邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第112話 一時(ひととき)の別れと紹介状巡り

 

 

「お見事です。一対四で、あれだけあしらえるとは、伊達に二枚羽根ではありませんね。“碧水の翼(へきすいのつばさ)”のメンバーだけはあります」

切り裂きの鋼(スティールオブスライシング)”か……個人の力量はよく分からなかったが、連携が取れていないという事は、充分に見て取れた。

「試しは、合格という事でいいんですね?」

シュウヤさん、この人、どうも油断ならない雰囲気何だよな……少し距離を取る。

「ええ、もちろんです。帝都冒険者ギルドにようこそ。クレイドルさん」

副ギルドマスターの、ライザさんが云う。

引き締まった体付きと、鋭い顔付きをした美人さん。魔族特有の、こめかみから覗く短い角と朱色の髪が特徴的だ。この人もまた、油断出来ない雰囲気を持っている。

 

「さて、これからの予定は何かありますか?」

シュウヤさんが、尋ねて来た。

「里帰りするシェーミィに付き合って、商店街巡りですね。そのあとは……紹介状巡りです」

カリエラさん、ドルヴィスさんの紹介状をもらった以上は、挨拶に行かないとな。

「ふむ。休暇と聞きました。しばらくはのんびり過ごすといいでしょう。帝都観光は二、三日では済みませんからね」

微笑む、シュウヤさん……気になっていたんだが、名前からしてこの人……まあ、いい。いずれだ、いずれ。

「このまま宿に戻ってもいいですよね?」

グランさんが尋ねる。もちろん、とシュウヤさん。ちと、空気がピリついているな……さっきまでの、“試し”の雰囲気が今だ残っているのか?

 

「一旦、宿に戻って商店街巡りしよー。お土産物買わないとねー」

シェーミィが場の雰囲気関係なく発言する。ふわりと、場の空気が和む──「商店街巡りなら、私に任せて下さい! いいお土産を扱っているお店を、知っていますから!!」

いつの間にか、“姉”がピタリと張り付いて来た。

「……ミザリアス君。仕事を疎かにしないで下さい。まだ業務中ですよ」

呆れた様にいう、シュウヤさん。キッ、と睨みつけるミザリアスさん……ギルドマスターを睨むなよ。

ごねるミザリアスさんに、しばらく滞在する事だし、休日にでも案内して下さい。といって宥めた……少し時間かかったが。

 

昼まで充分ある。シェーミィは、土産品を扱っている店に心当りあるんだろうか?

「シェーミィ、まずは商店街巡りだな。あと露店広場にも、面白そうな店があるぞ」

グランさんのアドバイス。そういえば、カリエラさんから紹介状預かっていたっけか。まあ、紹介状巡りはいつでも出来るからな。

「うーん。まずは治癒院で、各種ポーションの詰め合わせ買おうかなー。私の村にも治癒士はいるけど、常備薬? はあるに越した事無いからねー」

と、シェーミィ。なるほど、ポーション類が揃っていると便利だからな。各家庭の常備薬という感じか。

「治癒院はこっちだ。案内しよう」

帝都に詳しい、グランさんが先導してくれる。はいはーい、とシェーミィが着いていく。

 

各種ポーションの詰め合わせ。傷の対応から滋養強壮。解毒、解熱薬等が揃っている。

お値段、銀貨六枚。こういうかさ張る物は、商人ギルドで配達を頼むそうだ。書類にサインをするシェーミィ。

「じゃ、商人ギルドに届けておいてねー」

治癒院から出て、向かう先は商店街通り。

シェーミィがいうには、手荷物としてすぐに渡せる、年の離れた弟妹達への玩具が、最優先だそうだ。

「じゃあ、改めて商店街通りと、露店広場を巡るか?」

「うん。行こー!」

グランさんの言葉に、シェーミィが楽しそうに答える。何かいい物でもあれば、俺も何か買おうかな──

 

商店街通りの様々な店を巡り、シェーミィが購入した物は、衣服に装飾品(両親と祖父母へ)。

絵本とパズルをいくつか。しっかりとした造りの木剣二振り(妹達と弟達に)。

「あとは、そうだねー。露店広場も覗いてみよーか」

「露店広場の猥雑さは、なかなかのものだ。何しろ、帝都観光スポットの一つに数えられているくらいだからな」

それほどのものか。楽しみだな──ちなみに、先ほどシェーミィが購入した土産品は、俺とグランさんが持っている。

 

