邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第106話 帝都への道筋

 

 

早朝、夜明け後の魔力制御を終え、シャワー室に入る。温めの湯が心地いい──温度は、高中低の三段階。その中が、いい具合だ。

低は、夏に人気だそうだ……うん、いい感じだ。浄化とはまた違う、さっぱり感だな──温めの湯に、しばし打たれる事にする……。

 

シャワーを終え、部屋に戻る頃には、陽は上がっていた。レンディア達はまだ寝ている。今から寝直すのも、どうかな……。

下に降りて、一服しつつお茶でも頼もうか……ルーリエちゃん、起きているかな。

 

明け方の宿。客はまばら……厨房の喧騒が、心を落ち着かせる。奥の席に座り、煙草盆を出して煙管の準備をする──“深風”を詰め、生活魔法で火を灯す。大分、慣れたな……すうっ、と吸い、ふうっ、と吹く。うん、相変わらずのいい味わいだ。煙がゆうらりと、天井に立ち上って行く……。

 

陽光が宿の中に射し込んでくる頃には、客が席に着き始めた。そろそろ、朝食の時間だな……ルーリエちゃんが厨房から飛び出し、勢いよく階段を駆け上がって行くのが見えた……看板娘の超スピードに、客が何事? とばかりに見上げていた……というか、大概こんな調子だったのか……いや、ルーリエちゃん。俺はここだが?

 

皆が揃っての朝食。卵を落とした、ほどよく塩の効いた米粥。鶏肉と青菜の炒め物に酢漬け野菜──いい朝食だ。うん、腹持ち悪くないんだよな、米粥は。

「休暇に入るのは、もう二、三日というところね。皆、予定は決まっている?」

 

レンディアが、茶を啜りながらいう。

う~ん、俺は決まっている。帝都だ。ラーディスさんからは、何時でも訪ねて来いと言われていたしな……何より、帝都見学もしたい。

「まあ、皆決まっているようね。一週間ほど、のんびりしましょうよ」

「意外と、疲れが貯まっているのよねー。体も心もねー」

果実水炭酸割りを、くぴくぴと飲むシェーミィ。

「剣の鞘を染め終えるのに、一日半かかるとドルヴィスさんが言っていたからな。出立はそれくらいにしてもらえたら有り難い」

グランさんがいう。まあ、休暇は急ぎじゃないからな。

「ん。決まりね。今日と明日はのんびりと過ごしましょうよ」

「家族に、お土産買っていかないとねー」

にひひ、と笑うシェーミィ。何でも、弟二人に妹二人。祖父母と両親の家族だそうだ。どうりで、子供のあしらいが上手いわけだ。

「急ぎじゃないからね。明後日にでも出発出来れば、いいわよ」

 

予定は決まった。一週間ほどの休暇。レンディアは実家に戻り、シェーミィは里帰り。グランさんは、帝都の暗黒騎士団支部に詰める事になるという。

「報告書だけでは、伝えられない事も色々あるからな」

と、グランさん。暗黒騎士団支部か、神聖騎士団の支部もあるんだっけか。

「シェーミィ、家族へのお土産は帝都で買うのか?」

「そのつもりだよー。他所では見られない品物が、沢山あるからねー」

俺は帝都で何をするかな……まずは、ラーディスさんに挨拶だ。博物館も楽しみだな。

見所は沢山あるそうだから、ゆっくりと帝都観光といくか。

 

昼まで自由行動となった……さて、グレイオウル領滞在も明後日までか。よし、挨拶廻りかな。カリエラ商会にブレイズハンド、ラザロさんとは、朝陽食堂で挨拶するか。あと……そうだ、灰月亭のラルフさん達にもだな。ルーリエちゃんを誘って、オウルレイク廻りをするか……。

 

「へえ。明後日には、帝都に?」

カリエラさんに会う事が出来た。その背後には、マーティさんが控えている。顔が少し赤い。何ぞ?

「なら、紹介状を書くわ。メルデオ先輩と私の師匠なの。今は商会を息子さんに譲っているのだけれど、今は露店をやっているのよ」

何でも、帝都領内の商人ギルドに顔がきく人らしい。大物だな……。

「中央広場で、黒い看板に銀の文字でロディックの店と出ているわ」

黒看板に銀文字……流儀かな? 紹介状を受け取り、カリエラさんの元を辞す。

じゃあ、また。とカリエラさんと握手をする。

 

「あ、いらっしゃい!」

いつぞやの、店番の少年が威勢良く声を上げる。

「ドルヴィスさんをお願いしたいんだが。大丈夫かな?」

「ちょっと待っててな!」

少年が脱兎の如く、奥に駆け出して行った……他に客がいるんだが?

 

奥の席に通され、テーブルを挟んで、ドルヴィスさんと向かい合う。

「ふむ、帝都に行くのか……なら、紹介状を出すぜ。俺と、兄弟子のストルムハンドの系譜じゃねえが、多少関わり合いがある鍛冶師だ」

ちょっと待ちな、といい奥に引っ込んで行く。いつの間にか、お茶の用意がされていた。

 

「少しばかり、風変わりな人だが腕は確かだ。まあ、会って見れば分かる。“青葉の鋼”て店だ」

茶を啜るドルヴィスさん。少しばかり、帝都の話をする。夜に、朝陽食堂で飲む約束を取り付けてブレイズハンドから出た。

 

一旦宿に戻り、ラルフさんに明後日には帝都に向かう事を告げる。

「そうかい、“碧水の翼”が休暇ね……寂しくなるな」

「それでですね。明日、ルーリエちゃんと、オウルレイク廻りをしたいんですよ。大丈夫ですか?」

帝都に行けば、しばらくはグレイオウル領に戻って来れないだろうからな。

「ああ、構わないよ。ルーリエに伝えておくよ」

 

さて、昼まで時間はまだある……ふと思いつき、カリエラ商会に足を向ける。梟を模した、装飾品をいくつか取り扱っていたな……。

 

カリエラ商会で買い物を終え、灰月亭に戻る頃には、昼になっていた。品選び中は、何故かマーティさんがずっと側に付いていた。何ぞ?

