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ならば、と。ミザリアスさんは夕食を一緒に取る事を条件に出したが、今日のところはラーディスさんに会った後の予定は分からない。と告げたら、ミザリアスさんはさらにごねようとしたが、帝都にいる間は、朝食は必ず一緒に。という事で、話を付けた──帝都に来て、早くも面倒事を抱えた気がするが……まあ、いい。切り替えていこう。
さて、ラーディスさんはいつでも訪ねてきていいと言っていたが、宮廷魔術師というのはエリート職と聞いている。一介の冒険者が、訪ねていいのだろうか……?
まあ、訪ねて会えなかったなら、手土産を衛兵さんに預ければいいか。クッキーとお茶の詰め合わせだから、それなりに日持ちするだろう。
城へは、中央広場を出て大通りに出ればいいそうだが……少し、遠い。馬車を使うか。
大きな街だと、馬車で移動する事も普通らしいからな。タクシー乗り場のように、馬車が数台停まっている場所があちこちにあるのだ。帝都にも、当然そういう場所がある。
移動する馬車の中から見る街の風景も、タクシーの中から見る風景と、それほど変わらない気がする。
他の馬車とすれ違いながら大通りを過ぎ、やがて城が見えてきた──でかい。遠目からでも、城の大きさが伺える。だが……何だろうな?
豪壮で豪華ではあるが、城塞都市の城ほど、頑丈というか堅固な造りには見えない。
帝都の城なら、もっと堅牢な造りだと思っていたんだが……お、異世界知識発動──城を設計建設したのは、鉄壁将と称されたヴォルガンド伯。
ヴォルガンド伯曰く「帝都の城を頑丈に造る必要無し。帝都を攻められた時点で、陛下はとうに都から落ち延びているだろう」との事。ならば、豪壮で豪華な造りにすべし──だそうだ……。
なるほどな。いち早く落ち延び、捲土重来を図るか……。
大通りを挟んだ城の前近くに、馬車の停留所があり、そこで降ろしてもらった。
深緑の庭からここまでで、銅貨六枚──タクシーでいうと、ワンメーターてとこだろうか。
停留所から城門までは少しの距離。大きく開け放された門は、さすがに堅牢そのものだ。
さて……ラーディスさんに会えるだろうか?
「さっき、ラーディスさんの部屋に案内した冒険者、どういう関係何だろうな?」
「分からん……聞くのも、何だしな。それより、あの顔は凄かった……」
「あの顔……まともに、見てしまったのよ……白い肌に、輝く様な金色の髪……濡れた様な薄紅色の唇……」
「しっかりしろ。戻ってこーい」
虚ろな表情で呟く、女性の衛兵に呼び掛ける他の衛兵達。
男女問わず魅了していった、クレイドルという名の訪問客──男女問わず惑わす様な容姿と雰囲気は、衛兵達から要注意人物として、記録される事になった。クレイドルはその事を当然知るよしも無い。
「久し振りだな。まあ、座ってくれ」
ラーディスさんが、にこやかに迎えてくれた。会えなかったならどうするか、というのは杞憂だった。
「これ、つまらないものですけど」
早速、深緑の庭で買ってきた手土産を渡す。
「深緑の庭か。安くなかっただろ」
嬉しそうに、白と緑色の箱に触れる。喜んでもらって何よりだ。
「ありがたく頂戴しよう。ちょっと待っててくれ。お茶の準備をしてもらおう」
ラーディスさんは箱を持って、奥に向かって行く。その背を眺めながら、室内を見回す。今いる場所は、リビングといった所か。
勧められ座った椅子。そしてテーブルは頑丈な造りだが、縁には細かな装飾が成されている。椅子の座り心地はかなりいい。
少し離れた場所に、草花模様が装飾された、アンティークっぽい棚と机。その反対側には、作業台の様な大きめの机。その上には、大小様々な道具箱らしき物が置いてある。
少し開け放たれた窓際には、黒薔薇が挿された一輪挿し。その横には、木に止まっている梟の彫刻品が飾られている。
きちんと整理整頓されている部屋──奥の方を見ると、廊下になっていて、突き当たりに一部屋。 左側には、手前に一部屋。右側は、さっきラーディスさんが入っていった場所。扉は無い。キッチンか何かだろうか。
その手前にも、一部屋見える。何となく、洗面所やトイレ等の場所だろうと思った。
そういえばラーディスさん、お茶の準備をしてもらおうと言ってたな……お手伝いさんでもいるのだろうか?
「待たせたな。もう少ししたら、お茶の準備が出来る。さて、冒険者ギルドにはもう顔を出しただろう? 何か聞きたい事があるんじゃないか?」
ラーディスさんが、ニヤリ、と笑う。
「自称、“姉”に会いました……あの人は、なんです?」
う~ん、とラーディスさん。椅子の背もたれに体を乗せながら、云う。
「ミザリアスか。そうだな……彼女は“
神成人間……? じゃあ普通の人間じゃないって事か……まてよ、だったら俺と同じ様に……?
「まあ、考えている事は分かる。だが似て非なる存在だ。君と彼女とではな……君は魂をこの世界で形にして、新たな人生を生きる事になった。彼女の場合は、魂から造られた存在だ。そのあと身体を造られ、今この世界で生きている」
ぎしり、とラーディスさんの背もたれが鳴る──
造られた魂?……何だろうな、微かな怒りを感じた。
「今、君が感じた感情。それは正しい。だがまあ、神々がやる事にいちいち目くじらを立ててもしょうがない……彼女を造ったのは、深淵の女王だ。そして、女王は邪神に彼女を任せた」
「それは、何故です?」
「深淵の女王はどんな形であれ、直接的に現世に関わる事は出来ないんだ。だから、彼女を現世に送るために邪神に任せたんだ」
何の為に、深淵の女王は彼女──“姉”を造ったんだ?
