邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第111話 帝都冒険者ギルド“試し”再び

 

 

起床──カーテンの間から見える夜明け前の外は、暗い。

本格的な冬が来るまで間もないだろう。部屋を見回すと、グランさんとシェーミィは、毛布を肩まで引き上げ、静かに寝息を立てている。

結構、冷えてきたからな──シェーミィは丸くなっている。まるっきり猫だな……二人を起こさぬ様に、タオル片手に静かに部屋から出て、共同の洗面所で顔を洗い、口をゆすぐ。

 

一階に降り、裏口から庭に出る。その際、厨房を覗いて見たが、早くも厨房は動いていた。泊まり客の眠りを邪魔をしないように、忙しなく働く様は、プロ意識を感じさせた──さて、魔力制御の時間だ。

 

魔力制御を終え、部屋に戻るとグランさんが起きており、シャワー室に行く準備を整えていた。

「お早う。魔力制御か? 相変わらず早いな」

グランさんに挨拶を返し、シェーミィを見る。毛布にくるまり、スピスピと寝息を立てていた。

「陽の出まで、まだ時間ありますよ。俺は、一服してます」

「ん。私は昨日の酒を、流しに行ってくる」

昨日は、結構飲んだからな。“剣と酒杯亭”だっけか──騎士、衛兵、冒険者御用達の酒場。良く覚えてないが、心地の良い喧騒ははっきりと覚えている。

グランさんが部屋から出て行き、入れ違いに宿の従業員がやって来た。

「お早うございます。朝食まではまだ時間はありますが、何か御用はありますでしょうか?」

二十歳もいっていない様な若い女性。御用か──「お茶を三人分、お願いします」

「はい、かしこまりまし……た。ええと、あの、直ぐにお持ちしま、す」

女性と目が合う。その顔が赤く染まった──何ぞ?

 

お茶が運ばれて来た頃に、シェーミィが目を覚ました。うぅ~んぁぁ~、と大あくびをするシェーミィ。

てしてし、と顔を拭って、顔洗ってくるねー、と寝ぼけ(まなこ)でタオル片手に部屋から出ていく。

入れ違いに、シャワーを浴びてさっぱりとしたグランさんが戻って来た。

「今日の予定は……朝食後の“試し”。そのあと、シェーミィの土産物購入の付き合い……というとこですかね」

「ふむ。そんなとこかな……そういえば、紹介状いくつか貰っていただろう? 紹介状巡りをした方がいいんじゃないか?」

茶を啜りながら、グランさんがいう。ああ、そうだった。観光よりも、まずは紹介状巡りだ。

「ま、何にせよ。“試し”のあとですよ。朝食を楽しみにしてましょう」

煙草盆を引き寄せ、煙管に煙草葉を詰める。今の気分は、“西砂”かな……。

パチリ、と煙草葉に生活魔法で火をつける──すうっ、と一息吸い、煙を口の中で転がし、一息で吐き出す。

 

シェーミィが顔を洗い、戻って来た頃にお茶の時間を再び楽しむ。地元への土産物を買うために、男手が必要というシェーミィに付き合う事が決まった。

家族が多いので、土産が多いのは仕方ない事だろうしな……快速船のチケットは既に取っているそうだ。

「クレイドルの、“試し”を見届ける時間は充分あるからねー」

俺の“試し”のあとに、土産物をまとめて買うつもりなのだろう……うん、まあいいが。

 

朝食──青菜の入った鶏そぼろ雑炊に、あっさりとした味付けの青菜炒め。そして、少し甘口の酢漬け野菜──“試し”を控えた身には、嬉しい朝食だ。

 

「よう」

声をかけられた。エプロン姿の、がっしりとした体格のリザード族の男性だ。手には、ティーセット。

「挨拶が遅れたな。この宿の亭主のリ・アルガドだ。この茶は、宿の奢りだ」

赤茶色の鱗肌。側頭部から伸びている茶色の巻き角の片方に、イヤリングの様な装飾品が下がっている。

装飾品が気になるが……確か、リザード族に、それについて尋ねたら長くなるんだったな。

あと、リ・と名乗っていたなら、もしかしてミルデアさんを知っているかもしれないな……またの機会に聞いておこうか。

「じゃ、ゆっくりしていきな」

アルガドさんは、厨房に戻って行った。

「せっかくの奢りだ。のんびり、茶を楽しもう……」

茶を啜るグランさんとシェーミィ……そろそろ、我が姉上が、迎えにくるだろうからな……。

 

