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それを何とか宥め、店から離れる事が出来た。近い内に、食事をしましょうとの約束を取り付けて……面倒事が増えた気がする。
昼前までまだ時間はあるが、早い内に冒険者ギルドに向かおう。ミザリアスさんを待たせたら、悪い……というか、怖いからな。
少し早いが冒険者ギルドに到着。受付を通り過ぎ、喫茶室に向かう。
ここの喫茶室、初めてだったな……煙管の煙が、他の客の邪魔にならない様、奥の席に着く。
──最も、この気遣いは杞憂だという事を、クレイドルは知らない──お茶を注文し、一服する……煙管の煙が、ゆったりと舞う。
「お待たせしました……ええと、他に注文は、無かったですよね?」
年頃の店員さんが、上目遣いに尋ねてくる……そうだなあ。
「塩の焼き菓子下さい」
帝国領内、どこで食べても違いのない味だと聞いている。
「は、はい! 少しお待ちくださいね!」
パタパタと、駆け戻って行く店員さん。何ぞ?
茶を飲み、焼き菓子を摘まんでいると、ミザリアスさんが来た。うん? もう昼前か?
「ギルドに来たのを、見かけたんですよ。少し早いですけどね」
果実水を注文し、テーブル正面に座りながら、ミザリアスさんがいう。ニコニコと機嫌がいい。
「お昼なんですが、いいお店があるんですよ。いつもは菓子類しか出さないのですが、昼にはランチを出す店なんです」
ふうん? 昼のみランチを出す店、か……そういう所は、なかなかに良さげだな。
「“深緑の庭”という店なんですけどね」
おお……ラーディスさんへの手土産を買って行こうと思っていた店か。タイミングがいいな。
そこでランチがてら、ラーディスさんへの差し入れを見繕うかな。
お茶をしながら、ミザリアスさんと世間話。青葉の鋼での出来事は、言わないでおいた。
さらなる面倒事が起きそうだからな……。
茶の時間を終え、そろそろ昼食の時間だとミザリアスさんが言い、立ち上がる。
喫茶室の払いはミザリアスさんがまとめて済ませた。
「深緑の庭に、行きましょう!」
がっしりと、俺の腕を取ったミザリアスさんが喫茶室を通り抜け、ギルドから出る。
「深緑の庭のランチは、なかなか良いものですよ」
足取りに迷い無く、中央広場を抜けるミザリアスさん。行き交う通行人の視線は無視だ。
繁華街に入り、黒牛亭を通り過ぎる──繁華街の喧騒が、ほとんど聞こえない奥まった場所に、“
テラス席のある、白と緑を基調としたお洒落な雰囲気の店構え。雑多かつ猥雑な繁華街の中には、似合わぬ店だ。
「この通りを少し先に行けば、貴族や商人が住まいを構える通りに出るんですよ」
俺の腕をがっしりと組んだ、ミザリアスさんがいう。
なるほどな、この店の利用客は、大概そこの通りから来るのだろう。そんな雰囲気の店だ──
「さあ、入りましょう!」
ミザリアスさんに腕を引かれ、早速入店する。
奥まった、二人掛けのテーブルに案内された。フードを下ろし、ランチメニューを見る──ランチは二種類。日替わりらしい。
チキンソテーのグリーンソースがけ。根菜サラダと玉葱のスープに丸パン。
ポークソテーのガーリックソースがけ。葉野菜サラダと茸のスープに丸パン──そして、お茶とデザート付きか。ふむ、これで銀貨二枚。高いかお手頃かは食べてみないとな……。
「御注文はお決まり?」
エプロン姿の店員さんが水を運んで来つつ、注文を聞きに来た。
“
整った目鼻立ちに特徴的な耳。波打つ様な長い金髪を、高く結い上げている。
碧味がかった瞳と、長い睫毛が目を引く──「店長直々に接客なんて、嬉しいですね」
ミザリアスさんが嬉しそうにいう。知り合いなのか、この二人。ふと、店長さんと目が合った。
