邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

136 / 245
第119話 コボルト討伐と茨の外殻のえげつなさ

 

 

さっき出掛けたばかりのクレイドルが、足早に戻って来た。

声をかけるまもなく、階段を上がって行く。かなり急ぎの様だが……何かあったか?

少しして、部屋から下りてきたクレイドルは、武装していた。黒鷲の兜、黒灰色のマントに赤闇色の鎧と籠手。ラウンドシールドを肩担ぎにして、金属製の黒い鞘をしたロングソードを帯剣している。

「クレイドル、気を付けてな」

クレイドルは、こちらを見ると軽く手を振り、宿から出ていった。

ふむ。とアルガドは頷き、グラスを磨き始めた。

 

 

急ぎ、冒険者ギルドに戻ると、我が姉上が揉めていた──リリンと……。

「数体のコボルト討伐なら、リリンさん一人で大丈夫でしょう。一人で行って下さい。弟を巻き込まないで下さい」

「ちゃんとした数は不明って事は、こうしてる間にも増えている可能性はあるんだよ? コボルトリーダー出ない内に、討伐しなきゃダメでしょ!」

「そうなったらそうなったで、戻って来たらいいじゃないですか。報酬は貰えるのですよ!」

 

アカン。これを仲裁しなければいけないのか?

「姉さん。この依頼持ちかけたのは、俺なんだよ。リリンは頼りになりそうだと思ったから、頼んだんだ」

嘘である。依頼を決めたのは俺ではあるが、リリンは自分と組んだらどうかと提案してきて、俺がそれに乗ったのだ……睨まれた。キッとした目付きのミザリアスさんに睨まれた。

「……クレイは、常設依頼を受けると私に言ったわよね。なのに、何で危険な討伐依頼を?」

ジト目止めて。さて……どう切り抜けるか?

 

「姉さん、これは必要な事なんだよ。この帝都で、俺が冒険者だと認めてもらうには、体を張らないといけない……そう思ったんだ。だから、この討伐依頼を許可してくれないか」

邪神の加護、発動! 無い事無い事云う邪神の加護。通用してくれ!

「そこまでいうなら、もう私は止めないけど……リリンさん! くれぐれも気をつけて下さいね!」

「う、うん……」

姉の剣幕に圧されたリリンが、頷く……通用したか、邪神の加護──なるべく、昼食までには帰って来るようにと、釘を刺されたが。

まあ、いい。コボルト討伐といくか。リーダーが出てなければいいがな……。

 

コボルトの目撃情報は西街道。西門から出て、街道沿いを歩く。

昼前の街道は、のんびりとした雰囲気だ。旅人や、行商人や農夫の、馬車やら荷台とすれ違う。

いくら平和に見えても、魔物や魔獣は湧く。一つズレたなら、血が流れる状況になってもおかしく無いんだよな……。

 

「目撃情報は、ここからさらに西ってなってるわね……あの林まで行って見ましょうか?」

リリンが指し示す先には、林が広がっている。

「そうだな。人目に付く所には、集まらないだろう」

人目に付けば、直ぐに討伐隊が向かって来る。という事くらいには頭が回るんだよな。コボルトやオークは。

「よし、こちらから出向くか。場合によっては奇襲を考えておこう」

あいよ、とリリン。投擲用の、ハンドアクスの出番はあるか?

 

 

放物線を描き、ハンドアクスが飛ぶ──こちらに背を向けているコボルトの頭部に、ハンドアクスが食い込む。

ほぼ同時に、倒れるコボルトの横にいるコボルトの首筋に、リリンの短刀が突き立った。

コボルトの集団は八体。その内二体を、奇襲にて屠った──「あと、六体! 一気に仕留めるよ!」

リリンの声。“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を試すいい機会だ──茨のネックレスに触れ、「血と苦痛茨となれ」とささやくと……瞬時にネックレスから、茨が生み出され全身を覆い始める。

鎧、籠手、兜の隙間から、茨が浸食してきた……茨の棘が、身体に食い込み……痛ってえぇぇ! この痛み、親不知が虫歯になった時の痛みと同じだ! それが、全身に広がって……痛えぇぇっ!

 

鎧の間からは、血が滲み出ている! 出血状態ってこういう事か!!

〈あっははは! それ起動したんだねえ! 流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)は、成長するよ! んふふっ、君の血と敵の血でね!〉

いかにも楽しげな邪神の声。成長?! これが成長したら、どうなる?!

