十人の
「樵の仕事場までもう少しだ。着いたなら、改めて打ち合わせをするからな」
パーティーリーダーの、ジャックさんに声をかけられた。
早朝の森。冬間近という事もあって、結構冷える。けれど、澄んだ空気は心地良い──木々の間から射し込んで来る朝陽が、森を照らし始めていた。ふと、私達の村は冬支度をしている時期だろうな、と思う──「よし。到着だ」
ジャックさんの声に、我に帰る。
着いた先は広場になっていて、大きめの小屋があった。樵の人達は小屋の扉を開けて、荷物を運び入れている。
「ジャックさん達も、余分な荷物を運び込んでくれ」
年長の樵さんが声をかけてきた。それに答えたジャックさんが、私達を促しながら小屋に向かって行く。
身の回りの物──装備、携帯食に水筒。それだけを持つ。
鎧、よし。剣、よし。盾、よし……きちんと確認する。戦闘が無いに越した事はないけれど、あるだろうなと、何となく思う。我ながら、少し心配性かな──ジョシュは思った。
小屋の前で、ジャックさんと樵達が、地図を前に話し合っている。二名の樵は、荷物番として小屋に残るみたいだ。
「伐採場所の確認と、順番を話し合っているんですよ」
フルースさんが教えてくれた。伐採作業にかかる時間はどのくらいか気になり、ついでに尋ねてみる。
「……そうだね。伐採場所と順番次第だけど。順調にいけば、夕方前には終わるだろうね。魔獣なり何なりが現れたなら、明日まで作業は持ち越しになる可能性はあるね。暗くなったら、山仕事は出来ないからね」
なるほどな。順調にいけば今日中に終わり、でなければ作業は明日に持ち越し、か……気になるのは、魔獣の種類何だけどな……。
「魔獣化しやすいのは、そうだね……熊、猪に鹿かな。遭遇しやすいのは、猪だろうね」
今の時期。ミストウッズの山に青き竜がやって来ている影響で、山の生物が魔獣化している可能性が、高まっているそうだ……。
熊、か。自分達の村近くの山には、猪と鹿はいたけど熊は居なかったっけ。
「ある程度の大きさがある獣が、そうなりやすいね。熊は奥まった場所に生息しているから、出るとしたなら……鹿か猪だろうね」
なるほどな。ちなみに、猪か鹿が出たなら狩る事も念頭に入れているそうだ。
「出発するぞ。集まってくれ!」
ジャックさんの声。新調した杖を手に、皆と合流する。
「そういえば、シェリナ達の村の近くには、山はあるのか?」
ランドさんが話しかけてきた。ジョシュと似たような装備だけど、中級だけあって、ジョシュよりも質が良さそうだ。
「あ、はい。少し行った所に、山がありましたけど、危険なので踏みいるのは浅い所まででした」
深い場所には猪等が出て危険なので、浅い場所で、山菜や茸。木の実を採取したんだった──村から離れて、結構時間が立っているのだけど早くも懐かしく感じる。
「ふうん。ここの山も、そんな感じだ。奥まで入るのは猟師くらいだな。奥まった所には、熊が出るのも珍しくないからな」
熊かあ……猟師が狩ってきた、猪や鹿は見た事はあるけれど、熊は話にしか聞いた事がないな。
「山の事は、狩人と樵に任せていればいい。俺達の仕事は、樵達の護衛。魔獣化した獣の撃退だ。それを忘れなければいい」
ランドさんがいう。魔獣化した獣……想像もつかないけれど、何故か不安は感じない。
先輩達に、甘える訳ではないけれど……うん。頼りにさせて貰おう。
「ランドとリーネ達は、樵達の邪魔にならない様、周囲に付け。俺とフルースは見回りに行く。ランド、頼んだぞ」
「任せろ。気を付けてな」
おうよ。とジャックさんとフルースさんが森の奥に入って行く。その背を見送りながら、そういえばと、ある事に気付いた。
「ジャックさん。武器を持ってなかった様に見えましたけど?」
ランドさんに尋ねる。ジャックさん、腰の後ろに短めの短剣を帯びているだけで、武器らしい武器は他には何も持っていない様だったけど……。
「うん?……ああ、ジャックか。あいつ、拳闘士だからな」
拳闘士? もしかして、体術だけで戦闘を……?