ラーディスさんが、俺の疑問を読んだように云う。
「ふん。転生か転移の真似事をしたかったんだろうな。下らない事だ」
ぎしり、と背もたれが鳴る──転生か転移の真似事……うん? 今、転移って言ったな。
「ラーディスさん、転移と聞こえましたが?」
「うん? ああ、そう言った。死んでこの世界に来る事を、転生。着の身着のまま来る事を、転移と云う」
やはり転移もあるんだな……ギルドマスターのシュウヤさんは、やはり?
「ちなみに、冒険者ギルドマスターも転移者だ」
も? と言ったな。他にも──
「まあ、いずれ紹介する事になるだろう。向こうも喜ぶはずだ……お茶の準備が出来たようだ」
奥の方を見るラーディスさん。それにつられ、奥に目を向けると──「スケルトン!?」
思わず口に出してしまう。ティーセットを手にした、執事然とした装いのスケルトンが、テーブルに向かって来る──そして、優雅な仕草でティーセットをテーブルに並べる。
「紹介しよう。ギルバート君だ」
「ギルバート君?!」
『お初にお目にかかります。ギルバートでございます。どうぞ、お見知りおきを』
丁重に礼をするスケルトン。いや、というか──「喋った?!」
「ああ、スケルトンは声帯が無いからな。話す事は出来ない。だから、声帯代わりの魔道具を身に付けているんだ」
「声帯代わりの魔道具?!」
「やはり話せないと、日常は不便だからな」
いや、そういう事か? これ、周囲はどう思っているのだろうか?
「皆、慣れているよ。魔導卿のとこのギルバート君、とな。ギルバート君、あとは私がやる。戻っていい」
俺の疑問に答えるように、ラーディスさんがなんでもないように云った。
『御用があれば、お呼び下さい。お客様、どうぞごゆっくり』
丁寧な一礼をしてギルバート君……さんが、奥に戻って行った。
「ギルバート君は、生前は高名な騎士の従者だったんだ。縁あって、私の元に来てくれてね、身の回りの世話をしてもらっている。騎士の従者だけあって、武勇にも優れていているんだ」
ティーカップにお茶を注ぎながら、ラーディスさんがギルバートさんの事を、説明してくれる。
はえ~、としか感想は出てこない。底知れないな、ラーディスさんは……。
ゆったりとした、お茶の時間。
「相変わらず、いい味だな……だが、もっといい飲み方があるんだ」
ラーディスさんが立ち上がり、棚に向かう。棚から取り出したのは、オウルリバーの瓶。
「五年物何だがな、こうして……二、三滴ほど、紅茶に垂らす」
紅茶に、ウィスキーを垂らす──ウィスキーの香りが、漂ってくる。
「まだ陽は明るいが、まあいいだろう。試してみるといい」
そういって、ラーディスさんは俺の紅茶にオウルリバーを垂らす。
紅茶の薫りに、ウィスキーの香りが混じる……さて、一口。
おおう……いいな、これ。うん、いい飲み方を教えてもらったな。
いや、まてよ……こんな飲み方しているキャラクターいたな。誰だったか? あのキャラも、魔術師だとか言われていたっけか?
「うん。美味しいですね」
ウィスキーイン紅茶を啜る。クッキーも合うものだな……。
「気にいったようで何よりだ」
ラーディスさんも紅茶を啜り、クッキーを摘まむ。いい時間だ……。
帝都周囲のダンジョンの話を色々。帝都の依頼傾向や冒険者達の情報。帝都内のお薦めの店等── そろそろ、いい時間だ。おいとまするか。
「いつでも来てくれ。あと、私が冒険者活動する時は、冒険者ギルドにいるからな。城に出向く前に、まずギルドに顔を出すといい」
城門まで、見送りに来てくれたラーディスさんと別れ、馬車の停留所に向かう。
さて、この後の予定はどうするか。
そろそろ夕方になろうとしているが、宿に帰るには早い時間帯だ……まあ、取り合えず中央広場に向かうか。
中央広場で降りて、何となく露店に向かう。
夕方前なので、店仕舞いをしている店が目立つ。ロディックさんの店を探すと、まだやっているみたいだ。
「まだ、時間は大丈夫ですか?」
店先で煙管をふかしているロディックさんに声をかける。
「おう、クレイドル君か。大丈夫だよ。何か欲しいものでもあるのかね?」
嬉しそうに答えてくれるロディックさん。
「そろそろ寒くなるので、マフラーとか、防寒の品が欲しいんですよ」
ふむ、とロディックさんが煙管の灰を落とし、商品棚に向かう。
ロディックさんの店で購入したのは、マフラーと手袋。マフラーは西国の品で、機具を使わない手織りの物。流砂をモチーフとした独特の柄。
手袋は、表面は革仕様だが中は羽毛仕立ての品。
どちらも保温性、通気に優れた逸品との事。二つで、銀貨四枚……安いと思う。
即金で購入を決めた事に、ロディックさんは少し驚いていたが──「いいと思った物は、すぐ決めないと次は無いと教わったんです」
そういうと、ううむとロディックさんが唸った。
「いつでも来るといい。歓迎するよ」
ロディックさんが微笑む。年の功……といってもいい、何ともいい笑顔だった。