邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

126 / 245
第110話 帝都の風景 縁は螺旋

 

 

 

「ふむ。紹介状ですか……どれ」

帝都の冒険者ギルド。ギルドマスター室にて、グレイオウル領のギルドマスター、リンベルからの紹介状を広げ見るギルドマスター、シュウヤ。

灰色のローブを身にまとった、細面の整った顔付きの男。落ち着いた雰囲気からは、威圧感のような物が漂っている。

年の頃、三十代前半。ギルドマスターにしては若いが、その実力と実績は、帝都の冒険者ギルドを統率するに相応しい力量を持っている。何より、彼は──魔導士だ。

 

「彼の事は……どう見ましたか?」

紹介状に目を通しながら、シュウヤは革張りのソファに座る副ギルドマスターに尋ねる。

「そう……ですね。妙な気配を感じました。大いなる父君の子弟、つまり姉弟(きょうだい)の様な気配を一瞬感じましたが……違いました」

副ギルドマスター、ライザ。朱色の髪。髪から覗く短い角が特徴的の、鋭い顔付きをした、二十代の魔族の女性。大いなる父君との言い回しから分かるように、暗黒神の信徒だ。

服飾のほぼ全てが、黒ずくめ──「ふうむ……部屋に通して下さい。直に合って話がしてみたいですね」

「そうする事を、お勧めします。ですが、自称“姉”が付いて来ますが」

姉? シュウヤの疑問に答えず、ライザが席を立つ。

 

「移動報告、終了です。帝都へようこそ」

報告終了後、受付嬢の挨拶もそこそこに、グランとシェーミィは、受付嬢に訊ねる。

「クレイドルという、冒険者が来ていたはずだが?」

「あっ、はい。今はギルドマスターと懇談中ですので、少しお待ち下さい」

ふうん、とグランとシェーミィ。喫茶室で待っているか──馬車から降りて、荷降ろしをしている最中、唐突に現れた受付嬢。自称、クレイドルの“姉”に戸惑う矢先、あっという間にクレイドルを連れ去られた。

クレイドルのバトルアクスとラウンドシールドを担ぎ、グランとシェーミィは喫茶室に向かった。

 

 

「紹介状は読ませて貰いました。城塞都市のダルガンデスさん。グレイオウル領のリンベルさん。名の通った二人からの紹介状。そうある事ではありません……ふむ」

鷲の頭部を模した兜。そのフェイスガードを引き下げたままのクレイドルを前に、シュウヤが改めて紹介状に目を通す──“碧水の翼(へきすいのつばさ)”所属。パーティーメンバーとしての功績とギルドへの貢献大。メンバーの昇級に助力……ここまでは、いい。

 

気になるのは、要注意事項だ──顔を直視しない事。特に唇──ふむ、とシュウヤ。

顔を見せろとは言わない。紹介状にあったように、フェイスガードを下げるなりの理由はあるだろうから──それより気になるのは、クレイドルの側に座っている受付嬢。ミザリアスだ……クレイドルにピタリと張り付いて、離れる気配を見せない──「ミザリアス君。貴女とクレイドル君とは、どういう関係なのですか──」

「姉弟です」

笑みを浮かべながら、食いぎみに言い放つミザリアス。フェイスガード越しではあるが、クレイドルが困惑したかの様に見えた。

「……分かりました。さて、クレイドル君。紹介状の内容を疑うつもりはありませんが、君の実力の“試し”をしたいのですが、どうです?」

 

 

なるほど、“試し”か……というか、ダルガンさんもリンベルさんも、俺の事をどう紹介してるんだ?

「試さなくても大丈夫です。姉である私が保証するから、大丈夫です」

早口説明やめて。というか大丈夫って何ぞ?

「やります。今日ですか?」

自称、“姉”の──ええと、ミザリアスさんだっけか。ギルドマスターを睨みつけるのやめて。

「ふむ。もう陽も暮れます。明日の朝、朝食後くらいにしましょうか」

「構いません……良い中宿を知りたいのですが」

ギルドマスターの隣に座っていた、副ギルドマスターのライザさんが、それならと言いかけた瞬間──「ならば、“黒山羊の蹄亭”がお勧めですよ。私──お姉ちゃんに任せて下さいね」

グイッ、と腕を取るミザリアスさん。力強いな!

「では、明日、朝食後に──ちょっと! 落ち着いてくれませんかね!?」

 

ミザリアスに引きずられていくクレイドルを、シュウヤとライザが見送る。

「なかなかに……賑やかになりそうですね」

ライザが、呟く。

「そうですね……“試し”の内容を、考えましょうか」

シュウヤの声にライザが頷く。まあ、ほとんど決まっているが……。

 

「お待たせしました……はあ」

ほんと、やれやれだ。自称、姉のミザリアスさんを振り切るのに一苦労だった。──姉として、責任を持たないといけないの! お姉ちゃんの事が、信用出来ないと?── 何かもう説得が、大変だった……結局は、中宿の“黒山羊の蹄亭”に宿を取るので、いつでも来てください──との事で離れる事が出来た……いや、ほんとに疲れた。

 

「まあ、茶を飲め……宿はどうする?」

とは、グランさん。う~ん、中宿を聞いているから、そこでいいかな──「ギルドで聞いたのですが、“黒山羊の蹄亭”を勧められました」

へえ~え、とシェーミィ。うむ、とグランさん。

「場所は知っている。結構な老舗だ」

「構わないよー」

お茶のお代わりを頼むグランさん。シェーミィが、砂糖の焼き菓子を追加注文した。

さて……一服するかな、って、ずっと兜着けたままだった。しかもフェイスガード下ろしたまま。ギルドマスター、副ギルドマスターを面前にして、ちと失礼だったな──

 

