邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第123話 鍛練は裏切らず そして王子様

 

 

繁華街を、グランさんと進む。黒牛亭、囀ずり亭(ソングバード)を通り過ぎる。

「言っておくが、いい店ではある。それは確かだ。さっきも云ったが、少々クセが強い店なんだ」

クセが強い店か……あのマリエンヌさんの店だというからな。さて、どんな店だろうか?

 

店に、到着──向かい合う虎と龍の大看板が、店先に掲げられている。

朱色を主にした店は、武術の道場然とした雰囲気を漂わせている。

「酒場ですよね?」

思わず、グランさんに尋ねる。店内から聞こえる喧騒は、道場稽古をしている様に聞こえるんだが……吩! 哈!(ふん はっ)とか聞こえてきそうだ。

「もちろんだ。云ったろ? クセがあると」

苦笑しながら、グランさんが云う。

「さ、入るか。基本、肉料理がメインで、揚げ物は一切無いからな」

揚げ物無し、か。何となく、店のコンセプトが分かった気がする……先を行くグランさんのあとを追う。

 

「二名だ。奥のテーブル席、空いているか?」

手慣れた感じで、グランさんが店員に告げる。

「はい、大丈夫ですよー。二名様、奥テーブルにご案内~」

女性の店員さんが、通してくれた……うん。色々ツッコミ所はあるが、今はスルーだ。

男性の店員さんに、奥テーブルに案内され、席に着く……スルーだ。

「まずは、一杯といったところだな」

メニューをめくるグランさん。さて、飲み物はどうするか……まあ、いつも通りに果実酒系だな。

料理メニューなんだが、グランさんのいった通り、肉メイン。それも、鶏肉中心だ。

鶏ささみの塩茹で甘辛ソースがけに始まり、ささみと青菜の炒めもの。ささみと根菜の煮込みなど──なるほどな、虎と龍(タイガー&ドラゴン)亭は、“筋肉は裏切らない”。をコンセプトにしている店なんだな。

 

飲み物を先に注文する──うん。ツッコミ所は、店員の服装、そして体付きだ。

タンクトップ姿のムキムキマッチョ。スリムなマッチョ。 女性、男性問わずの筋肉質な店員さんが、店内を行き交っている……正直いって、むさ苦しい。そういえば、リリンもそう言ってたな。

「あら~、グランちゃん、お久し振りね~」

マリエンヌさんだ。グランさんと顔見知りなのか?

「今日は、友人を連れて来ているんですよ」

グランさんが、俺をマリエンヌさんに紹介する。いや、知っているからな……。

「知っているわよ~。んふふ、王子様~」

バチリ、とウィンクを飛ばして来るマリエンヌさん……王子様? 何ぞ?

 

果実酒をロック。ポテトサラダに、ベーコンサラダを頼む。グランさんは、オウルリバーの炭酸割りに、鶏むね肉野菜炒め。

「なかなかに、凄いとこだろ?」

グランさんの云う通り、想像以上の酒場だ。

店員皆、男女問わずタンクトップ姿の筋肉質。これ見よがしの腹筋が、普通じゃない……。

シックスパックどころではなく、いくつに割れているか、わからんくらいに割れている店員……正直、キモい。

だが口にはすまい。こういう人らの中には、かなり繊細な人もいるらしいからな……だが、思うだけならタダだ。

 

最初に運ばれてきた酒で乾杯をする。

「大いなる父君に」

「覇王公に」

互いに笑い、杯に口を付ける。運ばれてきたポテトサラダに箸を伸ばし、一口。こういうのでいいんだよ的な、シンプルな味……マヨネーズあるんだな。

「うん、美味いな。スパイスがよく効いている」

グランさんも気に入ったようだ。

「そういえば少し前に、“豚と鶏亭”にいたろ?」

ベーコンサラダを摘まみながら、グランさんが尋ねてくる。ああ、あの時か……。

「声をかけようかと思ったんですが、他の騎士団の人達と一緒だと見たので、声をかけませんでした」

カリカリではなく、サッと軽く炙ったベーコンを口に運ぶ。

たまには、柔らかなベーコンも悪くないな。野菜は、刻みキャベツと玉葱。

甘酢のドレッシングが、たっぷりとかけ回されている。シャキッとした歯触りが、気持ちいい。

「あの時一緒だったのは、騎士団の見習いでな、たまにはたらふく肉を食わせてやろうと思ったんだ」

グランさんが杯を干し、店員を呼ぶ。

 

鶏むね肉野菜炒めを運んで来た店員さんに、酒を頼む。果実酒炭酸割りと、オウルリバーのロック。

食事の追加はあとだな……まずは、鶏むね肉を摘まむ。しっとりとした歯触り。

味付けは多分、シンプルに塩と香辛料だろうな。肉も野菜も、ちゃんと味が付いている……塩と香辛料の味付け。

ふと思ったのは、油少な目に調理している感じがした。

「お酒、お待ちどうさま~」

マリエンヌさん事、マリーさんが直々に酒を運んで来た。

「ど~お、このお店気に入った~?」

力強いウィンクをしながら、マリーさんが問うて来た……まあ、正直に。

「まだ、分かりませんね」

きっぱりと云う。料理はいい感じだが、店の雰囲気に対しては、熱気に溢れている事以外には、いまいち分からん。

マッチョがむさ苦しい……そういったら、多分マリーさんは傷付くだろうな。

いや、そうでもないか。そこら辺は図太そうだしな。

 

