邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第118話 猫とクレイドルと そしてドワーフ

 

 

 

う……うん?──目を覚ますと、馴染みのある応接室だ。邪神、つまり俺の父上の応接間。

純白のテーブルクロスがかけられた、漆黒のテーブル──その上に御座るは猫。純白の猫だ。

いや……耳と尻尾の先端は金色。瞳は赤色。という事は……?

「主様でございます」

テーブルの横に、執事のデルモアさんが立っていた。丁寧に、一礼をしてくれる……「ええと?」

「分かりかねます。何しろ、主様のする事なので……」

「にゃーん」

純白の猫が鳴く。にゃーんではない。

 

デルモアさんが、ティーセットを用意してくれている……その間に、猫となった我が父上を見る。

テーブルに横たわり、「うにぃ~いぃぃ」と鳴きながら、背を伸ばしている。

でかいな。優に百センチは越えているぞ……。

ふあ、と一息付くと、我が父はてしてしと毛繕いを始めている。

「うなんな」

父上が鳴く。うなんな、ではない。

 

お茶の準備を終えたデルモアさんに、お茶を淹れてもらう……うん、いい薫りだな。

渋みの中に、甘い味わいのお茶……これ、ただの一級品じゃないな。

多少残っていた眠気がすっかり消えた。

目の前の父上は、ミルクの入った器に顔を突っ込んでいる。猫化した邪神の扱いに慣れているんだな、デルモアさん……。

「主様からの、贈り物がございます。どうぞ、お確かめを」

デルモアさんが差し出してきたのは、茨の装飾が施されている、少し細長い箱。どれ、と箱を開けると……箱の中には、茨状の鎖に、鮮血の様な色のルビーが繋がっているネックレス……。

呪物鑑定、発!動!──くそっ! やっぱりか!

 

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”──鮮血石に触れ、「血と苦痛茨となれ」と唱えると、茨が外殻となり全身を包む。茨の外殻は、状態異常と物理に耐性を持つ。

外殻の発動中は、常時痛みを伴う出血状態となり、出血の量によって身体強化がもたらされる(長期使用は危険)。

解除には「血と苦痛は去った」と唱えればいい──

 

ろくでも無いな……出血量に応じて、身体強化って、つまり「痛えよぉ~!!」状態になるって事か?! 長期使用は危険て……そりゃそうだろ!

まあ、いい……ちょっと気になる事がある。

呪物鑑定出来たという事は、これ(・・)が呪物である事は確実なんだが、今までの呪物のように、デメリットが無効化、もしくは反転していない……うーん。こういうパターンもあるのか。

 

「お気に召した様で、何よりでございます。お茶のお代わりをどうぞ」

デルモアさんがお茶を入れ換えてくれた。うん、美味い。気持ちがだいぶ、落ち着いた。まあ、この呪物は気に召してないが──「にゃあう」

ミルクを飲み終えた父上が、俺の前でちょこんと座り、俺を見上げている。

にゃあう、ではない──

 

 

カーテンの隙間から差し込む陽射しに、目が覚めた──朝か。早朝の魔力制御できなかったな。

朝食後にするか……ミザリアスさんが朝食にやって来る前に、顔を洗っておくかな。例のネックレスは箱ごと、机の上に乗っていたが、あえて見ないようにした。

 

下に降り、奥の二人掛けのテーブルに座る。朝食までは、少し早いのでお茶を頼んだ。

さて、帝都の今後の予定はどうするかな……正直、帝都観光を中心にしたいんだよな。

帝都美術博物館に、港区の貿易船。皇妃の庭園……等。二、三日では回れないほどの観光スポットがあるんだよなあ。

冒険者ギルドの依頼も、疎かに出来ないしな(最低、一週間に一度は依頼を受けないと、ペナルティ有り)まあ、これはどうとでもなる。

適当な常設依頼をこなせばいいのだ(清掃、薪割り。近隣の農村での収穫の補助等)。茶を啜りながら、ぼんやりとしていると……ミザリアスさんがやって来た。

 

今日の朝食は、ソーセージに目玉焼き。付け合わせは、青菜の塩茹で。チーズと丸パンに、玉葱のスープに酢漬け野菜。

「ええと、目玉焼きは固めでお願いします」

「私も、それで」

ミザリアスさんも、同じ注文。テーブル向かいに座り、機嫌良さそうで何よりだ……うん。

「あいよ。姉弟仲良く、いい事だ」

アルガドさんの言葉に、んふふー、と微笑むミザリアスさん。

正直言うと、何処に地雷があるのか分からないんだよな……我が姉は。

「昨日の夜は、何処に行っていたんですか?」

微笑みながら、圧を持って聞いて来た。もう、地雷を踏んでいたらしい……。

 

