「今日一日は、休暇にしな。骨休めも大事だぜ」
朝食を一緒にとりながら、ダルガンさんが言った。ジャンさんも一緒だ。
朝食のメニューは、パンにベーコンエッグ。玉子は固めで頼み、ベーコンは少し強く焼いてもらった。スープは、鶏皮と玉葱のさっぱりとした味わい。付け合わせはいつもの野菜の酢漬け。朝食としては、なんの問題もない。
「城塞都市を色々回ってみな。それなりの観光名所があるからよ」
旺盛な食欲を見せながら、ダルガンさんがいう。
「良ければ、俺が案内してもいいが?」
ジャンさんが聞いてきた。そうだな、ここを拠点としているジャンさんに頼もうか。
「じゃあ、お願いしてもいいですか」
「紹介しておきたい場所も色々、あるからな」
朝食後、一休みして都市を案内してもらう事となった。城塞都市はその名の通り、全体的に質実剛健な造りとなっているものの、独特な歴史があるので、創成期の記念碑や、覇王公に関係する遺物が納められている博物館もあるという。
正直、そういう歴史を感じさせる場所や博物館は好物だ。前世で、茶器の展示会に入り浸った事もあるくらいだ。
ジェミアさんとリネエラさんの目を掻い潜り、ギルド内から出るのは、はっきりいって面倒だったが、そこはダルガンさんとマーカスさんに協力してもらった。
城塞都市の大通りをジャンさんと歩く。
「紹介しておきたい宿がある。中級宿なんだがな。他の宿に比べて、いいとこなんだ」
「なるほど、なんて店名なんですか?」
「オーガの拳亭って名前だよ……店名の由来はまあ、行けば分かる。ところで、見ておきたい所はどこかあるか?」
「そうですね~雑貨屋は、知り合いがいますので、武具屋を覗いて見たいですね」
鍛冶・スティールハンド──豪快な達筆の看板だ。
「俺が知る限りは、ここの品揃えは初心者から上級者まで、幅広く取り扱っている。品質確かな物が欲しいなら、ここに来たらいい。もっとも、安物は置いてないけどな。冷やかしでもしてみるか」
ジャンさんは何か嬉しそうに、店に足を踏み入れる。
おおう……右も左も、色々な武具。男子の心を騒がせるに充分な景色だ。両手持ちの剣。斧。鎚やら何やら、盾に鎧兜。細々とした武器。投擲用の短刀に手斧。そして、色々な種類の弓……いや、いかにもって感じの店だ。
「へえ、新人かい。久し振りだな。何か必要な、って……まだ早いか」
「まだ、訓練中ですからね。この店を利用するのは、訓練を終えてからですよ」
「おう。俺はストルムハンド。見ての通り、ドワーフだ。ジャンが言ったように、安物は置いてねえ。だがな、ここで買った品の修理。サイズの変更は、基本的に全て無料だ。そうでなくとも、格安でやってやるよ」
身長百五十センチくらいか。がっしりとした、頑健そのものといった体格。丸太のようなぶっとい腕。胸元まで伸びている整えられた髭は、銀細工が施された、二つの髭輪?で纏められている。
「初めまして、クレイドルといいます。今後ともよろしくお願いします」
「ほう……店員に、女を雇ってなくてよかったぜ」
わははは、と豪快に笑うと、顎髭が揺れた。
「この兜、なかなかいいですね」
首筋まで覆われている、鷲の顔を模したフェイスガードが付いた革の兜。兜の縁は、金属で補強されている。おお、重さもいいぐらいだ。
「それ気に入ったか? 被ってみな。こうやって後頭部のベルトを……よし、どうだ?」
おおう……これはいいな。フェイスガードを下ろしても、視界は少々狭くなるが問題なし。
慣れれば、どうという事も無くなるだろう。
フェイスガードを引き上げ、兜を脱ぐ。そして兜をまじまじと見る。これはいいものだ……買っちゃう?
「これ、いくらです?」
「おう。お買い上げか? そうだなあ……なかなかいい出来だからな、銀貨五枚ってところだが、まあ祝儀だ、銀三枚と銅五枚でいいぜ」
「買います」
即決。良いものは直ぐに入手しなければ、ならない。これはいいものだ。うむ。
「おいおい、即決か。いい買いっぷりだな」
「良いものは、直ぐに決めないといけないんですよ」
兜を撫で回しているクレイドルを、苦笑しながら暖かい目で見る、ジャンベールとストルムハンド。
釣りはいいですと銀貨四枚を渡そうとしたが、「そういうのは十年早い」と断られた。
「また、来な」
ストルムハンドさんに見送られ、店を出た。何かいい掘り出し物を見つけた気分になった。
「少し早いが、昼食にするか?」
「そうですね。どこかいいとこありますか?」
「ふむ……オーガの拳亭に行こうか。あそこの女将に、お前を紹介しておこう」
ジャンさんがいうには、オーガの拳亭は宿であるが、宿泊するにしないに関係なく、普通に食事を出してくれるのだという。
普通の宿は軽食のみで、食事をする時はどこかしらの食堂に行くらしい。
「オーガ亭の食事は、なかなかだぞ。マーカスさんの食事とも比べても、なんら遜色ない。人に紹介するに充分な店だ……まあ、女将はなかなかに、曲者だが」
オーガ亭と略したジャンさん。美味い食事と曲者の女将。マーカスさんの食事と比べても遜色ないか。ううむ、楽しみだ。
おう……曲者の女将か。うん、凄いな。マダムというより……マンダムって感じだ、な。
「あらあら、これはこれは、ずいぶん可愛い仔犬ちゃんを連れて来たわね~」
マーカスさんの食事どころか、体格すらも遜色ない……薄化粧のオネェだった。身長、肩幅、腕周り、拳。というか、大胸筋がね……打撃力を誇示しているんよ。フック、アッパーが得意ブローですといわんばかりの大胸筋が……。
「ミランダさん、こいつは新人のクレイドルです。数日前から、新人訓練を受けてます」
「ようやく新人ちゃん、来てくれたのね~」
しみじみといった感じでマンダム、いやマダムがいう。
格好も凄いな。肩出しの、黒を基調とした金色で彩られたチャイナドレスの様な服装。がっつり切れ上がったスリットから覗くは、逞しく引き締まったおみ足。蹴りも凄いだろうな……。
高く結い上げた艶のある黒髪。形のいい耳には、ルビー?のピアスが嵌められている……。
「少し早いですが、昼食出来ますかね?」
「大丈夫よ~ちょうどいい豚と鶏が入ってるのよ。野菜も新鮮な物揃ってるわよ~」
バチコン、と打撃力のあるウィンクを叩きつけてくる、マダムミランダ。
「ポークステーキとおまかせサラダ、それにスープ、お願い出来ますか……クレイドルはどうする?」
「あ、はい。同じのでお願いします」
「んふふ~ちょっとお時間もらうけど。いいわよ。パンでいいわよね~」
ミランダさんは踊るように、厨房へと戻っていった。
「ここは何を注文してもハズレはない。これだけで、いい食事どころだ。値段も安いしな」
いつの間にかテーブルに置かれていた水差しの水をコップに注ぎながら、ジャンさんがいう。
食事はジャンさんの言った通り、かなり美味しかった。いい焼き具合のステーキと、シンプルな具材のとろみのあるスープ。サラダは緑黄色揃ったバランス。これらで銅貨五枚は安いと思う。
デザートの、ウサギカットのリンゴに少々驚いたが。