「んふふ~、まあ人それぞれよね~。じゃ、ゆっくりしていってね。王子様」

だから、王子って何ぞ? 手を振り、去って行くマリエンヌさん。

「ふふん。気に入られたな」

旺盛な食欲を見せながら、グランさんがいう。

まったく、おネエと縁でもあるのか……ベーコンサラダを片付けてしまおう。追加の注文は何にするかね。

「豚と鶏亭で一緒にいたドワーフは?」

むね肉野菜炒めを平らげ、杯を口に運ぶグランさん。

「ああ、一時的に組んでいるんです。彼女のパーティーも休暇中で、彼女は暇なので俺に声をかけてきたんですよ」

果実酒炭酸割りを飲み終える。料理と一緒に、酒も頼むか。

「なるほどな。女性だったのか。ドワーフは、ぱっと見では分からんな」

グランさんが、店員を呼ぶ。パッツンボブカットの、タンクトップの店員さんがやって来る……。

 

パッツンボブカットのお姉さん(おネエさんでは無い)にも、王子と言われた。

「……ふふっ」

そして、グランさんに笑われた。何笑とんじゃ……まあ、いい。

店に入った時から気になっていたんだが、店の中に飾られている額縁……。

『健全たる肉体に頑健たる魂は宿る』

『剛よく柔を断ち柔よく剛を制す』

道場酒場かな? 掛け軸も気になるな。

「まずは、お酒と酢漬け野菜、お待ち~。お料理はちょっと、待っててね~」

マリエンヌさんが、酒と酢漬け野菜を運んで来た。

そういえば、マリエンヌさんに聞きたい事があったんだ。

「マリエンヌさん、ミランダさんって知ってます?」

あら。といった感じのマリエンヌさん。酒と酢漬け野菜をテーブルに置き、席に着く。

 

「もちろん。“柔心流”の姉弟子よ~」

ちょっとツッコミ所があるが、スルーしよう。姉さんの事、知っているの~? とマリエンヌさん。

城塞都市でお世話になった事、オーガの拳亭は、いい店だった事──「体術の稽古をつけてもらった時、地面に叩き付けられ、脳震盪で失神させられました」

オウルリバー炭酸割りを喉に流す。

炭酸の喉ごしと、オウルリバーの香りが何ともいえない美味さを感じさせる。

「ち、ちょっと、脳震盪って何? 何があったの!?」

マリエンヌさんに、脳震盪の経緯をかいつまんで話す。はあ~、とマリエンヌさんのため息。

「姉さんはね~、腕力が尋常じゃないからね~。災難だったわね」

やれやれ、といった感じでいう。獣王の下りは話さなかった。

 

ちょうど、料理が運ばれて来た。

手羽先と白菜煮込み。鶏つみれと、根菜のシチュー。鶏肉中心のメニューだ。

手羽先は、揚げがよかったな……手羽先を手に取り、身をそぐ様に食べる。

美味い。煮込まれた手羽先に、味が染み込んでいる。

取り皿に、骨を置く。いくらでも、食べられる味だ……「手羽先煮込みか。うん、いい味だ」

グランさんも気に入ったか。よし、シチューを味わおうか。

「食事を思う存分楽しんでね~王子様~」

厨房へと戻って行くマリエンヌさんの、王子様発言は無視だ。さて、シチューのお味は、と……美味い。

鶏ガラの出汁が染み込んだ鶏つみれに、根菜の歯触りと味わいが、シチューの味を引き立てる……。

「食事はこんな所か?」

紙ナプキンで、上品に口元を拭うグランさん。

「そうですね……あとは、もう少し飲みましょうか」

店を変える事も考えたが、面倒だな。

「そうするか。何か適当につまみを頼もう」

注文を頼むグランさん。 さて、何にしよう?

 

チーズ盛り合わせにトマトスライスと、無難なつまみ。グランさんは黒ワイン。俺は、オウルリバーのロック。

グランさんに近況を聞く。しばらく騎士団から離れていたので、書類仕事が多くて面倒らしい。

「それが済んだら、ある程度暇になるな」

黒ワインを口にするグランさん。

「冒険者活動は出来るんですか?」

チーズをつまむ。減塩か? 小癪な。不味くはないけど、ちと物足りないな。

「ん~、どうかな。見習いの面倒をみないといけないからな」

黒ワインを干すグランさん。“豚と鶏亭”の事といい、面倒見いいんだなグランさん。

 

休暇中は、帝都観光を中心に過ごすとグランさんに告げる。

「名所巡りか、見る所は多いからな。騎士団や兵士の訓練も見学してみるといい。なかなか見ごたえあるぞ」

実戦形式の訓練を行う際には、市民の見学が許されているそうだ。

 

「そろそろ、引き上げるか。明日は早いからな」

「いい時間ですね。行きましょうか」

ほろ酔いが、一番だ。よく眠れるからな。店員さんを呼び、会計を頼む。

 

「今日はありがとね~。また来てね、王子様」

バチリ、と力強いウィンクを放つ、マリエンヌさん。ふふっ、とグランさんの笑い声。

笑え、笑うがいいさ……何だ、王子様って。

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