邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第130話 覇王の訓練場 実戦の現実

 

 

騎士団の訓練場から、少し離れた場所にあるプレハブ設計の様な建物……というか、小屋だ。

前世でいうならば、工事現場の仮設事務所といった雰囲気の場所だ……仮設事務所内にいたのは、暗黒騎士団副団長ヴァルモア・ダルヴァイル。

漆黒の軍服の上から見てとれる、鍛え込んだ、引き締まった体格。

そして、男女問わず魅了する様な、艶やかな眉目秀麗の面立ち──直感的に感じる……何か、怖いなこの人。

副団長のヴァルモアさん以外に、お付きの騎士が二人。軍服ではなく、漆黒の鎧姿。

 

「初めまして、暗黒騎士団副団長のヴァルモア・ダルヴァイルといいます。三日の間、よろしくお願いします。細かな事は、グランとルドガーから改めて説明があります。疑問や質問は、二人に尋ねて下さい」

穏やかな笑みを浮かべながら、手を差し出して来るヴァルモア副団長。その手を握ると──冷たい。

手が冷たい人は、心が暖かいと聞いた事があるが……どうかな?

ヴァルモア副団長の佇まい、というか雰囲気からは、そういう感じはしない……この人は、警戒対象だな。

俺を見る目が、油断ならない感じがするんだよな……よし、顔見せは済んだ。

兜を被り、フェイスガードを下げる──ううむ、と妙に名残惜しそうに、ヴァルモア副団長が呻く……何が、ううむか。

 

「おう、クレイドル、副団長に挨拶は済んだようだな」

仮設事務所から出た所で、ルドガーさんに話しかけられた。厳つい顔に浮かぶ、愛嬌のある笑顔。

「はい……ええと、ヴァルモア副団長ですが、怖い人ですね」

ひゅう、とルドガーさんが口笛混じりにいう。

「ああ、怖いお人だぜ。見かけにごまかされなかったようで何よりだ……まあ、いい。見習い達への、グランの訓示もそろそろ終わるだろうからな。訓練場に行くか……」

ルドガーさんの表情に、厳しさが浮かんだ。

 

「私から言える事は以上だ。いいか、実戦の怖さを、お前らは今日知る事になる……私達の助けを期待するなよ?」

静まり返る騎士見習い達──ふん、とグランは腹の内で呆れた。

真剣さが……どうも、見えないな。この二十名の騎士見習いから、どれだけ残るものか……。

「グラン、クレイドルだ。副団長との話は済んだそうだ」

ルドガーの声に振り返る。フェイスガードを降ろしたクレイドルが側に立っていた。

見習い達に、クレイドルを紹介しておこうかと考えたが、止めた。

冒険者視点で、実戦を見てもらう必要があると説明をしているからな……私とクレイドルが、前に出る状況にならないといいが……。

 

「よし、出発だ。皆、馬車に乗れ」

ルドガーさんの指示で、二十名の見習い達が続々と乗り込んでいく。

「私達も行くか。馬車の中で、教官達と軽く打ち合わせだ」

グランさんとルドガーさん。俺の三人と、訓練教官二名の馬車は同じだ。

先を行く、見習い達の乗り込んだ馬車に追随する様に、馬車が動き始める。

覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)は、帝都から近いんですか?」

「西門から、馬車で一時間少しくらいかな。大分近いぞ」

教官が答えてくれた。三十代壮年の、がっしりとした体格の人。サイモンと名乗った。

「難易度としては……全十階の、中級ダンジョンだ。造りはそう複雑でもなく、罠の類いも危険な仕掛けは、少ないそうだ」

もう一人の教官が云った。名はイアン。細身だが引き締まった体付きの、三十代の人。好対照の二人だ。

「軽く打ち合わせといこうか……といっても、クレイドルに我々の見習い達の扱い方を、説明するだけだが」

グランさんが、俺達を見回して云った。

 

覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)”。その出入り口は、柵に囲まれている。

衛兵の詰所があり、出入りをチェックされる事になっているそうだ……それだけ、重要地点という事か。

覇王の訓練場ね……どんなものだろうかな?

