邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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見習い=隊。隊=見習いです。念のため。


_〆(。。)


第132話 覇王の訓練場 大いなる父君の現実

 

 

 

後続のB隊と、先行のA隊。教官のサイモンさんとイアンさん、そして、ルドガーさんとグランさんが交代する。

「クレイドル、疲労は?」

「大丈夫です……一つ聞きたいんですが、いいですか?」

グランさん、というより暗黒神の信徒に尋ねたいんだよな。改めての確認だ。

「む、言ってみろ」

「見習い達に、暗黒神の加護は与えられないんですよね。ならば、魔物やらに対しての弱体化を祈れませんか?」

 

ふーん、と考え込むグランさん。近くにいたイアンさんが云う。

「敵性存在へ対しての、弱体化の祈りか……冒険者らしい考えだな。グラン、どう思う?」

「ふむ。正直、分からないな。クレイドル、なぜそんな事を思い付いた?」

イアンさんの疑問に、グランさんが答え、次いで俺に尋ねてきた。

「そう、ですね……コボルトの群れを始末した後に、コボルトリーダーが来た事が気になったんですよ」

それが?、とイアンさん。グランさんは、なるほどな、と頷くと云った。

「つまり、群れを統率するコボルトリーダーが不在で、後からやって来たのは、大いなる父君の何らかの気配りではなかったか? と言いたいのか?」

グランさんの発言に、イアンさんが目を見張る。

「ええ。そうです……暗黒神、大いなる父君がいくら厳しくても、我が子を見殺しにしないのでは?……まあ、俺の勝手な思い込みですが」

厳しさと優しさは、両立すると思うんだよな……ううむ、とグランさんとイアンさんが考え込む。

 

一時間ほどの小休止。イアンさんの指示の下、後続のB隊が、覇王の訓練場の入り口前で待機──その顔には、覇気といったものは見受けられない……仕方ないよな。戻って来た見習い仲間の沈み具合を見たら、士気も激減して当然だ。

先行組のA隊は、サイモンさんに兵舎へと連れていかれた。

大きなお世話だが、心のケアは大丈夫だろうか?

 

「少し、計画変更しよう。俺が見習い達を連れ、二人が後方から補佐をするやり方を、少し変えよう。二人には斥候を頼みたいが、どうだ?」

イアンさんの提案。グランさんと、顔を見合わせる。

「構わない。クレイドル?」

「俺も構いません」

イアンさんが、ふう、と一息吐く。

「頼む。クレイドル、さっき言っていた大いなる父君への祈り。魔物に対しての、弱体化の願いをしてみようと思う……ものは試しだ」

 

イアンさんが地に跪き、漆黒の短剣を鞘ごとベルトから抜き、地に置く。

「イアン、これを使え」

グランさんが革袋を渡す。あれ、黒ワインだな……礼をいい、受け取るイアンさん。黒ワインを地に注ぎ、祈りの姿勢に入る。

「クレイドル、少し下がっていよう……見習い達、静かにしてろよ」

下がりながら、見習い達に忠告する。

 

──我らが 大いなる父君 あなたの息子が改めてお願い申し上げます 未熟なる子息達に ほんの少しの守護をお与え下されれば これに優る事はありません どうか慈悲をお与え下さい──

 

イアンさんの祈りの言葉が、朗々と周囲に響く。

祈りの言葉とともに、空気が晴れやかな気配を纏う──心が落ち着くな……この祈り、聞き届けられるだろうか?

 

〈ふむ……油断ならぬ父上(邪神)を持ち、気苦労が絶えぬであろうな。我が甥よ……今の祈りで、多少なりともの“偶然(守護)”があるかもしれぬな……いつか会おう我が甥よ……〉

 

威厳ある、重厚な声が頭に響いた……誰の、何の声だ!? 暗黒神……か?

イアンさんが立ち上がっていた。顔が上気している。短剣をベルトに差し込むと、興奮した声で叫ぶように云った。

「大いなる父君の声が聞こえた! 健闘せよと、我が子らの奮闘を見届けるとの仰せだ!!」

イアンさんが、沈んでいるB隊に向け、演説めいた訓示を叫ぶ。

訓示を受けたB隊の顔に、明るさが差し込んだ──大いなる父君。暗黒神の加護を受ける事ができたと、思ったのだろうな。

 

俺の聞いた声と、イアンさんの聞いた声は別のものだったのか……?

まあ、何にしろ士気が上がったのはいい事だが……それにしても、俺には何人の伯母や伯父がいるんだろうか?

うんざりする時が来るかもな……全く。

 

「グラン、クレイドル、先行してくれ。俺達は少し距離を取る」

「分かった。クレイドル、行こうか」

イアンさんと見習い達を後に、覇王の訓練場の入り口を潜る──「気を付けろよ」とイアンさんの声。後ろ手に手を振るグランさん。

さて、暗黒神への祈りが通じた今、どんな形で“偶然(守護)”が起こるのだろうな?

