邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第129話 覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)と騎士見習い達

 

 

「明日、午後。“覇王の訓練場”での訓練許可が降りました。期間は約三日。騎士見習いを、二十名選抜して下さい。冒険者経験のあるグラン。そして、ルドガーと教官達がサポート役。いいですね?」

訓練教官達とグラン、ルドガーに説明をする、暗黒騎士団副団長ヴァルモア・ダルヴァイル。

すらりとした長身。引き締まり、鍛え込んだ体格が、漆黒の軍服の上から見てとれた。

男女問わず魅了する様な、艶やかさを感じさせる、眉目秀麗の面立ちではあるが──その内面は、苛烈である事を知る者は少なくない。

 

「教官達と、グランとルドガーは、あくまでサポート役です。極力、戦闘には手出しはしないように。いざという時の判断は、それぞれでお願いします。では、見習い達の選抜を……グラン、少し残って下さい」

教官達と、ルドガーが去って行く中、グランが残された。

 

「冒険者視点から、“覇王の訓練場”を見る必要があると思います。あなたの目に叶う冒険者がいたなら、同行して貰いたいのですが?」

艶やかな笑みを浮かべ、尋ねるヴァルモア。その色気は、自分には通用しませんよ。と思いながら、グランは答える。

「……そうですね。“碧水の翼”の一員何ですが、腕が立つ奴がいます。多少、(クセ)がある男ですが……」

グランの発言を聞いたヴァルモアが、にいっ、と嬉しそうに笑う。

「曲者、ですか……面白そうですね。是非、声をかけてみて下さい。もし同行してくれるならば、報酬は暗黒騎士団から出ると伝えて下さい」

「分かりました……では、失礼します」

一礼し、グランはヴァルモアの下を辞す。

(少し急になったが、明日の朝食後にでも、クレイドルを訪ねてみるか……)

 

 

 

朝食前の魔力制御──夜明け前の穏やかな時間。魔力制御にはいい時間だ……カーテンの隙間から吹き込んでくる冬の風が、心身を引き締める……まずは、深呼吸を一つ、二つ。

体の中心。心臓と鳩尾の間に意識を──じわりと、体の中心から、魔力が全身に広がっていく……。

 

 

朝食にはまだ早い、いつもの時間に奥のテーブル席に着く。宿内はまだ静かだ。

席に着いている人はまばら。それぞれ、茶を飲み、煙草をくゆらせている……のんびりとした時間。

もう少しすれば、朝食時の喧騒が訪れるだろう。

「……ええと、お茶をお願いします」

当然の様に、すぐ近くで待機している、十代後半ほどの、いつもの女性従業員に注文を頼む。

はい! と明るく答え、厨房へ駆けて行った。名前、聞いておくかな……。

 

「アルガドさん、今日の朝食は何です?」

「いい茸と山菜を仕入れたから、それのシチューとハムエッグだ。朝食はもう少し待ってな」

冬のシチューは、ほんと堪らないから楽しみだ。

「はい。直に姉も来るでしょうから」

あとでな、とアルガドさん。さっきの従業員も、厨房に入り、朝食の準備に入っている。

いつの間にか、テーブルにティーポットとカップが置かれていた。薫りからすると、香辛料入りのお茶だ。

カップにお茶を注ぎ、一口啜る……うん。体の中から温まる、心地いい感じが何とも堪らない。

ミザリアスさんが来るまで、お茶を楽しもう……。

 

ミザリアスさんと朝食。にこにこと機嫌良さそうに、茸と山菜のシチューを口に運んでいる。

美味いよな、このシチュー。鶏ガラで出汁を取った、トロミのあるシチューだ。茸と山菜の歯触りがいい。今日は、パンで正解だった。

軽く火を通したハムと、半熟の目玉焼きもいいし、付け合わせの茹でたジャガイモは、塩と香辛料で味付けされていて、これも美味い。

そして、いつもの酢漬け野菜は玉葱だ。

 

朝食後のお茶の時間が終わり、ミザリアスさんは冒険者ギルドに、出勤して行った……さて、今日の予定はどうするかな? 観光でもいいが、他にやっておきたい事は、あったっけか?

そういえば、ラザロさんの同期の鑑定師、ミラーさんと、顔合わせをしてないな……今から冒険者ギルドに行くか? その前に、炭酸水でも……。

ふと、宿の出入り口に目をやると、黒ずくめの男が見えた──グランさんだ。

 

「急な話何だが、今日の午後は空いているか?」

グランさんが、茶を啜りながら尋ねてきた。特に予定は入れていないが……。

「はい。予定は無いですが、何かあったんですか?」

「手短に言おう。“覇王の訓練場”は知っているな? そこで、今日の午後。騎士見習い連中の実践訓練を行う事に、決まった。そのサポートに協力して貰いたいんだ」

騎士見習いのサポート。冒険者視点が必要という事、か……?

