、若手連中に言う。まあなあ……とことん、絞られるだろうな。
ゴゴゴゥゥン──一階層、出入口近く。武人の練武場入ってすぐの空間の、壁が開いた。
そこから出てきたのは、五名の見習い連中に訓練教官のブリッジス──そして、レンディア嬢率いる、“
「若手救助次いでに、踏破してきたわよ……あと、踏破には若手連中は一切関わってないわよ」
武人の練武場の出入口に待機していた、衛兵達に、ひらりと手を振るレンディア。
「お嬢の言った通りだ。見習い連中は、何の役にも立っていない」
ブリッジスさんが、きっぱりと言う。
まあ、そうなんだよな。だが……それを一々言う事はないだろうに……まあ、これがブリッジスさんのやり方であり、衛兵達には衛兵なりのルールがあるのだろう。
「報酬は、キールから受け取ってくれ……見習い連中が一人も欠けなくて、安心した。気が楽になったよ。碧水の翼には、感謝しかない。ありがとよ」
沁々と、ブリッジスさんが言う。
「まあ、仕事よ仕事。若手連中も、いい経験したと思うわよ」
「まあな……もっとも、何日かは訓練がキツくなるだろうな」
ニヤリ、と笑うブリッジスさん。
早速、キールさんのところに出向く事になった。
「レンディア、報酬を受け取ったらどうする? 私としては、一泊して街に戻った方がいいと思うが?」
「ん~、そうねえ。もう夕方だし、宿舎に宿をお願いしようかしら」
黒壁回廊の時のように、宿舎を借りる事が出来るか? 黒壁回廊といえば、風呂の事を思い出した……。
「キールさん、依頼完了よ。若手連中に被害無し。全員、無事よ」
レンディアが、キールさんに伝える。ふう、とため息を吐く……「そうか。うん……お嬢、いや、碧水の翼はさすがと言っておくよ……」
「お願いがあるのだけれどね、一泊して街に戻りたいのよ。宿舎に空きがあったらなら、私達を泊めて欲しいのよ」
うん? とキールさん。何を言っているんだ? と言わんばかりの表情。
「態々、かしこまらないでもいいぞ、お嬢。四人部屋でいいか?」
「うん。お願いよ」
「直ぐに用意させる。ああ……報酬だな。ちょっと事務所まで来てくれ」
見習い連中の救助依頼の報酬──金貨二十枚。最悪、全滅していても身分証を回収すれば、報酬は変わらず──破格では? と思えるほどだ。
「ほら、金貨二十枚。お嬢、きちんと数えてくれ……全く、見習い連中の給料の、約十ヶ月分だぞ」
見習いの給与、月に金貨二枚に銀貨二枚との事だそうだ。これって中々の給与だよな?
まあ、いいか……報酬には、何の問題はない。
衛兵宿舎に移動。部屋は一階。黒壁回廊と同じか……一風呂浴びるのは、夕食後がいいかな。
「お腹空いたわね……クレイドル、浄化お願いよ。そのあと、外食にしましょうよ」
それに、決まった。ちゃんとした風呂なりシャワーは食事のあとかな。
さて、ここの食堂はどんなものだろうか。楽しみだ……荷物を置き、浄化を終えて普段着に着替えて外に繰り出す。
食堂の他に、雑貨屋兼武具店に、冒険者ギルドの出張所もあるんだよな……拠点として、領主から重要視されているという事なのだろうな。
感想あれば、是非。
Ψ(`∀´)Ψ ウィヒヒヒ 否定も多様性!!