一瞬目を見開いたあと、ミザリアスさんに尋ねる。
「ええと……初めてのお客様だけれど、この人は?」
「弟なんですよ」
ふふん、と自慢気に答えるミザリアスさん。
そ、そうなの。と店長さんが答え、気を取り直したかの様に、改めて注文を尋ねてくる。そうだな……よし。
「ポークソテーを、お願いします」
「私も、それで」
少し待っててね、と店長さんがフランクに答え、去って行く。
甘めのタレに漬け置きした豚肉を、焼いたのだろう。充分味が染みている。焼き加減もいいな……うん。美味い。
ガーリックソースもほどよく効いていて、ほのかなニンニクの香りと風味が何ともいえないな。
薄味のドレッシングのサラダで、口の中をサッパリさせる。まろやかな味の茸のスープが優しく胃に沁みる……。
食後のデザートの時間……これ、コーヒーか。この世界に来て初めてだ。なんか懐かしい薫りだな。砂糖とクリームが一緒に出された。
俺は基本、砂糖だけ。まずは薫りを楽しみ、ゆっくりと啜る……久し振りなだけ、美味しく感じるな。少しばかり、郷愁の思いを感じる。
「コーヒー、気に入ったみたいね」
微笑む、ミザリアスさん。この世界でもコーヒーというのか。
ミザリアスさんによると、コーヒーはなかなかの高級品で、帝国領内では帝都と帝国領南側に位置する、交易都市でしか扱ってないそうだ。他領では、領主が個人的に購入するくらいらしい。
輸出元は南大陸にある、南都サウスウィンド。帝国領ではなく、南大陸を代表する独立国だそうだ。覇王公時代からの付き合いがある友好国との事──
コーヒーを堪能していると、先ほどの店長さんがデザートが運んで来た。
「今日のデザートは、クリーム乗せのパウンドケーキよ」
甘い香りが早くも漂って来た──「コーヒーのお代わりは?」
笑みを浮かべた店長さんが、尋ねてくる。
「あ、お願いします」
「コーヒーがお気に入りになったみたいですよ」
ミザリアスさんが、店長さんに告げる。まあ。といった感じで微笑む店長さん。
「それは良かったです。他のお茶と比べて、少しクセのある飲み物だから、あまり広まっていないのよ」
まあ、確かにな。前世でも、飲めない人いたからな。夜眠れなくなるという理由の人とか。
「ランチタイムに限り、お茶のお代わりは自由なので、お声をかけて下さいね」
優しい笑みを浮かべ、厨房に戻って行く店長さん。
さて、デザートだ。クリーム乗せのパウンドケーキ──果肉が混ぜ込まれたパウンドケーキの上に、クリームが乗っている……フォークで切り分けて、クリームと一緒に口に運ぶ──クリームの風味が、まず最初に来た。
これは香草か。ケーキ本体ではなく、クリームに香草を練り込んでいるんだな。ケーキの甘味とクリームの風味が、味わい深いな……デザートだけでも、食べに来るだけはある。うん、美味い。
支払いの段になると、思った通り、ミザリアスさんが、自分が払うと言い出して来た。
支払いで揉めるのは他の客の迷惑になるから、ミザリアスさんに譲った──お会計、きっちり銀貨四枚。そこらの定食屋の、二、三倍はした……まあ、正直。そこまでの価値はあると思う。
ああ、そうだ。ラーディスさんへの、手土産を買わないとな……。
販売カウンターで色々眺めた結果。ミザリアスさんの助言に従い、クッキーとお茶の詰め合わせを選んだ。
手土産には、間違いのない物だという。何でも、貴族への贈り物にも適しているそうだ……御値段、銀貨二枚。ラーディスさんへの手土産は、俺がちゃんと払う、払います──お土産用にと、店長が丁寧に包装してくれた。
店構えと同じ、白と緑を基調とした包装紙。捨てるのは勿体無いなと、何となく思った……。