( ´-ω-)y‐┛~~
グランさんを見送ったあと、宿に戻る。夕食を取るには、まだ早い時間。
それに、港区で鶏源亭でそばを食べてから、それほど時間立っていないからな……よし、取りあえず、お茶にするか。
カウンターに座り、のんびりと茶を啜る。香草茶の甘苦さが、胃に良く沁みた──宿内の喧騒とは切り離されたかの様な、カウンターの雰囲気が心地良い。
酒を飲むには、感覚的にまだ早い。帝都に来たばかりだから、店を知らないしな……「クレイドル、だったな。夕食はどうする?」
亭主のリ・アルガドさんが、グラスを磨きながら聞いてきた。静かに落ち着いた声。
「そうですね……酒場に行きがてら、夕食にしようと思っているんですが、お勧めの店ありませんか?」
ふむ、とアルガドさん。茶のお代わりを注いでくれる。
「そうだな……まあ色々あるが、中央広場を東に行けば繁華街だ。“
磨いたグラスを見つめながら、アルガドさんがいう。黒牛亭、か。
「お勧めの料理は、野菜煮込みとシチューだ。これは絶品でな、俺には真似出来ない」
野菜煮込みに、シチューか……寒くなる時期にはもってこいな料理だな。うん、覚えておこう。
不意に、宿内がざわめいた。うん? とアルガドさんが、グラスから顔を上げて宿内を見る。背後から、妙な威圧感──思わず振り向くと……。
「クレイ! 何故、用が済んだら私の所に戻って来ないのですか!」
眉をひそめている、ミザリアスさんが立っていた。ええ……戻るも何も、というかクレイって。
「ミザリー嬢ちゃん、クレイ?ドルとはどんな関係だ?」
アルガドさんが、呆れた様に尋ねる。それにミザリアスさんが、ふんす、と鼻息荒く答える。
「姉弟です。姉なんですよ」
「……うん。そう、なのかい……ふむ」
アルガドさんが、俺とミザリアスさんを交互に見つめ、ポツリと言った──「まあ、似てるな」
「当然です、姉弟ですから!」
ドヤ顔で主張する、我が“姉”ミザリアスさん。
亭主のアルガドさんは、何とも言えない様な顔で、俺達を見ていた。
姉弟なあ……似ている、といえば似てるか?
輝くばかりの金色の髪に、薄紅色の濡れた様な艶かしい唇。だが、肌と瞳の色が全然違うんだよな。
ミザリアスの赤い瞳に、褐色の肌。クレイドルの漆黒の瞳に、白磁の様な艶肌……はっきりいってクレイドルの方が、人目を引くだろう。
目に毒過ぎるんだよ。クレイドルの容姿は……女にも男にも。
引き込まれないよう、気を張らないとな……。
当たり前の様に、俺の隣に座るミザリアスさん。果実水を注文すると、俺に向き合ってきた──よく見ると私服だ。ベージュのワイシャツの上から、朱色のロングパーカー。同じく朱色のズボンに、赤茶色のショートブーツ──妙に似合っているな。
「もう、夕御飯の時間だというのに、戻って来ないのだから心配したんですよ」
果実水を口に含む、ミザリアスさんがいった。
この状況、どうしたらいい? どうすりゃ、しのげる!?
「アルガドさんから、お勧めの酒場を教えてもらったんだ。だから夕食がてら、そこに行こうと思っていたんだよ」
出来るだけ、親身に受け答えをする。
「ふうん。アルガドさんのお勧めのお店って何処ですか?」
「……黒牛亭だよ。まず間違いないからと聞いたんだ」
「なるほど、うん。クレイもきっと気に入るお店だと思うわ」
ニコニコと微笑む、ミザリアスさん。
「お茶、ご馳走さまでした。早速、黒牛亭に行ってきます」
茶代を払おうとすると、お姉ちゃんが払うと、ミザリアスさんに止められた。
ご馳走になっておくか……よし、黒牛亭に──
ミザリアスさんに、腕を掴まれた。というか、組まれた。
「さあ、行きましょうか。同僚と何度か行った事があるけど、なかなかいい店ですよ!」
やっぱりな。こうなると思った。あまり遅くなるなよ、とのアルガドさんの声を背に、宿から出る。客の視線が結構恥ずかしいな……。
俺の体を引きずる様に、勝手知ったるとばかりに中央広場に早くも到着し、繁華街に向けて歩み続けるミザリアスさん。
その間も、どこでどういう生活、冒険者活動をしていたのかを、尋ねてくるミザリアスさん。
なるべく、丁寧に受け答えをする(はしょる部分はあったが)。
そうこうしている内に、黒牛亭に到着。逞しい角をした黒牛の頭部が描かれた看板が目印だ。
「さ、入りましょう。今日は私がご馳走するからね!」
腕を組んだまま、酒場に入るミザリアスさん。力強いな!