「もちろん、私もサポートに付くし、他にも何名かいる。昨日紹介した、ルドガーも一緒だ」

「それで、騎士見習いの人数は決まっているんですか?」

グランさんのポットに茶を注ぎ、俺もお代わりをする。礼をいい、両手のひらでカップを包む、グランさん。

「二十名と決まった。十名ずつで、“覇王の訓練場”に入る事になっている」

グランさんは目を細めながら、ゆっくりと茶を啜る。

 

「日程は、どれくらいになるんですか?」

「そうだな……今日を入れて、三日は見ている。午前と午後に分けて、十名ずつが交代で入る事に決まった」

なるほどな。交代制で実戦訓練か……。

「騎士見習いの実力は、どの程度ですか?」

ここが肝心だ。いつかの、武人の練武場の若手の衛兵程度だと、少し不安だ。

「実力、か……隠しても仕方ない。いつかの若手の衛兵達と、どっこいだ」

グランさんは軽くため息を吐くと、カップの中身を飲み干した。おおう、不安的中……。

「見習い達に、暗黒神の加護や恩寵は付かないんですか?」

もう、一杯飲んでおこう。グランさんにポットを向けると、もう充分だ。という様に、手を振る。

「大いなる父君の加護が付くには、まだ未熟なんだ。まずは、己の力で困難を乗りきれ、というのが教えの最初にあるから、未だ実戦を経験していない見習い達には、加護や恩寵は与えられない」

 

グランさんの言っている事は、なかなかに厳しいが、云われてみれば納得はいく。己を守れないで、人が守れるか──という事なのだろう。

この世界での騎士の本分は、“守護”という事か……。

少し、騎士団の話をする。騎士団と帝都民の距離を、少しでも縮めるための行事があるそうだ。

帝都騎士団、神聖騎士団、暗黒騎士団、三つの騎士団の実戦形式の、合同演習の見学。

各騎士団を代表しての、トーナメント形式で行われる試合。

「まあ、お祭りみたいなものだな」

とは、グランさんの言葉。屋台だとかが出店されて、大層賑わうとの事。

 

「分かりました。その話、受けます」

いつかの、武人の錬武場みたいにならないといいけどな……しっかり統制取れているのだろうか。

「ああと、この事は冒険者ギルドに話を通さなくてもいいんですか?」

「その事なら、心配はない。副団長から話は通っている。報酬は、暗黒騎士団から出る事になっているな。それと、倒した魔物や魔獣の素材と魔石、そして宝箱の回収は出来ない事になっているからな」

ギルドの問題はないか。回収の件も構わない……まあ、俺に出来る事をしっかり果たそう。

「助かる。昼食後に迎えを寄越そう。なるべく、宿に居てくれると有り難い……じゃあ、あとでな」

宿の外まで、グランさんを見送る。さてと、昼まで一眠りしておこうか……その前に、アルガドさんに三日ほど宿を留守にすると、伝えておこう。

 

 

コン、ココン……控え目なノックの音に、目を覚ます。もう、昼か──よし。

どうぞ、と声をかけると、いつもの従業員さんが顔を出す。

「そろそろ、昼食です」

「分かりました。これ、取っておいて下さい」

銅貨五枚を心付けとして渡す──ああ、そうだ。名前を聞いておかないとな。

「あの……よければ、名前を教えてくれませんか?」

ひゃいっ?! と、一瞬固まる従業員さん……。

「ええ、あの……レイナ、といいます」

うん、レイナさんだな。覚えたぞ。

「これからも、よろしくお願いします。レイナさん」

顔を赤らめ、ふわあ~と妙な鳴き声を上げるレイナさん。何ぞ?

 

昼食はシンプルに、貝と山菜の雑炊。刻んだベーコンとキャベツのサラダ。そして、青菜の酢漬け。

カリカリに焼いたベーコンがいい味を出している、文句のない昼食──のんびりしたいところだが、昼食後には迎えを寄越すとグランさんが言っていたな……昼食代をテーブルに置き、部屋に戻る。

 

いい機会だ。深淵の女王から下賜された、“宵闇(トワイライト)”を試そうか……回復ポーションと携帯食の用意に、武装は整っている。“覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)”への準備は、すべてヨシ!──迎えが来たら呼んで下さいとレイナさんに頼んでいるからな……もう少し、眠っていよう。

 

 

馬車にゴトゴトと揺られている内に、目はすっかり覚めた。

迎えに来てくれたのは、グランさんだけでなく、ルドガーさんも一緒だった。二人ともに、漆黒の鎧姿。

「少し気になったんですが、見習い達も黒い鎧何ですか?」

ふとした疑問だ。その疑問に、グランさんが答えてくれた。

「いや、正式に騎士の資格を得て、一端と認められて初めて、漆黒の装備が支給される」

グランさんの言葉に、ルドガーさんが沁々といった感じでいった。

「二年ほどで、芽が出なけりゃ退団勧告で、一年の猶予を貰えるんだが、それで駄目なら退団だ」

「やっぱり、楽じゃないですね……」

騎士の門を潜るのはやはり簡単じゃないか。守護者の看板背負う訳だしな……。

「若い内に見切りをつける事も、簡単じゃないだろうがな……」

窓の外を見ながら、ルドガーさんが呟く様にいった。

 

「そろそろ、騎士団支部に着くぞ。一度、副団長に顔見せだ。兜は脱いでおけよ」

ああ、そうだった。ずっと兜着けたままだ。体の一部みたいになってるな……フェイスガードを引き上げて、兜を脱ぐ……ルドガーさんと目が合った。

「うおっ……」

ルドガーさんが、驚いた顔で絶句した……何ぞ?

「ああ、そうか。うっかりしてた。私はある程度慣れているから、大丈夫だが」

あっはっはっ、と笑うグランさん。

俺から顔を背けるルドガーさん。耳が赤くなっているんだが……。

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