 

覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)”、再びだ。

グランさんから聞いた話だと、一階から四階までは、荒削りの石造りのダンジョンだったな。

ぼんやりと、仄かな灯りに照らされる、荒削りで武骨な石造りの床を、慎重に進む──「グランさん、暗黒神には兄弟神がいるんですか?」

異世界知識が発動しなかったのが、少し不思議だったので、グランさんに尋ねてみる……まさか、禁忌(タブー)な事だから、発動しなかったとか無いよな……無いか。

知りたくない知識をぶちかましてきた事があったからな。

 

「大いなる父君の兄弟神? ああ、魔神と邪神を加え、三柱神と言われている……それと、もう一柱。深淵の女王がいるんだが、こちらはあまり語られないな」

暗黒神、魔神、邪神で三柱の兄弟神か。それに加えて深淵の女王、か……。

「なぜ、深淵の女王は語られていないんです?」

う~ん、とグランさん。語れないか、語りたくないのか……。

「まあ、知っておいて損はないだろう。三柱神は何らかの形で、この現世に力を及ぼす事が出来る。場合によっては、人の姿を纏い顕現する事もある……だが、深淵の女王はどんな形ででも、直接力を及ぼす事が出来ないらしいんだ」

ふ~ん。何かしらの制約があるのだろうな……。

「クレイドル、あまり深淵の女王の事は深掘りしない方がいい。よく分かっていない存在だからな」

なるほどな──深淵の女王は、あまり触れない方がいいんだろうな……深淵の女王と謁見した事あるんですよ、ブヘヘ。とか冗談でも言えないな。

 

「ん……クレイドル、止まれ。生命探知に、引っ掛かった。少し距離があるので、数は分からないが」

手を上げ、立ち止まるグランさん。数が分かり次第、後方のイアンさんに伝える事になるだろう……。

宵闇(トワイライト)”を引き抜き、盾を構えて静かに待つ。やって来るのは魔物か魔獣か、虫は勘弁してもらいたいが……何にせよ、その時は、その時だ。

グランさんは、手を上げたまま前方の通路をただ見つめている……。

「クレイドル、数は八。種類は不明。アンデッドではない……多分、魔物だ」

「退きましょう。イアンさん達に報告して、見習い連中の出番にしましょう」

魔獣の種類までは分からないが、ここは見習い達に、経験を積ませるいい機会になるだろうな。

「よし……退くか。見習い達のいい経験になるだろうな。戻るぞ」

早速、イアンさんの下に戻る事になった。静かに移動する──

 

「B隊を前に出そう。二人はいつでも出られる様に、待機していてくれ。見習い達の実戦経験が優先だが、いざという時には……頼む」

イアンさんの言葉に俺達は頷く。さて、獲物は何だろうか?

イアンさんの指揮の下に、B隊が慎重に進んで行く……気負う様子はない。先行組の体験を聞いたのだろうな。

その表情からは余裕は伺えない。

引き締まった顔付き……実戦に赴く戦士の顔に見えるが……実際に戦闘が始まったなら、どうなるだろうか?

ふう、とため息を吐いてしまう──「あまり、気にするな。私達のやるべき事をやるだけだ」

俺のため息を聞いたグランさんが、穏やかに云った。

 

俺達は少し距離を取り、イアンさんの後に付いていく。

イアンさんの指揮の下、慎重な足取りで進むB隊。五名編成の、前衛三名に後衛二名か……。

「グランさん。見習い達は、暗黒属性の術は使えるんですか?」

五名全員が、皆戦士というのはバランス良くないだろう。一人か二人は、何らかの術士がいないとな。

「いや。見習い達は暗黒属性、というより、まだ信仰心が育っていないからな。術を使える様になるのは、まだ先だろう」

 

やはりそうか。信仰が足りないので、暗黒神の加護を得られないという話だったからな……グランさんが続けて云う。

「騎士としての実力がついたとしても、信仰心が未熟なら、暗黒騎士団に正式に入団する事は叶わないという事だ」

「なるほど……騎士の実力と、信徒としての信仰心を両立する必要があるという事ですか」

やっぱり簡単じゃないんだな。暗黒騎士への道のりは。

「そうだ。それならそれで、他国の騎士団という選択もあるが、ダーンシルヴァス神王国出身なら、国籍を移す必要があるけどな」

「そこまでして、その選択をする人はいますかね?」

国籍変更してまで、騎士になりたい人なんていそうも無い気がするが。

「う~ん、少し考えにくいな。そもそも、騎士は護国の象徴という部分があるからな。もしいても、あまりいい目で見られないと思うぞ」

まあ、確かに。国の守護者(ガーディアン)としての存在だからな。騎士の道は、やはりハードルが高い……。

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