邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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幕間 グランドヒルの新人達⑧ 合同依頼 “霧雨の風(ミストウィンド)

 

 

 

十人の(きこり)の先導の元、樵の仕事場に向かう。“霧雨の風(ミストウィンド)”は、樵の人達を囲む様に位置取り、私達は樵達の後方を進んでいる。

「樵の仕事場までもう少しだ。着いたなら、改めて打ち合わせをするからな」

パーティーリーダーの、ジャックさんに声をかけられた。

 

早朝の森。冬間近という事もあって、結構冷える。けれど、澄んだ空気は心地良い──木々の間から射し込んで来る朝陽が、森を照らし始めていた。ふと、私達の村は冬支度をしている時期だろうな、と思う──「よし。到着だ」

ジャックさんの声に、我に帰る。

着いた先は広場になっていて、大きめの小屋があった。樵の人達は小屋の扉を開けて、荷物を運び入れている。

「ジャックさん達も、余分な荷物を運び込んでくれ」

年長の樵さんが声をかけてきた。それに答えたジャックさんが、私達を促しながら小屋に向かって行く。

 

身の回りの物──装備、携帯食に水筒。それだけを持つ。

鎧、よし。剣、よし。盾、よし……きちんと確認する。戦闘が無いに越した事はないけれど、あるだろうなと、何となく思う。我ながら、少し心配性かな──ジョシュは思った。

 

小屋の前で、ジャックさんと樵達が、地図を前に話し合っている。二名の樵は、荷物番として小屋に残るみたいだ。

「伐採場所の確認と、順番を話し合っているんですよ」

フルースさんが教えてくれた。伐採作業にかかる時間はどのくらいか気になり、ついでに尋ねてみる。

「……そうだね。伐採場所と順番次第だけど。順調にいけば、夕方前には終わるだろうね。魔獣なり何なりが現れたなら、明日まで作業は持ち越しになる可能性はあるね。暗くなったら、山仕事は出来ないからね」

なるほどな。順調にいけば今日中に終わり、でなければ作業は明日に持ち越し、か……気になるのは、魔獣の種類何だけどな……。

 

「魔獣化しやすいのは、そうだね……熊、猪に鹿かな。遭遇しやすいのは、猪だろうね」

今の時期。ミストウッズの山に青き竜がやって来ている影響で、山の生物が魔獣化している可能性が、高まっているそうだ……。

熊、か。自分達の村近くの山には、猪と鹿はいたけど熊は居なかったっけ。

「ある程度の大きさがある獣が、そうなりやすいね。熊は奥まった場所に生息しているから、出るとしたなら……鹿か猪だろうね」

なるほどな。ちなみに、猪か鹿が出たなら狩る事も念頭に入れているそうだ。

 

「出発するぞ。集まってくれ!」

ジャックさんの声。新調した杖を手に、皆と合流する。

「そういえば、シェリナ達の村の近くには、山はあるのか?」

ランドさんが話しかけてきた。ジョシュと似たような装備だけど、中級だけあって、ジョシュよりも質が良さそうだ。

「あ、はい。少し行った所に、山がありましたけど、危険なので踏みいるのは浅い所まででした」

深い場所には猪等が出て危険なので、浅い場所で、山菜や茸。木の実を採取したんだった──村から離れて、結構時間が立っているのだけど早くも懐かしく感じる。

 

「ふうん。ここの山も、そんな感じだ。奥まで入るのは猟師くらいだな。奥まった所には、熊が出るのも珍しくないからな」

熊かあ……猟師が狩ってきた、猪や鹿は見た事はあるけれど、熊は話にしか聞いた事がないな。

「山の事は、狩人と樵に任せていればいい。俺達の仕事は、樵達の護衛。魔獣化した獣の撃退だ。それを忘れなければいい」

ランドさんがいう。魔獣化した獣……想像もつかないけれど、何故か不安は感じない。

先輩達に、甘える訳ではないけれど……うん。頼りにさせて貰おう。

 

 

「ランドとリーネ達は、樵達の邪魔にならない様、周囲に付け。俺とフルースは見回りに行く。ランド、頼んだぞ」

「任せろ。気を付けてな」

おうよ。とジャックさんとフルースさんが森の奥に入って行く。その背を見送りながら、そういえばと、ある事に気付いた。

「ジャックさん。武器を持ってなかった様に見えましたけど?」

ランドさんに尋ねる。ジャックさん、腰の後ろに短めの短剣を帯びているだけで、武器らしい武器は他には何も持っていない様だったけど……。

 

「うん?……ああ、ジャックか。あいつ、拳闘士だからな」

拳闘士? もしかして、体術だけで戦闘を……?

「考えている事は分かる。その通りだ。あいつが腕に着けていた籠手を見たろ?」

籠手……そういえば、かなり頑丈そうな、肘まで覆う籠手だっけ。

「あいつの特注品で、ナックル付きのガントレットだ。さすがに素手では、魔物やらを倒せないよ……まあ、例外はいるがな」

ランドさんは、それに、と付け加えるように言う。

「土属性の魔術持ちだ。ナックルガントレットでの体術と土属性。戦闘に関して心配は無いよ」

ベテランともなると、個性が強さに繋がる様な気がした。何か、感心というか凄さを感じる……。

 

「そろそろ伐採作業に入るから、護衛頼むよ。魔獣が現れたら合図してくれ」

年長の樵さんが告げてきた。よし、気合い入れよう。

「リーネ、ジョシュ、シェリナ、樵達から少し離れよう。周囲に目を光らせとけ。俺はお前達の背後に付く」

ランドさんの指示に従い、私達は互いに距離を取り、樵達の邪魔にならない様にそれぞれの位置に付く。

 