囀ずり亭(ソングバードてい)”に行った事を正直に話す。隠すような事じゃないしな。

だから、微笑みながらの無言のジト目は、止めて頂きたい。

食事をしながら、帝都での行動を話す。しばらくは観光。その合間に、常設依頼をこなしたいとミザリアスさんに告げる。

「常設依頼は本来、新入りや低ランクの人達が優先される事は知ってますよね?」

そうなんだよな。常設依頼は新入りが経験を積むためと、危険なく堅実に収入を得るためのもの何だよ。

冒険者ギルドと、初級冒険者の信頼にも繋がる依頼だ。疎かにしていいものではないのだ。

だが、その常設依頼を鼻で笑う初級冒険者達もいるんだよなあ……。

 

「常設依頼を受ける初級者がいない。でなければ、怪我をした冒険者が休養を兼ねて受ける事も、珍しくないですよ?」

お茶を啜りながら、ミザリアスさんが云う。

宿代を稼げる程度に、受けられる常設依頼を受けながら、しばらく過ごす事にするかな……。

「お姉ちゃんに任せて下さい! 適当な常設依頼を見繕って上げますから!」

むふう、と鼻息荒く張り切るミザリアスさん。

 

後でギルドに顔を見せると約束して、ミザリアスさんと宿で別れた。

夕食の約束を言い出してきたが、これを受けると今後に響くと思い(束縛の可能性を感じた)、やんわりと断った。

むう、とミザリアスさんは不満げだったが、公私混同はよくないと、説得できた……姉弟とはいえ、受付嬢が冒険者の贔屓はよくないからな。

我が姉と別れたあとはどうするか……一旦部屋に戻り、魔力制御だな。

 

 

魔力制御を終え、一服。開け放した窓に、煙管の煙が吸い込まれる様に消えていく──さて、午後の予定はどうするか。まずはギルドに顔を出し次いでに、常設依頼を見てみるか。

そういえば、帝都の観光パンフレット的な物はあるかな?

 

「冒険者ギルドに行って来ます」

「おう。行ってらっしゃい」

クレイドルを見送るアルガド。灰色のマントのフードを深く被っている、いつもの装い。一つ違うのは、革手袋をしている事だ。

(本格的に寒くなるのは、来週くらいかな)

出入り口からは、少し冷たい風が吹き付けて来る。

アルガドは風を感じながら、出入り口用の、仕切りのカーテンを取り付ける準備をする事にした。

 

冒険者ギルドに到着。冒険者達が談笑している声が、あちこちから聞こえる。心地いい喧騒──よく考えたら、知り合いの冒険者居ないんだよな……少し寂しい。

気を取り直して、ギルド内を見回すと、ミザリアスさんは見当たらなかった。

何故かホッとする俺がいる……さて、と。まだ朝方だからか、様々な依頼が貼り出されている。

早速、常設依頼に目を通す……待てよ? ある依頼が、目に入った。

 

討伐依頼──西街道沿いの外れに、コボルト数体の目撃情報。詳しい数は不明。至急の討伐求む。

コボルトリーダーが出現していた場合は、再度ギルドに報告。その場合でも報酬の支払い有り。

報酬額──金貨四枚。

 

これだな。常設依頼はまた次だ。

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を試すいい機会だ。依頼書を取り、早速受注を──「ねえ、ちょっと」

声に振り返る。そこに居たのは、ドワーフ……女性だ。年齢は……分からない。

栗色の髪と髭。髪には、花を型どった髪飾り。三つ編みにされた髭には、花柄の装飾がなされた髭輪。髪飾りをしているという事は、女性だ。

 

金属で補強された、頑丈そうな肩当てに、胸鎧と籠手。バックラーを肩担ぎにしている。腰に下げているのは、バトルハンマー……。

「そのコボルト討伐。一人で受けるつもり?」

ドワーフらしい頑健そうな体格。女性らしい愛嬌のある容姿をしている。

「まあ……そのつもりだが?」

ふーん、とドワーフ女性は、俺を見上げる。何ぞ?

「その依頼、あたしと組まない?」

うん? この人もソロなのか?

「今、あたしのパーティーは休暇中なのよ。皆それぞれ、地元に戻っていてね。あたしは帝都生まれ帝都育ちだから、家でのんびりしているのに、飽きたって訳よ」

なるほどな……さて、悪い話じゃないな。帝都で冒険者の知り合いが出来るのは、嬉しいからな。

「よし、組もう。俺は“碧水の翼(へきすいのつばさ)”所属でね。俺のとこも、休暇中なんだよ」

へーえ。碧水の翼、ね。とドワーフ女性。

「俺は、クレイドル。よろしくな」

「クレイドル、ね。あたしはリリン。リリン・ウィンターヒル。ウィンターヒルは、屋号。貴族の姓名じゃないからね」

確か、ドワーフは屋号があり、姓名とは別なんだっけか。

「分かった。討伐準備をしてくるから、少し待っててくれ」

はいよー、とリリン。速やかに、冒険者ギルドから出る。

(さて、コボルト討伐か……)

 

フードの影で、己の瞳が赤く瞬いたのをクレイドルは知らない。

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