邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第105話 碧水の翼とクレイドルの昇格

 

 

「まあ、しばらく領内で、のんびりしましょうよ」

冒険者ギルド内。夕食後──喫茶室で、食休みのお茶を楽しむ。

 

茶を啜りながら、レンディアがいう。ここの所、忙しい感じだったからなあ……休暇の予定をどうするか、ゆっくり考える時間はある。

帝都に行く前に、ギルラド領に寄るのもいいか? 四季の庭園──だっけか。

箸を買った、巻きスカーフの行商人から聞いたな──『ギルラド領に行くのだったら、四季の庭園は行くべきだよ』──と。ふむ……帝都かギルラド領か──「グレイオウル領から、帝都とギルラド領、どっちが近いんだ?」

 

「う~ん、そうねえ。ここグレイオウル領からなら、ほぼ北上するだけだから帝都が近いわよ」

レンディアが、焼き菓子を摘まみながら答える。

「逆に、帝都からグレイオウル領に向かうなら、南下しつつ山を迂回してギルラド領近くを通過する街道がある。少し遠回りになるんだが、その街道が優先されるんだ」

グランさんが、レンディアのあとを次いで言う。

理由は兵站街道。覇王公時代から変わらぬ街道が理由になっている。

つまり、グレイオウル領からなら帝都はほぼ、直線距離。だが、帝都からグレイオウル領に向かうなら、ギルラド領を通過した方が速いらしい。

グランさん曰く、覇王公の戦略の一環で、南部方面に侵攻するための兵站が、整えられている名残だとの事だ。

「各都市の防備は完璧。帝都からの援軍が、多少遅れても問題は無い。逆に侵略するならば……速ければ速いほどいいとの考えらしいな」

その考えが現在も残っているのが、凄いな……覇王の威光、今だ消えずか。

 

 

早朝。陽はまだ上がっていない……魔力制御の時間にうってつけだ──宿の裏庭のベンチに胡座をかいて座る。目を閉じ、深呼吸を一つ、二つ……じわりと、胸の中心から魔力が体に広がって行く感覚……いいぞ──遠くに、鳥の鳴き声が聞こえる……。

 

部屋に戻ると、誰もいなかった。朝食にはまだ早い時間なので、シャワーか風呂だろうな。

よし、一服だ……“深風”か“西砂”、どっちにするか──ココココン! 独特のノック音。

ルーリエちゃんか。俺が裏庭から戻ったのに気付いたのかな?

「どう──」

バン! ルーリエちゃんが、一体現れた!

どうぞと言い終える間に、相変わらずの超スピードでルーリエちゃんが飛び込んで来た。

「なに──」

「あーと、お茶を頼めるかな」

ルーリエちゃんの、先行行動には先読みだ。

「ちょっと待っててね!」

またも、超スピードで飛び出して行ったルーリエちゃん……ドアは閉めようよ。

 

お茶を受け取り、礼を言って銅貨五枚をチップにと渡す。うへへ、と照れ笑いながら受けとるルーリエちゃん。一服は、お茶のあとだな……。

 

 

皆が集まり、朝食の時間となった。ベーコンエッグ、付け合わせの塩茹での野菜。玉葱のスープに丸パン。そして酢漬け野菜──文句の無い朝食だ。

「今日の予定は取りあえず……そうねえ。武人の練武場で手にいれた、剣と面頬の鑑定ね」

「休暇予定が入っているから、依頼は無し。それでいいな、レンディア?」

グランさんが、炭酸水のグラスを口に含む。

ん。と頷くレンディア。くうわぁぁ~、と大あくびをするシェーミィ。

今日は、時間は充分にある……さて、俺はどうしようか。

 

朝食後のお茶の時間。帝都の話を少しばかり聞く。とにかく広く、三日がかりでも観光を終える事が出来ないほどだという。

見るべき箇所は数多いが、先ずは帝都美術博物館だそうだ。レンディアがいうには、「まあ、博物館も一日では、とうてい廻りきれ無いけどね」

「港区もねー、見るとこ沢山あるよー。貿易船見学するといいよ。凄いから」

一番は新鮮な魚介類だけどねー、にひひと笑うシェーミィ。まあ、シェーミィらしいな。

 

「冒険者ギルドの人が来てるんだけど。案内していい?」

テーブルに、ルーリエちゃんが来た。ギルドから? 何ぞ?

