宴会場所は、“
ギルドマスターの、手短な音頭を終えたあとは、飲めや食えやの宴会となった。
「リリン、クレイドルは来てないのか?」
ジョッキ片手に、レイナルドがリリンに尋ねる。
リリンは、生姜醤油で味付けられた手羽先揚げを口に運んでいる。骨の置き皿に、手羽先の骨が積まれていた。
「クレイドルは、かなり疲れたのでゆっくり休みたいと言ってたわ。そりゃあ、あんだけ暴れたんだものねー」
手羽先揚げを充分に味わったのか、リリンは豚串盛りに手を伸ばす。
レイナルドも、思わず豚串に手を伸ばし、口に運ぶ。噛み締めると、じわりと油が滲む……味付けは塩のみ。
美味いな。歯応えも充分だ……いや、今はクレイドルの事だ。
「リリン、クレイドルはなぜ来ていないんですか?」
クレイドルの姉。ミザリアスさんがやって来た。うわ、とリリンは思った。
やっぱりそうだよね。聞かれるよねー。
「ええとね、クレイドルは今回の討伐戦で、相当に疲れたみたい。だから、ゆっくりと休息取りたいっていたのよ」
ふうむ? と考え込むミザリアスさん。いや、そこは流しましょうよ。
疲れているんだから、放って置くべきじゃないの?
「その……ミザリアスさん。クレイドルとは、何か、ああと、関係があるのか?」
レイナルドさんが、妙にぎこちなくミザリアスさんに尋ねる。
「関係ですか? クレイは私の弟なんですよ。よく似ていると言われるんですよ」
うふふ、と笑うミザリアスさん……まあ、似てるといえば似ている、かなあ……。
「すいませーん。エールのお代わり下さーい。あと、鶏煮込みと……チキンサラダもお願いしまーす」
弟……だったのか。フェイスガードを下げていたので、顔を見れなかったな。
ミザリアスさんが、他のテーブルに移動したので、リリンに尋ねてみる。
「そんなに似ているのか? ミザリアスさんとクレイドルは?」
変わらずの旺盛な食欲を見せている、リリン。
鶏煮込みはすでに平らげ、チキンサラダに取りかかっている。
「う~ん。髪の色と、鼻とかは似てるけど、肌と瞳の色は違うね」
ほとんど一息でエールを飲み干し、チキンサラダを食べ終えるリリン。
「気になるな。ミザリアスさんと似ているというのは……ああ、注文を頼む。
「あまり、見ない方がいいと思うよ? あ、エールのお代わりと、もも串十本につくねスープね」
「……見ない方がいいとは?」
どういう意味だろうか?
「凄い顔をしてるのよ。あたしはドワーフだからそうでもないけど、他の種族が見たらどうかな?」
「……凄い、顔?」
運ばれて来た蜂蜜酒を手に取る。リリンの話が気になり、口をつける気にならない……。
「うん、凄いのよ。人族の娘さんが見たら、おかしくなるね、あれは」
運ばれて来たエールを、がぼり、と喉に流し込むリリン。
(おかしくなるとは……何だ!?)
蜂蜜酒に口をつける。優しい甘さが喉を潤す。次は、炭酸割りを頼もう……凄い、顔なあ。
──あの暴れ回っていた……クレイドル、来てないのか?──リリンから聞いたが、疲れたので休むとか言ってたそうだ──ミザリアスさんの弟って言ってたわね──誰か、顔見た?──ずっとフェイスガード下げてたからな──血塗れで、暴走していたよな?──
冒険者達は口々に、クレイドルの事を言い合う。
そして── “血飛沫クレイドル”やら“血塗れ特攻クレイドル”等の、本人が知ったら眉をひそめるような異名が付いてしまった事を、クレイドルはまだ知らない。
ちなみに、クレイドルと組んでいたリリンに、冒険者達が血塗れと暴走の事を尋ねた際。
「ああいう、種族じゃないの?」
とのリリンの発言に──「そんな種族、聞いた事ないぞ!?」
と冒険者達が突っ込んだのは、当然だった。
目が、覚めた……どれぐらい眠っていたのだろう。卓上ランプに火を灯し、カーテンを開く。
すっかり夜だが、星明かりで夜空が仄かに明るい──何となく、机の上を見ると……ああ、あれか。深淵の女王から
確かこれ、呪物鑑定した時に副作用というか、デメリットは無かったんだよな。
今度、この事をラーディスさんに、聞いてみるか……。
さて、今の時間は夜八時前……確か、宿に戻ったのが昼少し前だったから、七時間は眠っていたのか……さて、シャワーを浴びて、少し遅い夕食でも取るかな……背伸びをし、ドアに向かおうとしたら、ノックされた。何ぞ?
「どうぞ」
開いたドアから、いつもの従業員さんが顔を見せてきた……「どうしました?」
聞いてみると、ミザリアスさんがやって来たらしい。
マジか……ともかく、顔を合わせないといけないだろうなあ。直ぐ行きますと返事をする。
いつもの奥の席に、ミザリアスさんが座っているのだが、テーブルの上には紙袋がいくつか……ミザリアスさんの正面の席に着く。うん? 紙袋から、何か食欲をそそる薫りがするんだが?