茶の時間を終え、俺達は部屋に戻り、装備を整える。

“試し”は、ほぼ間違いなく戦闘だろう。荒くれ達への紹介は、その方が手っ取り早いからな──まあ、何だって構わないが。

“試し”の内容によっては、グランさんとシェーミィの助力を借りるつもりだ……グランさんとシェーミィも、了承してくれた。

武器は一応、持っていく。バトルアクスに“魂食み(ソウルスレイヤー)”。投擲用のハンドアクス──訓練用の武器を貸し出してくれるだろうが、取り合えずだ。ラウンドシールドは置いていこう。

黒鷲の兜を装着。フェイスガードを引き下ろし、ガツンとこめかみを叩く──癖になってるな、これ。

 

準備を整え、下に降りるとミザリアスさんが宿のカウンター前に陣取っていた。

「皆様、お早うございます──クレイドル、良く眠れた?」

ニコニコと、“姉”のミザリアスさんが尋ねてきた──「大丈夫。良く眠れたよ」

なるべく、親身な受け答えをする。

自称“姉”に対しては、そうした方がいいとの判断だ──「さあ、行きましょうか!」

ガッチリと手を繋がれ、引きずられる──ホント力強いな!

 

引きずられるままに、冒険者ギルドに到着。

「ギルドマスターに、弟を連れて来たと知らせて下さい」

今や、ガッチリと腕を組まれている俺。

──「弟?」「ミザリアスさん、弟いたのか?」「え、あいつ?」「妹、じゃなくて弟?」──冒険者達のざわめき。妹って言ったの、誰だ?

 

「ああ、来ましたか。“試し”の内容が決まりました……訓練場に行きましょうか。ライザ、四人を連れて来て下さい。クレイドル君のお連れもどうぞ」

ギルドマスターのシュウヤさんは、すぐにやって来た。受付カウンターを通り抜け、ギルドの裏手すぐの訓練場へ向かって行く。

帝都領内のギルドの造りは、何処も似たようなもの何だな……シュウヤさんの背を追って、訓練場に向かう。

 

 

「さて、クレイドル君。今から“試し”を行います。内容は、模擬戦です──」

「ギルドマスター、連れて来ました」

ライザの後ろには、四人組の冒険者達。皆、若い。クレイドルより二、三才ほど下だろう。

「クレイドル君、彼等は……ええと、パーティー名は、何でしたっけ?」

シュウヤはライザに尋ねる。一瞬、考える仕草をすると、ライザは思い出した様に答えた。

「“切り裂きの鋼(スティールオブスライシング)”です」

「ああ、そうでした。クレイドル君、彼等四人と模擬戦をしてもらえますか? ちなみに、彼等は初級のEランクに上がって間もないパーティーです……どうでしょう?」

つまり、一対四の模擬戦をしてみないか? とのシュウヤの提案だ。その顔には、微笑みが浮かんでいる。

 

「フェアでは無いと思うのなら、仲間二人と組んでも──」

「俺は構いません」

クレイドルが、はっきりと言った。ほう、とシュウヤが声を上げる。

「ふむ……彼等のパーティー構成は、前衛二人に中衛一人。そして後衛一人の、まあそこそこバランスの取れたパーティーです」

「……連携は、今一つみたいですが……」

シュウヤの言葉に重なる様な、ライザの呟き。

その呟きは、クレイドルの耳に微かに届いていた──

 

“切り裂きの鋼”のリーダー、シドは少しばかりいら立っていた。Dランクに上がるだけの経験はもう積んでいる(と自分達は思っている)にも関わらず、なかなか昇格させてくれない、と──ギルドマスターが言うには、冒険者の基本が今だになってないとの事だが、そんな事は無いというのが、パーティーの総意なのだ──

「初級訓練を受けていない。その結果が今の現状です。基本の依頼である、常設依頼も受けず、危なっかしい討伐依頼に、無茶なダンジョン探索……先輩達に、厄介をかけてますよね?」

そう言われると、何の反論も出来ない──(討伐依頼中に、先輩冒険者に手を貸してもらって何とか達成したり、無茶な探索中に助力してもらったりとかなり世話になっているが、いつか借りは返す、程度にしか思っていない)

 

「課題を出します。それに合格したならば、念願のDランクに昇格させましょう。しかし、課題をこなす事が出来なければ、初級訓練を一ヶ月受けてもらいます……どうです、やりますか?」

仲間達を振り返る、皆が頷く。

「やるよ。課題に、合格すればいいんだろ?」

「もちろん……課題は“試し”。模擬戦です」

模擬戦、と聞いたシド達は、微かな戸惑いを覚えた──

 

 

