「二名様、ご案内しまーす!」
店の中は、二つに区切られている様に見えた。
入って左側と右側の客層が、何となく違う様な気がする──「気付いた? 左側が、冒険者や衛兵さん達、んで右側が一般の人達だよ」
なるほどな。衛兵はともかく、冒険者連中は基本、荒くれのイメージがどうしても付きまとうからな……区別されているのは、悪い事じゃない。
まあ、もし冒険者が暴れても、衛兵か同業者がすぐ抑えるだろうし。
少し奥の、左側の二人テーブルに案内された。店内を見回す。煙りが立ち込めているかと思ったが、そうでも無い。
天井、壁に排気口があり、そこにほとんどの煙が吸い込まれている。
換気も万全か。住宅街近くにあるだけあるな。
「さーて、取りあえずは、果実水と豚バラ皿と鶏皿にしようか?」
リリンの言葉に、メニューを見てみる。極めてシンプルなメニューだ。
肉は四種、豚バラと豚トロに鶏肉、鶏皮──お値段、各皿銅貨三枚。安い。
飲み物は、果実水。果実水炭酸割り。香草茶。炭酸水。酒は無し。野菜は酢漬け野菜のみ──いいな。
「ああ。それでいい」
リリンが、早速店員を呼ぶ。
「七輪置きまーす。ご注文の品、少しお待ち下さいね」
店員がテーブル中央に、炭火の七輪を置く。七輪の上には網。おお……前世でよく行っていた、焼肉屋を思い出すな。
「よお、リリン。来てくれたのかい」
果実水を運んできたドワーフ。リリンと同じ、栗色の髪と髭。
髪は丁寧に撫で付けられ、波打つ顎髭には、黒金の髭輪。髪飾りがないから、男だな。
「うん。肉がたらふく食べたいって人、連れてきたよ」
ほおう、とドワーフ男性。俺をまじまじと見ると、腹を揺らして笑った。
「すげえ顔立ちしてんな。女の従業員には、相手させられねえな」
わっはっは、と豪快に笑う。髭も揺れる。
「この人、ここの店長であたしの叔父さんなのよ」
「おう。リリンの叔父の、バルガン・ウィンターヒルだ。よろしくな」
差し出される手を握り、握手をする。心強い感触だ。
「たっぷり食べていきな。おまけしてやるよ」
豪快に笑いながら、バルガンさんは厨房に戻って行った。
「お待たせしました。こちら、豚バラ皿と鶏皿です。少し焦げ目が付くまで焼いて下さいね」
店員が、豚バラ皿と鶏皿を テーブルに運んできた。
一皿に、肉六枚が乗っている。一人なら、二、三皿で充分な量だ。
そして、トング。うん、いいな。本格的な焼肉屋だ。
「塩と香辛料で、充分味は付いているけど、物足りなかったら、タレを追加するといいよー」
ほう、まずは塩という事か。
リリンが、豚バラと鶏肉をトングで摘まみ、バランスよく網の上に乗せていく……ここは、リリンに任せよう。
焼けた端から、食っていく。リリンが次々と肉を乗せていき、ある程度焼けた端から食っていく。焼くの上手いんだよな。
「ほらこっち焼けてるよ。すいませーん、注文お願いしまーす」
パクパクと、肉を口に放り込むように食べるリリン。俺も負けじと、肉を食べる。そろそろ、味変えるかな……甘辛タレにさっぱりダレ、か。酢漬け野菜も頼むか。
「おう、注文は?」
バルガンさん、直々に注文を聞きに来た。
「えーとね。豚トロに鶏皮。あと、果実水お代わりね。クレイドルは?」
「甘辛タレとさっぱりダレ、お願いします。果実水炭酸割りと、酢漬けも」
「……おう以上だな。網も取り換えさせよう」
のっしのし、とバルガンさんが厨房に戻る。
「豚トロ、いいくらいだよ。鶏皮は、もうちょっとかなー」
ひょい、と俺の取り皿に、焼けた豚トロを乗せてくるリリン。
リリンの焼いてくれた、豚トロの焼き加減は何とも応えられないものだった。
脂が落ちる直前まで焼き、中心まで火が通った状態──ミディアムレア、という感じだ。
うん、美味い。リリンも、焼けた豚トロをパクついている。
鶏皮が焼ける匂いが、何とも待ち遠しい。
「鶏皮、お待たせねー。さっぱりダレがお勧めだよ」
丁度いい感じに焦げ目が付いた鶏皮を、リリンのアドバイス通りに、さっぱりダレにくぐらせて、口に運ぶ……おお、柑橘系のタレか。鶏の脂と柑橘の薫りが、混じった味わい……。
「美味いな。うん」
「だよねー。口直しに、さっぱりダレは必要だよ」
鶏皮をさっぱりダレに付け、口の中に放り込むように食べるリリン。いい、食いっぷりだな。
よし、まだまだ食える。残った果実水炭酸割りを、ぐっ、と干す。
「すいませーん。注文お願いしまーす」
店員さんが来るまで、白菜の酢漬けを摘まんでいよう……美味いな。やや甘めなのがいい。
「四名だが、大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですよー、奥の席になりますけどいいですか?」
「ああ、構わないよ。お前達もそれでいいな?」
構いません! 若い声が答える。
「四名様、奥テーブルに、ご案内しまーす! こちらへどうぞー」
甘辛タレに付けた豚バラを堪能していると、隣の席から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
黒ずくめの四人組──その内の一人。長い黒髪を結い上げている男性。グランさんだ。
こんな場所で合うとはな……今は、暗黒騎士団同士の食事会か何かだろうか?。
話しかけるのは、遠慮するのが大人ってものだ。
──「クレイドル、ほら豚トロ焼けたよ。鶏肉はもう少しだねー」
ひょい、といい具合に焼けた豚トロを、俺の取り皿に分けるリリン……。
豚トロを、さっぱりダレに付け、口に運ぶ。豚トロにも合うな。皮鶏を甘辛タレにつけたら、どうだろうか?