(ふうん……やるな)

リーネ達の動きを見て、ランドは感心する。ちゃんとした連携が取れている──初級訓練できちんと学んでいたという事もあるだろうが、それなりに場数を踏んでいるのだろうな……。

それぞれ距離を取り、樵達を半円状に囲む様に位置取りをしている。

(俺の位置を確認して、四方向を視野に入れているんだな……なかなかのものだ)

ランドは、煙草ケースから紙巻き煙草を取り出し、咥えた。パチリ、と生活魔法で火をつける……(さて、何事も無ければいいがな)

すうっと一吸い。ぷかりと、輪っか状の煙を吐き出す。

 

「落とすぞー!」

合図と共に、一本の木がゆっくりと倒れる。枝はすべて、枝打ち済み。

一気に木が倒れ込まない様に、固定した(くさび)で支えながら、木を引き倒す。

この作業が一番気を使うらしい。大木がゆっくりと倒れる様子は、なかなかに豪快なものだ──

「ここでの作業は、もう終わりだ。少し休憩して、次の場所だ」

年長の樵さんがいう。これまで伐採した木は、十本。あと十本で作業は終わりとの事。

護衛対象の樵達の割り当て区分が済めば、今日の作業は終了。木の回収は明日に持ち越し。

もちろん、明日も護衛依頼は続行となる──

 

「ランドさん。奥から何か、向かって来る感じがするんですけど」

杖を片手に、シェリナが近付いて来た。

うん? とランドさんが、紙巻き煙草を指で揉み消す。

シェリナのやって来た方角をじっ、と見据え──「リーネ、ジョシュ、シェリナ。魔獣だ」

私達に告げると、樵達に向かって指示を出す。

「親方、魔獣だ。皆を下げろ」

「……よし。皆下がれ、離れろ! ランドさん、頼むよ」

親方と呼ばれた年長の樵さんが、早速下がって行く……「お前達で相手取れ。多分、魔獣化した猪だ。背後は任せろ」

ランドさんが私達の後方に付く。よし、時間はない──「ジョシュ、盾役お願い。私はあなたの補佐に回るわ。シェリナは、後方で私達の補助を頼むわ」

二人に指示を出す──これでいいのだろうか? と疑問が湧く……「決めたならば迷うな。腹を括れ」

ランドさんの声──うん。私が堂々としてないとね。

 

獣臭とともにやって来たのは……赤黒い毛並みをした大柄の猪。牙は不自然なほどに、大きく鋭く延びている。あの牙に引っかけられたら、大事になる……村にいる時は、何度か狩られた猪を見た事はあるけれど、これは……もう野の獣じゃない。まさしく魔獣だ。こちらとの距離は、十メートル少しくらい。

警戒しているのか、荒い吐息を吐きながらじっと身構えている猪。

「ジョシュ、突進は真正面から受け止めたら危ないわ。シェリナ、攻撃よりも動きを止める事を最優先にお願い」

「分かった。出来るだけ、反らす様にする」

「任せて。なるべく、長く持たせるようにするわ」

ジョシュとシェリナの声を頼もしく感じる……よし、やるわよ。

 

盾を前に構え、地面に根を張る様に、どっしりと構えるジョシュ。緊張をほぐすように、深呼吸をするジョシュの息づかいが聞こえた。

大きな背中が頼もしく感じる──私は、ジョシュの少し斜め後方に位置をとる。

堅木造りの棍を軽く握り、私達の後方にいるシェリナに声をかける。

「隙を見て沈めて。長くなくていいから」

「……うん。機会があるなら、攻撃にも回るから」

緊張しているのか、少し声が固い。でも心配は、無い──「来るぞ」

ランドさんの声。猪が首を振り、前足で地面を掘る様な仕草をする──ジョシュが腰を落とし、剣を抜いた。

 

猪が突進してきた。巨体が、更に大きく見えた──「巨体の突進や大型の武器は、真正面から受けるな。反らすか弾くかにするんだ。その時、余分な力は要らない。例えるなら──」

牙が、迫って来た。ミルデアさんの言葉を思い出す──「撫でる様に、受け流すんだ」──ガツン、と盾に一瞬の衝撃……体を半身に反らし、突進を受け流す。同時に、猪の首に思いきり、剣を叩きつける──腰が入っていない、浅い一撃。

だが、受け流しからの剣の一撃は、猪の突進を遅らせるに充分な効果があった。

 

ジョシュが猪の突進を受けた瞬間、ゾッとしたけど、巧く受け流し、同時に剣での一撃。

浅かったみたいで、猪の動きは止まらなかったけれど充分だった──「シェリナ、お願い!」

私は、少し動きの鈍った猪の横側に回り込みながら、右前足に思いきり、棍を薙ぐ様に叩きつける。

いい手応え。猪が前のめりになるけど、倒れるまでには至らない──でも、これで充分。

 

地よ 泥となれ その地にあるもの 沈ませよ──シェリナの詠唱が背後から聞こえた。

猪の体が、半分ほど大地に沈む。もがく猪にジョシュが近付く──「斬るよりも突け。首に思いきりな」

ランドさんのアドバイス。ジョシュは盾を落とし、剣を両手で逆手に持つと──もがく猪の首に剣を突き立てた。

ギッギギィイッ! 猪の断末魔──十秒もしない内に、猪は動かなくなった……。

ふ~~、とジョシュが大きく息を吐く。私もシェリナも、ため息をついた。何とか、無事に終わった……。

「よくやったな。少し休んでろ」

咥え煙草のランドさんがやって来た。その顔を見て、改めて一仕事を終えた気がした。




伐採作業は、適当です。

_〆(。。)

感想あるなら、どぞ。

|д゚)チラッ
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