邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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幕間 グランドヒルの新人達⑦ ミストウッズでの依頼と“霧雨の風(ミストウィンド)

 

ミストウッズでの生活にも、そろそろ慣れてきた。

受ける依頼は、採取と採掘や、常設依頼が中心になっている。堅実に稼ぎ、日々の暮らしを安定出来ているかも、昇格対象になるのだと最近知り合った、ジャックさんに改めて教わった。

「まあ、初級訓練キッチリ受けた、おめえらには態々言う事もねえがな」

エールのジョッキを、テーブルに置くジャックさん。

 

今、私達は定宿、“竜鱗の欠片亭”の直ぐ隣の酒場、“青風館”で、ジャックさんのパーティーとの顔合わせがてら、ご馳走になっている。

パーティー名は、“霧雨の風(ミストウィンド)”。中級Cランクのジャックさんをリーダーとした四人パーティーだ。今は一時休暇中で、もう少ししたら、冒険者活動を再開するとの事。

 

「最近、新規の冒険者が加入して来たのですが、十一名中、初級訓練受けたのが、四名だけですからね……少し、先が思いやられます」

ワイングラスを傾ける、白いローブに身を包んだ二十歳少しの男性。栗色の髪色をした、気品ある顔立ち。神聖術士のフルースさん。

神聖属性と風属性の使い手だそうだ。

「ふん。ミストウッズ周辺から集まって来る、ある程度森に慣れた冒険者志望の連中は、森の中なら魔物、魔獣は怖くないと本気で思ってるからな」

ジャックさんが、エールのお代わりを頼む。

「それが、一番危険ですよね……?」

ジョシュが、エールをグビリと、飲む。

「そうだね。魔物、魔獣の事をおとぎ話だと思っているのさ。こんな言葉があるよ──猟師が魔獣を退治して終わる物語は、人間の書いたおとぎ話の中だけ──とね」

ワインを、くうっと飲み干し、ワインのお代わりと、ソーセージと山菜炒めを頼むフルースさん。

人間の書いたおとぎ話の中だけ……シェリナが呟き果実酒に口を付ける。

 

エールのお代わりを受け取ったジャックさんが、食べたい物があったら注文しろ、奢りには甘えとけと言ってくれた。ふむう……迷う。

「鹿の燻製炙りなんて、初めてだろう? 上手く香辛料使っていて美味しいよ。お勧めだね」

フルースさんが勧めてくる。なんか美味しそう。

「あとはあれだな、鹿肉ワイン煮込みだ。少し時間かかるが、一度食っておけ。今の時期が一番美味いからな」

ジャックさんのお勧めか……よし。

「じゃあ、その二つお願いします! 果実酒お代わりも!」

シェリナが言った。丁度、ワインと、ソーセージと山菜炒めを運んで来た店員さんに、ジャックさんが注文してくれた。

「すいません。エールのお代わりをお願いします」

ジョシュが注文する。私もついでに、果実酒炭酸割りをお願いした。

 

「いいぞ、好きなだけ食べて、飲め」

ジャックは、嬉しそうに杯を上げた。フルースは楽しそうに微笑んでいる。

 

 

チリィン──ベルを鳴らす。

少しもしない内に、従業員さんが来たのでお水を頼む。大きめの水差しは空っぽになっていた。

直ぐにお持ちしますといい、朝食まで時間はまだありますよ、と教えてくれた。

 

「さて」──壁時計を見ると、朝6時ちょっと。カーテンの隙間から見える外は、まだ暗い。

本格的に冬が始まるのだろうな。私達の村ほど、寒くならないといいけど──今日の予定は、どうするかな……少し、空気を入れ換えよう。

 

「お水をお持ちしました」

従業員さんが運んで来た水差しを見た時、喉の渇きを思い出した。礼をいい、水差しを受け取ると、チップとして銅貨三枚を渡す。

「まあ。いつもありがとうございます」

頭を下げ、部屋から出て行く従業員さん。まだ慣れないわね……たっぷりと、コップに水を注ぎ、一息に飲み干す──うん、美味しい。さて。顔を洗って来るかな。

戻って来たシェリナと、入れ違いに外に出る。

魔力制御を、今終えたばかりだそうだ。

「ジョシュと会った?」

「うん。裏庭で魔力制御するために、部屋から出たら廊下で会ったわ。一っ風呂浴びてくるって」

「長くない?」

思わず、笑ってしまった。村では、燃料の関係でお風呂なんか、週に一、二回も入らない。

お湯を絞った布で、体を拭うくらいだった。

「まあねえ。でも、私達も笑えないわよ」

シェリナも、クスクス笑う。まあ確かに。

城塞都市の訓練場で、毎日シャワーとお風呂が当たり前のように使える事に、驚いたのよね。

「顔を洗って来るわ。ジョシュが戻って来たら、朝食に行きましょう」

 