露店広場──おお、この雑多な雰囲気。いいぞ、いいな。雑貨店や飯屋台が、一定の距離感を保ち居並んでいる。

猥雑さの中の秩序──好きな雰囲気だ。

む……黒看板が、見えた。“ロディックの店”と銀色の文字で彩られている。

カリエラさんから紹介状を貰った店──まあ、いい。紹介状巡りはあとだ……今は、シェーミィと一緒に土産品巡りだ。

「おおー、久し振りに見たよ! オルゴール!」

「お目が高いね、姉さん。金貨一枚ってとこだね」

年かさの、抜け目ない様に見える露店商がいう。露店商に対して、フフン、と鼻で笑うシェーミィ。

「露店だよー? 商品一つで、金貨で取り引きする露店なんてモグリだねー。ここの露店商の人達って、横の繋がりが強いから、あこぎなやり方したら弾かれるよー?」

にししし、と笑いながらシェーミィが云う。

値引き交渉の末、銀貨五枚の半値で取り引き終了。多分、値段交渉ありきで吹っ掛けたんだろう。店主も楽しそうだったからな。

 

ぐるりと露店広場を回る。シェーミィは、細々とした日用雑貨をいくつかと、レースで編まれたタペストリーを購入した。

「こんなものかなー。じゃあ、商人ギルドに行こー」

商人ギルドに、お土産の配達を頼むそうだ。帝都からシェーミィの村へだと、二、三日位で届くそうだ。結構、速いものだな。

 

「はい。治癒院からの荷は届いていますよ」

商人ギルドの配達受付カウンター。受付嬢の制服は、冒険者ギルドとは違うんだな。ここの制服は、女性職員もパンツスーツ姿で、寒色系か。

冒険者ギルドは暖色系で、女性職員は膝下丈のスカートスーツ姿なんだよな。

「じゃあー、こっちもお願いしまーす」

シェーミィの言葉に、グランさんと俺が、追加の荷物をカウンターに乗せる。

「重さを量りますので、少々お待ちくださいね」

受付嬢が、男性職員に声をかけ、荷物の回収を頼んだ。テキパキ丁寧に、台車に積む男性職員。

「量り終えたら、声をかけますので」

シェーミィに頭を下げ、番号札を渡す受付嬢。

基本的に、荷の大きさというより重量で配達料金が決まる仕組みになっているんだな……例外として、かなりの貴重品を運ぶ場合は、特別料金になるらしい。

 

番号を呼ばれるまで、少し時間はある。ギルド備え付けの時計を見ると、昼まではまだだ。

商人ギルドの依頼掲示板を眺める──ふーん。護衛依頼が、よく目に付くな。

あとは、引っ越しの手伝いに帝都近辺の領への配達。店の臨時雇い……か。

やはり、冒険者ギルドとは違って独特だな。

「シェーミィさーん。計算済みましたので、配達カウンターまでお越し下さーい!」

「はいはーい!」

シェーミィが番号札を持ち、カウンターに向かって行く──配達料金、計銀貨八枚だったそうだ。

 

「シェーミィ、宿を引き払う準備は済んでいるのか?」

「うん。身の回りの物を持ってくだけだねー」

宿に戻る途中の会話。昼過ぎの、快速船での里帰り。

「昼食はどうする?」

「うーん。快速船の中に食堂あるからねー。そこで済ませるよー」

食堂あるのか。快速船は、結構な大きさなのだろうか?

シェーミィは宿払いのあと、俺達と一服して港区に向かう事になった。

 

シェーミィとグランさんの宿払いの手続き。そして、俺の一人部屋の再契約。

「丁度、いい時間だねー。港区に行こうかー」

茶代をテーブルに置き、よいしょ、とシェーミィが立ち上がる。

「港区か……久し振りだな」

グランさんが笑みを浮かべる。港区は確か、漁港区。貿易区。居住区の三区画に別れているんだっけか。

「快速船は、貿易区から出てるんだよー」

シェーミィが弾んだ声で、明るくいう。故郷に戻れる嬉しさが、声と態度に出ている。

 

貿易区の喧騒は、思ったほどでは無かった。というのも、漁港区と貿易区が賑わうのは朝方だそうだ。

昼ともなると、騒がしいのは食事処くらいで、それ以外は比較的静からしい。

シェーミィを見送るため、快速船乗り場に向かう。

貿易船を見られると思ったが、主要な船は皆出ていた。中型船は造船所に上げられているそうだ。

「神皇港行き快速船、まもなく出まーす! チケットをお持ちの方、お急ぎ下さーい!!」

係員の声が、船乗り場に響く。

神皇国というのは、獣神王国と竜神皇国の事だ。二国共同使用の港を、“神皇港”と呼んでいるとの事。

 