「考えている事は分かる。その通りだ。あいつが腕に着けていた籠手を見たろ?」
籠手……そういえば、かなり頑丈そうな、肘まで覆う籠手だっけ。
「あいつの特注品で、ナックル付きのガントレットだ。さすがに素手では、魔物やらを倒せないよ……まあ、例外はいるがな」
ランドさんは、それに、と付け加えるように言う。
「土属性の魔術持ちだ。ナックルガントレットでの体術と土属性。戦闘に関して心配は無いよ」
ベテランともなると、個性が強さに繋がる様な気がした。何か、感心というか凄さを感じる……。
「そろそろ伐採作業に入るから、護衛頼むよ。魔獣が現れたら合図してくれ」
年長の樵さんが告げてきた。よし、気合い入れよう。
「リーネ、ジョシュ、シェリナ、樵達から少し離れよう。周囲に目を光らせとけ。俺はお前達の背後に付く」
ランドさんの指示に従い、私達は互いに距離を取り、樵達の邪魔にならない様にそれぞれの位置に付く。
(ふうん……やるな)
リーネ達の動きを見て、ランドは感心する。ちゃんとした連携が取れている──初級訓練できちんと学んでいたという事もあるだろうが、それなりに場数を踏んでいるのだろうな……。
それぞれ距離を取り、樵達を半円状に囲む様に位置取りをしている。
(俺の位置を確認して、四方向を視野に入れているんだな……なかなかのものだ)
ランドは、煙草ケースから紙巻き煙草を取り出し、咥えた。パチリ、と生活魔法で火をつける……(さて、何事も無ければいいがな)
すうっと一吸い。ぷかりと、輪っか状の煙を吐き出す。
「落とすぞー!」
合図と共に、一本の木がゆっくりと倒れる。枝はすべて、枝打ち済み。
一気に木が倒れ込まない様に、固定した
この作業が一番気を使うらしい。大木がゆっくりと倒れる様子は、なかなかに豪快なものだ──
「ここでの作業は、もう終わりだ。少し休憩して、次の場所だ」
年長の樵さんがいう。これまで伐採した木は、十本。あと十本で作業は終わりとの事。
護衛対象の樵達の割り当て区分が済めば、今日の作業は終了。木の回収は明日に持ち越し。
もちろん、明日も護衛依頼は続行となる──
「ランドさん。奥から何か、向かって来る感じがするんですけど」
杖を片手に、シェリナが近付いて来た。
うん? とランドさんが、紙巻き煙草を指で揉み消す。
シェリナのやって来た方角をじっ、と見据え──「リーネ、ジョシュ、シェリナ。魔獣だ」
私達に告げると、樵達に向かって指示を出す。
「親方、魔獣だ。皆を下げろ」
「……よし。皆下がれ、離れろ! ランドさん、頼むよ」
親方と呼ばれた年長の樵さんが、早速下がって行く……「お前達で相手取れ。多分、魔獣化した猪だ。背後は任せろ」
ランドさんが私達の後方に付く。よし、時間はない──「ジョシュ、盾役お願い。私はあなたの補佐に回るわ。シェリナは、後方で私達の補助を頼むわ」
二人に指示を出す──これでいいのだろうか? と疑問が湧く……「決めたならば迷うな。腹を括れ」
ランドさんの声──うん。私が堂々としてないとね。
獣臭とともにやって来たのは……赤黒い毛並みをした大柄の猪。牙は不自然なほどに、大きく鋭く延びている。あの牙に引っかけられたら、大事になる……村にいる時は、何度か狩られた猪を見た事はあるけれど、これは……もう野の獣じゃない。まさしく魔獣だ。こちらとの距離は、十メートル少しくらい。
警戒しているのか、荒い吐息を吐きながらじっと身構えている猪。
「ジョシュ、突進は真正面から受け止めたら危ないわ。シェリナ、攻撃よりも動きを止める事を最優先にお願い」
「分かった。出来るだけ、反らす様にする」
「任せて。なるべく、長く持たせるようにするわ」
ジョシュとシェリナの声を頼もしく感じる……よし、やるわよ。
盾を前に構え、地面に根を張る様に、どっしりと構えるジョシュ。緊張をほぐすように、深呼吸をするジョシュの息づかいが聞こえた。
大きな背中が頼もしく感じる──私は、ジョシュの少し斜め後方に位置をとる。
堅木造りの棍を軽く握り、私達の後方にいるシェリナに声をかける。
「隙を見て沈めて。長くなくていいから」
「……うん。機会があるなら、攻撃にも回るから」
緊張しているのか、少し声が固い。でも心配は、無い──「来るぞ」
ランドさんの声。猪が首を振り、前足で地面を掘る様な仕草をする──ジョシュが腰を落とし、剣を抜いた。
猪が突進してきた。巨体が、更に大きく見えた──「巨体の突進や大型の武器は、真正面から受けるな。反らすか弾くかにするんだ。その時、余分な力は要らない。例えるなら──」
牙が、迫って来た。ミルデアさんの言葉を思い出す──「撫でる様に、受け流すんだ」──ガツン、と盾に一瞬の衝撃……体を半身に反らし、突進を受け流す。同時に、猪の首に思いきり、剣を叩きつける──腰が入っていない、浅い一撃。
だが、受け流しからの剣の一撃は、猪の突進を遅らせるに充分な効果があった。
ジョシュが猪の突進を受けた瞬間、ゾッとしたけど、巧く受け流し、同時に剣での一撃。
浅かったみたいで、猪の動きは止まらなかったけれど充分だった──「シェリナ、お願い!」
私は、少し動きの鈍った猪の横側に回り込みながら、右前足に思いきり、棍を薙ぐ様に叩きつける。
いい手応え。猪が前のめりになるけど、倒れるまでには至らない──でも、これで充分。
地よ 泥となれ その地にあるもの 沈ませよ──シェリナの詠唱が背後から聞こえた。
猪の体が、半分ほど大地に沈む。もがく猪にジョシュが近付く──「斬るよりも突け。首に思いきりな」
ランドさんのアドバイス。ジョシュは盾を落とし、剣を両手で逆手に持つと──もがく猪の首に剣を突き立てた。
ギッギギィイッ! 猪の断末魔──十秒もしない内に、猪は動かなくなった……。
ふ~~、とジョシュが大きく息を吐く。私もシェリナも、ため息をついた。何とか、無事に終わった……。
「よくやったな。少し休んでろ」
咥え煙草のランドさんがやって来た。その顔を見て、改めて一仕事を終えた気がした。
伐採作業は、適当です。
_〆(。。)
感想あるなら、どぞ。
|д゚)チラッ