喫茶室の雰囲気が変わった事に、最初に気付いたのは亭主のアンドレだった。

端のテーブルに着いている三人組──まだ宿を取っていないのか、武装状態だ。それはいい。喫茶室とはいえ、冒険者ギルドの一画だ。他にも、武装状態の連中はいる。

漆黒の装備の暗黒騎士。軽装の猫族、おそらく斥候だろう──遅れてやって来た、黒鷲を模した兜を着けた男。兜もそうだが、鎧と籠手が気になった。赤と黒が入り交じった、禍々しい雰囲気すら感じる防具──(ただの魔獣素材じゃないだろうな……)

雰囲気が変わったのは、黒鷲の兜の男が煙草盆を出し、煙管の準備をしながら兜を脱いだ時だった──ざわり、と一瞬、喫茶室にざわめきが起きた。

その雰囲気を何ら気にせず、黒鷲の兜の男が煙管に火をつけ、ふうっ、と吹かす。男女問わずのため息が、喫茶室に拡がる……顔をさらけ出した、黒鷲の兜の男の容貌は──いや、あれはマズイだろ。従業員の女連中が固まっちまった……妖艶? 美麗? いいや、いや。そんな言葉では、現せない……「仕事しろ!」

激を飛ばし、女連中を正気に帰す。とはいえ、どれだけ持つものか……喫茶室の雰囲気も元に戻ったが、それでも三人組──黒鷲の兜の男に対しての視線は変わらない。

 

ひそひそと、何かしらを言い交わしている冒険者連中。まあ、仕方ないわな……あれだけの容貌だしな。

黒鷲の男が煙管を咥える度に、切ない吐息が漏れ聞こえる。

あれだ……輝く様な金髪に、白磁の色肌。薄紅色の濡れた様な唇──直視は、危険だ。直感が訴えてくる──直視するな──と……簡単じゃねえが。とはいえ、ふむ……何か、楽しくなりそうだな。

「ほら、注文入ってるだろ? 客を待たせるな」

従業員を急かす。まあ、一番気になるのは、喫茶室の出入口で三人組を見つめている、受付嬢のミザリアスなんだがな……何やってんだ。仕事あるだろうに……。

 

「そういえば、明日の朝食後に“試し”をする事になりました」

ふうっ、と煙を吐く。ふむ。試しか、とグランさんが呟く。

「朝食後ね。私達が見学する時間あるねー。そのあと、お土産を買う時間あるね」

「シェーミィ、出発はいつだ?」

お茶のお代わりを注ぎながら、グランさんが尋ねる。

「んー、明日のお昼過ぎくらいに快速船に乗るつもりだよー。私が、お土産買う時間は充分あるね」

なるほどな。俺の“試し”を見てあとの時間はある訳だ。試しが何になるかは、まだ分からないが……。

「宿はどうするんです?」

シェーミィは一泊だろうが、グランさんはどうするのか? 暗黒騎士団支部の宿舎があるだろうし……「ああ、私も宿を取る。支部に戻るのは、急ぎではないからな。シェーミィの見送りもしたいしな」

茶を啜るグランさん。気にしなくていいのにー、というシェーミィ。まあ、そういう訳にはいかないだろう。

喫茶室から出て、“黒山羊の蹄亭”に向かう事にする。

 

「黒山羊の蹄亭に案内します。さあ、どうぞ」

喫茶室から出たと同時に、ミザリアスさんが俺達の前に現れた。

ええと……といいよどむグランさんと、シェーミィ。

この人。俺の自称、“姉”何ですよ……。

「ミザリアスさん、お願いします」

……うん? ミザリアスさんが、ジト目で見つめてきた……あっ、もしかして……「お、お姉ちゃん、案内頼めるかな?」

「ええ、もちろん! さあ、こっちですよ! お仲間の方々も、どうぞ!」

分かりやすいな……だが、それが妙な威圧感を感じさせる。

鼻歌混じりに、機嫌良く先導するミザリアスさんに着いていく──(姉、と言ってたが……)(そういう事にしておいて下さい)(訳ありー?)

 

 

「さ、ここです。“黒山羊の蹄亭”は、創業二百五十年の老舗ですよ」

という事は……覇王公時代からあるという事になるな。前世でいう、老舗旅館といったとこか。

「明日、朝食後迎えに来ますから。今日はゆっくり休むんですよ!」

ミザリアスさんがニコリと笑い、グランさんとシェーミィに軽く会釈をして、ギルドに戻って行った──何か、疲れたな……。

 

早速、宿を取る。三人部屋。グランさんとシェーミィは一泊。俺は、今日は三人部屋で明日からは、取り合えず一週間の一人部屋という事で部屋を取った。料金は、グレイオウル領と同じだ。

食事は、朝昼夕いずれか一食は、宿代に含まれ、別料金で追加の食事──このシステムも同じだった。

部屋に荷物を置き、身支度を整えたあと、さてどうするか、となった。

「宿で夕食というのもいいが、せっかくの帝都だ。軽く案内がてら、夕食ついでに酒場に繰り出すか」

「さんせーい。色々良いとこあるよー」

本格的な帝都観光は明日以降だな──楽しみだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。