やはり、合う。リリンの焼き方もいいんだよな。
鶏肉の焦げ具合。豚トロの焼き加減。真似できないな、これは……それにしても、ここに果実酒炭酸割りの一杯か、米でもあれば……。
まあ、贅沢か。美味い肉に会っては、ただ焼いて食うべし、と昔の人も歌っていたしな。
「クレイドル、あと二皿くらいいく?」
「うん、そうだな……豚トロと鶏肉いこう。あと、飲み物か」
腹八分ってとこにしておこう。
「すいませーん。注文、お願いしまーす!」
「おーう、ちょっと待ちなー!」
バルガンさんの声が聞こえた。
肉が来るまで、果実水と酢漬け野菜を口にしている。今日は若手連中に、たまには焼肉を奢るのもいいと思い、“豚と鶏亭”に連れてきた。
たらふく肉を食べられるのは、ここが最良だからな──うん? 聞いた声が、隣から聞こえた。
隣席に目をやると、ドワーフと向かい合い、肉を口に運んでいるクレイドルの姿があった。
(早速、知り合いが出来たか……ふむ)
「七輪起きまーす。お肉は直ぐに来ますから、少しお待ち下さいね」
炭火の七輪が、テーブルを明るくし、炭火の薫りが食欲を駆り立てる。
「今日は、たっぷり食べるといい。たまには、肉尽くしといこうか」
はい!、と若手達が嬉しそうにいう。
「お待たせしました。豚バラに豚トロ、鶏肉を二皿ずつですね」
七輪を囲む様に並べられる、肉皿。早速トングを取り、肉をバランスよく網に配置する。
早く焼ける豚バラを中心にして、少し時間がかかる鶏肉は、端に配置する。
「焼けるまで、酢漬け野菜を食べていろ」
今日は、若手達の食欲に付き合ってやるか……。
「すいませーん。お会計お願いしまーす」
リリンが店員を呼ぶ。まだ食べられるが、腹八分にしておくか……いや、たらふく食えた。
この後は、宿に帰ってゆっくりと寝るだけだな。
「おう。銀貨三枚ってとこだな」
直ぐにやって来た、バルガンさんが云う。うん? いくら何でも安くないか?
「叔父さん、ちょっと安くない?」
「言ったろ。おまけしてやるって。今日のとこは、酢漬け野菜と飲み物は、俺の奢りだ」
あっはっは、笑うバルガンさん……う~ん、今日のところは、甘えておくか。
「うん。今日のところは、ご馳走になっておくね」
「おう。リリン、いつでも来な。クレイドルと言ったな? 今後とも、よろしくな!」
豪快に笑うバルガンさんに、こちらこそよろしくと、挨拶を交わす。
いや、いい店だったな──“豚と鶏亭”。
血肉を満たした後は、休息だ。たっぷり睡眠を取る事にしよう。
「リリン。明日は、休暇にするつもりだ。血を回復したい……」
店から出て、リリンに告げる。
「うん。そだねー。ゆっくり休みなよ」
リリンの言葉に、甘える事にした。
リリンは、わざわざ俺の宿まで送ってくれた。
「あたしいつもは、ギルドの喫茶室にいるから、いつでも来るといいよー」
「ああ、分かった」
じゃーねー、と手を振りながら、リリンは街並みに姿を消して行った。方向からして、家に帰るのだろう。
さて……俺はどうするか。時間はまだ早いんだよな。宿で一杯軽く飲んで、眠るか。
夜明けとともに、目が覚めた……昨日、血を補給した事で体の調子がいい。やはり、肉だな。肉を食わないと。
窓を開け、外気を取り入れる──心地いい風だが、冷たい。そうか、冬物買わないとな。
よし、魔力制御の時間だ。その後は、朝食まで一服といくか……。