昼食は、灰月亭で済ませる事となった。

「はい、お待ちどうさま。灰月亭特製シチューだよ」

ラルフさんの奥さん、ナジェナさんが料理を運んで来た。碧水の翼が、しばしの休暇を取ると聞いて、いつもより腕を奮ってくれたそうだ。

「おー、美味しそう!」

シェーミィが、嬉しそうに言う。獣耳がピコピコ動いている。

確かに、美味そうだ。微かに牛乳の匂いがする、鶏肉と根菜が煮込まれたシチューは何とも食べ応えがありそうだな。

「お待ちどうさま!」

ルーリエちゃんが、大皿に盛られた料理を運んで来た。おお、豚バラと青菜の炒め物か。胡麻油の香りが、食欲をそそるな……レンディアが取り皿を配り、シェーミィが料理をよそう。

丸パンに酢漬け野菜も来た。おお、何だか豪勢な昼食だ。

「シチューのお代わりはあるからね。たっぷり食べな」

ナジェナさんがいう。よし、まずは特製シチューからいくか。

 

 

シェーミィはシチューを三回平らげ、丸パン二つに酢漬け野菜のお代わりまでした。腹一杯食べたシェーミィの獣耳が、ペタリと垂れている。

ふぅー、と満足げに目を細めているシェーミィ。どこに入るのやら、と苦笑するグランさん。

「ご馳走さま。ルーリエちゃん、お茶をお願いね」

口許を上品に拭い、レンディアが茶を注文する。グランさんは炭酸水を注文した。

はい! とルーリエちゃんが厨房に駆けて行った。

 

お茶の時間が終わり、夕方まで一休みとなった。夕食は朝陽食堂だ。大将にも挨拶しておかないとな……腹一杯過ぎて、自力で歩けないシェーミィに肩を貸し、部屋に引きずって行くグランさんの背を見送りながら、茶を啜る。

「クレイドルさん、えーとねー。明日、お昼過ぎに時間あるんだけどー」

もじもじとしながら、ルーリエちゃんが言う。

「うん。オウルレイクに行こうか」

「わかった! 約束だよ!」

うひひ、と笑い厨房に戻って行くルーリエちゃん。

「……随分と、仲良くなっているわねえ」

レンディア、ジト目を止めろ。ルーリエちゃんは、妹みたいなものなんだよ。決して少女趣味じゃないからな!

 

 

夕方まで、のんびりと過ごす事にした。宿の裏庭で一服する──さて、グレイオウル領でやるべき事は特には無いか?……ドルヴィスさんの店でバトルアクスの手入れを頼んでおくかな。

他には思い付かない。よし、一眠りするか。

 

窓から差し込む夕陽。四人部屋を赤く染めている──レンディア達はいない。下に降りているんだろうな。しばしボンヤリする。

朝陽食堂には、まだ少し早いな。レンディア達は、お茶でもしているのだろう。

一服するか……煙草盆を取り出し、煙管に煙草を詰める──“深風”の気分だ。

深く吸い込み、ゆっくりと吐く──ふうわり、と煙が窓に流れていく。

 

一服終え、階下に降りる。いつもの席、宿の隅の四人席。灰月亭に来た当初、何となく着いた席が、碧水の翼の指定席になっていた。

そのテーブルに、レンディア達がいる──何だろうな? 俺の居場所はあそこだ。と感覚的に感じた。

「朝陽食堂が開くまで、まだ少し時間あるわね。今は、お茶の時間よ」

レンディアが、俺のカップに茶を注ぐ。入れ替えたばかりなのか、茶はまだ暖かった。

 

雑談を交え、帝都の話を聞く。なるほどな、色々とためになる──帝都騎士団、神聖騎士団と暗黒騎士団との、実戦形式の演習。

騎士団だけではなく、衛兵達もまた実戦形式の訓練に明け暮れているとの事だ。

家を継げない貴族や農家の次男以下は、大概が、衛兵や騎士を目指して集まるのだという。

要するに、一年中訓練に明け暮れる専業兵を、帝国は維持しているという事になる──これ、あれだ……兵農分離、てやつだ。兵としての訓練だけではなく、各領地の開発事業にも従事する事も、珍しくないという。

 

「半年持てば、顔付きが変わるんだよな。いっぱしの兵の顔になるんだ」

とは、グランさんの談。年中、鍛練か。凄いものだな……。

「少し早いけど、朝陽食堂に向かいましょうか……丼物、頼んでみようかな」

くぃっ、と茶を飲み干し、レンディアが席を立つ。

丼物か。今は、焼き鳥丼に豚丼だが、いずれは親子丼にカツ丼を、大将が思い出すだろうな。

同じく──転生者として。

「お腹すいたー。早く、朝陽食堂に行こうよー」

シェーミィがいう。昼に、あれほど食べたのにもう腹ペコか。猫族は皆、こうなのか?

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