グランさん達の話によると、一階から四階までは荒削りの、石造りのダンジョン。そこから下は、研磨された石造りのダンジョンだという。

なぜそんな造りになっているかは、今現在でもよく分かっていない──ダンジョンは、大概そんな造りになっているらしいからな……まあ、それはいい。打ち合わせの内容は、単純な事だった。

 

「よし、そろそろ到着だ。もう一度おさらいしておこうか……見習い二十名を五名一組の四つずつに分け、四小隊、A~D隊とする。今日はA隊B隊を午前午後と交互に実戦訓練。C隊D隊の訓練は明日。今日一日は、自主訓練の指示を出しておく……まあ、こんな所か」

ルドガーさんの言葉に、皆頷く。特に質問はない。

馬車から見える外は、いたって静かな感じだ。街道沿いの街路樹が、冬の風に揺れている。

冬の景色に溶け込む様な、行き交う馬車や荷車。旅人達。警備中の衛兵達。

(……平和だな)胸の内で呟く。

「おう、見えてきたぞ。覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)だ」

ルドガーさんが、窓を開けて顔を出す。フェイスガードを引き上げ、外を見る──出入り口は頑丈そうな門が降り、その周囲は聞いていた通り、柵で囲まれている。

衛兵の詰め所が見え、その周囲に衛兵達が待機していた。何となく、武人の錬武場を思い出した。

 

先行している見習い達の馬車が立ち止まり、衛兵達とやり取りをしている。

許可が下りたのか、開いた門を馬車が潜り抜けて行く。

「よし。次は俺達の番だな」

ルドガーさんが、手続きのための書類を出す。

さて、覇王の訓練場か……どうなるかな? 見習い達はどれだけやれるだろうか……。

「昨日まで、帝都騎士団が見習い連中の実戦訓練に来ていたが、犠牲が出たそうだ。三名死亡だとよ……」

衛兵とのやり取りを終えたルドガーさんが、ため息混じりに云う。

 

門を潜り抜け、兵舎に向かう。先行していた、見習い連中を乗せた馬車はすでに厩舎に着いていて、馬車乗り場で駐車状態。馬達は厩舎で休んでいるのだろう。

「俺達も向かうぞ」

教官が御者に指示を出す。了解! と威勢よく、返事をくれた。

馬車内は、少々暗くなっていたからな……。

「兵舎に荷を置いたら、少し休憩だ。その後、覇王の訓練場に向かう。見習い連中の編制を、頼む」

ルドガーさんが教官達に云う。任せろ、と教官。すぐさま、見習いの下に駆けて行った。

「犠牲が出ない事を、大いなる父君に祈れないのが……ツラいとこだな」

グランさんが、ため息混じり言った。大いなる父君の加護か……正直に言うと、信じている神の加護を得られる事に、少しばかり羨ましさを感じるんだよな。

あれ(邪神の加護)は、信用出来ないし……そもそも、邪神の加護って何だ?

 

兵舎に宿を取り、見習い連中と合流する。ここから、覇王の訓練場に向かう事になった。

現場に着いたならば、即座に戦闘という事もありえる──その習いで、すぐさま訓練場に向かう事に決まった。

「行こう。サイモンはA隊の指揮を頼む。イアンとグランはB隊と共に地上待機だ……俺とクレイドルは、A隊の後方から補佐する」

ルドガーさんの指示に、了解したとサイモンさん達。早速、見習い達を取りまとめ始める。

「見習い達の背後を俺達が補佐。状況に応じて前に出る……その流れだ」

グランさんが云った。俺は黙って頷く。

 

 

「よし……計十三名だな。気をつけてな」

覇王の訓練場前で、衛兵に立ち入りを告げる。十名の見習い達と教官に俺達。あとの十名は、兵舎で待機だ。

見習い達の様子を見る──何か、落ち着きが無い様に見えるんだが……。

「グランさん。わざわざ言うまでもない事何ですが、見習い連中……」

「言いたい事は分かる。少しばかり、気が逸っているな」

気が逸っている、か……危うい気がする。一つ気になっていた事を聞いてみる。

「対魔物、魔獣の戦闘訓練は、やった事はあるんですか?」

「いや。実戦を兼ねて、今日が初だ。資料を通して、座学で学ばせてはいるがな」

グランさんは、渋い顔で云った。なるほどな……なかなかキツイ事になりそうだ。ぶっつけ本番で実戦をする訳だからな……。

 

 

「準備は完了だ。行こう」

ルドガーさんが、俺達に声をかけてきた。見習い達を見ると、今だ落ち着きが無い……。

俺達の出番、かなり早いかもな。余計な被害が出なければいいが。

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