クレイドルは、目の前に並ぶ冒険者達を眺める。 男女比、二と二。それはどうでもいい。四人は、それぞれ模擬戦用の武具に変えている。

先頭に立つ若手は、両手持ちの剣を担いでいる。

その背後左右には、盾に短槍。盾に片手剣。後衛に、杖持ちのローブ姿──リーダーは、先頭の両手持ちだろうな……よし、仕止める順番は決まった。

 

「模擬戦用の武器に変えたいのですが」

クレイドルが、“魂食み”とバトルアクス。ハンドアクスをグランとシェーミィに預ける。

「構いませんよ。ライザ、クレイドル君を倉庫に案内を」

どうぞ、こちらへと、ライザがクレイドルを先導する。

「本当に、クレイドル君に加勢しなくてもいいのですか?」

シュウヤが、改めてグランとシェーミィに尋ねる──「クレイドルが構わないと言ったなら、大丈夫ですよ」

「そーだねー、まあ大丈夫だよー」

にひひひ、と笑うシェーミィ。余裕を見せるグランとシェーミィを見たシュウヤは、妙な感心を覚えた……。

 

「お待たせしました」

ライザに伴われ、クレイドルが戻って来た。両手に模擬戦用のロングソード二振り。防具はそのままだったが、一対四のハンデ内とすれば、問題は無い。

「さて、ルールですが、時間は三分。急所への直接の攻撃禁止、下級の術式の使用可、どちらかの降参か、私が止めるまで……それで構いませんか?」

構いません、とシド。頷くクレイドル。

「一対四、という事ですので……誰が、先鋒を──」

「一対四、まとめてでいいですよ。今日は、予定が色々あるので」

いつの間にか集まっていた冒険者達の間に、どよめきが起こった。

ブン、とクレイドルが両手に持ったロングソードを振る。

 

切り裂きの鋼(スティールオブスライシング)”達の顔に怒りが浮かぶ。舐められたと思ったのだろう──その様子を見た、シュウヤが微笑む。

「ライザ、時間を図って下さい。きりのいいところで、開始の合図を」

シュウヤの言葉に頷き、懐中時計を取り出すライザ。訓練場が静まりかえっている──秒針の音が聴こえる様な静けさ……「始め」

ライザの声が、訓練場に拡がった──

 

「よっしゃああぁっ!! かかっ──ぐっうぅ!?」

シドが、両手剣を高々と頭上に掲げ、気合いを放ったと同時に、クレイドルが剣を投げた。

その剣が、シドの鳩尾に直撃。まともにくらったシドが、うずくまる──「シド君、死亡。動かないように」

シュウヤが淡々と告げる。何か言おうとしたシドを手で制する。

現物していた冒険者達から、どよめきと歓声が上がる──「初手で剣を投げるかよ!」「面白いな、あの新入り!」「油断しすぎよ」「あと三人、頑張れよ!」──クレイドルは、投げた剣を爪先で引っかけて蹴り上げると、器用に掴む。

残る三人をちらりと見ると、何の構えもせずに歩を進める。

 

(あと三人……短槍に盾。ロングソードに盾……その後ろに術者。シュウヤさん、下級の術式の使用は可。と言ってたな。という事は)

頭の中で作戦をたてながらも、歩みを止めないクレイドル。あっという間に、短槍持ちに接近する。

 

「クソッ!」慌てた様に、クレイドルに突き込んできたが、腰が入っていないため軽くいなされ、体勢が崩れた。

そこに、クレイドルの足払い。堪えきれず、しりもちを着く。

その様子を見た、ロングソード持ちが我に返った様に、斬り込んで来る。クレイドルは、無造作に盾を二剣で殴り付け、蹴りを叩き込む。

立て続けの衝撃に、ロングソード持ちが仰向けに倒れる。「風は刃となりて──」

詠唱の声が聞こえた瞬間、クレイドルが一気に距離を詰め、再び剣を投げた。

「うぅっぐっ!!」

杖持ちローブ姿の胸部に、まともに命中。

「リア君、死亡。そこまでです……ふむ、あと二人」

涙目で、クレイドルとシュウヤを睨む少女。

クレイドルは少女に見向きもしない。投げた剣を回収せず、片方の剣を両手で握ると、やっと体勢を整えた二人に向き合う──「終わらせるか」

誰に聞かせるでもなく、呟くクレイドル。

 

「ふむ……連携がなっていませんね」

「初級訓練から、やり直し決定ですね」

呆れた様に呟く、シュウヤ。懐中時計から目を離さず、ライザが答える。

決着は、もう間もないだろう。シュウヤ、ライザ共に思っていた……。

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