「ん。私が話を聞くわ」

席を立つレンディア。こっちだよー、と案内していくルーリエちゃん。

何だろうな? と残った三人は、顔を見合わせる。

 

 

「リンベルさんが、ギルドに来てほしいとの事よ。大切な話があるので、“碧水の翼”で聞いてくれとの事よ」

席に着き、レンディアがルーリエちゃんにお茶のおかわりを頼む。

「大切な話、ね。まあ、悪い話じゃないよねー」

くぴくぴ、と果実水を飲むシェーミィ。

 

 

ギルドマスター室。二度目の来訪だ……前に来た時には気付かなかったが、壁には様々な武器が架けられている。

一際目立つのは、棚の中に納められた二振りのロングソード──朱色の鞘。やや、反り身の剣。

「クレイドル、あれが気になるかい?」

リンベルさんは、ぷかり、と朱色の煙管を吹かす。ふわりと、煙が窓を抜けて行く。

「ま、その話はまた今度だね。バルドル」

 

リンベルさんの隣に座る、副ギルドマスターのバルドルさんが頷き、レンディアに告げる。

「碧水の翼に、グレイオウル伯からの感謝状が届いています。衛兵救助の件についての事です。一兵損じなくの救助、感謝する──との事です。お改め下さい」

バルドルさんが、リーダーのレンディアに感謝状、つまり感状を差し出す。

ふん、とレンディアが感状を受けとり、目を通すとバルドルさんに返す。

「慎んで、感状をお受けします」

レンディアの返答に、リンベルさんとバルドルさんが頷く。

「この感状は、ギルドとあんたら、碧水の翼の箔付けになるからねえ。喜んで飾らせてもらうよ」

くくく、と笑い、煙管に煙草を詰めるリンベルさん。バルドルさんが、口を開く。

「これまでの功績につき、レンディア、グラン、シェーミィの三人は中級のCランクに昇格です。そして、クレイドル。あなたは初級のAランクに昇格です。四人とも、冒険者証明書を提出して下さい。今、ここで更新します」

おう。三人はベテランになったという事か。そして、俺は初級Aランクか……ジャンさん達に報告したい気分だな。

 

冒険者証明書の登録が済んだ。カード自体は変わらない。ランクが変わっただけだからな。

初級Aランクの二枚羽根。やはり、これも変わらないか。

「うん。何か実感湧かないよねー」

シェーミィが、証明書を陽にかざしながらいう。まあ、そうだよな。

級が上がらないと、カードも変わらないだろうしな。中級のカードは、銀縁で囲まれた白の札。ランクと名前が刻まれている。

 

「頑張りな。期待してるよ」

リンベルさんの激励の言葉を受け、冒険者ギルドを後にする。

「ふふっ、私達もとうとうベテランね。クレイドルも、近い内にそうなると思うわよ」

嬉しそうにいうレンディア。グランさんにシェーミィも、カードを見つめている。

冒険者として、一区切りという事何だろう。

次の拠点は、帝都になるのかな……。

 

「ラザロさんのとこで、鑑定を頼みに行くわよ。宝石の小袋はカリエラさんの所に持っていって、売却ね。それとお金の小袋は山分けね」

ふむ、とグランさんが頷く。

「まあ、昼食を食べてから今後の話をしましょうよ」

まずはラザロさんの店に出向き、剣と面頬の鑑定。宝石と金の小袋は、カリエラさんの店で、換金次第で山分け、という事になった。

 

 

「ふうむ……面頬は“黒牙の威風”と出たな。なかなかの逸品じゃな。獣、魔獣に対して優位になり、毒物耐性も有りじゃな」

獣、魔獣に特攻で耐毒か。いい防具だな。

「ふん。グランが使うといいわよ。真っ黒だし」

黒い面頬を持ち、満更でもなさそうに見つめるグランさん。括り紐も黒なんだな……。

「さて、この剣は……フム、無銘ではあるが、これもまたいい品じゃな」

剣を抜き、まじまじと見つめるラザロさん。

「衝撃属性に刺突強化。二属性持ちの名剣じゃな。良い物を拾ったの」

ほれ、とグランさんに渡す。受け取ったグランさんが、おお……と声を上げる。

「おー、似合ってるねー。グランが持ったらいいと思うよー」

「構わないわよ。グランが持つのがベストよ」

そういう事なら、と鞘に納めるグランさん。

「……鞘を黒く染めて貰うか」

薄灰色の鞘を見つめながら、グランさんが呟いた。

鑑定料銀貨二枚を払い、店を出る。グランさんは早速、ドルヴィスさんの店ブレイズハンドに、鞘染めの依頼をするために別行動となった。

「さて、次はカリエラさんの店に行きましょうか」

ああ、そうか。宝石の小袋があったな。

「お昼はどうするー?」

「カリエラさんの店で用を済ませたら、一旦宿に戻って、グランと合流して決めましょうよ」

 

 初級Aランクか……まあ、色々あったな。昇格の早さは、こんなものなのだろうか? 少なくとも、仲間に恵まれているのは間違いない……。

 

「クレイドルー、宿に戻るよー」

シェーミィの声に、我を取り戻す。

「ああ、今行くよ」

 空を見上げる。いい青空だ──冬の風が、頬を撫でて行った。

 

 




 ここで一区切りの第二部、完── てとこです。

 これからもよろしくお願いします。

Ψ(`∀´)Ψ ヨロシクー
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