喧騒の中、ミザリアスさんが店員に声をかける。
「二名がけのテーブル空いています?」
一瞬、呆気にとられた店員さんが頷き、奥のテーブルに案内してくれた。
「二名様、奥に案内しまーす!!」
店員さんが、厨房に声をかける。酒場内が見渡せる、奥まったテーブル席。
冒険者の行きつけというだけあって、それらしい人達が酒食を楽しんでいるのが見えた──この喧騒に、妙な安心感を感じる。
「よお、ミザリーお嬢。男連れたあ、珍しいな」
太い声が、話しかけてきた──筋肉質の力士を思わせる男性。肥満体ではなく、硬太り体型の体付き。それよりも特徴的なのは、顔だ。
闘牛を思わせる様な獣じみた顔付きと、側頭部から伸びる、左右対称の巻角──牛人族だ。
お、異世界知識発動──
“大海”を挟んだ、中央大陸のやや北側にある大陸が牛人族の故郷。
性質は温厚篤実。義侠の精神を持つ(それが理由で、頑固さに通じる事も少なくない)。
強靭な肉体と精神力は、状態異常や精神異常に強い耐性を持つ。
生来の器用さは、木工細工や機織り物等に発揮され、金属加工に特化する、ドワーフとエルフとは対になる種族といえる。
冒険者としては、その体型と
欠点としては、魔力的に他種族に劣るという事くらいだ(最も、ミルスタス族からは、そういうのは他種族に任せればいい。と考えている)──おお、久し振りの異世界知識。なるほどな、牛人族の事が少しばかり分かった。
「ええと、野菜煮込みに根菜シチューを二人前。それに、豚バラ青菜炒めと……焼き飯を三人前。お願いしますね」
ニコニコと、ミザリアスさんが注文する。
焼き飯? この世界にあるのか……炒飯とは違うんだよな……?
「……よし。相変わらず、良く食うもんだな。お連れさんは、大丈夫かい?」
注文を取りながら、牛人族の男性がいう。
「大丈夫ですよ、私も食べますから! あと、果実酒炭酸割りをお願いします。クレイは飲み物どうします?」
「ええと、お姉ちゃんと同じ物で……」
これが、無難だろうな──「お姉ちゃん?」
牛人族の男性が、俺とミザリアスさんを見る。
あ~、そうだよな。そう思うだろうな。ここは、あれだ……そういう事、で納得して下さい。
「まあ、いいやな。俺はルータス。ここの亭主だ。今後ともよろしくな」
ルータスさんが差し出してきた手を握る。
「クレイドルです。こちらこそ、よろしく」
「クレイドルな。すぐに酒を運ばせる。料理の方は、ちと待っててくれ」
じゃあな、とルータスさんが巨体を揺らし、厨房に去って行く。
厨房に注文を通す、ルータスさんの声が聞こえた。
「ここのお店、メニューは野菜中心なんですよ」
なるほど。さっとメニューを見ると、肉料理よりも、野菜炒めや野菜たっぷりの雑炊。煮込みに素揚げ、おひたし。お馴染みの、酢漬け野菜数種。こういう店、なんかいいな……。
「お酒、来たわよ。クレイ、乾杯しましょうか」
楽しそうに笑う、ミザリアスさん。姉かあ……これから、お世話になります。