行商人。他領からの、材木買い付け商。そして、私達冒険者──ここの宿は、普通の旅人や観光客向けではない様に見える。朝から、商売の話が行き交っている感じだ。

 

「はい、お待ち。塩鶏蒸し焼きに山菜の胡麻和えと、玉葱のスープに丸パン。酢漬け野菜は、直ぐに持って来るからね。塩鶏は、骨に気を付けなよ」

体格のいい従業員さんが、一度に三人前を器用に運んで来た。朝から、なかなかのボリュームだけれど、食べられる気がする。

 

「よし。いただきます」

早速、ジョシュが塩鶏蒸し焼きにナイフを通す。ふわりと湯気が立ち、鶏と香辛料の薫りがテーブルに漂う──何ともいえない、薫りだ。

私も、蒸し焼きを切る──思った以上に柔らかく、ナイフがすっ、と入って行く。

さて、お味は──まず感じたのは、お肉の柔らかさと香辛料の薫り。甘味さえ感じる塩味。上品な味って、こんな感じなのかな?

 

「リーネ、蒸し焼きの中央に入っているこれ、香辛料の葉かな?」

ジョシュに言われて見れば……なにか入っている様に見えるけど、これ何だろう?

「ああ、それかい? それはね、兄さんのいう通り、香辛料の葉で、にんにくと生姜のすりおろしたやつを包んだ物だよ。匂い消しと、肉の風味を増すためのものさ。はい、酢漬け野菜お待ちね」

酢漬け野菜を運んで来た、先ほどの体格のいい従業員さんが教えてくれた。

所変われば、というけれど……料理も一味、違うんだな。

 

 

朝食後のお茶の時間を終えて、冒険者ギルドへ来た。リーネ達と話したように、いつもの採取か採掘。そして、常設依頼をいくつかこなそうかと思っていた所、声をかけられた。

「よお、ジョシュ」

ランドさんだった。帯剣し、首回りと肩まで防いでいる胸当てに、籠手。ラウンドシールドを肩掛けにしていた──武装状態。

「どうしたんです?」

我ながら、バカな台詞だ。何かしらの戦いに行くのだろうに──「なんだ? お前ら知り合いか?」

ジャックさんだ。まあ、知り合いというか……ランドさんが、説明を始めた。

 

聞いてみれば、何という事はない。ランドさんは、“霧雨の風(ミストウィンド)”のメンバーだった。

「基本、霧雨の風の活動拠点は、帝都だ。今は、休暇でミストウッズに来ていてな。メンバー一人以外、俺達三人の地元だ」──との事。

 

「まあ、そういう事だ……ジョシュ、お前達のパーティー、これから何か依頼を受ける予定はあるか?」

ランドさんが尋ねてきた。何だろうか?

「いえ、まだ決まっていませんが……何か?」

「うん……これから、護衛の任務を受ける予定があってな。人数が決まっているんだが、俺達は三人。最低でもあと二人必要なんだ。リーネに声をかけてみてくれないか?」

護衛の依頼か……初めてだな。でも、何にでも初めてはある。

「分かりました。待ってて下さい」

 

 

ジョシュが、ランドさんから持ってきた話に興味がわいたので早速、ジャックさんの所に向かった。

「お、来たか。まあ、座れ」

ジャックさん達は、ギルドの喫茶室にいた。フルースさんが、お茶を頼む。

「護衛と言ってもな、商人じゃねえ。(きこり)の護衛なんだよ」

ジャックさんが言うには、今の時期だと竜の影響を受けた森の獣が、魔獣化とまではいかなくても、狂暴になっている可能性が高いので、伐採作業が危険になる事があるのだそうだ──

「この依頼は、五人以上から何ですよ。だから、君達に声をかけたんです」

フルースさんが、皆にお茶を注ぎなからいう。

「どうだ? 報酬はなかなか良い。俺達も、お前達をフォローする。受けてみないか?」

ランドさんが、お茶を啜りながら聞いてきた。

うん。もう決まっている。ジョシュ、シェリナの顔を見る──「はい。よろしくお願いします」

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