「見送りは、ここまででいいよー。また、一週間後くらいにねー」

パタパタと、手を振りながらシェーミィが停泊している快速船に向かって行った……シェーミィが船に乗り込むまで、グランさんと共に見送る。

「グランさん。腹が減りました……」

なんだろうな。シェーミィを見送ったと同時に……腹が、減った。

「ああ、私もだ……そうだな、漁港区には、いい屋台が出ている。屋台飯といかないか?」

屋台飯か。いいな、うん。選択肢はかなりありそうだ。

「いいですね。何か、お勧めはありますか?」

「そうだな……本格的な海鮮料理は、食堂で食べた方がいい。屋台なら、肉と麺類。サンドイッチらへんかな」

グランさんが、屋台に視線を向ける。何店あるんだろうか? ただ、どの屋台もなかなかの盛況振りを見せているな。う~ん、悩むな。

 

フウッ、と海風が吹き付けて来た──なかなかに冷たい。そうか、直に冬入りか……となれば。

「グランさん、鶏源亭(とりげんてい)の屋台にしませんか?」

「そうだな。結構、冷えてきたし、暖まる物にするか」

グランさんと、鶏源亭の暖簾を潜る。店内は、立ち食いカウンターに、二人がけのテーブル二つ。

カウンターはL字型。詰めて七人てとこか。

昼過ぎなのか、客は少ない。カウンターに三名。テーブルは空いている──「急ぐのでも無いしな、テーブルに着くか」

「……い、いらっしゃいませ、注文決まりましたなら、お呼びくださいね」

水を運んできた店員さん。顔が赤いが……何ぞ?

「相変わらずだな」

苦笑するグランさん……何ぞ?

 

注文はすぐに決まった。冬限定の辛葱鶏そぼろそばだ。帝都での予定、暗黒騎士団の事等の雑談をしながら、注文を待つ。

「お、お待ちどうさま、でした」

それほど待たず、そばが運ばれて来た。さっきの店員さん。まだ顔が赤いが、風邪気味だろうか?

まあ、お大事に──さて、辛葱鶏そぼろそばだ。

鶏ガラと野菜の出汁がベースのスープ。やや縮れ麺。辛口に炒められた鶏そぼろ、その上には辛口で味付けられた、たっぷりの白髪葱──うん。旨そうだ。ここで、マイ箸の出番だ……よし、いただきます。

 

「なかなかの味だったな。もっと寒くなれば、売れるだろうな」

「鶏そぼろと葱の組合せ、よかったですよ。縮れ麺に葱が絡んで、いい食感でした」

いや、旨かった。これぞ屋台飯って感じもまたよかった。他にも、気になる屋台が色々あったな。

よし、また来よう。

 

宿に戻る頃には、陽が結構傾いていた。もう少しすれば、夕方になる。

グランさんが、一旦俺の部屋に置いていた荷物と武具を引き取る。このまま、騎士団支部に戻るそうだ。

さて、俺はどうするかな……紹介状巡りをするには、少し遅いか?

「クレイドル、紹介状巡りはどうするんだ? 陽が暮れるとなると、大概の店は閉まるぞ」

やはり、遅いか。でも急ぐようなものでもないしな……。

「そうですね……明日、まとめて店を訪ねますよ。そういえば、騎士団支部は遠いんですか?」

「いや、少し離れてはいるが、そう遠くはない。中央広場を抜けて、城に真っ直ぐ向かえば、左手に黒い建物が見える。そこが宿舎兼支部だ」

なるほどな、建物も黒いのか。

「いつでも顔を見せに来るといい。昼あとは、どちらかといえば、暇になるんだ」

ラーディスさんも、帝都に来たら顔を見せるよう言ってたな……近い内に顔を出すかな。

「はい、そうさせてもらいます」

グランさんを宿の外まで見送る。じゃあ、またな、と手を振り、グランさんがしっかりとした足取りで去って行く──しばし、その背を見送る。

(うわ、急に寂しくなったな……一人部屋かあ。城塞都市での、訓練期間中以来か?)

 

 

クレイドルはフードを上げ、空を仰ぐ。すでに夕暮れ──クレイドルは、これからの帝都での暮らしの事を、ぼんやりと考えた。

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