「夕食まだなんでしょう?
微笑みながら言う、ミザリアスさん。
ええ……それ、いいのか? アルガドさんを見る。
「持ち込み料貰っているからな。構わんよ」
苦笑しながら、アルガドさんがいう。ミザリアスさんが取り皿を頼んだ。
運ばれて来た取り皿に、紙袋の中身を広げるミザリアスさん。
鶏の串焼きに手羽先。鶏むね肉と青菜の炒めものに、鶏もも一枚揚げ……宴会場所は、
わざわざ持ってきてくれたんだ。ありがたく頂戴するとしよう。
「炭酸水下さい。あと、酢漬け野菜もお願いします」
ミザリアスさんは、果実酒炭酸割りを頼んだ。
あいよ、とアルガドさん。
まずは手羽先だ。まだ暖かいな……揚げたてもいいが、少し時間がたっているのもいい。
美味いな。皮の少しの歯応えと、肉の柔らかさが合っている。下味がしっかりと付いているのがいい。
「沢山ありますから、たくさん食べてね……血を流して、疲れているんでしょう?」
ウフフ、とジト目で微笑む、我が姉……
「……
甲殻ムカデへの暴走もバレてるか……ミザリアスさんが取り分けてくれた、鶏むね肉と青菜の炒めものを、口に運ぶ。
うん……むね肉は、生姜醤油で味付けしているのか。生姜の香りがいい。
むね肉の、弾力ある歯応えと青菜のしっとり具合が、とてもいい。米が欲しくなるな……。
ミザリアスさんが持ち込んで来た料理を全て、平らげた。自分では分からないくらい、腹が減っていたのか……油っぽかったが、しつこくない味わいだった。いい油を使っているんだろうな。
少し飲むか……「果実酒炭酸割り、お願いします」「私も同じのを」
ミザリアスさん、宴会では飲まなかったのかな?
「さて、クレイ。お姉ちゃんは、くれぐれも無茶はしないように、云いましたよね?」
ああ……お説教だ。仕方無い、甘んじて受けよう。正確には、ムカデは昆虫じゃないんだが、暴走したのは仕方無いとこあるんだよな……ムカデ、気持ち悪いから。
「聞いています? クレイ?」
果実酒炭酸割りを、くうっ、と呷るミザリアスさん……ちょっと待ってくれ。酒の入った説教になるのか!?
「うん、ちゃんと聞いてるよ。心配かけてごめん」
邪神の加護は、だんまりだ。己の態度で反省を示せってか……いや、違うな。肝心な時に発動しないだけだ。
ミザリアスさんが、お代わりを頼んでいる隙に、炭酸割りを飲む──アルガドさんに止められるまで、我が姉の説教は続いた……明日は、夜明け前に起床出来るだろうか?
窓から射し込む朝陽で、目が覚める……やっぱり、少し寝過ごしたか。カーテンを開き、窓を半分ほど開ける。
コップに、水差しから水を注ぎ、一息に飲み干す。
時計を見ると、六時半ちょっと。朝食まで少し時間はあるな……起き抜けの一服といくか。
最近、ロディックさんとこで買った煙草葉……よし、これだ、“朝日”にしよう。
口当たりは爽やかで吐き出す時は、辛口だっけか。
煙草盆を引き寄せ、煙管に“朝日”を詰めて、生活魔法で火をつけて吸い込む──新鮮な空気を吸い込んだような、清々しさ。これが爽やかさという事か……口の中で爽やかさを味わい、ふうっ、と煙を吐き出す。辛味と苦味が、舌先に残る感じだ……悪くないな。うん、いいな。癖になる味わいって、こういう事か……。
共通の洗面場で顔を洗い、口をゆすぐ。浄化を使い、身綺麗にして下に降りると、すでにミザリアスさんが、いつもの奥のテーブル席に着いていた。
「おはよう。姉さん」
ミザリアスさんの向かい正面に座る。
「んふふ。おはよう、クレイ。今日は私が早かったですね」
朝からご機嫌で何よりだ。さて、今日の朝食は何だろうか?
「もう頼んでいますよ。今日の朝食は、ハムエッグに丸パン。ゆで玉子とキャベツのスープです」
「いいですね」
ハムエッグは固めがよかったが、まあいいか。
ゆで玉子は、半熟でも固めでもいいんだよな。
「ハムエッグは固めに注文しましたよ。ゆで玉子は半熟で頼みました」
微笑むミザリアスさん。さすが、我が姉……今日の予定は、どうするかな。
「ギルドで、昨日の報酬を受け取りに来るといいですよ。参加者、一人辺り金貨十枚が帝都から出ます。あと、冒険者ギルドから銀貨五枚が出ますよ」
なかなかの大盤振る舞いに思えるが、こんなもの何だろうか。いつかのピックホッパーの時も、これくらいの報酬があったかな?
取り合えず、今日の最初の予定は冒険者ギルドで報酬を受け取る事だな。そのあとは……帝都観光でもするか。