ああっ、クソッ! さっさとこの痛みから開放されるには、コボルト連中を始末しないとな!

「死ねぇっ!!」

 

 

「おっと!」

コボルトの突き出してきた短槍を、バックラーで弾きながら、その胸元にバトルハンマーを叩き付ける──グシャリ、と骨が砕け肉が潰れる感触──即死の手応え。

もう一体のコボルトが、錆びたロングソードを振り上げるが、リリンはその頭部に“盾撃(シールドバッシュ)”を叩き込み、そのまま流れるような動きで、バトルハンマーをコボルトの頭部に叩き付ける──頭蓋が砕け、脳が潰れる感触──即死の手応え。

ドワーフの膂力での、打撃武器の一撃。並みの魔物、魔獣では到底耐えきれる訳も無い。

 

「さて、クレイドルはどう──「死ねぇ!!」」

クレイドルの様子を見ようとしたところ、絶叫のような雄叫びが聞こえた。

あまりにも異質な風景。出血状態のクレイドルが、全身を血塗れにしながら、コボルトを蹂躙していた──「痛ってええぇああぁっ!!」

もはや、雄叫びではなく悲鳴に、聞こえる。血塗れのクレイドルの姿に、リリンは鳥肌が立った。

(コボルトにやられた?! いや、違う……身体から、血が滲み出ているんだ!)

 

出血状態のクレイドルは、ひたすらコボルトを斬り付けている。

動く度にその身体から血が迸り、地面を血で濡らす──もはや、本人の血なのかコボルトの返り血なのか分からないまでに、クレイドルの身体は血塗れになっていた。

最後の一体の首を跳ね、クレイドルは即座に、“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を、解除する。

「血と苦痛は去った……」

解除と同時に、茨は消えていく。そして傷も消えていった……地面に膝を付くクレイドル。

「クレイドル、大丈夫?!」

地に膝を付き、肩で息をするクレイドルに駆け寄るリリン。

 

(なかなかの、効果だが……消耗が、ちと激しいな……初っぱなから使う、代物じゃないな)

出血状態は解除されたが、血の匂いは残っている。今の自分の姿は、どうなっているんだろうか?

「クレイドル、大丈夫?!」

リリンの声。随分焦った感じだ。それもそのはず。今の俺の状態は、全身血塗れの上に、膝を付いている。

失血で、軽く目眩がしている……貧血状態か?

「大丈夫……じゃないな。少し休ませてくれ」

「わ、分かった。コボルトの討伐証明はあたしが取るから、休んでて!」

リリンの言葉に甘えておこう……まずは浄化だな。血生臭くてうんざりする。

二度の浄化で、身体から血生臭さが消えた。干し果物を出し、食べる。

(街に戻ったら、肉料理だな……)

 

 

街に到着。念の為、もう一度浄化を使う。リリンがいうには、もう血の匂いは無いとの事だが、念の為だ。

ミザリアスさん──我が姉は、勘強いからな……。

「肉料理と言えば、何処か心当たりの店は?」

「なら、あそこだね。“豚と鶏亭”、かなあ」

“豚と鶏亭”か。確か、朝陽食堂の大将のメモにも書かれていたな。

安価で豚肉と鶏肉が食べられる店。前世でいうところの、焼き肉屋といった所か。

「でも、店が開くのは夕方からだから、まずは昼食かな」

「だな。さて、どこで食べるか……」

リリンの言葉に頷く。宿でもいいが、食事処にしたいな。

「取りあえずは、討伐依頼の報告が先だ」

ミザリアスさんに拗ねられると厄介だ。昼までに戻れと言われているからな……。

 

ギルドでの討伐依頼の報告。コボルトの討伐証明は、左耳ではなく尻尾となった(リリンが、コボルトの頭部を吹っ飛ばしたのが原因)。

「はい……確かに、確認いたしました。少々、お待ち下さいね」

コボルトの尾を、トレーに乗せた受付嬢が下がっていく。

今だ身体は重く、頭はぼんやりとしている……貧血の症状だろうか?

早く、食事がしたい……肉だ、俺の身体は血肉を求めている。血を補給しないと……受付前で、深々と椅子に腰掛ける。

 

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”の扱い方を、ちゃんと考えないとな──何か、眠たくなってきた。

リリンが、受付と何やら会話をしているのが見えた。幸いにも、ミザリアスさんの姿は見えない──少し、眠るか……血が流れすぎたからな。それにしても、疲れた……。




ロリドワーフの初出っていつなんだろうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。