排除も否定も多様性の一つ!! ウヒヒヒ(嘲笑)
明け方丁度に、城塞都市に到着できた。
久し振りの城塞都市が、明け方の陽光に照らされているのをのんびりと眺める。
城門で入国を待つ人々の顔に、多少の焦りはあれども、暗い顔は無い……帝国領内を行き交う人々の雰囲気は、どれも明るい。覇王公の威風が今だ活きている証なのだ。
さてと、並ぶか……人々の中に入り雑じる。
冒険者ギルドに足を踏み入れる。懐かしさを感じる喧騒。早くも自分に気付いた荒くれ連中が声をかけてくる。
「よう! 先生、お帰り!」「貴族院はどうだった?」「薬学、復習したいんだけど!」
なじみの人達に挨拶をする。ここだな。やっぱり僕の居場所はここだ。気のいい荒くれの人達。澄まし顔の貴族院の雰囲気とは違う。この喧騒こそが、僕の居場所だ。
深緑色のローブを纏った、藍色の毛並みをした青年。髪は肩のところで綺麗に切り整えられている。貴公子然とした柔和な顔立ち。
荒くれ集う場所には、少々似つかわしくない風貌ではあるが、何の違和感もなくギルド内に溶け込んでいる。
通称、“教師”レンケイン。二十代前半の理知的な雰囲気を持つ狐族の男。腕っぷしではなく、知識を武器とする冒険者。 採取、採掘、魔物、魔獣の知識を武器として、中級のCランクに到達した、ある種の変わり者の冒険者。荒くれ連中から敬意を払われるに充分な実力者だ。
「よう。久し振りだな、レンケイン」
ダルガンさんの声。この顔も久し振りだな……何だか機嫌が良さそうだ。
「何か、いい事でもありました?」
ニヤリと笑う、ダルガンさん。
「おう。久し振りに、新人が入ってなあ……くくく、なかなか面白い奴だぞ」
ふうん。ダルガンさんがこういう事を言うのは珍しいな……。
「今、訓練所でジャンとマーカスに鍛えられてるぜ。見学にいってみな」
職員が、ダルガンさんを呼ぶ声。おう、とダルガンさんが応え、のしのしと去って行った。
訓練所に行くのも久し振りだなと思い、足を運ぶ。
「キエエェェェエエ!!」
気合い、一閃。訓練用装備に身を堅め、フルフェイスの兜を被った男が、ジャンさんに打ちかかっていく─と見せかけ、左手に持っていた盾を投げつけた……あっさりと避けられ、すれ違い様に腹を打たれ、うずくまる。
「見え見えだ。今から盾を投げますよといわんばかりだったぞ。小細工ありきの攻撃はよせよ」
呆れて、ジャンベールがいう。
「チクショウ!……もう一度お願いします!」
若い声。十代後半って感じだ。剣を正面に構え、ジリジリとジャンベールに近付いていく。
ジャンベールが、前方に突き出す様に片手で剣を構えている─フルフェイスの男が、ずいっと前に出ると同時に、目の前に突き出されたジャンベールの剣を弾き、一気に間合いを詰め、斬りかかる。
ジャンベールはすうっと左足を引き、半身になると、くるりとフルフェイスの男と体を入れ換え、背後に回る。
「うおぐっ!?」
ジャンベールは背後に回り込むと同時に、フルフェイスの男の両肩をビシバシと叩いた。
「動きに無駄が多いんだよ。色々考えているのはいいが、上手く連携出来てねえんだ。だから、小手先技になるんだよ」
肩を押さえてうずくまる、フルフェイスの男にマーカスさんがいう。
「よし、昼飯準備してくるからな。シャワーでも浴びてこい。続きは午後だ、って……おう、レンケインか、久し振りじゃねえか。ここで飯食っていけや」
こちらに気付いたマーカスさんが声をかけてきた。
「はい。そうします」
マーカスさんが手を振り、厨房へ向かって行く。ジャンさんがにこやかに話しかけて来た。
「レンケイン、久し振りだな。貴族院はどうだった?」
「まあまあってとこかな。お澄まし貴族の子らって、知識欲が薄くてね。魔導院の依頼を受ければよかったよ……それより、彼が新入りかい?」
肩を擦りながらうずくまるフルフェイスの男を見る。
「ああ、なかなか鍛えがいのある奴だよ。クレイドル、紹介しておこう。俺と同期の中級Cランク“教師”レンケインだ」
フルフェイスの男は立ち上がり、兜を脱いで頭を下げた。
「初めまして、クレイドルです」
にこりと微笑む、新人……汗で濡れた金色の髪が、艶かしく額と頬に貼り付いている。
漆黒の瞳。整った目鼻立ちと薄紅の唇──思わず見惚れそうになったが、目を反らす。
「クレイドル、汗を流してこい」
ジャンの声に、クレイドルが頷き、去って行った。
「凄まじいね。あれは……」
クレイドルといったか。あの顔立ちは尋常ではない。人を狂わせるに足る顔立ち。あの美貌を道具として使ったなら、どういう事になるのやら……まあ、大げさだな。うん……大げさだ。
「訓練所の食事、久し振りですね……美味い」
玉葱、じゃがいも、ニンジン、ベーコンのスープ。鶏ガラと野菜の出汁か。そして、鶏と玉葱炒め。美味い……付け合わせには、久し振りに見た酢漬け野菜。これだよ、これ。
「やっぱり、酢漬け野菜が無いと食事をした気になりませんねえ……」
「うん? 貴族院の食事は口に合わなかったのか?」
マーカスさんが聞いて来る。そうなんだよな。
「味は良かったんです、上品で。でも、美味くはないんですよ。それに何より、酢漬け野菜が無い」
「それは、物足りないな」
ジャンさんが笑う。酢漬け野菜を食事前にまずは一口。それが、作法のようになってるからな。
「マーカスさん、スープのお代わりお願いします」
おうよ、とマーカスさんがクレイドル君の皿にスープを給仕する。たらふく食べるといい、新人君。僕らの時もああだったなあ……にしても、この美貌……全く。
「で、クレイドルの座学担当を受けてくれるんだな?」
「ええ。喜んで」
即決。後進の育成は、ある意味義務だと思うからだ。
「やっと座学担当決まったかあ……ジェミアとリネエラがうるさくてな、体力バカになる前に座学をやれとな。何だったら自分達にやらせろってなあ……アイツらにクレイドル任せたら、何するかわからねえからな」
ダルガンさんの言葉に少し笑ってしまう。あの容姿だからな。
「頼むわ。ちゃんと銭は出すからよ……
「……え?」
キエエェェェエエッ!!──クレイドル君の気合いが、遠くに聞こえた。